ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com

文字の大きさ
上 下
19 / 32

19 ど近眼薬師は跡継ぎとなる

しおりを挟む
 その日の朝は、森全体がいつもとは違う雰囲気に溢れていた。



 ……というか、コハクの周りに小動物が群がっていてコハクが埋もれているではないか。なんてこったい。

 パッと見ただけだがウサギや猫にフクロウ。えーと、犬(オオカミ?)に羊やモグラから鷹まで。小さくて全ての確認までは出来ていないがネズミや雀もいるようだった。本当になんてこったいだ。

 それにしてもコハクの姿が埋もれて見えないくらいにモフモフだ。何匹いるんだろう、これ。


「コハク、これは……どうしてそんなにモフモフまみれになってるの?!」

「あ、アリア様ぁ!助けてくださ……!うぷっ」

 小動物たちの隙間から手が出てくるが、その腕すらもさらに埋めようとするかのように次々とモフモフが追加される。これはもう森の異常事態だ。この森にこんなに小動物がいたことにも驚きだが。……だってこの小動物たち、みーんな聖霊みたいなんだもの。さすがは師匠の不思議の森だわ。しかし、パッと見はモフモフ天国だが、その聖霊たちの目が尋常じゃないくらいギラギラしていてなんか怖い。


「師匠、コハクが……なんか埋もれちゃいました!ど、どうしましょう?!」

「おやまぁ、まさかこんなに聖霊が集まるなんて……なんてことだい」

 いつも穏やかな師匠が珍しく焦っているようにも見える。どうしたものかと慌てる私の肩に師匠が落ち着くようにと軽く手を添えてくれた。

「この聖霊たちは、みんなコハクの魔力に惹きつけられてきてしまった子たちのようだねぇ。これまではアリアも気にしていたと思うけれど、魔力に目覚めたはずのコハクにどんな才能があるか未だにはっきりしなかったから黙っていたんだよ。ただ……どうやらコハクは魔力は想像以上の強さらしいねぇ。わたしも把握していない聖霊まで混じってるよ。

 ……いいかいアリア、よくお聞き。実はコハクの魔力は特殊で、自分の魔力を内側に溜め込んでいたんだよ。これまではその溜まった魔力の塊を精神や肉体を異常な早さで成長させることで発散させていたようなのだけど……。でも最近はその成長が落ち着いてしまったから、発散出来ずにいた魔力が抑えきれなくなって暴発しようとしているようだねぇ。魔力を溜める器には限界があるんだよ。今のコハクの魔力はギリギリまで溜まっていて器から滲み出るように漏れ出ている……その魔力にあてられた聖霊たちが我を失ってコハクにむらがってきたんだねぇ」

「そんなにすごい魔力が暴発……?!で、でも魔力持ちって、他の人にはない特別な才能がある人の事であって……それじゃコハクは」

「これはわたしの見立てだけど、たぶんコハクはその魔力自体が“才能”の可能性があるねぇ。歴代の魔力持ちを凌ぐ最強の魔力持ち……。

 コハクは、この世界でたったひとりの“魔法使い”かもしれないねぇ」

 いつも穏やかな師匠が冷や汗を垂らしながら真剣な瞳をコハクに向ける。この世界でたったひとり。ということは、これからコハクに起こる異変がどうなるかすら師匠にもわからないということだ。

「ア、アリアさ、ま……!」

 苦しそうなコハクの声が耳に届く。コハクがどんなにもがいても我を失った聖霊たちはさらにコハクに群がっていった。

「コ、コハク!師匠、魔力が爆発したらコハクはどうなるんですか?!私はどうしたらーーーー」

「……ひとつだけ、この場を収める方法があるけれど……。

 アリア、わたしの跡を継いで森の魔女になってくれるかい」

「えっ」

 突然の師匠の場違いな発言に驚く私に、師匠は私の手を握り締めた。

「もうコハクの器は爆発寸前……こんなになるまで限界を見極められなかったのはわたしの落ち度だよ。コハクの魔力をどうにか出来る聖霊がみつからないとこのままでは……。だから……わたしの全ての命を使ってコハクを封印するしかないねぇ」

「し、師匠……?!何を言ってーーーー「ピィ」え、シロまでなにを……っ」

 シロが私の目の前でバサッと翼を広げる。一瞬視界を塞がれた私の足元をなにかが高速で駆け抜ける。

『じぶん、だいこんあしなんでーーーーっ!!』

 いつの間にか朝のパトロールから帰ってきていた大根がアスリート走りのままコハクに群がる聖霊たちに突進したのだ。

 飛び散る聖霊たち。コハクから引き剥がされた聖霊たちは怒り狂い、自分たちの邪魔をした大根を襲いはじめた。たとえ妖精になったとはいえ大根が聖霊に勝てるわけがない。大根のつるんとした体はボロボロにされ……地面に転がった。

「ピィィィィィっ!!」

 コハクから聖霊たちが完全に剥がれると、今度はシロが大きく羽ばたきコハクを風で包む。新たにコハクに群がろうとする聖霊たちはその風に弾かれるがシロも聖霊たちに噛みつかれ苦痛な声を出した。

「シロ!大根も……!」

「アリア、よく見ておくんだよ。あの子たちはコハクを守るため……アリアの大切なものを守るために自分で考えて行動したんだ。

 後のことは任せたからねぇ……。大丈夫、アリアはわたしの自慢の弟子だから……きっと大丈夫だからねぇ」

 ふわり。と、師匠の優しい魔力が私を包む。それと同時に師匠のやろうとしていること、師匠の想いが全て私の中に流れてきた。



 そして、コハクと師匠の体が強い光を纏い……師匠の姿が消えたのだった。












***








 師匠の魔力が教えてくれた。

 実は私の魔力は強大なのだが、常に体の外に放出されていたらしい。常にダダ漏れ状態だったから内側に残る魔力が少なく感じていたようなのだ。

 コハクは私の側にいることで私の魔力を浴びながら成長していた。私の魔力が外側から支える事によってコハクの魔力も安定していたようなのだ。危険と背中合わせでもあったが、師匠はそれを感じ取りながらもこのまま上手く暮らしていけるのではないかと見守ってくれていたようだ。

 だが、コハクの魔力は私や師匠の魔力を超えてしまった。それによって師匠にはコハクの魔力を把握出来なくなってしまった。しかも発散出来ずに爆発寸前となった時にはすでに手遅れ状態だ。

 だから師匠は最終手段をとった。

 森の魔女の命を使ったその力はものすごい魔力を秘めている。師匠は命をかけてコハクの意識を封印したのだ。



 目の前にはいつもと同じ寝顔のコハクが倒れている。その体は淡い光に包まれていた。この師匠の命懸けの魔力の膜がある限り、コハクは仮死状態のまま時を止めていることになる。





“大丈夫、アリアはわたしの自慢の弟子だからねぇ……”




 聖霊を探そう。コハクを助けてくれる専属聖霊を。

 さっきの聖霊たちの中にはいなかった。コハクの魔力にあてられても自我を失わずに、さらに“魔法使い”の膨大な魔力を一緒にコントロール出来る特別な聖霊を。


 私はコハクの体を抱き上げ、家の中へと運んだ。その体をベッドに寝かせてそっとコハクの頭を撫でる。

「絶対に、助けて見せるからね」

 仮死状態のコハクが返事をすることはなかった。




 こうして私は森の魔女の名を継いだ。

 この日、この不思議な森には師匠が消えたその事実を悲しむように冷たい雨が降り注いでいた。





しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

断罪現場に遭遇したので悪役令嬢を擁護してみました

ララ
恋愛
3話完結です。 大好きなゲーム世界のモブですらない人に転生した主人公。 それでも直接この目でゲームの世界を見たくてゲームの舞台に留学する。 そこで見たのはまさにゲームの世界。 主人公も攻略対象も悪役令嬢も揃っている。 そしてゲームは終盤へ。 最後のイベントといえば断罪。 悪役令嬢が断罪されてハッピーエンド。 でもおかしいじゃない? このゲームは悪役令嬢が大したこともしていないのに断罪されてしまう。 ゲームとしてなら多少無理のある設定でも楽しめたけど現実でもこうなるとねぇ。 納得いかない。 それなら私が悪役令嬢を擁護してもいいかしら?

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

処理中です...