ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

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19 ど近眼薬師は跡継ぎとなる

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 その日の朝は、森全体がいつもとは違う雰囲気に溢れていた。



 ……というか、コハクの周りに小動物が群がっていてコハクが埋もれているではないか。なんてこったい。

 パッと見ただけだがウサギや猫にフクロウ。えーと、犬(オオカミ?)に羊やモグラから鷹まで。小さくて全ての確認までは出来ていないがネズミや雀もいるようだった。本当になんてこったいだ。

 それにしてもコハクの姿が埋もれて見えないくらいにモフモフだ。何匹いるんだろう、これ。


「コハク、これは……どうしてそんなにモフモフまみれになってるの?!」

「あ、アリア様ぁ!助けてくださ……!うぷっ」

 小動物たちの隙間から手が出てくるが、その腕すらもさらに埋めようとするかのように次々とモフモフが追加される。これはもう森の異常事態だ。この森にこんなに小動物がいたことにも驚きだが。……だってこの小動物たち、みーんな聖霊みたいなんだもの。さすがは師匠の不思議の森だわ。しかし、パッと見はモフモフ天国だが、その聖霊たちの目が尋常じゃないくらいギラギラしていてなんか怖い。


「師匠、コハクが……なんか埋もれちゃいました!ど、どうしましょう?!」

「おやまぁ、まさかこんなに聖霊が集まるなんて……なんてことだい」

 いつも穏やかな師匠が珍しく焦っているようにも見える。どうしたものかと慌てる私の肩に師匠が落ち着くようにと軽く手を添えてくれた。

「この聖霊たちは、みんなコハクの魔力に惹きつけられてきてしまった子たちのようだねぇ。これまではアリアも気にしていたと思うけれど、魔力に目覚めたはずのコハクにどんな才能があるか未だにはっきりしなかったから黙っていたんだよ。ただ……どうやらコハクは魔力は想像以上の強さらしいねぇ。わたしも把握していない聖霊まで混じってるよ。

 ……いいかいアリア、よくお聞き。実はコハクの魔力は特殊で、自分の魔力を内側に溜め込んでいたんだよ。これまではその溜まった魔力の塊を精神や肉体を異常な早さで成長させることで発散させていたようなのだけど……。でも最近はその成長が落ち着いてしまったから、発散出来ずにいた魔力が抑えきれなくなって暴発しようとしているようだねぇ。魔力を溜める器には限界があるんだよ。今のコハクの魔力はギリギリまで溜まっていて器から滲み出るように漏れ出ている……その魔力にあてられた聖霊たちが我を失ってコハクにむらがってきたんだねぇ」

「そんなにすごい魔力が暴発……?!で、でも魔力持ちって、他の人にはない特別な才能がある人の事であって……それじゃコハクは」

「これはわたしの見立てだけど、たぶんコハクはその魔力自体が“才能”の可能性があるねぇ。歴代の魔力持ちを凌ぐ最強の魔力持ち……。

 コハクは、この世界でたったひとりの“魔法使い”かもしれないねぇ」

 いつも穏やかな師匠が冷や汗を垂らしながら真剣な瞳をコハクに向ける。この世界でたったひとり。ということは、これからコハクに起こる異変がどうなるかすら師匠にもわからないということだ。

「ア、アリアさ、ま……!」

 苦しそうなコハクの声が耳に届く。コハクがどんなにもがいても我を失った聖霊たちはさらにコハクに群がっていった。

「コ、コハク!師匠、魔力が爆発したらコハクはどうなるんですか?!私はどうしたらーーーー」

「……ひとつだけ、この場を収める方法があるけれど……。

 アリア、わたしの跡を継いで森の魔女になってくれるかい」

「えっ」

 突然の師匠の場違いな発言に驚く私に、師匠は私の手を握り締めた。

「もうコハクの器は爆発寸前……こんなになるまで限界を見極められなかったのはわたしの落ち度だよ。コハクの魔力をどうにか出来る聖霊がみつからないとこのままでは……。だから……わたしの全ての命を使ってコハクを封印するしかないねぇ」

「し、師匠……?!何を言ってーーーー「ピィ」え、シロまでなにを……っ」

 シロが私の目の前でバサッと翼を広げる。一瞬視界を塞がれた私の足元をなにかが高速で駆け抜ける。

『じぶん、だいこんあしなんでーーーーっ!!』

 いつの間にか朝のパトロールから帰ってきていた大根がアスリート走りのままコハクに群がる聖霊たちに突進したのだ。

 飛び散る聖霊たち。コハクから引き剥がされた聖霊たちは怒り狂い、自分たちの邪魔をした大根を襲いはじめた。たとえ妖精になったとはいえ大根が聖霊に勝てるわけがない。大根のつるんとした体はボロボロにされ……地面に転がった。

「ピィィィィィっ!!」

 コハクから聖霊たちが完全に剥がれると、今度はシロが大きく羽ばたきコハクを風で包む。新たにコハクに群がろうとする聖霊たちはその風に弾かれるがシロも聖霊たちに噛みつかれ苦痛な声を出した。

「シロ!大根も……!」

「アリア、よく見ておくんだよ。あの子たちはコハクを守るため……アリアの大切なものを守るために自分で考えて行動したんだ。

 後のことは任せたからねぇ……。大丈夫、アリアはわたしの自慢の弟子だから……きっと大丈夫だからねぇ」

 ふわり。と、師匠の優しい魔力が私を包む。それと同時に師匠のやろうとしていること、師匠の想いが全て私の中に流れてきた。



 そして、コハクと師匠の体が強い光を纏い……師匠の姿が消えたのだった。












***








 師匠の魔力が教えてくれた。

 実は私の魔力は強大なのだが、常に体の外に放出されていたらしい。常にダダ漏れ状態だったから内側に残る魔力が少なく感じていたようなのだ。

 コハクは私の側にいることで私の魔力を浴びながら成長していた。私の魔力が外側から支える事によってコハクの魔力も安定していたようなのだ。危険と背中合わせでもあったが、師匠はそれを感じ取りながらもこのまま上手く暮らしていけるのではないかと見守ってくれていたようだ。

 だが、コハクの魔力は私や師匠の魔力を超えてしまった。それによって師匠にはコハクの魔力を把握出来なくなってしまった。しかも発散出来ずに爆発寸前となった時にはすでに手遅れ状態だ。

 だから師匠は最終手段をとった。

 森の魔女の命を使ったその力はものすごい魔力を秘めている。師匠は命をかけてコハクの意識を封印したのだ。



 目の前にはいつもと同じ寝顔のコハクが倒れている。その体は淡い光に包まれていた。この師匠の命懸けの魔力の膜がある限り、コハクは仮死状態のまま時を止めていることになる。





“大丈夫、アリアはわたしの自慢の弟子だからねぇ……”




 聖霊を探そう。コハクを助けてくれる専属聖霊を。

 さっきの聖霊たちの中にはいなかった。コハクの魔力にあてられても自我を失わずに、さらに“魔法使い”の膨大な魔力を一緒にコントロール出来る特別な聖霊を。


 私はコハクの体を抱き上げ、家の中へと運んだ。その体をベッドに寝かせてそっとコハクの頭を撫でる。

「絶対に、助けて見せるからね」

 仮死状態のコハクが返事をすることはなかった。




 こうして私は森の魔女の名を継いだ。

 この日、この不思議な森には師匠が消えたその事実を悲しむように冷たい雨が降り注いでいた。





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