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16 ど近眼薬師は大根に翻弄される

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 王子はさておき、アリアとコハクが無事に森へ戻ったその後の事。(すでに王子の存在などはどうでもよくなっている感)





 アリアが毎日のように手入れしている畑に異変が起こっていた。



 この畑では新しい薬の材料になるだろうと野菜を育てているのだが、ひとつだけ収穫出来ないやつがいるのだ。


「むむむ……」

 それは、畑の真ん中にどーんと居座る大根……。時期的には充分に収穫出来るはずなのだ。だが、なぜか抜けない。

 魔力はもちろん(私の魔力なんかわずかなもんだけど)、肥料だって撒いてるしちゃんと手入れもしている。他の野菜は収穫出来たがどれも普通の野菜で薬の材料にはならず食事の食材になってしまったが、たぶんはその魔力をたっぷり栄養にしているはずなのだが……。

「なんか、抵抗を感じるのよね」

 こう、引っこ抜こうとすると押し戻されるというか……嫌がってる?みたいな。

「ピィ?」

「この大根が収穫できれば、すっごい薬の材料になる気がするのよね。刻んで煮込んですりつぶ『!?』ん?」

 今、大根がビクッと動いたような……?あら、よく見たら震えているわ。

 プルプルと震えている大根が、だんだんその振動で土から出てきた……と思った次の瞬間。

『じぶん、だいこんあしなんで!』

 畑から飛び出してきた大根の根っこ(?)が、手足のようにぴょこんぴょこんと4つにわかれたかと思うと『じぶん、だいこんあしなんで!』と叫びながらアスリート走りをしながらものすごいスピードでどこかへ走っていってしまったのだ。

「あっ、ちょっ……?!」

 驚いている間にその大根の姿は見えなくなっていた。砂煙だけが漂っている大根の走ったあとを呆然と見ていると、シロが頭の上にちょこんと乗って嘴で優しく私をつついてくる。その衝撃ではっと我に返るくらいには衝撃的だった。

「ピィ」

「シロ……せっかくの材料がどこかへ逃げちゃったわ!」

「ピィ」

「あんなに活きのいい大根……絶対すごい薬の材料になるのに!追うわよ!シロは上から探して!」

「ピィ!」

 私の声に反応して慌てて羽ばたくシロに上空からの捜索をまかせて、私は大根が消えた方向へと走り出した。










 大根はすぐに見つかった。

「……」

 あの場から少し走ったら木々が拓けた場所があり、その真ん中に例の大根がちょこんと正座していたのである。短い足(根っこ?)で器用に正座していて、私に向かって頭(葉っぱ?)を下げたのだ。

『じぶん、だいこんあしなんで!』

「え、えーと……」

『じぶん、だいこんあしなんで!』

 ガバッと顔をあげた大根は泣いていた。 

 いや、目とかがあるわけではないのだが涙っぽいものがボタボタと流れている。涙……うーん、大根汁?

 しかし大根の言葉なんてわかるわけもなく、仕方なく師匠に見てもらうことにした。さすがに泣いている(?)大根を問答無用で薬の材料にするわけにはいかないだろう。というか、一応生きてるのにそれを抑え込んで切り刻むのには抵抗を感じてしまった……。






「……えぇっ、この大根は畑の妖精なんですかぁ?!」

「どうやらアリアの魔力と相性が良かったみたいだねぇ」


 なんと私の魔力を含んだあの畑で、集中的にその魔力を蓄えたこの大根は、妖精に進化してしまったのだとか。

 でも私の魔力だけでそんな簡単に妖精になるわけがない。でないと今まで育てた野菜が全て妖精になってしまうではないか。

「もしかしてシロ……なんかした?」

「ピィ?」

 いつの間にか私の頭の上に戻ってきていたシロが首を傾げる。

『じぶん、だいこんあしなんで!』

 シロを見た大根が再び勢いよく頭を下げ出す。なにかを訴えているようだがなんて言ってるのかはさっぱりわからない。

 とりあえず……

「……どのみち、薬の材料にはできなさそうね」

「ピィ」

「その大根は諦めて、お茶にしましょう」

 がっくり肩を落とす私とシロの前にコハクがお茶とクッキーを出してくれる。

「新しい薬の開発したかったのになぁ~」

どうやら新薬の開発はお預けのようである。














***









 結局、あの大根はシロがなんとなく使っていた聖霊の力と私の魔力が混じったせいで妖精へと進化してしまったようだ。まさかシロにそんな力があったとは知らなかった。そういえばシロはかなりの力を持った森の聖霊だったなぁ。と改めて思い出すが後の祭りてある。

 さすがに妖精を薬の材料にするわけにはいかないし諦めるしかないけど、マンドラゴラ系ならまだなんとか……などと一瞬考えた。が、大根が私の視線を感じてビクッと体を震わせたのを見てやはりやめることにしたのだ。  

「し、師匠……」

「アリア、頑張りなさいねぇ」

 
 つい師匠に助けを求めてみたものの、笑顔のオーラで「自分でなんとかしなさい」とひしひしと圧力をかけてくるので致し方ない。私のような(ちょんぼりの)魔力で生まれた妖精なのだから、せめて責任をとらねば……!

「……わかったわ。じゃあ、あなたには森の巡回をしてもらうことにして……妖精ってことはもしかして名前をつけたらまた専属になったりするってこと?」

「ピィ」

『じぶん、だいこんあしなんで!』

 シロと大根が同時にうなずく。
 でも私にはすでにシロがいるし……正直言って大根の専属妖精はちょっと遠慮したい。

「よく聞きなさい、そこの大根!」

『じぶん、だいこんあしなんで!』

 あ、正座しなおした。

「私はあなたに名前はつけないわ。
 自分でこの人だ!ってビビビッと来た人に名前をつけてもらいなさい。いいわね?自分の主人は自分で選ぶのよ」

 すると大根からポタポタと汁……涙がこぼれ落ちた。

『じぶん、だいこんあしなんで!』

 う、うーん?喜んでる?あ、でもちょっと嬉しそう。感涙したって感じ?

「シロ、この大根は喜んでるの?」

「ピィ?」

 わからんのかい!

 だが、なんだか万歳しながら葉っぱをわさわさしているのでたぶん私の言った言葉に感動しているのだろう。ということにしといた。うん、まぁいいか。

 こうして大根は普段は畑に穴を掘って寝たり(?)していて、毎日アスリート走りで森の中を走るようになったのだった。








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