落ちこぼれ魔女ですが、悪役令嬢の替え玉やってます

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悪役令嬢は本領を発揮する(オフィーリア視点)

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「あぁ、なんだか懐かしいな……」

 思わずそんなことを呟きながら、僕は久しぶりの学園生活を謳歌していた。







 ***





 僕が公爵家に帰ってきたあの日、公爵夫人である母は使用人たちに見られているのも気にせず泣きじゃくって喜んでくれた。心配をかけてしまった事は申し訳なく思う。しかも途中で捕まえて来たユーリが僕に首根っこを掴まれながら引き摺られて足元に転がっているのに全く気付いていない程の喜びようである。どれだけ心配されていたのかと思うと多少心が傷んだ。いや、それとも気付いているが無視してるのか?まぁ、オフィーリアが家出した原因はユーリだからね。それにしても、ゲーム内の王子はもうちょっと威厳があった気がしたが、このユーリには威厳など欠片も存在しない気がした。ちなみに幼馴染みの見習い騎士との駆け落ちの誤解もしっかり解いておく事も忘れていない。“王子の浮気に傷つき、そんな王子との結婚に絶望してつい家出してしまった。見習い騎士は幼馴染みとして純粋に心配して護衛としてついてきてくれた。”と涙を浮かべて説明すると両親はあっさり信じてくれた。その隣でユーリが居心地の悪そうな顔をしていたがいい気味である。



「ルルーシェラには迷惑をかけたので、しばらく里帰りさせてあげたいんです!だってユリウス殿下が無理矢理連れてきたんでしょう?きっとご家族も心配しているわ!」

 涙ついでにルルーシェラの事も許可をとることにした。もちろん双子であることは内緒だが、こうゆうのは勢いが大事なのだ。さすがに王家が関わっている案件なので勝手に約束を反古にする事はできないが、悪役令嬢本人がここにいるのだからルルーシェラが無理に学園に行く必要はないはずである。両親はもちろん大賛成して手土産も山程用意してくれた。それから数日は情報のすり合わせの為に一緒に過ごしたが、やっとルルーシェラを無事に魔女の村へと送り出すことに成功したのだ。ユーリがなぜか渋っていたがあんな残念王子の意見など聞いてやるつもりはない。まぁ、でもユーリの為にも一応は悪役令嬢らしく振る舞ってあげようじゃないか。ルルーシェラのおかけで機嫌がいいからね。

 それから、まず学園に行って最初にしたことはヒロインへのだった。

 ここ最近のヒロインの動向はルルーシェラから全て聞いている。というか、何もされていないのにセルフいじめとはとんだ働きものだ。しかし何事も働き過ぎはよくないと思うんだよね。それに、僕の大切な双子の妹を困らせてくれたは姉である僕がすべきだろう?

 だから僕はその日の昼休みに「久しぶりの学園だから、ちょっとだけ一緒に散歩がしたいわ」と、わざとらしくユーリと腕を組みながら学園内を歩くことにした。ちなみに左手に籠を持っているのだが、その籠にはぎゅうぎゅうにを詰め込んである。お昼休みならこれだけのモノを持っていてもなんとでも誤魔化せるし、ぱっと見はまるでピクニックにでも赴くかのようだ。

 なに、ヒロインならすぐに見つかるだろうからそんなに時間はかからないさ。ヒロインの行動なんて全て把握済みだよ。そうしてルルーシェラがよく足を運んでいたという中庭の木陰にピンクの塊を発見する。まさに今、ノートを破こうと端と端を掴んだ両手を左右に動かそうとした瞬間に出くわしたのだ。正しくはその木陰を勢い良く思いっきり覗いてやった。なにせピンクの髪が見え隠れしていたからすぐにわかるというものだ。まぁ、案の定周りには誰もいないのだが。そして目と目が合ってユーリの存在にも気付いたヒロインが驚きながらも慌ててノートを後ろに隠したが、残念王子のユーリは「あ、ロゼットだぁ~!こんな所で会うなんて奇遇だね!」とヒロインとの出会いを純粋に喜んでいる。視野が狭い上にヒロイン至上主義のこの馬鹿王子を救けてやらねばならないなんてどんな苦行なんだろうか。なんて思わなくもない。

「あっ?!あくや……オフィーリア様、なんでこんなところに……?!え、えーと!ユ、ユリウス殿下……!あたし、実はオフィーリア様に嫌がらせをされて!それで、ここで悲しくてこっそり泣いていたんです……!オフィーリア様ったら酷いわ!あたしがここで泣いてるのを知っていてわざわざ笑いに来たのね?!」

 瞬時に目尻に涙を浮かべて、破りかけたノートを木陰の隅に放り込む手腕はなかなかのものだ。せいぜい騙されるのは攻略対象者くらい……いや、いまやユーリくらいか。ルルーシェラによれば他の攻略対象者はヒロインから離れていったようだしね。まぁ、取り巻きのモブなら一緒に大騒ぎしてそうだけど。

「ユリウス殿下ぁ~!」

 それから、さらにその勢いのままユーリに抱きつこうと腕を伸ばしてくるがそれをヒラリとかわしてやる。ヒロインがものすごい顔で睨んでくるがユーリは「オフィーリア!君、いつの間にロゼットに嫌がらせなんかしてたのぉ?!午前中は授業に出ていたよね?!まさか昨日のうちに?!あっ……!?」と的外れな叫びを上げていた。学園復帰の打ち合わせの為にこの2日間程はユーリも公爵家に泊まって昨夜もずっと一緒にいたのにもう忘れたのか。しかも昨日は休日だったし、ルルーシェラに至っては3日も前にすでに里帰りの為に旅立っている。まさか里帰りしたルルーシェラが寄り道してわざわざヒロインをイジメたなんて言い出さないでくれよ。……おい、悩むな。この残念王子!ユーリの為にとセルフイジメの事は伝えなかったが、さすがにルルーシェラの事を疑うのはどうかと思う。「まさか……僕へのサプライズのつもりで……?」とかなんとかふざけた事を呟いているが、ハッキリ言ってルルーシェラはそこまでユーリの事なんか考えていないだろうさ。と言うか、それどころじゃないだろうし。

 なにやら唸って頭を抱えているユーリを無視して僕は悪役令嬢らしい笑みを浮かべてヒロインに向かって目を細めた。

「あら、ご機嫌ようロゼットさん。相変わらず薄暗くてジメジメした場所にいるのがお好きなのね?それにしても毎回言いますけれど、いくら学園内が平等とはいえ挨拶すらまともに出来ないのは淑女としてどうかと思いましてよ?まぁ、両手で数え切れない程に教えても全然改善してくださらないのでもう諦めましたけれど。きっとあなたにはとても難しい事でしたのよね?向上心のない人間に無理難題を押し付けたことは謝罪いたしますわ」

「なっ……!」

 予想外の展開だったのかヒロインが言葉を無くして悔しそうに口元を歪める。ユーリは今だに悩んでいて「ま、まさか……もしあの子じゃなかったら、他の誰かがロゼットをイジメてるとか……?!」と、考え過ぎてパニクっているのでそれどころじゃないのか全く気付いていないようだけど、こんな性悪ヒロインのどこがいいんだか。いや、だからといって前世時代に流行っていた小説みたいにヒロインより悪役令嬢に心を傾けられても困るんだけどさ。

 笑顔のままくるりと方向転換させて立ち去ろうとすると、ヒロインが「ま、待ちなさいよ!」と声を荒げた。

「まだ、なにか?」

「あ、あなた……なにか変じゃない……?」

 その、戸惑うような疑うような目つきに思わずニヤけそうになる。おっと、まだ我慢しなきゃ。

「あぁ、そう言えば……私もロゼットさんに用があったのを忘れていましたわ。さぁ、どうぞ!」

「えっ?!」

 僕は笑顔を浮かべたまま、籠いっぱいに入っていたモノを勢いよくヒロインの頭の上からぶっかけてやったのだ。ちなみに、全部食用にはなれなかった廃棄物だ。食べようと思えば食べれないことは無いが、食用には向かないような虫食いの野菜の外葉や芯、家畜の餌にするような失敗して焦げたパンの耳。さらには畑の肥料にするしか無いような成長不良の変形変色してしまった穀物の残骸。籠の中にはそんなモノたちがぎゅうぎゅうに詰め込まれていて……目隠しのナプキンを取ったその中身を戸惑うヒロインにぶっかけてやると、廃棄物だらけになったヒロインが信じられないとばかりに目を丸くした。

 あぁ、もしかしなくてもはそんなことしないって思ってたんだ?確かに記憶が戻る前の僕も嫌味を言うくらいだったし、ルルーシェラに至ってはセルフイジメしてたくらいだもんね?

 でも、もう僕は今までのオフィーリアじゃないんだよ。ユーリとの恋中を邪魔する気はないからこそ……徹底的に悪役令嬢を演じてやるさ。

「ーーーーな、なにするのよ?!こんな、突然…っ」

「あら、突然?何を今更……だってここ最近はばかりしていたじゃないですか?ロゼットさんが“あの性悪の公爵令嬢は、息をするのと同じ感覚で嫌がらせをしてくる”とおっしゃっていたんでしょう?ですから、私はに嫌がらせをしているだけですわ。これまでは控えめにしていましたけれど、は積極的に嫌がらせさせて頂きますわね!」

 僕が極上の笑顔でそう言ってやれば、ヒロインはサッと顔色を変えた。これまでこちらが何もしないのをいいことに好き勝手してくれていたみたいだけれど……ここからはだよ。さぁ、本領発揮といこうかな?




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