ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com

文字の大きさ
上 下
30 / 32

30 大根とルルーシェラの冒険②

しおりを挟む
 ドゴン!!と、地面が縦に揺れた気がした。

 あまりの揺れの大きさに思わず身を竦ませるルルーシェラを守るように大根が立ち上がったのだ。

 そしてルルーシェラの目の前には巨大な穴が現れた。全てを飲み込むかのような、深く暗い巨大な穴が。


「「「あ」」」



 そんな言葉を残して、目の前にいたはずの兵士たちは一瞬で、姿を消したのだった。






「こ、これは大根さんが……?!だ、大根さ……!」

 これまでの穴は人間がすっぽりぴったりハマって抜け出せなくはなっていたが頭のてっぺんは見えるくらいの深さだった。しかし目の前に広がる穴はあまりに巨大で底無しに深いように見えた。恐る恐る覗いてみるがすでに落ちてしまった兵士たちの姿は確認出来ないし声も聞こえない。これでは生死も不明である。

 さすがに死人を出すわけにはいかないと慌てて大根に確認しようとするルルーシェラだったが、その大根がぐったりと倒れている姿に声を失いそうになった。

「大根さん……!どうしたんですか?!まさか、魔力を使い果たして……?!」

「……じ、ぶん……だいこ……し、な…………────」

 ルルーシェラが倒れた大根を抱き上げると、プルプルと震える腕をルルーシェラに向けた。まだ意識があることにホッとするも、頭の葉っぱはどんどん萎れていき、体にもこれまでの艶がない。まるでたくあんのように水分が抜けていき……大根の手はパタリと地に落ちた。

 ルルーシェラの危機的状態に己の最大限の能力に目覚めただろう大根だったが、大根はただの畑の妖精だ。そう、ちょっと艶があって瑞々しい大根に過ぎないのだ。せめて名前を付けてもらっていて誰かの専属妖精となれていればまた違っていたかもしれないが……。

 つまり、大根は己の力を使いすぎたのである。あれだけ体内を満たしていたアリアの魔力が空っぽになってしまったのだ。この大根はアリアの魔力から生まれた大根であり、普段はダダ漏れているアリアの魔力を勝手に吸収して動いている。

 これはアリアも知らない事実なのだが、自然から生まれた妖精とは違いそうしなければ大根は生きていけないのだ。

 しかし、今はアリアと離れてしまっている。さすがにこれだけ距離があればアリアの魔力も届かない。


 どんどん硬くなる手足に、もうアスリート走りも出来ないだろうと覚悟を決めた。一度魔力が空っぽになってしまったら名前もついていない大根妖精などすぐにただの大根になってしまうだろう。それならせめて美味しいたくあんになりたいものだ。出来ればちょっと甘めがいい。

 大根は薄れる意識の中でそんなことを考えながら、それでもこんな己と仲良くしてくれたルルーシェラを守れた事に満足もしていた。

 していたのだが……。





「大根さん!大根さん、しっかりし……て……────あれ?」


 大根の変貌に泣きながらルルーシェラが大根を抱き締めたその時だった。ルルーシェラの体が淡く輝き始め……その光が大根に吸収されていったのである。


「これは……私の魔力?え、私の中にこんな魔力が?!」

 ルルーシェラ本人もびっくりするくらいの膨大な魔力。優しい色合いをしたそれはどんどん大根に吸収されていき、シオシオになっていた大根の体は艶を取り戻し頭の葉っぱは青々と茂っていった。硬くなっていた手足は柔軟性がアップしたのか今やぐるんぐるんと動いていた。



「じぶん、だいこんあしなんでぇぇぇぇぇ!!!」



 大根がパワーアップして復活したのである。そしてひとつ違うところが……それは大根のおでこ(?)に不思議な模様が浮かび上がっていたのである。


「これは……錬成陣……。え、まさか────これって錬金術?!私の……才能?」


 これはひとつの奇跡か。

 なんとルルーシェラはこの瞬間に眠っていた才能を目覚めさせ、大根妖精の尽きかけた命を錬成したのである。空っぽだった大根の体にはルルーシェラの魔力がたっぷりと注がれ、額にはルルーシェラの錬金術による陣が刻まれた。これはもう、大根にとったら契約以外のなにものでもない。

 そう、大根は念願の主人を手に入れたのであった────。














 ***






「そんなこんなで、大根さんの新能力〈巨大な穴を掘る〉で手当たり次第に掘ったら隠された秘密の入口を見つけました!だいぶ木の根っこが絡まっていたんで、さすがにそれは自分たちの手で取り除いたんで時間がかかっちゃったんですけど……ちゃんと城の内部に繋がっているのも確認してきましたよ!」

「じふん、だいこんあしなんで!」

 どこからどこまでに驚いていいのかわからずアリアは困惑していたが、シロはため息をついていた。

「ちょ、ちょっと待って……その前にその巨大な穴はどうしたの?落ちた兵士たちは……」

「穴はもちろん埋めましたけど……兵士たちは助け出しましたよ!────シロさんが!「シロが?!いつの間に?!」それが、どこからともなくシロさんがお仲間の鳥さんたちを連れてきてくれまして、穴に落ちてった兵士を拾って持っていってくれたんです!いやぁ、面倒くさくなったから穴に食料を放り込んで逃げようかなって悩んでたので助かりました!」

「じぶん、だいこんあしなんで!」

「……面倒くさくなったって……。なんだか酔ってるみたいな変なハイテンションになってるみたいだけど大丈夫なの?」


「ピィ……」

 やれやれと首を横に振るシロだったが、結局は気になって様子を見に行っていたようだった。そして、せっかく悪いことを考えていたのを内緒にしていたのに自らあっけらかんとバラすルルーシェラにも呆れている。どうやら急に魔力に目覚めたのと偶然とはいえ妖精と契約してしまったことで感情がおかしなことになっているようだった。その証拠にルルーシェラはアリアに土下座をして「アリアさん、どうか大根さんを私にください!錬成陣も消えないし、契約しちゃった責任をとります!」とまるで花嫁をもらうかのように大興奮している。ちなみに大根も土下座している。

「えー、あー……まぁ、大根本人がいいなら。どうぞ」


 こうして大根は自分だけの主人を手に入れたのだった。









     
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

地味に転生できました♪~少女は世界の危機を救う!

きゃる
恋愛
イジメられッ子が異世界に転生。 誰もが羨む美貌とスタイルの持ち主であった私。 逆ハー、贔屓、告られるのは当たり前。そのせいでひどいイジメにあっていた。 でも、それは前世での話。 公爵令嬢という華麗な肩書きにも負けず、「何コレ、どこのモブキャラ?」 というくらい地味に転生してしまった。 でも、でも、すっごく嬉しい! だって、これでようやく同性の友達ができるもの! 女友達との友情を育み、事件、困難、不幸を乗り越え主人公アレキサンドラが日々成長していきます。 地味だと思っていたのは本人のみ。 実は、可愛らしい容姿と性格の良さでモテていた。不幸をバネに明るく楽しく生きている、そんな女の子の恋と冒険のお話。 *小説家になろうで掲載中のものを大幅に修正する予定です。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

婚約破棄された悪役令嬢。そして国は滅んだ❗私のせい?知らんがな

朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
婚約破棄されて国外追放の公爵令嬢、しかし地獄に落ちたのは彼女ではなかった。 !逆転チートな婚約破棄劇場! !王宮、そして誰も居なくなった! !国が滅んだ?私のせい?しらんがな! 18話で完結

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

処理中です...