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そうして運命は動き出すということ
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※ダイエットに関する事が出て来ますが、あくまでも作者の考えている世界感の事ですので正しいとは限りません。ご了承下さい。
遡ること、1週間前。
「ボイコット……ですか?」
ハインリヒト殿下の裏切りのせいで怒りと悲しみと悔しさに震えている私に先生がひとつの提案をしてきた。
「そう。まずは今やってるブートキャンプなんかを全部ボイコットしよう。この部屋に立て籠もるんだ。どうもあの王子はルージュココ嬢がこの過酷なダイエットをやってるのは全て自分と相思相愛になったからだって思い込んでるみたいだしね。ボイコットすることによってこちらが不満を抱いているってことを教えてやるんだよ」
「へ?!相思相愛って……?どこをどうしたらそんな思考に……」
「たぶん、ルージュココ嬢が駆け落ちの提案を受け入れてくれたからじゃないか?婚約破棄なんて言ってても、愛し合ってしまえば大丈夫……みたいな。ハインリヒト殿下はかなりポジティブ思考のようだしね」
先生にそう言われて私はくらくらと目眩がしてきた。私が駆け落ちを承諾したのは、婚約破棄をしてくれるというハインリヒト殿下の言葉を信じたからだ。婚約が破棄されていないならば私に待つのは悪役令嬢の悲惨な運命のみ。いくらハインリヒト殿下が悪役令嬢を好きだって言ってくれても、やっぱり心から信用出来ない。私の気持ちを汲んで婚約破棄をしてくれるって言うから、信じてダイエットを頑張ってきたのに……。
「……します、ボイコット。こんな風に裏切られたら、もうハインリヒト殿下を信じたり出来ない。ましてや簡単に約束を反古するような人と結婚なんて絶対に嫌だわ!
でも、部屋に立て籠もるにしても限界があります。もしハインリヒト殿下が王族の権力を使ってきたら……そうしたら私はーーーー」
いくらハインリヒト殿下が私と同じ転生者だからって、今は王子と公爵令嬢なのだ。ハインリヒト殿下が実力行使をしてきたら私に拒む術はない。このまま無理矢理婚約を続けられて、そこにヒロインがやってきたら……。
「大丈夫。俺が必ず君を助けるから」
エンデアイ先生がダークブルーの瞳を優しく細めて微笑んだ。
「先生……」
ドキッとした。その微笑みになぜか胸がときめいてしまう。先生だってハインリヒト殿下と同じ攻略対象者で、同じ転生者なのに……不思議なことに先生の事は信用出来るし安心もしている自分がいる。先生とハインリヒト殿下の違いはなんなのか……?
「あの、先生は……なぜそんなに私に親身になって助けてくださるんですか?いくら同じ転生者だからってこの世界で王子を敵に回したら先生だって危険になるのに……」
「それは、アフロディテ……。いや、俺のことはいいじゃないか。だだ、俺はルージュココ嬢の味方だって信じてくれればいい。俺は……いつだって君の幸せを祈っているんだ。ーーーー信じてくれるかい?」
少し寂しそうで、それでいて愛おしそうな視線。そうだ、エンデアイ先生から感じるのはいつもそんな感情だった。ハインリヒト殿下から感じる感情とは全然違う。ハインリヒト殿下からはなんというか……とにかく激しくてハイテンションでうざったい感情?
「ーーーー信じます」
やっぱりエンデアイ先生なら信じられる。そう直感した。彼はけっして私を害したりしない。……条件はハインリヒト殿下と同じなはずなのに不思議でならないがそう感じてしまったのだから仕方がない。それに、ハインリヒト殿下のような“欲”を感じないエンデアイ先生と一緒にいるのは気持ちが楽だったのだ。
「ありがとう。食料はなんとかするから、数日ほどこの部屋で頑張ってくれ。絶対に部屋から出ないように……」
「はい……!」
そうして私のボイコットが始まった。扉には内側から厳重に鍵をかけ、外からどんなに訴えられても全て無視をする。さらにボイコットの間も自主的にトレーニングはすることにした。暇だったのもあるが、あの厳しいブートキャンプは無理でも簡単なトレーニングの方が心が楽だと気が付いたのだ。そして、これはハインリヒト殿下の為にダイエットをしているわけではない。いつでも動けるように体を絞っているだけだ。元々は動けるデブを目指していたからそれなりに筋肉はあったはずだ。つまり全然体重が減らなかったのはあの不摂生な生活で増えた脂肪が筋肉に変わっていたからである。筋肉は脂肪よりも重い。そして筋肉に変わってからが脂肪燃焼の本番なのだ。さらにこのタイミングで筋肉を増やす為の激しい運動をやめて、その筋肉で脂肪を燃やす有酸素運動に切り替えた。このタイミングは本当に偶然だが、この偶然がルージュココにとって転機となったのだーーーー。
***
「ルージュココ嬢、ここを抜け出そう。今の君ならこの抜け穴も楽に通れるよ」
ほんの数日。されど数日。痩せるタイミングにドンピシャだったルージュココはその数日で驚くほど体型を変えていた。だが、本来の悪役令嬢のような骨と皮しかない風が吹けば簡単に折れるようなガリガリな姿ではない。もちろん前世の世界だったらあり得ないだろうが所詮ご都合主義の世界だからなのか……それとも世界が悪役令嬢に共感したのか……。
ルージュココはぽっちゃりの雰囲気を残しつつ、ちゃんと痩せていたのだ。
そうして対策を整えたエンデアイにより、ルージュココは屋敷をこっそりと抜け出すことに成功した。その先でこれまたエンデアイが根回しをした令嬢たちと感動の再会を果たしたルージュココは、やっと自由を感じていたのだった。
遡ること、1週間前。
「ボイコット……ですか?」
ハインリヒト殿下の裏切りのせいで怒りと悲しみと悔しさに震えている私に先生がひとつの提案をしてきた。
「そう。まずは今やってるブートキャンプなんかを全部ボイコットしよう。この部屋に立て籠もるんだ。どうもあの王子はルージュココ嬢がこの過酷なダイエットをやってるのは全て自分と相思相愛になったからだって思い込んでるみたいだしね。ボイコットすることによってこちらが不満を抱いているってことを教えてやるんだよ」
「へ?!相思相愛って……?どこをどうしたらそんな思考に……」
「たぶん、ルージュココ嬢が駆け落ちの提案を受け入れてくれたからじゃないか?婚約破棄なんて言ってても、愛し合ってしまえば大丈夫……みたいな。ハインリヒト殿下はかなりポジティブ思考のようだしね」
先生にそう言われて私はくらくらと目眩がしてきた。私が駆け落ちを承諾したのは、婚約破棄をしてくれるというハインリヒト殿下の言葉を信じたからだ。婚約が破棄されていないならば私に待つのは悪役令嬢の悲惨な運命のみ。いくらハインリヒト殿下が悪役令嬢を好きだって言ってくれても、やっぱり心から信用出来ない。私の気持ちを汲んで婚約破棄をしてくれるって言うから、信じてダイエットを頑張ってきたのに……。
「……します、ボイコット。こんな風に裏切られたら、もうハインリヒト殿下を信じたり出来ない。ましてや簡単に約束を反古するような人と結婚なんて絶対に嫌だわ!
でも、部屋に立て籠もるにしても限界があります。もしハインリヒト殿下が王族の権力を使ってきたら……そうしたら私はーーーー」
いくらハインリヒト殿下が私と同じ転生者だからって、今は王子と公爵令嬢なのだ。ハインリヒト殿下が実力行使をしてきたら私に拒む術はない。このまま無理矢理婚約を続けられて、そこにヒロインがやってきたら……。
「大丈夫。俺が必ず君を助けるから」
エンデアイ先生がダークブルーの瞳を優しく細めて微笑んだ。
「先生……」
ドキッとした。その微笑みになぜか胸がときめいてしまう。先生だってハインリヒト殿下と同じ攻略対象者で、同じ転生者なのに……不思議なことに先生の事は信用出来るし安心もしている自分がいる。先生とハインリヒト殿下の違いはなんなのか……?
「あの、先生は……なぜそんなに私に親身になって助けてくださるんですか?いくら同じ転生者だからってこの世界で王子を敵に回したら先生だって危険になるのに……」
「それは、アフロディテ……。いや、俺のことはいいじゃないか。だだ、俺はルージュココ嬢の味方だって信じてくれればいい。俺は……いつだって君の幸せを祈っているんだ。ーーーー信じてくれるかい?」
少し寂しそうで、それでいて愛おしそうな視線。そうだ、エンデアイ先生から感じるのはいつもそんな感情だった。ハインリヒト殿下から感じる感情とは全然違う。ハインリヒト殿下からはなんというか……とにかく激しくてハイテンションでうざったい感情?
「ーーーー信じます」
やっぱりエンデアイ先生なら信じられる。そう直感した。彼はけっして私を害したりしない。……条件はハインリヒト殿下と同じなはずなのに不思議でならないがそう感じてしまったのだから仕方がない。それに、ハインリヒト殿下のような“欲”を感じないエンデアイ先生と一緒にいるのは気持ちが楽だったのだ。
「ありがとう。食料はなんとかするから、数日ほどこの部屋で頑張ってくれ。絶対に部屋から出ないように……」
「はい……!」
そうして私のボイコットが始まった。扉には内側から厳重に鍵をかけ、外からどんなに訴えられても全て無視をする。さらにボイコットの間も自主的にトレーニングはすることにした。暇だったのもあるが、あの厳しいブートキャンプは無理でも簡単なトレーニングの方が心が楽だと気が付いたのだ。そして、これはハインリヒト殿下の為にダイエットをしているわけではない。いつでも動けるように体を絞っているだけだ。元々は動けるデブを目指していたからそれなりに筋肉はあったはずだ。つまり全然体重が減らなかったのはあの不摂生な生活で増えた脂肪が筋肉に変わっていたからである。筋肉は脂肪よりも重い。そして筋肉に変わってからが脂肪燃焼の本番なのだ。さらにこのタイミングで筋肉を増やす為の激しい運動をやめて、その筋肉で脂肪を燃やす有酸素運動に切り替えた。このタイミングは本当に偶然だが、この偶然がルージュココにとって転機となったのだーーーー。
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「ルージュココ嬢、ここを抜け出そう。今の君ならこの抜け穴も楽に通れるよ」
ほんの数日。されど数日。痩せるタイミングにドンピシャだったルージュココはその数日で驚くほど体型を変えていた。だが、本来の悪役令嬢のような骨と皮しかない風が吹けば簡単に折れるようなガリガリな姿ではない。もちろん前世の世界だったらあり得ないだろうが所詮ご都合主義の世界だからなのか……それとも世界が悪役令嬢に共感したのか……。
ルージュココはぽっちゃりの雰囲気を残しつつ、ちゃんと痩せていたのだ。
そうして対策を整えたエンデアイにより、ルージュココは屋敷をこっそりと抜け出すことに成功した。その先でこれまたエンデアイが根回しをした令嬢たちと感動の再会を果たしたルージュココは、やっと自由を感じていたのだった。
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