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2 ど近眼令嬢は本を読む
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ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫は主人公であるボク……そう、あの王子が純愛を貫くために山あり谷ありの困難を乗り越えてヒロインとの愛を育んでいくというありきたりな恋愛小説だ。
その中に出てくる王子の政略結婚の相手である婚約者のアリアーティアはヒロインの存在を目の上のたんこぶだとばかりにいじめていじめていじめて……とにかくいじめる。
まぁ、たとえ政略結婚だとしても自分の婚約者が他の女にデレデレしていればいい気分はしないだろう。
そして、アリアーティアはプライドの高い公爵令嬢だ。
ヤキモチや嫉妬という感情をぶつけるなんて恥でしかない。と言う両親に育てられた娘が、たかだか男爵令嬢に嫉妬したなんて言えるわけがない。
アリアーティアはアリアーティアなりに王子を慕っていたのに、あの王子はことあるごとにヒロインとアリアーティアを比べてはアリアーティアを非難し、ヒロインがどれだけ素晴らしい女性かを語るのだった。
アリアーティアさえ身を引けば王子とヒロインはめでたく結ばれるのに……読者の時は真剣にそう思っていた。
……今から思えば軽い洗脳状態だった気がする。疲れすぎてナチュラルハイだったからなぁ。
そんな悪役令嬢は目付きが悪くていつも人を睨み付けていて口を開けば嫌味たらしいことばかりいう女の子。と言う設定だった。
……なのだが、まず目付きが悪いのは近眼だったからだと今ならわかる。嫌味たらしいことを言う理由は後になってわかるのだが、まずこの世界には写真などは無い。貴族などは絵師に自分の姿絵を描かせて他の貴族に身分証明書と一緒に送ったりしてるのだが、だいたい3割増し……否、かなり別人に描かれていることが多い。
アリアーティアは誰かに会うときは先にその人の絵姿を眼鏡をかけて確認して覚えてから裸眼で本人に出会っていた。
しかしいざ本人に会うとほっそりした絵姿と違ってちょっと、だいぶ、かなり太っていたり顔のパーツが違っているのだが見えないから絵姿のままのつもりで話す。
ぶよぶよ体型の男性に「たくましい体でたのもしいことですわ」とか、ニキビを気にしてどう見ても厚化粧が酷い令嬢に「あらあら、素晴らしいお肌ですこと」などと、相手を睨み付けてニヤリと笑いながら言うのである。
本人はにっこり笑ってるつもりだが、目を極限まで細めているせいかなぜかひきつるのだ。
しかも何度同じことをやらかしてしまってもその相手が絵姿と全く違う容姿をしているとは思わないらしい。
いや、次こそは真実の姿だと信じているのだ。
毎回侍女に忠告されても「せっかく絵姿を送ってくれたのに最初から疑うなんて失礼だし」と考えるようだ。
……天然か馬鹿なのか、今は自分なので認めたくはないがあえて言おう。ちょっと、いやかなりおバカさんだと思う!と。
とりあえず、社交能力は欠片も無いことだけは確かだ。あと、ハンナ以外の侍女がアリアーティアに対していい感情を持っていないのも原因だと思われるのだが……そこを訴えても両親はなにもしてくれないだろう。
ひとつだけわかるのは、デビュタントで眼鏡を笑われ傷付いたアリアーティアは眼鏡を隠して生きていたのだと言うことだけだった……。
……と、いうのを全部思い出した。というか、悪役令嬢としての人生の記憶が流れ込んできたのだ。
私は日本人でアラサーのしがないおふぃすれでぃだったのだが、確か連日勤務10日の徹夜明けでやっと家に帰れるとフラフラしながら歩いていた時に愛用のど近眼用眼鏡が落ちて「メガネ、メガネ~」をしていたら暴走トラックに轢かれて呆気なく死んでしまった。
斉藤有紗、享年28歳。もれなくど近眼。なんでその日に限ってコンタクトをしていなかったのか。徹夜明けで辛くなってはずしたんだよ!
すみません、おふぃすれでぃとか嘘です。工場勤務(事務管理)の派遣社員です。ちくしょうあのブラック企業め倒産しろ。あ、今月給料未払いだったじゃん!社長ハゲロ。
まぁ、そんなことは今となってはどうでもいい。あの時の私の唯一の楽しみはこのラノベ≪君の瞳に恋したボク≫を読んで小説の世界を妄想することだけだった。
彼氏ナシ、お金ナシ、妄想だけが楽しみのアラサー。
うわぁ、悲惨。
死んだ魚のような目になって遠くを見つめたあの日。今となっては懐かしい7歳の思い出だ。
そういえば、王子の婚約者の悪役令嬢がヒロインを睨んだり嫌味言ったりそれはもう嫌がらせをしてくるから、王子があの手この手でヒロインを守るんだよね。そしてしょぼくれた男爵令嬢のヒロインを誰もが認める立派な令嬢に育て上げ、最後は悪役令嬢を断罪して死刑に……って、それ私やん!死刑になるの私やん!
おうふ……やべー。なんかこのままいったらヤバイのだけは確かだ。もはやとんでもない将来しか待っていない。小説には詳しくは書かれていなかったがけっこうエグい殺され方をするはずだ。
ラノベで読んでいた時は「ヒロインを守る王子、格好いい!」と思って読んでいたけれど、まさか内面が女の子に嫌味を言ってくるような男だったなんて!と考えると100年の恋も覚める勢いである。
ということは私はこれからあの王子の婚約者になるわけ?なにをどうしてそうなるのか訳がわからないんですけど。
あいつ、私のこと目の前で馬鹿にしてきましたけど?あんな中身腐った最低男なんざこっちからお断りだ。
これは、どうにかせねばなるまい。なぜかはわからないがせっかく大好きなラノベの世界に転生したのだ。例えそれが死刑確定の悪役令嬢だろうと、あんな王子のせいで殺されるなんて絶対嫌だ!
こうなったら、絶対死亡フラグを回避してやる!
そんなわけで7歳の私は頑張った。まずは王子の婚約者になるのを回避するため眼鏡と共に図書庫に立て籠り王国の歴史からなにから調べまくったのだ。
あぁ、瓶底眼鏡最高!少々重いのが難点だが、字がよく見えるので1日中本を読んでても苦にならない。さすがハンナが選んだ眼鏡職人の作った眼鏡である。
この世界の貴族はほとんどが平均10歳で婚約している。なので、最初のタイムリミットはあと3年!運がいいのか我が家の図書庫の本の量は膨大で、ありとあらゆる図書が置いてある。なんでも曾祖父様の趣味だったらしく曾祖父様が亡くなってからは放置され埃を被っていたようだが、歴史的価値のある古書まで埃だらけだったのには驚いた。
あの両親にはこの本達の素晴らしさが全くわからないらしい。
ハンナとふたりで3日かけて掃除して発見したのだが、なんと壁際には簡易ベッドとトイレスペースがあったのだ。テーブルと椅子を持ち込んで設置すれば立派な部屋である。
……曾祖父様、図書庫に籠ってたのかしら?それくらい本好きだったのならば、その血は確実にアリアーティアに受け継がれている。曾祖父様ばんざい!
それから私は毎日のように図書庫に入り浸って本を読み漁った。そんな私に両親はいい顔はしなかったが特に干渉もしてこない。たぶん私という存在に興味が無いのだろう。
そして偶然の産物だったのだが、王子の婚約者になってしまう最大の理由が発覚することになる。
「ハンナ……どうしよう、なんか熱いっ……!」
「お嬢様……!」
いつもに増して本に集中していた時だった。それはこの国に伝わる“魔力持ち”に関する古書で、かなり古いものだ。
この世界はファンタジーだがみんなが魔力を持っているわけではない。滅多にいない魔力持ちは貴重な存在であった。魔法が使えるってわけではないのだが、魔力持ちには必ず何か特別な才能があると言われている。
魔力持ちとなれば周りからは慎重に扱われるし、王家は魔力持ちを血筋に入れたいと躍起になるだろう。それくらいの存在なのだ。
昔、“魔力持ち”だとわかった少女はその才能を薬学で発揮した。ありとあらゆる薬草を使いこなし、誰も作り出すことが出来なかったような薬までまるで魔法を使うかのように作り出した。しかしその才能を求めて争いが起きてしまい、悲しんだ少女は姿を消した。と書かれていた。
数える程しか発覚していない“魔力持ち”の貴重なひとりは、国と薬学者の醜い嫉妬と激しい争いによって永遠に失われた……と。
そこまで読んで感慨深くなっていたとき、急に胸が熱くなったのだ。心臓が激しく脈打ち、血液すらも熱く感じた。
指先が痺れるような感覚に襲われ、私は気を失ってしまった……。
「お嬢様は、“魔力持ち”でございます」
簡易ベッドの上で目が覚めた私に、ハンナが開口一番にそう言った。
「はへ……?」
ハンナの横には大量の本が積み上がっていて、それはどれも“魔力持ち”に関する本のようだった。
「お嬢様の症状について調べてみました。たぶん“魔力”の目覚めによる暴走かと思われます。
ただ、歴代の“魔力持ち”は目覚めの時の暴走では嵐を起こしたり、地面に巨大なクレーターを作ったり等々と、かなり大きな衝撃があるそうなのですが……」
「……それって、私の“魔力”ってちょこっとしかないってこと?」
「お嬢様の症状は血液の沸騰だけでしたので、おそらく」
ふっt……!?えっ血液が沸騰してたの?!
なにそれ、こわぁっ!!そしてそんなこと(血液沸騰事件)あったのに平然と生きてる私、こわぁっ!!
うん、いや、まぁ……それを淡々と語るハンナもすごいんだけど。
ハンナはいつも無表情だが、嬉しい時にちょっとだけ笑う。表情筋はさほど動かないのだが、纏う雰囲気が柔らかくなるのだ。
ハンナがそっと私の手を握った。
「お目覚めになられて本当によかった……」
「ハンナ……」
ハンナが眉をハの字にしてちょっとだけ笑った。その嬉しそうな雰囲気を感じとり、私は「心配かけてごめんなさい」とハンナの手を握り返したのだった。
そう、私はわずかだが“魔力持ち”だったのだ。
王子の婚約者に抜擢された理由はこれに違いない。
でなければあんなに顔面を馬鹿にした女を婚約者に受け入れるはずが無いじゃないか。
そして悪役令嬢がどんなに悪評があってもみんなが絵姿を差し出し嫌味(誤解だが)を言われても我慢している理由もやっとわかった。
悪役令嬢が“魔力持ち”だからだ。
いくら王子の婚約者って言っても、アリアーティアより権力のある相手も黙ってるから(いや、陰口は叩かれているが)変だなとは思っていたのだ。
というわけで自分が“魔力持ち”であることをひた隠しにした。ハンナだけが知っている秘密だが、私の味方なのでもちろん両親にも内緒にしてくれている。
そう、“魔力持ち”だとばれなければただの眼鏡令嬢なので王家に目をつけられる確率はゼロなのだ!
それけら私はさらに引きこもりを続けた。
原作でのアリアーティアは眼鏡を外して友達を作ろうと躍起になっていたがそれがすべて失敗に終わっているのはわかりきっているので、将来のために勉強あるのみ!
ぼっち上等!いや、ハンナがいるからぼっちでもない!私はハンナに見守られながら、今日も本を読み漁るのだった。
その中に出てくる王子の政略結婚の相手である婚約者のアリアーティアはヒロインの存在を目の上のたんこぶだとばかりにいじめていじめていじめて……とにかくいじめる。
まぁ、たとえ政略結婚だとしても自分の婚約者が他の女にデレデレしていればいい気分はしないだろう。
そして、アリアーティアはプライドの高い公爵令嬢だ。
ヤキモチや嫉妬という感情をぶつけるなんて恥でしかない。と言う両親に育てられた娘が、たかだか男爵令嬢に嫉妬したなんて言えるわけがない。
アリアーティアはアリアーティアなりに王子を慕っていたのに、あの王子はことあるごとにヒロインとアリアーティアを比べてはアリアーティアを非難し、ヒロインがどれだけ素晴らしい女性かを語るのだった。
アリアーティアさえ身を引けば王子とヒロインはめでたく結ばれるのに……読者の時は真剣にそう思っていた。
……今から思えば軽い洗脳状態だった気がする。疲れすぎてナチュラルハイだったからなぁ。
そんな悪役令嬢は目付きが悪くていつも人を睨み付けていて口を開けば嫌味たらしいことばかりいう女の子。と言う設定だった。
……なのだが、まず目付きが悪いのは近眼だったからだと今ならわかる。嫌味たらしいことを言う理由は後になってわかるのだが、まずこの世界には写真などは無い。貴族などは絵師に自分の姿絵を描かせて他の貴族に身分証明書と一緒に送ったりしてるのだが、だいたい3割増し……否、かなり別人に描かれていることが多い。
アリアーティアは誰かに会うときは先にその人の絵姿を眼鏡をかけて確認して覚えてから裸眼で本人に出会っていた。
しかしいざ本人に会うとほっそりした絵姿と違ってちょっと、だいぶ、かなり太っていたり顔のパーツが違っているのだが見えないから絵姿のままのつもりで話す。
ぶよぶよ体型の男性に「たくましい体でたのもしいことですわ」とか、ニキビを気にしてどう見ても厚化粧が酷い令嬢に「あらあら、素晴らしいお肌ですこと」などと、相手を睨み付けてニヤリと笑いながら言うのである。
本人はにっこり笑ってるつもりだが、目を極限まで細めているせいかなぜかひきつるのだ。
しかも何度同じことをやらかしてしまってもその相手が絵姿と全く違う容姿をしているとは思わないらしい。
いや、次こそは真実の姿だと信じているのだ。
毎回侍女に忠告されても「せっかく絵姿を送ってくれたのに最初から疑うなんて失礼だし」と考えるようだ。
……天然か馬鹿なのか、今は自分なので認めたくはないがあえて言おう。ちょっと、いやかなりおバカさんだと思う!と。
とりあえず、社交能力は欠片も無いことだけは確かだ。あと、ハンナ以外の侍女がアリアーティアに対していい感情を持っていないのも原因だと思われるのだが……そこを訴えても両親はなにもしてくれないだろう。
ひとつだけわかるのは、デビュタントで眼鏡を笑われ傷付いたアリアーティアは眼鏡を隠して生きていたのだと言うことだけだった……。
……と、いうのを全部思い出した。というか、悪役令嬢としての人生の記憶が流れ込んできたのだ。
私は日本人でアラサーのしがないおふぃすれでぃだったのだが、確か連日勤務10日の徹夜明けでやっと家に帰れるとフラフラしながら歩いていた時に愛用のど近眼用眼鏡が落ちて「メガネ、メガネ~」をしていたら暴走トラックに轢かれて呆気なく死んでしまった。
斉藤有紗、享年28歳。もれなくど近眼。なんでその日に限ってコンタクトをしていなかったのか。徹夜明けで辛くなってはずしたんだよ!
すみません、おふぃすれでぃとか嘘です。工場勤務(事務管理)の派遣社員です。ちくしょうあのブラック企業め倒産しろ。あ、今月給料未払いだったじゃん!社長ハゲロ。
まぁ、そんなことは今となってはどうでもいい。あの時の私の唯一の楽しみはこのラノベ≪君の瞳に恋したボク≫を読んで小説の世界を妄想することだけだった。
彼氏ナシ、お金ナシ、妄想だけが楽しみのアラサー。
うわぁ、悲惨。
死んだ魚のような目になって遠くを見つめたあの日。今となっては懐かしい7歳の思い出だ。
そういえば、王子の婚約者の悪役令嬢がヒロインを睨んだり嫌味言ったりそれはもう嫌がらせをしてくるから、王子があの手この手でヒロインを守るんだよね。そしてしょぼくれた男爵令嬢のヒロインを誰もが認める立派な令嬢に育て上げ、最後は悪役令嬢を断罪して死刑に……って、それ私やん!死刑になるの私やん!
おうふ……やべー。なんかこのままいったらヤバイのだけは確かだ。もはやとんでもない将来しか待っていない。小説には詳しくは書かれていなかったがけっこうエグい殺され方をするはずだ。
ラノベで読んでいた時は「ヒロインを守る王子、格好いい!」と思って読んでいたけれど、まさか内面が女の子に嫌味を言ってくるような男だったなんて!と考えると100年の恋も覚める勢いである。
ということは私はこれからあの王子の婚約者になるわけ?なにをどうしてそうなるのか訳がわからないんですけど。
あいつ、私のこと目の前で馬鹿にしてきましたけど?あんな中身腐った最低男なんざこっちからお断りだ。
これは、どうにかせねばなるまい。なぜかはわからないがせっかく大好きなラノベの世界に転生したのだ。例えそれが死刑確定の悪役令嬢だろうと、あんな王子のせいで殺されるなんて絶対嫌だ!
こうなったら、絶対死亡フラグを回避してやる!
そんなわけで7歳の私は頑張った。まずは王子の婚約者になるのを回避するため眼鏡と共に図書庫に立て籠り王国の歴史からなにから調べまくったのだ。
あぁ、瓶底眼鏡最高!少々重いのが難点だが、字がよく見えるので1日中本を読んでても苦にならない。さすがハンナが選んだ眼鏡職人の作った眼鏡である。
この世界の貴族はほとんどが平均10歳で婚約している。なので、最初のタイムリミットはあと3年!運がいいのか我が家の図書庫の本の量は膨大で、ありとあらゆる図書が置いてある。なんでも曾祖父様の趣味だったらしく曾祖父様が亡くなってからは放置され埃を被っていたようだが、歴史的価値のある古書まで埃だらけだったのには驚いた。
あの両親にはこの本達の素晴らしさが全くわからないらしい。
ハンナとふたりで3日かけて掃除して発見したのだが、なんと壁際には簡易ベッドとトイレスペースがあったのだ。テーブルと椅子を持ち込んで設置すれば立派な部屋である。
……曾祖父様、図書庫に籠ってたのかしら?それくらい本好きだったのならば、その血は確実にアリアーティアに受け継がれている。曾祖父様ばんざい!
それから私は毎日のように図書庫に入り浸って本を読み漁った。そんな私に両親はいい顔はしなかったが特に干渉もしてこない。たぶん私という存在に興味が無いのだろう。
そして偶然の産物だったのだが、王子の婚約者になってしまう最大の理由が発覚することになる。
「ハンナ……どうしよう、なんか熱いっ……!」
「お嬢様……!」
いつもに増して本に集中していた時だった。それはこの国に伝わる“魔力持ち”に関する古書で、かなり古いものだ。
この世界はファンタジーだがみんなが魔力を持っているわけではない。滅多にいない魔力持ちは貴重な存在であった。魔法が使えるってわけではないのだが、魔力持ちには必ず何か特別な才能があると言われている。
魔力持ちとなれば周りからは慎重に扱われるし、王家は魔力持ちを血筋に入れたいと躍起になるだろう。それくらいの存在なのだ。
昔、“魔力持ち”だとわかった少女はその才能を薬学で発揮した。ありとあらゆる薬草を使いこなし、誰も作り出すことが出来なかったような薬までまるで魔法を使うかのように作り出した。しかしその才能を求めて争いが起きてしまい、悲しんだ少女は姿を消した。と書かれていた。
数える程しか発覚していない“魔力持ち”の貴重なひとりは、国と薬学者の醜い嫉妬と激しい争いによって永遠に失われた……と。
そこまで読んで感慨深くなっていたとき、急に胸が熱くなったのだ。心臓が激しく脈打ち、血液すらも熱く感じた。
指先が痺れるような感覚に襲われ、私は気を失ってしまった……。
「お嬢様は、“魔力持ち”でございます」
簡易ベッドの上で目が覚めた私に、ハンナが開口一番にそう言った。
「はへ……?」
ハンナの横には大量の本が積み上がっていて、それはどれも“魔力持ち”に関する本のようだった。
「お嬢様の症状について調べてみました。たぶん“魔力”の目覚めによる暴走かと思われます。
ただ、歴代の“魔力持ち”は目覚めの時の暴走では嵐を起こしたり、地面に巨大なクレーターを作ったり等々と、かなり大きな衝撃があるそうなのですが……」
「……それって、私の“魔力”ってちょこっとしかないってこと?」
「お嬢様の症状は血液の沸騰だけでしたので、おそらく」
ふっt……!?えっ血液が沸騰してたの?!
なにそれ、こわぁっ!!そしてそんなこと(血液沸騰事件)あったのに平然と生きてる私、こわぁっ!!
うん、いや、まぁ……それを淡々と語るハンナもすごいんだけど。
ハンナはいつも無表情だが、嬉しい時にちょっとだけ笑う。表情筋はさほど動かないのだが、纏う雰囲気が柔らかくなるのだ。
ハンナがそっと私の手を握った。
「お目覚めになられて本当によかった……」
「ハンナ……」
ハンナが眉をハの字にしてちょっとだけ笑った。その嬉しそうな雰囲気を感じとり、私は「心配かけてごめんなさい」とハンナの手を握り返したのだった。
そう、私はわずかだが“魔力持ち”だったのだ。
王子の婚約者に抜擢された理由はこれに違いない。
でなければあんなに顔面を馬鹿にした女を婚約者に受け入れるはずが無いじゃないか。
そして悪役令嬢がどんなに悪評があってもみんなが絵姿を差し出し嫌味(誤解だが)を言われても我慢している理由もやっとわかった。
悪役令嬢が“魔力持ち”だからだ。
いくら王子の婚約者って言っても、アリアーティアより権力のある相手も黙ってるから(いや、陰口は叩かれているが)変だなとは思っていたのだ。
というわけで自分が“魔力持ち”であることをひた隠しにした。ハンナだけが知っている秘密だが、私の味方なのでもちろん両親にも内緒にしてくれている。
そう、“魔力持ち”だとばれなければただの眼鏡令嬢なので王家に目をつけられる確率はゼロなのだ!
それけら私はさらに引きこもりを続けた。
原作でのアリアーティアは眼鏡を外して友達を作ろうと躍起になっていたがそれがすべて失敗に終わっているのはわかりきっているので、将来のために勉強あるのみ!
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