落ちこぼれ魔女ですが、悪役令嬢の替え玉やってます

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落ちこぼれ魔女ともうひとりの攻略対象者②

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「取引だと?この俺様が権力に屈すると思うなよ!」と、力強く息巻いていたドゥードリシュ先生だったがその後の私の言葉を聞いた途端コロッと態度を変えることになる。

 別に公爵家の権力なんか使う気はもとからない。そう、私が言った取引の材料は……


 古代文字の翻訳と、定期的な食べ物の供給だ。


 ドゥードリシュ先生は教師だが研究家でもある。ちなみに魔女関連の本はとても価値があり非常に高額で、さらに古代文字の解析には膨大な時間がかかる。だが効率も悪く研究結果はあまり期待できず、今のところこの研究で報酬をもらうことは無いそうだ。つまり給料のほとんどを研究に費やしているドゥードリシュ先生はハッキリ言って食事も満足にとれないほど貧困している。しかも実家には訳あって頼れないらしい。
 つまり、私との取引に応じれば研究は進むし、ご飯にも困らないのである。
 もちろんパトロンとなって研究にお金を出すという選択肢もあったが、私はあくまでも替え玉だ。本物の公爵令嬢ではないのに公爵家のお金を使う訳にはいかない。それに、なによりドゥードリシュ先生が嫌がるだろうとも思った。

 それならば私自身の能力を対価にすれば良い。古代文字を翻訳するなど私にとったら簡単なことだし、本も読めて一石二鳥だ。それに食べ物も私のお昼ご飯をそのまま横流しすればよいと思った。朝と夜は公爵家で食べさせて貰ってるし、お昼は食堂でテイクアウトして中庭などでこっそり食べてるので私がお昼を食べなくても誰にもバレない。私は1食くらい抜いても平気だし、その1食でドゥードリシュ先生は助かる。これぞギブアンドテイクだ。

 こうして私は無事(?)隠れ家(ドゥードリシュ先生の研究室)を手にいれたのだった。




***





 それから数日、私は授業をサボっては隠れ家で本を読んでいた。
 すでにいくつかの本を読み終え、それを翻訳して書き写してはお昼に顔を出す先生にそれを渡している。ドゥードリシュ先生が教えてくれたが授業をサボってる間にオフィーリアの悪い噂は面白いくらいに広がってるらしい。どうやら男爵令嬢ががんばっているようだ。このままユーリと結ばれてくれればいいのだけれど。

 お昼の時間になると部屋の扉が開いた。ドゥードリシュ先生は毎日同じ時間ぴったりにここへやってくるのだが、彼は体内に時計でも埋め込んであるのだろうかと思うくらい正確だ。

「今日も12時ぴったりですのね、ドゥードリシュ先生」

「……」ぐーきゅるるるるるる。ぎゅるんぎゅるん。

 私が早めにに食堂でテイクアウトしてきたお弁当を見て返事の変わりにお腹の音が響いた。これもいつも通りである。

「……お前、とんでもない噂が飛び交っているぞ」

「あら、今度はどんな噂ですか?」

 ドゥードリシュ先生はサンドイッチを受け取りひと口齧ったかと思うと食べる手を止め、鋭い視線を私に向けた。

「オフィーリア・カサンドラは婚約者がいる身で他の男と隠れて逢引きしているとんでもない女だ。とか」

「まぁ、確かにこうして毎日ドゥードリシュ先生とは会ってますわね。逢引きではないですけど」

「さらに誰にも読めない文字を操り、怪しい研究に手を出している。とか」

「古代文字を読んで、ドゥードリシュ先生の研究に手を貸してはいますわね。怪しくはないですけど」

「学園の教師を公爵家の権力で無理矢理従わせて侍らせているそうだ。と聞いた」

「お昼ご飯と古代文字の翻訳という力を使ってドゥードリシュ先生を従わせていますけれど、さすがに侍らす趣味はありませんわ」

「当たり前だ。なぜ俺様がお前などに侍らねばならないんだ!」

 私に怒られても知りませんよ。

「しかもロゼットがまたオフィーリア・カサンドラにいじめられたと訴えてきた。今度は池に落とされたそうだ」

「まぁ、それは大変でしたね」

「お前は犯人だと名指しされているのに、なんでそんなに落ち着いているんだ」

「さぁ、犯人だからじゃないですか?」

 申し訳ないが、今は男爵令嬢のセルフいじめの内容よりも自分のことの方が重要だ。あぁ、でもそうか。

「私はドゥードリシュ先生は愛しのロゼットさんをいじめてる犯人ですものね。研究のためとはいえやはり私と一緒にいるのはいい気はしないでしょうし、取り引きを止めて私を追い出しますか?」

「は?なんでそんな話になるんだ」

「え、だって以前私に……“ロゼットをいじめるな、そして王子にロゼットを翻弄するなと言っておけ。俺様は自分はすでにロゼットと○○○ピーした仲なんだからな!”とかって言ってましたよね。ドゥードリシュ先生とロゼットさんはそういう仲なんでしょう?」

 ユーリには悪いが、私はあの男爵令嬢は逆ハーレムとやらを狙ってると確信している。だからこそユーリにはライバルを出し抜いて頑張って欲しいのだが、ドゥードリシュ先生が男爵令嬢と深い仲ならばユーリにとって最大のライバルはドゥードリシュ先生だろう。これも略奪愛になるのかしら?

「あ、ああ……えーと、それは」

 珍しく言葉を濁すドゥードリシュ先生。残ったサンドイッチをまとめて口にいれ飲み込むとぼそっと「嘘なんだ」と呟いた。

「え?」

「……あの時言ったことは、全部嘘なんだ。ロゼットが、王子が言い寄ってくるせいで公爵令嬢にいじめられていると相談してきて……それでああ言ってくれと頼まれたからそれで……」

「てっきり、教師と教え子の禁断の愛なのだと思ってました」

 ユーリがそういうものだと言っていたしね。

「悪いがロゼットにそういう感情はない。助けてくれと頼まれたから演技したまでだ。……そもそも無理だしな」

 小声でなにかを呟いたようだがよく聞き取れなかった。しかしその表情は嘘をついているようにも思えない。

「だが、注意深く見てみればロゼットの方からユリウス殿下に近づいているようにも思える。だいたいユリウス殿下がオフィーリ・カサンドラという婚約者がいる身でロゼットに近づくのが1番悪いんだ。だから、今はお前に対してそんなに悪い感情はない。それに、本当はいじめなどしていないのだろう?」

 ドゥードリシュ先生はそう言うと私の手を掴んだ。

「お前はなにを隠している?お前は……お前は――――」

「ドゥードリシュせんせ……っ」

 ドゥードリシュ先生が私に詰め寄ろうとした瞬間、グラリと部屋が揺れる。この部屋は地下だし窓もない。地震がおきればかなり危ない。そう思った時には本が詰め込まれた本棚がこちらに向かって倒れて来ていた。

「オフィーリア、危な――――っ」

 ドゥードリシュ先生に捕まれていた手を引かれ、そのまま抱き締められるような格好で床に体を打ち付ける。ギリギリ本棚の直撃は免れたが体がいた……くない?

ふにっ

 顔と手に柔らかい感触がした。恐る恐る視線を動かすと、私を抱き締めているドゥードリシュ先生の服のボタンが弾けて胸元が露になっていた。そしてそこには、晒しに巻かれたふくよかな胸があったのだ。

「お、女の人――――?!」

 ちょっと、ユーリ!攻略対象者ってのに女性がいるなんて聞いてないんだけど――――?!


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