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30 大根とルルーシェラの冒険②
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ドゴン!!と、地面が縦に揺れた気がした。
あまりの揺れの大きさに思わず身を竦ませるルルーシェラを守るように大根が立ち上がったのだ。
そしてルルーシェラの目の前には巨大な穴が現れた。全てを飲み込むかのような、深く暗い巨大な穴が。
「「「あ」」」
そんな言葉を残して、目の前にいたはずの兵士たちは一瞬で、姿を消したのだった。
「こ、これは大根さんが……?!だ、大根さ……!」
これまでの穴は人間がすっぽりぴったりハマって抜け出せなくはなっていたが頭のてっぺんは見えるくらいの深さだった。しかし目の前に広がる穴はあまりに巨大で底無しに深いように見えた。恐る恐る覗いてみるがすでに落ちてしまった兵士たちの姿は確認出来ないし声も聞こえない。これでは生死も不明である。
さすがに死人を出すわけにはいかないと慌てて大根に確認しようとするルルーシェラだったが、その大根がぐったりと倒れている姿に声を失いそうになった。
「大根さん……!どうしたんですか?!まさか、魔力を使い果たして……?!」
「……じ、ぶん……だいこ……し、な…………────」
ルルーシェラが倒れた大根を抱き上げると、プルプルと震える腕をルルーシェラに向けた。まだ意識があることにホッとするも、頭の葉っぱはどんどん萎れていき、体にもこれまでの艶がない。まるでたくあんのように水分が抜けていき……大根の手はパタリと地に落ちた。
ルルーシェラの危機的状態に己の最大限の能力に目覚めただろう大根だったが、大根はただの畑の妖精だ。そう、ちょっと艶があって瑞々しい大根に過ぎないのだ。せめて名前を付けてもらっていて誰かの専属妖精となれていればまた違っていたかもしれないが……。
つまり、大根は己の力を使いすぎたのである。あれだけ体内を満たしていたアリアの魔力が空っぽになってしまったのだ。この大根はアリアの魔力から生まれた大根であり、普段はダダ漏れているアリアの魔力を勝手に吸収して動いている。
これはアリアも知らない事実なのだが、自然から生まれた妖精とは違いそうしなければ大根は生きていけないのだ。
しかし、今はアリアと離れてしまっている。さすがにこれだけ距離があればアリアの魔力も届かない。
どんどん硬くなる手足に、もうアスリート走りも出来ないだろうと覚悟を決めた。一度魔力が空っぽになってしまったら名前もついていない大根妖精などすぐにただの大根になってしまうだろう。それならせめて美味しいたくあんになりたいものだ。出来ればちょっと甘めがいい。
大根は薄れる意識の中でそんなことを考えながら、それでもこんな己と仲良くしてくれたルルーシェラを守れた事に満足もしていた。
していたのだが……。
「大根さん!大根さん、しっかりし……て……────あれ?」
大根の変貌に泣きながらルルーシェラが大根を抱き締めたその時だった。ルルーシェラの体が淡く輝き始め……その光が大根に吸収されていったのである。
「これは……私の魔力?え、私の中にこんな魔力が?!」
ルルーシェラ本人もびっくりするくらいの膨大な魔力。優しい色合いをしたそれはどんどん大根に吸収されていき、シオシオになっていた大根の体は艶を取り戻し頭の葉っぱは青々と茂っていった。硬くなっていた手足は柔軟性がアップしたのか今やぐるんぐるんと動いていた。
「じぶん、だいこんあしなんでぇぇぇぇぇ!!!」
大根がパワーアップして復活したのである。そしてひとつ違うところが……それは大根のおでこ(?)に不思議な模様が浮かび上がっていたのである。
「これは……錬成陣……。え、まさか────これって錬金術?!私の……才能?」
これはひとつの奇跡か。
なんとルルーシェラはこの瞬間に眠っていた才能を目覚めさせ、大根妖精の尽きかけた命を錬成したのである。空っぽだった大根の体にはルルーシェラの魔力がたっぷりと注がれ、額にはルルーシェラの錬金術による陣が刻まれた。これはもう、大根にとったら契約以外のなにものでもない。
そう、大根は念願の主人を手に入れたのであった────。
***
「そんなこんなで、大根さんの新能力〈巨大な穴を掘る〉で手当たり次第に掘ったら隠された秘密の入口を見つけました!だいぶ木の根っこが絡まっていたんで、さすがにそれは自分たちの手で取り除いたんで時間がかかっちゃったんですけど……ちゃんと城の内部に繋がっているのも確認してきましたよ!」
「じふん、だいこんあしなんで!」
どこからどこまでに驚いていいのかわからずアリアは困惑していたが、シロはため息をついていた。
「ちょ、ちょっと待って……その前にその巨大な穴はどうしたの?落ちた兵士たちは……」
「穴はもちろん埋めましたけど……兵士たちは助け出しましたよ!────シロさんが!「シロが?!いつの間に?!」それが、どこからともなくシロさんがお仲間の鳥さんたちを連れてきてくれまして、穴に落ちてった兵士を拾って持っていってくれたんです!いやぁ、面倒くさくなったから穴に食料を放り込んで逃げようかなって悩んでたので助かりました!」
「じぶん、だいこんあしなんで!」
「……面倒くさくなったって……。なんだか酔ってるみたいな変なハイテンションになってるみたいだけど大丈夫なの?」
「ピィ……」
やれやれと首を横に振るシロだったが、結局は気になって様子を見に行っていたようだった。そして、せっかく悪いことを考えていたのを内緒にしていたのに自らあっけらかんとバラすルルーシェラにも呆れている。どうやら急に魔力に目覚めたのと偶然とはいえ妖精と契約してしまったことで感情がおかしなことになっているようだった。その証拠にルルーシェラはアリアに土下座をして「アリアさん、どうか大根さんを私にください!錬成陣も消えないし、契約しちゃった責任をとります!」とまるで花嫁をもらうかのように大興奮している。ちなみに大根も土下座している。
「えー、あー……まぁ、大根本人がいいなら。どうぞ」
こうして大根は自分だけの主人を手に入れたのだった。
あまりの揺れの大きさに思わず身を竦ませるルルーシェラを守るように大根が立ち上がったのだ。
そしてルルーシェラの目の前には巨大な穴が現れた。全てを飲み込むかのような、深く暗い巨大な穴が。
「「「あ」」」
そんな言葉を残して、目の前にいたはずの兵士たちは一瞬で、姿を消したのだった。
「こ、これは大根さんが……?!だ、大根さ……!」
これまでの穴は人間がすっぽりぴったりハマって抜け出せなくはなっていたが頭のてっぺんは見えるくらいの深さだった。しかし目の前に広がる穴はあまりに巨大で底無しに深いように見えた。恐る恐る覗いてみるがすでに落ちてしまった兵士たちの姿は確認出来ないし声も聞こえない。これでは生死も不明である。
さすがに死人を出すわけにはいかないと慌てて大根に確認しようとするルルーシェラだったが、その大根がぐったりと倒れている姿に声を失いそうになった。
「大根さん……!どうしたんですか?!まさか、魔力を使い果たして……?!」
「……じ、ぶん……だいこ……し、な…………────」
ルルーシェラが倒れた大根を抱き上げると、プルプルと震える腕をルルーシェラに向けた。まだ意識があることにホッとするも、頭の葉っぱはどんどん萎れていき、体にもこれまでの艶がない。まるでたくあんのように水分が抜けていき……大根の手はパタリと地に落ちた。
ルルーシェラの危機的状態に己の最大限の能力に目覚めただろう大根だったが、大根はただの畑の妖精だ。そう、ちょっと艶があって瑞々しい大根に過ぎないのだ。せめて名前を付けてもらっていて誰かの専属妖精となれていればまた違っていたかもしれないが……。
つまり、大根は己の力を使いすぎたのである。あれだけ体内を満たしていたアリアの魔力が空っぽになってしまったのだ。この大根はアリアの魔力から生まれた大根であり、普段はダダ漏れているアリアの魔力を勝手に吸収して動いている。
これはアリアも知らない事実なのだが、自然から生まれた妖精とは違いそうしなければ大根は生きていけないのだ。
しかし、今はアリアと離れてしまっている。さすがにこれだけ距離があればアリアの魔力も届かない。
どんどん硬くなる手足に、もうアスリート走りも出来ないだろうと覚悟を決めた。一度魔力が空っぽになってしまったら名前もついていない大根妖精などすぐにただの大根になってしまうだろう。それならせめて美味しいたくあんになりたいものだ。出来ればちょっと甘めがいい。
大根は薄れる意識の中でそんなことを考えながら、それでもこんな己と仲良くしてくれたルルーシェラを守れた事に満足もしていた。
していたのだが……。
「大根さん!大根さん、しっかりし……て……────あれ?」
大根の変貌に泣きながらルルーシェラが大根を抱き締めたその時だった。ルルーシェラの体が淡く輝き始め……その光が大根に吸収されていったのである。
「これは……私の魔力?え、私の中にこんな魔力が?!」
ルルーシェラ本人もびっくりするくらいの膨大な魔力。優しい色合いをしたそれはどんどん大根に吸収されていき、シオシオになっていた大根の体は艶を取り戻し頭の葉っぱは青々と茂っていった。硬くなっていた手足は柔軟性がアップしたのか今やぐるんぐるんと動いていた。
「じぶん、だいこんあしなんでぇぇぇぇぇ!!!」
大根がパワーアップして復活したのである。そしてひとつ違うところが……それは大根のおでこ(?)に不思議な模様が浮かび上がっていたのである。
「これは……錬成陣……。え、まさか────これって錬金術?!私の……才能?」
これはひとつの奇跡か。
なんとルルーシェラはこの瞬間に眠っていた才能を目覚めさせ、大根妖精の尽きかけた命を錬成したのである。空っぽだった大根の体にはルルーシェラの魔力がたっぷりと注がれ、額にはルルーシェラの錬金術による陣が刻まれた。これはもう、大根にとったら契約以外のなにものでもない。
そう、大根は念願の主人を手に入れたのであった────。
***
「そんなこんなで、大根さんの新能力〈巨大な穴を掘る〉で手当たり次第に掘ったら隠された秘密の入口を見つけました!だいぶ木の根っこが絡まっていたんで、さすがにそれは自分たちの手で取り除いたんで時間がかかっちゃったんですけど……ちゃんと城の内部に繋がっているのも確認してきましたよ!」
「じふん、だいこんあしなんで!」
どこからどこまでに驚いていいのかわからずアリアは困惑していたが、シロはため息をついていた。
「ちょ、ちょっと待って……その前にその巨大な穴はどうしたの?落ちた兵士たちは……」
「穴はもちろん埋めましたけど……兵士たちは助け出しましたよ!────シロさんが!「シロが?!いつの間に?!」それが、どこからともなくシロさんがお仲間の鳥さんたちを連れてきてくれまして、穴に落ちてった兵士を拾って持っていってくれたんです!いやぁ、面倒くさくなったから穴に食料を放り込んで逃げようかなって悩んでたので助かりました!」
「じぶん、だいこんあしなんで!」
「……面倒くさくなったって……。なんだか酔ってるみたいな変なハイテンションになってるみたいだけど大丈夫なの?」
「ピィ……」
やれやれと首を横に振るシロだったが、結局は気になって様子を見に行っていたようだった。そして、せっかく悪いことを考えていたのを内緒にしていたのに自らあっけらかんとバラすルルーシェラにも呆れている。どうやら急に魔力に目覚めたのと偶然とはいえ妖精と契約してしまったことで感情がおかしなことになっているようだった。その証拠にルルーシェラはアリアに土下座をして「アリアさん、どうか大根さんを私にください!錬成陣も消えないし、契約しちゃった責任をとります!」とまるで花嫁をもらうかのように大興奮している。ちなみに大根も土下座している。
「えー、あー……まぁ、大根本人がいいなら。どうぞ」
こうして大根は自分だけの主人を手に入れたのだった。
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