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〈7〉 執事が腹黒なんですけど。

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    あー、なんか開き直ったら楽になった気がした。

    どうやら私は無意識の内にヒロインのように振る舞わなければならないと思い込んでいたようである。

    天然鈍感の人タラシ、好きになったら一直線。例えそれが端から見れば淫らな行為だとしても、好きになった相手に振り向いて貰うためならなんでもやってしまう。それがこのゲームのヒロインだ。(そしてドMを開花させられてしまう)まぁ、隠れた性癖がドM設定だからこそあんなことされても自分が愛されていると信じてたのだろうけど……。

    でも、今は私!私は私らしく生きるのよ!……性癖はドMではないと信じたい!









    さて、スッキリしたところでこの変態をどうすべきか。

    未だに足元で転がっているルーファスだが、股を両手で押さえて丸まったまま気絶してしまっている。(ついでにおでこには大きなたん瘤も出来ている)さすがのイケメンも白眼になって泡を吹いて気絶してしまっては台無しだ。

    爪先でツンツンとルーファスの背中をつつくが目覚める気配はない。引っ張っていくにしてもさすがに重いし、いっそ転がして廊下に捨ててしまおうか。などと考えていると、うっすら開いている扉から人影が姿を現した。

「ふっ、くくく……。ず、頭突きしたうえに急所蹴りって……あー、おかしい。エレナ様は私を笑い殺すおつもりですか?」

    笑いすぎて肩を震わせたリヒトがにっこりと執事スマイルを浮かべながら部屋に入ってきたのである。

「あなた、見てたのなら助けなさいよ……」

「申し訳ございません。ルーファス様が保管場所から合鍵を持ち出したようでしたので急いで駆けつけたのですが、すでにエレナ様が退治なされていたので……つい笑い転げておりました」

    いや、キリッとした顔をしてもまだ口の端がピクピクして笑ってるじゃないか!

「……あ、もしかして私って罰せられる?正当防衛とはいえ、ルーファスをこんなにしちゃったし……」

「いえ、誰もあなたを罰したりなどいたしまけんよ。言ったでしょう?全ての決定権はエレナ様にあるのです。ルーファス様を受け入れるのも拒絶するのも、エレナ様の自由でございます。こちらで気絶なされているルーファス様は私が引き取りましょう。手当てをするご許可は頂けますか?」

「……任せるわ」

「ありがとうございます。あとこちらは簡易の鍵です。内側から施錠出来ますのでもう今夜は誰もこのお部屋に侵入することは出来ませんよ」

    なんとも用意周到な執事はにっこりしながら扉の取っ手の輪の部分に取り付けられる南京錠のような鍵と鎖を渡してくれた。

「取り付け方は教えなくてもご存知ですよね?」

「……一応わかるわ」

    私が鍵を受け取るとリヒトは「では、お休みなさいませ」とルーファスの体を軽々と抱き上げお辞儀をして部屋を出ていった。

    なんだろう。なんとなくだが、リヒトはなにかが引っ掛かる。不信感……とまでは言わないけど。それに、合鍵の保管場所ってことはリヒトも私の部屋の合鍵をいつでも持ち出せるわけよね?執事はキャラクター的に大丈夫だと思うけど、もはやゲームの強制力で何が起こるかわからないのだ。リヒトが何か企んでる可能性もあるかもしれない。


「ーーーーあぁ、それと」

    私がモヤモヤした気持ちに顔をしかめていると、閉めようとした扉の隙間からひょこりとリヒトが顔を出した。

「私はエレナ様の幼児体型にもその胡散臭いお顔立ちにも興味はございませんので、ルーファス様のような事は決して致しませんからご安心下さい」

    そう、にっこりと。それはもうにーっこりと微笑んでから、廊下へと姿を消したのだった。




    ゲーム内の執事の役割はヒロインのサポートキャラであった。

    執事に話しかけると会話の中から攻略対象者の好感度の上がり下がりがわかったりするのだ。
    言うなれば、ヒロインはこの執事の言葉に一喜一憂右往左往していたのである。

    画面上に映し出された執事の笑顔を思い出した。にっこりスマイルで「ルーファス様はお嬢様の行動が気になってきたようです」と好感度の上昇を教えてくれていた執事……。


    いついかなるときも同じ笑顔。良いことも悪いことも全部同じ笑顔で報告してくるので何を考えているのかさっぱりわからないこの執事。

    ヒロインには優しい印象しかなかったゲームの執事のイメージがガラガラと崩れていった。

    私は声を大にして言いたい。


   胡散臭い顔をしているのはお前の方だーっ!




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