神様!世界を救った魔法少女なのに、転生先が悪役令嬢なんて酷くないですか?!〜スキル〈魔女っ子〉のせいで普通の女の子にもなれません!〜

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2 悪役令嬢ルルーディアのため息

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「マジカル、ラジカル、プリティ、フローツ!」

 私が手を掲げ呪文を唱えると、眼の前のクッションがふわんふわんとゆっくり浮かび上がった……からの、気が狂ったかのようにバフン!と音を立てて天井と床をジグザグに跳ね返りーーーーすとん。とベッドの上に静かに落ちる。まさに情緒不安定な私の精神そのままのように。だ。

 ……やっぱり魔法使えたよ!というか、魔法少女スタイルに変身出来たよ!なんてこったい!

 私はヒラヒラのフリル満載な、The!ピンクなバトルコスチュームに身を包みながら身悶えしてその場に突っ伏したのだった。











 魔法少女だった前世を思い出したものの、このスキルについては疑っていたのだ。っていうか、スキル〈魔女っ子〉ってなんだよ?と。もしかしたらなにかの間違いかもしれないとか、そんな淡い希望を持って期待していたのだが……。

 いきなり何もない空中から目の前に変身コンパクトが落ちてきた時は絶望した。どこから出てきたんだこんちくしょう!神のいたずらかよ?!

 ピンクを基調としたカラフルなそのコンパクトを恐る恐る開くと、丸い鏡に私のげんなりした顔が写っている。変身の呪文を唱えるとこの鏡の中にバトルコスチュームを纏った魔法少女の姿が写し出され、現状の私と姿が入れ替わる事によって変身出来ていたのだ。まさかと思いつつ「……マジカル、ラジカル、プリティ、メタモルフォーゼ」と変身の呪文を呟けば鏡の中にはあの見慣れたバトルコスチュームに身を包んだ“私”がにっこりと微笑んでこちらを見ているではないか。そしてピカッと体が光るとお馴染みの変身となり、コンパクトは胸元にくっついた。

 その姿にげんなりしながらも、よもやと思いつつ使った魔法も見事に発動。せっかく転生したのに、魔女っ子な悪役令嬢ってどこに需要があるってのよ?

 このスキル〈魔女っ子〉については、元々自分の能力だったからかなんとなく把握出来ている。たぶん、前世で使えていた魔法はほとんど使えるようなのだがお約束のごとく変身しないと使えないし、誰かに魔法少女だとバレたらいけないようだ。そういえば前世の時も神様から「バレたらペナルティーがあるからね」とは言われていたが、結局どんなペナルティーなのかは教えてもらえなかった。あの神様のことだから、碌な事ではないだろうけど。

「はぁ~。まぁ、変身しなきゃ使えないなら一生変身しなきゃいいのよね。バレたらダメもなにも、魔法の概念がない世界なんだから魔法少女だなんて言っても頭がおかしいと思われるか下手したら危険人物で処刑されるわよ。それでなくても悪役令嬢なんだから今からなんとか断罪を回避する方法を考えなきゃいけないのに……これ以上リスクを増やせないわ!こんなものーーーー封印よ!」

 私はパチンと指を鳴らして変身を解く。すると光るのをやめたコンパクトがカランと音を立てて胸元から外れた。それを勢いよく拾い上げるとーーーー宝石箱の中身をぶちまけてそのコンパクトを放り込み鍵をかけたのだ。そしてその鍵を窓の外に向かって力の限り投げ捨てた。あとで宝石箱は土に埋めよう!

 今の変身のことは忘れよう!と決意をして。


 悪役令嬢が今日で10歳ということは、もうすぐ未来の王太子……現在の第1王子の婚約者を選ぶパーティーに招待されるはずだ。ゲーム自体は15歳になって貴族学園の入学式から始まるのだが、悪役令嬢が王太子の婚約者になった経緯については「忘れもしないあの日。10歳になったばかりの私は王家の主催されたパーティーで殿下に見初められたのです。殿下はヴィラン公爵家の力もあり無事に王太子になられたのですわ」といつも自慢気に周りに吹聴していたから確かだろう。実のところはどうしても第1王子を王太子にしたかった王妃が第1王子を無理矢理説得して悪役令嬢を口説かせたのよね。側妃の子供に負けないためとはいえ、“実力では王太子になれない”とみんなに言われているようなみじめな気持ちになった第1王子は心の底では悪役令嬢は自分を馬鹿にしていると思って憎んでいたんだったけ……。でもその荒んだ心を癒やしてくれる少女と出会い真実の愛に目覚めていき、少女……ヒロインを婚約者にするまでのストーリーだ。

「うーん。確か、悪役令嬢は本当に第1王子に一目惚れしていたから彼を王太子にするために頑張ってたのに、全くその気持ちが伝わってなかったのよね。王子ルートのヒロイン目線ではこの辺は明かされないから、プレイしていた時は権力を誇示して王子を利用しようとしている悪女って感じだったけど……」

 乙女ゲームなので、もちろん他にも攻略対象者が存在する。そして他のルートでも悪役令嬢はヒロインに酷いことをしたからと断罪されるのだ。そして、まずは王子ルートのハッピーエンドをクリアしないと他のルートは選べない。さらには他の攻略対象者のハッピーエンドをクリアすると今度は王子の追加ルートが解禁される。そのルートではヒロインは婚約者の立場からさらに愛を育んで王子と結婚して王妃になるまでのストーリーなのだ。そして断罪されて死んだと思われていた悪役令嬢が実は生きていてヒロインに復讐しようとしてくるのだが、このルートでやっと悪役令嬢が王子を本当に愛していていたことがわかるのである。ラストはヒロインが悪役令嬢の墓(結局死んだ)に花を添えて「あたしが彼を幸せにしてみせます」と国王と王妃の格好で二人が墓の目の前でキスをしてウルトラハッピーエンド。全体的なストーリーは面白かったし推しキャラもいたからどハマリはしていたのだが、このウルトラハッピーエンドだけはなんだか悪役令嬢が報われないなぁと思ったのを思い出していた。

「……とりあえず、そのパーティーをなんとかしてサボれないかしら」

 コンパクトを封印した宝石箱を掴み、庭師に借りたスコップで庭の端に穴を掘ってそれを埋めながら私はため息混じりに呟いたのだった。
    
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