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25 ど近眼魔女は身バレする
しおりを挟む「……魔力を感じる。とても強い魔力を……────これは、“魔女”の魔力だわ」
街を見渡せる時計塔の上にひとつの影があった。
ふわりとした風がその者の黒く長い髪を靡かせると、髪と同じく漆黒の瞳を細めてその者はこう呟いた。
「私の探し求めていた“森の魔女”が、この街にいる────」と。
***
「ツギハギの異形の神獣……かぁ。もしも本当に聖霊だとしたら、どんな姿をしているのかしら……?」
資金調達のためのお店も逃げるようにやめてしまい、次の行動についても足踏みしている状態の私は身を隠している宿の一室でポツリとそんなことを呟いていた。
「ピ、ピィ?」
私の肩でうつらうつらと居眠りをしようとしていたシロが話しかけられたと思ったのか慌てて首を傾げる。
「あぁ、ごめんなさい。ひとりごとのつもりだったのよ。ほら、ツギハギって言われるとなんだかフランケンシュタインみたいなのを想像しちゃって……」
もちろんこの世界にフランケンシュタインなんて存在しないのだが、つい前世の記憶にある有名どころを想像してしまうのだ。
「もしそうだったら顔色が悪そうよね……なんてね」
そう言って肩を竦めると、シロが興味津々かのように「ピィ!」と目を輝かせた。意外とオカルトが好きなのだろうか。どうやら説明を求められているようなので簡単にフランケンシュタインについて語ると……。
「ピィィィィィ~~~~っ!?」
『じぶんだいこんあしなんでぇっ?!』
なぜか一緒に話を聞いていた大根と一緒に泡を吹いて気絶してしまったのだった。大根に至っては少し萎れてしまっている。
「ちょっ……!シロ?!大根まで!そ、そんなに怖かったの?!」
いやまぁ、確かにホラーとかオカルト話だし?ちょっと驚かせてやろうとか思って雰囲気たっぷりには話したけど……まさかここまで驚くなんて思わなかったのだ。うーん、私からしたら懐かしい物語の世界の話……みたいな感覚だったけれど、確かに大根と人参を縫って繋ぎ合わせたら怖い……わよね?しかも一部腐ってるんだもの、馴染みのないシロや大根からしたらとんでもなく怖い話だったのかもしれない。
「それにしても、シロまで気絶しちゃうなんて……人間用の気付け薬って聖霊に使っても大丈夫だったかなぁ。大根は────水にでも浸けておけば治るかしら?あぁ、でもいつもの川の水じゃないものね……」
いつもの森だったならばたぶん自然に治癒されていたと思うのだが、ここは隣国だ。手にはいる水や薬草はあの森に比べたらどうしても質が落ちてしまう。いくつかは持ってきていたが商売にも使っていたし在庫にも限界があった。
しかも手持ちにある道具では人間用の薬は作れても聖霊や妖精用は難しい。さすがに愛用の釜は持ってこれなかったので簡易の道具しかないのである。師匠ならこれでも作れたかもしれないけれど……。そう思うと、やはり私はあの森に助けられていたのだと実感してしまう。いくら名前を継いだとはいえ、まだまだ師匠の足元にも及ばないのだ。
「……しんみりしている場合じゃないわね。とりあえず────」
「ちょっとまったぁ────!!」
未だに気絶したままのシロと大根を抱き上げベッドに寝かせようとしたその時、豪快に窓が開いたかと思うとひとつの影が部屋へと乗り込んで来たのである。
その人物は少し懐かしさを覚えるような黒く長い髪を靡かせると、髪と同じく漆黒の瞳を大きく開いてこう言ったのだ。
「……その素顔を隠す分厚い眼鏡……。それが瓶底眼鏡ね!瓶底眼鏡にこのダダ漏れている魔力……絶対にあなただわ!
私の名前はルルーシェラ・ウィッチ。あなたを探していたの────私を魔女にしてくれる“森の魔女”を!」と。
わ、私の正体がバレたぁ?!
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