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落ちこぼれ魔女と王妃様
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「……朝から何をしてるんですか?」
朝、部屋の扉を開けたら目の前に土下座している第一王子がいました。びっくりだよ。
公爵夫妻はどうしていいかわからずにオロオロしてるし、使用人の皆さんなんか顔を真っ青にしているではないか。おい、朝から人ん家に迷惑かけんな。
「だって……だって絶対怒るから! 今から僕がお願いすること聞いたら絶対怒るからぁぁぁぁぁ!!」
顔を上げたユーリは半泣きになりながら私の足にしがみつきとんでもないことを言い出したのである。
「父上に君のことがバレたから一緒に城にいってくれよぉぉぉぉぅぅ!!」
「父上って……王様?!」
あ、公爵夫人が失神した。
***
「魔女とは、魔力を持つ者だ。 魔力は体内をめぐり細胞を活性化して刺激を与え、普通の人間には成し得ない能力を発揮できると言われている。 それが許される人間が魔女という種族なのだ。
銀髪と緑目という特徴も美しい容姿も体内を巡る魔力の副作用と言われている。 だがお主は魔女でありながらなんの才能も発揮せず、容姿も平凡で黒髪黒目……」
私の顔をじっくりみてからブツブツとため息混じりに呟きだした王様。ちなみに今の私は本来の姿に戻り、黒髪黒目でノーメイクである。
なんと王様にはユーリの企みがすべてバレていた。オフィーリアが見習い騎士と駆け落ちしたことも、私がオフィーリアの替え玉になっていることも。もちろんユーリが男爵令嬢と恋仲(かどうかは怪しいが)であることもだ。
「さらにはユリウスは王子の身でありながら魔女の村から娘を金で買収……しかもワザワザ買収したのにこんな娘……」
悪かったな、こんな娘で。王様の大きな独り言のおかげでこの場にいる人間の間には不穏な空気が流れている。
「お待ちください、父上! 確かにルルーシェラは魔女としては落ちこぼれだし、見た目も平凡です! スタイルだって特別良いわけでもないし愛嬌も悪いし胸も小さいし胸も小さいし! 魔女だから金で買ったわけではなく、オフィーリアにそっくりだから買ったのであってぼくはルルーシェラに魔女の素質も美しさも求めてないんです!」
「だがこれだぞ?! いくらオフィーリア嬢に似てるからってなんの才能もないこんな平凡なできそこない魔女だぞ! しかもオフィーリア嬢より胸は小さいし色気も無いし胸も小さいし!」
「確かに胸は小さいですがオフィーリアにそっくりでしょう?! こんなそっくりな同い年の娘なんていないですよ! 胸は小さいけど!」
よし、この親子を殴り殺そ……ヤバイ、マジで殺意を覚えてしまった。
「ではどうしてもこの娘にオフィーリア嬢の替え玉を続行させたいと申すのだな? お前の本命はその男爵令嬢とやらなのに、なぜわざわざそんなことを……」
「オフィーリアがいないとロゼットは僕の恋人になってくれないし、ロゼットを未来の王妃に認めさせるためにもオフィーリアの存在が必要なんです!」
「ユリウスお前……自分が浮気しておいて婚約者に逃げられ、さらには他人を金で買って無理矢理その婚約者の身代わりをさせて危険な目にあわせているのに、公爵家まで巻き込んでまだやめない気なのか?! 王子として、否、男として最低だと思わないのか?!」
「最低だろうとなんだろうと、僕の運命の相手はロゼットなんだ! ロゼットと結ばれるためなら僕は手段を選ばない!」
「その出来損ない魔女を買った金で男爵家を買収すれば、令嬢のひとりやふたり愛人にできるんだぞ?!」
「父上、愛は金では買えないんです! 僕は恋愛結婚がしたいんです!」
不毛な言い争いはそれからしばらく続いた。どっちも最低だよ。
え?私?
さっさとあの場から抜け出して、城のテラスでお茶してますけど?……王妃様と一緒に。
「ごめんなさいね、あの馬鹿息子ったら馬鹿な父上の馬鹿な所しか似なかったみたいなの。
仕事はできるんだけど、それ以外は本当に救いようのない馬鹿なのよ。ほんと馬鹿でしょ?」
「……イエ、ソンナコト」
笑顔で毒を吐く王妃様。目が笑ってないよーっ!なんか怖いんですけどーっ!
「てっきりオフィーリアちゃんとうまくいってると思ってたのに、あんな男爵令嬢なんかに骨抜きにされるなんて情けない…本当に骨を抜いてやろうかしらホホホ。これぞほんとのふにゃふにゃね☆」
なんか怖いことボソッと言った――――!
「まったくあの馬鹿息子……魔女の存在は知っていても口に出してはいけない公然の秘密なのよ? それはたとえ王族でも同じ。 魔女を怒らせたら国が滅ぶと伝承にもあるのに、そんな魔女の村に許可なく立ち入ってまさか魔女を金で買ってくるなんて……魔女の長老から手紙がきたときはびっくりしたわ~」
「ばっちゃん……いえ、長老から手紙が?」
どうやら王様がすべて知っていたのはばっちゃんがお知らせしたからのようである。
「そうよ、不届きな王子が村にやって来てこともあろうに魔女をひとり金で買っていったと。 しかもその魔女がこともあろうに長老の秘蔵っ子だなんてあの子ったら命が惜しくないのかしら?」
ホホホと笑いながら「ね?」と首を傾げる王妃様。
「ひ、秘蔵? いえ、それはなにかの間違いです! 私は落ちこぼれなんで……。 さっき王様がおっしゃった通りなんの才能も無いんです」
「あぁ、あの人が言ったことは気にしなくていいの。 あの人ったら国王のくせに馬鹿だから魔女の恐ろしさを理解していないのよ。 いくら伝承が残っていてもまさか本当に魔女が国を滅ぼすなんて夢にも思っていない愚か者なの。
本来魔女は穏やかで争いを好まないし多少のことでは怒らないから、歴代の王も魔女の恐ろしさを忘れていってしまったのね……」
「お、王妃様は魔女の恐ろしさを知ってるんですか?」
「あら、もちろんよ。 だって――――わたくしは元魔女ですもの「えぇぇ?!」占いの才能を開花させ、王家の専属占い師として長年つかえてきたわ。 今の王がまだ王子の頃に占い師のわたくしを見初めて口説いてきたので占い師を引退し魔女をやめたの。
あ、ちなみに王はわたくしが元魔女だとは知らないわよ? ただの占い師だと思ってたみたい。 王子の頃からお馬鹿さんだったのよ、ホホホ。 実はわたくしの方がかなり年上なのだけど、いまだに自分より年下だと信じてるのみたいね」
王妃様は魔女をやめてからもばっちゃんとは交流があるらしく、アンチエイジングの薬も定期的に送ってもらってるそうだ。
「で、でも王妃様は金髪で瞳も青みがかっているのに」
「髪は染めればいいし、瞳の色を変える目薬の存在をあなたも知っているはずよ。 王家の専属になるためには魔女特有の見た目は変えておかないといけなかったからね。 ついでに言えば魔女の遺伝子は女児にしか受け継がれないの。 だからユリウスもわたくしが魔女だとは知らないのよ」
王妃様は「内緒よ?」と微笑みを浮かべながら紅茶をひと口啜る。
「ふふふ、それにしてもあなたもよく今までおとなしくユリウスの言うことを聞いていたわね? 魔女を馬鹿にするなってもっと怒ってもいいのよ?」
「そりゃ、馬鹿にされてるとは思いますけど……。 私が替え玉をやらないとオフィーリア様が処罰されるらしいとか聞いちゃったし、なにより長老がお金を受け取って私を売り渡したわけですからお金の分は働かないといけないかなと」
いまだに忘れられないよ?ばっちゃんが笑顔で私を送り出したこと。ちくしょう!
「あら? 長老からなにか言われなかったの?」
「え? なにかって……しっかりお勤めしてこい、としか」
王妃様は私の言葉を聞いてさらににーっこりと笑った。
「あら、ちゃんと指示されてるじゃない。 魔女が村を離れてするお勤めって言ったら王族をこらしめてこいってことよ?」
「……初耳です」
王妃様、今は王族ですよね?なんでそんな笑顔でそんな怖いこと言ってるんですか?
「魔女はその昔、王族を罰することができる唯一の存在だったのよ? あんな馬鹿な王もアホな王子もぼっこぼこにしちゃって、いいわよぉ? あ、それともあいつら滅ぼしちゃう?」
笑顔が……笑顔が怖いよ――――!ガクブルなんですけどーーーー?!
その後、王様とユーリの話し合いの結論を伝えられた。
私がこのままオフィーリアの替え玉を続行するかわりに、1ヶ月以内に魔女の才能に目覚めることを条件にだされたのだ。そうすればオフィーリアの捜索はしないし、公爵家にもおとがめもなし。さらには時期を見てオフィーリアとユーリの婚約破棄手続きもしてくれると約束してくれた。
でも才能が開花しなければオフィーリアを探しだしユーリと(無理矢理)結婚。一緒に逃げた見習い騎士は罪にとわれることになると。さらにはユーリが私を買うために使ったお金を返せとまで言われた。
なんでそんなに私の魔女の才能にこだわるのか聞いたら
「だってお主が気に入らないんじゃもん」だそうだ。
いいのか?一国の王がこんなので本当に大丈夫なのか?「じゃもん」じゃねーよ!
さらにはユーリまでもが「君が失敗したらオフィーリアと結婚させられちゃうよ!お願い、頑張ってよぉぉぉぉぉ!!」とすがり付いてくる始末。
なんで私、ここまで馬鹿にされて我慢しているんだろう?とも思う。見たこともないオフィーリアのために?それともユーリとロゼットの恋のために?
王妃様の話が本当なら私がこんな想いをしてまで言うことを聞く必要はないし、もちろんお金を返す必要もない。でも……
このままここで引き下がるのは、なんか異常に悔しい!!絶対に魔女の才能を開花させて、あのアホ親子を土下座させてやるわ!!
***
その夜、城にある王様専用の寝室の隅っこで丸くなってガタガタ震える王様の姿があった。
「どうしよう、どうしよう……黒髪の魔女を怒らせてしまった。 わし詰んだ?滅ぼされる? ちがうんじゃよぉぉぉ!本心は違うんじゃよぉぉぉぉぉ!」
「大丈夫ですわよ、全部魔女の長老からの指示通りになさったではないですか」
「だって黒髪の魔女はそれ知らんのじゃろ?! あの子は1000年に1度現れる恐怖の黒髪の魔女なんじゃろ?!」
「恐怖になるかどうかはあの子次第……ふふふ、陛下ったらとても演技がお上手でしたわよ?」
「王妃が魔女の長老と知り合いだっただけでも驚きなのに、まさかユリウスが魔女を金で買ってきたなんて知った日にはわしの存在消されちゃう!」
「だから、長老は黒髪の魔女の才能を開花させる手伝いをすれば今回の件は不問するとおっしゃってますわ。
あの子に足りないのはやる気と闘志。 理不尽なことを無理矢理吹っ掛けられてキレてますもの、きっと大丈夫ですわよ」
そう、王様はわざとあんな態度をとりルルーシェラに喧嘩を吹っ掛けたのだ。すべては魔女の長老の計画通りなのである。
今まで「才能がない、だからしょうがない」と諦めて生きてきたルルーシェラだが、怒りで感情的になると立ち向かってくる性格であることを長老は百も承知していた。そして今回たまたま王子がやらかしたわけだが、逆にそれを利用してルルーシェラを刺激してみよう。と考えたのだ。
ちなみにルルーシェラを煽るように命じられた王様だが、断ったら魔女が総出で国を滅ぼしに行くぞと脅されている。ついでに王子がルルーシェラに手を出しても滅ぼされるらしい。
「そうだ、この件の真実はユーリには内緒ですわよ? あの子ったらすぐ顔と態度に出るから……。 それに今のままでも上手にルルーシェラちゃんを煽ってますし」
「それはわかっとるが……浮気のことはどうするんじゃ?」
「その男爵令嬢でしたらわたくしの方で調べますわ。 ふふふ」
王妃の笑顔を見て王様は心のなかで息子に向かって十字をきった。自身の妻であるこの王妃はオフィーリア嬢をとても気に入っていて仲も良かったのに、ユリウスはそのオフィーリア嬢を裏切って浮気した上に魔女まで怒らせたのだ。
そういえば以前「転生したからには、ヒロインと結ばれないと!」とかわけのわからないことを叫んでいたらしいが、もしかして王子として仕事させ過ぎて疲れがたまってたのかのぅ。悪いことをしたな、と謝罪しておく。(心の中だけで)
全部終わったら、引退して田舎に引っ込みたい。と真剣に考えると王様なのだった。
朝、部屋の扉を開けたら目の前に土下座している第一王子がいました。びっくりだよ。
公爵夫妻はどうしていいかわからずにオロオロしてるし、使用人の皆さんなんか顔を真っ青にしているではないか。おい、朝から人ん家に迷惑かけんな。
「だって……だって絶対怒るから! 今から僕がお願いすること聞いたら絶対怒るからぁぁぁぁぁ!!」
顔を上げたユーリは半泣きになりながら私の足にしがみつきとんでもないことを言い出したのである。
「父上に君のことがバレたから一緒に城にいってくれよぉぉぉぉぅぅ!!」
「父上って……王様?!」
あ、公爵夫人が失神した。
***
「魔女とは、魔力を持つ者だ。 魔力は体内をめぐり細胞を活性化して刺激を与え、普通の人間には成し得ない能力を発揮できると言われている。 それが許される人間が魔女という種族なのだ。
銀髪と緑目という特徴も美しい容姿も体内を巡る魔力の副作用と言われている。 だがお主は魔女でありながらなんの才能も発揮せず、容姿も平凡で黒髪黒目……」
私の顔をじっくりみてからブツブツとため息混じりに呟きだした王様。ちなみに今の私は本来の姿に戻り、黒髪黒目でノーメイクである。
なんと王様にはユーリの企みがすべてバレていた。オフィーリアが見習い騎士と駆け落ちしたことも、私がオフィーリアの替え玉になっていることも。もちろんユーリが男爵令嬢と恋仲(かどうかは怪しいが)であることもだ。
「さらにはユリウスは王子の身でありながら魔女の村から娘を金で買収……しかもワザワザ買収したのにこんな娘……」
悪かったな、こんな娘で。王様の大きな独り言のおかげでこの場にいる人間の間には不穏な空気が流れている。
「お待ちください、父上! 確かにルルーシェラは魔女としては落ちこぼれだし、見た目も平凡です! スタイルだって特別良いわけでもないし愛嬌も悪いし胸も小さいし胸も小さいし! 魔女だから金で買ったわけではなく、オフィーリアにそっくりだから買ったのであってぼくはルルーシェラに魔女の素質も美しさも求めてないんです!」
「だがこれだぞ?! いくらオフィーリア嬢に似てるからってなんの才能もないこんな平凡なできそこない魔女だぞ! しかもオフィーリア嬢より胸は小さいし色気も無いし胸も小さいし!」
「確かに胸は小さいですがオフィーリアにそっくりでしょう?! こんなそっくりな同い年の娘なんていないですよ! 胸は小さいけど!」
よし、この親子を殴り殺そ……ヤバイ、マジで殺意を覚えてしまった。
「ではどうしてもこの娘にオフィーリア嬢の替え玉を続行させたいと申すのだな? お前の本命はその男爵令嬢とやらなのに、なぜわざわざそんなことを……」
「オフィーリアがいないとロゼットは僕の恋人になってくれないし、ロゼットを未来の王妃に認めさせるためにもオフィーリアの存在が必要なんです!」
「ユリウスお前……自分が浮気しておいて婚約者に逃げられ、さらには他人を金で買って無理矢理その婚約者の身代わりをさせて危険な目にあわせているのに、公爵家まで巻き込んでまだやめない気なのか?! 王子として、否、男として最低だと思わないのか?!」
「最低だろうとなんだろうと、僕の運命の相手はロゼットなんだ! ロゼットと結ばれるためなら僕は手段を選ばない!」
「その出来損ない魔女を買った金で男爵家を買収すれば、令嬢のひとりやふたり愛人にできるんだぞ?!」
「父上、愛は金では買えないんです! 僕は恋愛結婚がしたいんです!」
不毛な言い争いはそれからしばらく続いた。どっちも最低だよ。
え?私?
さっさとあの場から抜け出して、城のテラスでお茶してますけど?……王妃様と一緒に。
「ごめんなさいね、あの馬鹿息子ったら馬鹿な父上の馬鹿な所しか似なかったみたいなの。
仕事はできるんだけど、それ以外は本当に救いようのない馬鹿なのよ。ほんと馬鹿でしょ?」
「……イエ、ソンナコト」
笑顔で毒を吐く王妃様。目が笑ってないよーっ!なんか怖いんですけどーっ!
「てっきりオフィーリアちゃんとうまくいってると思ってたのに、あんな男爵令嬢なんかに骨抜きにされるなんて情けない…本当に骨を抜いてやろうかしらホホホ。これぞほんとのふにゃふにゃね☆」
なんか怖いことボソッと言った――――!
「まったくあの馬鹿息子……魔女の存在は知っていても口に出してはいけない公然の秘密なのよ? それはたとえ王族でも同じ。 魔女を怒らせたら国が滅ぶと伝承にもあるのに、そんな魔女の村に許可なく立ち入ってまさか魔女を金で買ってくるなんて……魔女の長老から手紙がきたときはびっくりしたわ~」
「ばっちゃん……いえ、長老から手紙が?」
どうやら王様がすべて知っていたのはばっちゃんがお知らせしたからのようである。
「そうよ、不届きな王子が村にやって来てこともあろうに魔女をひとり金で買っていったと。 しかもその魔女がこともあろうに長老の秘蔵っ子だなんてあの子ったら命が惜しくないのかしら?」
ホホホと笑いながら「ね?」と首を傾げる王妃様。
「ひ、秘蔵? いえ、それはなにかの間違いです! 私は落ちこぼれなんで……。 さっき王様がおっしゃった通りなんの才能も無いんです」
「あぁ、あの人が言ったことは気にしなくていいの。 あの人ったら国王のくせに馬鹿だから魔女の恐ろしさを理解していないのよ。 いくら伝承が残っていてもまさか本当に魔女が国を滅ぼすなんて夢にも思っていない愚か者なの。
本来魔女は穏やかで争いを好まないし多少のことでは怒らないから、歴代の王も魔女の恐ろしさを忘れていってしまったのね……」
「お、王妃様は魔女の恐ろしさを知ってるんですか?」
「あら、もちろんよ。 だって――――わたくしは元魔女ですもの「えぇぇ?!」占いの才能を開花させ、王家の専属占い師として長年つかえてきたわ。 今の王がまだ王子の頃に占い師のわたくしを見初めて口説いてきたので占い師を引退し魔女をやめたの。
あ、ちなみに王はわたくしが元魔女だとは知らないわよ? ただの占い師だと思ってたみたい。 王子の頃からお馬鹿さんだったのよ、ホホホ。 実はわたくしの方がかなり年上なのだけど、いまだに自分より年下だと信じてるのみたいね」
王妃様は魔女をやめてからもばっちゃんとは交流があるらしく、アンチエイジングの薬も定期的に送ってもらってるそうだ。
「で、でも王妃様は金髪で瞳も青みがかっているのに」
「髪は染めればいいし、瞳の色を変える目薬の存在をあなたも知っているはずよ。 王家の専属になるためには魔女特有の見た目は変えておかないといけなかったからね。 ついでに言えば魔女の遺伝子は女児にしか受け継がれないの。 だからユリウスもわたくしが魔女だとは知らないのよ」
王妃様は「内緒よ?」と微笑みを浮かべながら紅茶をひと口啜る。
「ふふふ、それにしてもあなたもよく今までおとなしくユリウスの言うことを聞いていたわね? 魔女を馬鹿にするなってもっと怒ってもいいのよ?」
「そりゃ、馬鹿にされてるとは思いますけど……。 私が替え玉をやらないとオフィーリア様が処罰されるらしいとか聞いちゃったし、なにより長老がお金を受け取って私を売り渡したわけですからお金の分は働かないといけないかなと」
いまだに忘れられないよ?ばっちゃんが笑顔で私を送り出したこと。ちくしょう!
「あら? 長老からなにか言われなかったの?」
「え? なにかって……しっかりお勤めしてこい、としか」
王妃様は私の言葉を聞いてさらににーっこりと笑った。
「あら、ちゃんと指示されてるじゃない。 魔女が村を離れてするお勤めって言ったら王族をこらしめてこいってことよ?」
「……初耳です」
王妃様、今は王族ですよね?なんでそんな笑顔でそんな怖いこと言ってるんですか?
「魔女はその昔、王族を罰することができる唯一の存在だったのよ? あんな馬鹿な王もアホな王子もぼっこぼこにしちゃって、いいわよぉ? あ、それともあいつら滅ぼしちゃう?」
笑顔が……笑顔が怖いよ――――!ガクブルなんですけどーーーー?!
その後、王様とユーリの話し合いの結論を伝えられた。
私がこのままオフィーリアの替え玉を続行するかわりに、1ヶ月以内に魔女の才能に目覚めることを条件にだされたのだ。そうすればオフィーリアの捜索はしないし、公爵家にもおとがめもなし。さらには時期を見てオフィーリアとユーリの婚約破棄手続きもしてくれると約束してくれた。
でも才能が開花しなければオフィーリアを探しだしユーリと(無理矢理)結婚。一緒に逃げた見習い騎士は罪にとわれることになると。さらにはユーリが私を買うために使ったお金を返せとまで言われた。
なんでそんなに私の魔女の才能にこだわるのか聞いたら
「だってお主が気に入らないんじゃもん」だそうだ。
いいのか?一国の王がこんなので本当に大丈夫なのか?「じゃもん」じゃねーよ!
さらにはユーリまでもが「君が失敗したらオフィーリアと結婚させられちゃうよ!お願い、頑張ってよぉぉぉぉぉ!!」とすがり付いてくる始末。
なんで私、ここまで馬鹿にされて我慢しているんだろう?とも思う。見たこともないオフィーリアのために?それともユーリとロゼットの恋のために?
王妃様の話が本当なら私がこんな想いをしてまで言うことを聞く必要はないし、もちろんお金を返す必要もない。でも……
このままここで引き下がるのは、なんか異常に悔しい!!絶対に魔女の才能を開花させて、あのアホ親子を土下座させてやるわ!!
***
その夜、城にある王様専用の寝室の隅っこで丸くなってガタガタ震える王様の姿があった。
「どうしよう、どうしよう……黒髪の魔女を怒らせてしまった。 わし詰んだ?滅ぼされる? ちがうんじゃよぉぉぉ!本心は違うんじゃよぉぉぉぉぉ!」
「大丈夫ですわよ、全部魔女の長老からの指示通りになさったではないですか」
「だって黒髪の魔女はそれ知らんのじゃろ?! あの子は1000年に1度現れる恐怖の黒髪の魔女なんじゃろ?!」
「恐怖になるかどうかはあの子次第……ふふふ、陛下ったらとても演技がお上手でしたわよ?」
「王妃が魔女の長老と知り合いだっただけでも驚きなのに、まさかユリウスが魔女を金で買ってきたなんて知った日にはわしの存在消されちゃう!」
「だから、長老は黒髪の魔女の才能を開花させる手伝いをすれば今回の件は不問するとおっしゃってますわ。
あの子に足りないのはやる気と闘志。 理不尽なことを無理矢理吹っ掛けられてキレてますもの、きっと大丈夫ですわよ」
そう、王様はわざとあんな態度をとりルルーシェラに喧嘩を吹っ掛けたのだ。すべては魔女の長老の計画通りなのである。
今まで「才能がない、だからしょうがない」と諦めて生きてきたルルーシェラだが、怒りで感情的になると立ち向かってくる性格であることを長老は百も承知していた。そして今回たまたま王子がやらかしたわけだが、逆にそれを利用してルルーシェラを刺激してみよう。と考えたのだ。
ちなみにルルーシェラを煽るように命じられた王様だが、断ったら魔女が総出で国を滅ぼしに行くぞと脅されている。ついでに王子がルルーシェラに手を出しても滅ぼされるらしい。
「そうだ、この件の真実はユーリには内緒ですわよ? あの子ったらすぐ顔と態度に出るから……。 それに今のままでも上手にルルーシェラちゃんを煽ってますし」
「それはわかっとるが……浮気のことはどうするんじゃ?」
「その男爵令嬢でしたらわたくしの方で調べますわ。 ふふふ」
王妃の笑顔を見て王様は心のなかで息子に向かって十字をきった。自身の妻であるこの王妃はオフィーリア嬢をとても気に入っていて仲も良かったのに、ユリウスはそのオフィーリア嬢を裏切って浮気した上に魔女まで怒らせたのだ。
そういえば以前「転生したからには、ヒロインと結ばれないと!」とかわけのわからないことを叫んでいたらしいが、もしかして王子として仕事させ過ぎて疲れがたまってたのかのぅ。悪いことをしたな、と謝罪しておく。(心の中だけで)
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