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落ちこぼれ魔女と攻略対象者②
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うーん、困った……。
そう、私は今、非常に困っている。
どう困っているかというと、身動きがとれず公爵家に連絡をすることもできず、さらにはこれから酷い目に合わされるらしいからだ。
結局今日は学園でユーリを見かけることはなく、どうやら欠席したらしい。帰宅時はいつもならユーリと待ち合わせしてから一緒に馬車に乗り込むのだが、今日はひとりだった。
ひとりだったからかもしれないが、私はずっと考え事をしていた。もちろん男爵令嬢とあの男子生徒のことだ。
男爵令嬢とユーリを恋人にするという目的は、今のままでは失敗するか、それとも逆ハーレムとやらのメンバーにユーリが加わるだけに終わる。という未来が浮かび上がってしまい、頭を悩ませていた。
そんなことを考えながら、ひとりで馬車のある学園の門の外へ向かっている時……
背後から襲われ、さらわれてしまったのだ。
まさか薬の染み込んだハンカチで口をふさいで眠らされる。なんてベタな誘拐をされるはめになるとは思いもしなかった。拐われてからどのくらいの時間が過ぎたのか不明だが、少しカビ臭い部屋に眉をしかめる。こんな簡単に誘拐されるなんて、魔女としてかなり情けない案件だ。
ご丁寧に目隠しに猿轡までしてあるし、手足もきつく縛られていた。たぶんどこかの倉庫かなにかに押し込められていると思われる。私を拐った犯人(たぶんチンピラ・男)が「後でいいことしてやるからおとなしくしてな」と言い放ち扉を閉めた音がした後、薄暗くなったと感じたからだ。
まぁ、困ってる問題は実はそれではない。なんというか……
これ、公爵令嬢としては逃げない方がいいの?それとも逃げてもいいの?
はっきり言って逃げようと思えばいつでも逃げられるのだが、やはりこの場合はあのチンピラに私を拐わせた真犯人がわかるまでおとなしくしていた方がいいのだろうか?と考えてしまい行動できないでいる。
しかし長時間放置されっぱなしだし、はっきり言ってお腹もすいてきた。私の存在が邪魔で排除したいならばさっさと行動してほしいものだ。
どうしたものかと頭を悩ませていると、部屋の外から物音が聞こえてきた。
ドガッ!「なんだこいつ?!」バキッ!「ぐぇっ!」ガシャーン!!バンッ!
「……なんでぇぇぇ?! なんで君がさらわれてんのぉぉぉ?!」
あ、扉が開いた。と思ったら聞き覚えのある叫び声が部屋に響いた。
「ユーリ?」
「いつどこでロゼットと入れ替わったのぉぉぉぉぉ?!」
やっと目隠しされてた布が外れると、ユーリが床に手と膝をついて泣いていた。しらんがな。
「最初から私が誘拐されてましたよ。 それよりなんでユーリがここにいるんです?」
手足の縄をパラッと外し、軽く肩を動かした。さすがにずっと同じ体勢でいると肩が凝ってしょうがない。
「だってこれヒロインが誘拐されてピンチのところを好感度の一番高い対象者が助けにくるイベントなんだよ?!王子が助けにきたら王子攻略確定になるかなり重要な攻略イベントなんだよ?! だから僕、朝からこの辺をずっと見張って怪しい連中くるの待ってたんだから! ロゼットのピンチを救うのは僕なんだよぉぉぉぅ!! って、なんで自由になってるの?! さっきまで縛られてなかった?!」
なるほど、だから今日は学園休んでたのね。
「縄抜けは得意なんです。 で、犯人は捕まえました?」
「えっ……あ!」
はっ!とした顔になって慌てて部屋の外を覗くユーリ。どうやら犯人を倒したものの縛ったりはしていなかったらしい。
「に、逃げちゃった。 てへっ」
薄暗かったので犯人の顔もろくに見ておらず、捕まっているはずの男爵令嬢目掛けて猪突猛進したようだ。……よし、帰ろ。
「帰りますよ、ユーリ」
「お、怒ってる? ねぇ、怒ってるのぉぉぉ?!」
ちょっとため息ついただけでまた泣きわめくユーリ。まったく、王子がこんなにメンタル弱くて大丈夫なのかしら?
***
無事に公爵家に帰宅して遅くなった理由は適当に誤魔化すことにした。公爵夫人をむやみに心配させたくなかったからだ。
今は私にあてがわれた部屋でユーリとふたりで向かい合っている。
「……ユーリ、ひとつ確認しておきたいんですけど」
「ふへ?」
「ここがユーリのほざ……言うゲームの世界だと仮定して「今、ほざくって言った?!」うるさい、黙れ。「は、はいぃぃぃぃぃ!」こほん、それでゲームの世界だとして気になることがあるんです」
「な、なに?」
「ヒロイン……つまりゲームをおこなっているのは男爵令嬢で、ユーリは攻略される側なんですよね?」
「うん、ヒロインは攻略対象者の中から恋人にしたいキャラを選んで自分を好きになってもらうために好感度をあげるイベントをこなすんだ! つまり僕だよ!」
「ユーリの好感度を上げる。 男爵令嬢を好きになってもらうためにイベントをこなし悪役令嬢のいじめにも耐えてユーリと愛を育む……「そうだよ!」でも」
「?」
「ユーリはすでに男爵令嬢への好感度MAXなんじゃないんですか?」
「……!」
そう、いくら上っ面だけ婚約者と仲良さげにしていても普段のユーリの態度を見れば男爵令嬢にメロメロなのは誰が見てもわかりきっている。たぶん男爵令嬢自身もユーリが自分に骨抜きにされてるとわかってるはずだ。だから、他の男の攻略に手を出してきたんじゃないか?というのが私の意見だ。
「もうユーリのことは攻略済みだから、他の対象者とやらの攻略を始めた……。 そう考えるとあの男子生徒と男爵令嬢のやりとりも納得できます」
「ま、まさか……」
「だって今回の誘拐がユーリを攻略するためのイベントだと言うのなら、ユーリがすでに攻略済みならイベントする必要無いんじゃないですか?」
私がそこまで言い終わるとユーリはなんとも言えない複雑な顔をした。イケメンが台無しだ。
「……僕、帰る」
まるで幽霊みたいにフラフラ歩きながら帰っていくユーリの後ろ姿に多少心配になったがどう声をかけていいかわからなかった。
だって本当にゲームの世界だと言うのなら、あの男爵令嬢が攻略の終わったキャラにいつまでも固執してるようには思えなかったからだ。
「寝込まなきゃいいけど……」
しかしこのままでは非常にまずい。ユーリが男爵令嬢と結ばれてくれなきゃいずれオフィーリアのことがバレてしまうだろう。もしそうなれば幼なじみと駆け落ちしたオフィーリアに危険が及ぶ可能性がでてくるし、そしてなによりユーリとの約束か果たせないと私も解放してもらえないじゃないか!
「……むぅ」
まだ誘拐犯の正体もわかってないし、私が誘拐された理由もわからない。本来なら男爵令嬢が誘拐されるはずだったのに公爵令嬢であるオフィーリアが誘拐された理由……。
私が頭を悩ませていると扉が慌ただしくノックされ公爵夫人が顔を出した。
「た、大変よ! オフィーリアに会いたいって言って男の子がきたわ……!」
「え? オフィーリアに?」
玄関先に行くと確かに見覚えのある男子生徒が立っていた。そう、あの男子生徒だ。
短髪で紺色の髪の目付きの悪い男子生徒……確か伯爵家の子息で、エリック・アルターとか言ったかしら?
「オフィーリア嬢!」
私に気付いたエリックが声を上げる。もしかしなくてもまた男爵令嬢のことで文句を言いにきたのだろうか?それにしたって公爵家の屋敷にまでくるなんて……
「ちょっとあな「俺と結婚してくれ――――!」はぁ?!」
私の姿を確認したとたん、すごい勢いで近づいてきて私の手を握りだした。
「俺は気付いたんだ! あの時の俺を見下す冷たく美しい瞳! 手を振り払う流れるような仕草! あれこそ俺が求める女神なのだと! そして君も俺を愛しているのだと!」
…………はぁ?
言っている意味がわからずエリックを見ると、頬を赤くしてなぜか照れだした。
「確かに俺は伯爵家で君は公爵家……身分差もあるし君は王子の婚約者。 君が俺を諦めようとしてロゼットに冷たく接していたんだとわかったら、いてもたってもいられなくなったんだ。 でも安心してくれ、ロゼットは恋人とかではなくて単なる友達で妹みたいな存在であって決して君が思ってるような関係じゃないから!」
はぁぁぁぁぁぁぁぁ?!
「ちょっと待って……とにかく手をはなして!」
「もう隠さなくていいんだ! まさに俺たちはロミオとジュリエット……でも俺たちの愛を引き裂くことはできなぶへっ?!」
「あ」
奇声をあげて白目をむいたエリックがずるずると足元に崩れ落ちると、その背後にはめちゃくちゃふてくされた顔をしたユーリが立っていた。どうやら後ろからエリックの首に手刀をくらわせたらしい。
「ユーリ、帰ったんじゃ?」
「……なんでこいつがここにいるの?」
「知りませんよ、突然やってきたんですから……」
やっとエリックの手が離れて捕まれたところを見るとうっすらと手形がついている。どれだけ力いっぱい掴んできたんだか。
「――――エリック・アルターは思い込みの激しい性格だったはずだから、なにか勘違いでもしたんじゃない?」
思い込みが激しいねぇ。あの時のやり取りにそんな思い込まれるようなことがあったかしら?
「なんにせよ、この男は僕が預かるよ。 いいよね?」
「それはいいですけど……どうするんです?」
ユーリは気絶してるエリックの襟首を掴むと今まで見たことのないような笑顔を見せた。
「そりゃあもちろん、お仕置きしないとね? なんてったってこの国の王子の婚約者に手を出そうとしたんだからさ」
「へ?」
あぁ、まぁ確かに王子の婚約者に伯爵子息が横恋慕してる形になるわけだし外聞は悪いわよね。まだユーリの新しい婚約者も決まってないからオフィーリアと婚約破棄するわけにもいかないし、変な噂が立つのも困るもの。
でもエリックがオフィーリアを好きになればユーリのライバルが減るんだし、そのぶん男爵令嬢の恋人になれる確率があがるはず……なんでお仕置きするのかしら?
そんな私の視線に気付いたのか、怖いくらいにっこりしてた笑顔がまたぶすっとふてくされた顔に戻った。
「……君にはロゼットと恋人になるために協力してくれとは言ったけど、そのために他の男の相手をさせる気はないんだよ。
いいかい? なにがなんでもロゼットを僕に振り向かせるから、新しい作戦考えといてよね」
「は、はい」
「うん、よろしく」
そう言ってエリックをずるずると引きずりながらユーリは帰っていったのだった。
このあと、伯爵家の馬鹿息子が公爵家に乗り込んで令嬢に無礼を働いたということで公爵家からも苦情を申し立ててエリックはしばらく謹慎処分となったらしい。
ちなみにユーリがあの後どんなお仕置きをしたのかは教えてもらえなかった。
そう、私は今、非常に困っている。
どう困っているかというと、身動きがとれず公爵家に連絡をすることもできず、さらにはこれから酷い目に合わされるらしいからだ。
結局今日は学園でユーリを見かけることはなく、どうやら欠席したらしい。帰宅時はいつもならユーリと待ち合わせしてから一緒に馬車に乗り込むのだが、今日はひとりだった。
ひとりだったからかもしれないが、私はずっと考え事をしていた。もちろん男爵令嬢とあの男子生徒のことだ。
男爵令嬢とユーリを恋人にするという目的は、今のままでは失敗するか、それとも逆ハーレムとやらのメンバーにユーリが加わるだけに終わる。という未来が浮かび上がってしまい、頭を悩ませていた。
そんなことを考えながら、ひとりで馬車のある学園の門の外へ向かっている時……
背後から襲われ、さらわれてしまったのだ。
まさか薬の染み込んだハンカチで口をふさいで眠らされる。なんてベタな誘拐をされるはめになるとは思いもしなかった。拐われてからどのくらいの時間が過ぎたのか不明だが、少しカビ臭い部屋に眉をしかめる。こんな簡単に誘拐されるなんて、魔女としてかなり情けない案件だ。
ご丁寧に目隠しに猿轡までしてあるし、手足もきつく縛られていた。たぶんどこかの倉庫かなにかに押し込められていると思われる。私を拐った犯人(たぶんチンピラ・男)が「後でいいことしてやるからおとなしくしてな」と言い放ち扉を閉めた音がした後、薄暗くなったと感じたからだ。
まぁ、困ってる問題は実はそれではない。なんというか……
これ、公爵令嬢としては逃げない方がいいの?それとも逃げてもいいの?
はっきり言って逃げようと思えばいつでも逃げられるのだが、やはりこの場合はあのチンピラに私を拐わせた真犯人がわかるまでおとなしくしていた方がいいのだろうか?と考えてしまい行動できないでいる。
しかし長時間放置されっぱなしだし、はっきり言ってお腹もすいてきた。私の存在が邪魔で排除したいならばさっさと行動してほしいものだ。
どうしたものかと頭を悩ませていると、部屋の外から物音が聞こえてきた。
ドガッ!「なんだこいつ?!」バキッ!「ぐぇっ!」ガシャーン!!バンッ!
「……なんでぇぇぇ?! なんで君がさらわれてんのぉぉぉ?!」
あ、扉が開いた。と思ったら聞き覚えのある叫び声が部屋に響いた。
「ユーリ?」
「いつどこでロゼットと入れ替わったのぉぉぉぉぉ?!」
やっと目隠しされてた布が外れると、ユーリが床に手と膝をついて泣いていた。しらんがな。
「最初から私が誘拐されてましたよ。 それよりなんでユーリがここにいるんです?」
手足の縄をパラッと外し、軽く肩を動かした。さすがにずっと同じ体勢でいると肩が凝ってしょうがない。
「だってこれヒロインが誘拐されてピンチのところを好感度の一番高い対象者が助けにくるイベントなんだよ?!王子が助けにきたら王子攻略確定になるかなり重要な攻略イベントなんだよ?! だから僕、朝からこの辺をずっと見張って怪しい連中くるの待ってたんだから! ロゼットのピンチを救うのは僕なんだよぉぉぉぅ!! って、なんで自由になってるの?! さっきまで縛られてなかった?!」
なるほど、だから今日は学園休んでたのね。
「縄抜けは得意なんです。 で、犯人は捕まえました?」
「えっ……あ!」
はっ!とした顔になって慌てて部屋の外を覗くユーリ。どうやら犯人を倒したものの縛ったりはしていなかったらしい。
「に、逃げちゃった。 てへっ」
薄暗かったので犯人の顔もろくに見ておらず、捕まっているはずの男爵令嬢目掛けて猪突猛進したようだ。……よし、帰ろ。
「帰りますよ、ユーリ」
「お、怒ってる? ねぇ、怒ってるのぉぉぉ?!」
ちょっとため息ついただけでまた泣きわめくユーリ。まったく、王子がこんなにメンタル弱くて大丈夫なのかしら?
***
無事に公爵家に帰宅して遅くなった理由は適当に誤魔化すことにした。公爵夫人をむやみに心配させたくなかったからだ。
今は私にあてがわれた部屋でユーリとふたりで向かい合っている。
「……ユーリ、ひとつ確認しておきたいんですけど」
「ふへ?」
「ここがユーリのほざ……言うゲームの世界だと仮定して「今、ほざくって言った?!」うるさい、黙れ。「は、はいぃぃぃぃぃ!」こほん、それでゲームの世界だとして気になることがあるんです」
「な、なに?」
「ヒロイン……つまりゲームをおこなっているのは男爵令嬢で、ユーリは攻略される側なんですよね?」
「うん、ヒロインは攻略対象者の中から恋人にしたいキャラを選んで自分を好きになってもらうために好感度をあげるイベントをこなすんだ! つまり僕だよ!」
「ユーリの好感度を上げる。 男爵令嬢を好きになってもらうためにイベントをこなし悪役令嬢のいじめにも耐えてユーリと愛を育む……「そうだよ!」でも」
「?」
「ユーリはすでに男爵令嬢への好感度MAXなんじゃないんですか?」
「……!」
そう、いくら上っ面だけ婚約者と仲良さげにしていても普段のユーリの態度を見れば男爵令嬢にメロメロなのは誰が見てもわかりきっている。たぶん男爵令嬢自身もユーリが自分に骨抜きにされてるとわかってるはずだ。だから、他の男の攻略に手を出してきたんじゃないか?というのが私の意見だ。
「もうユーリのことは攻略済みだから、他の対象者とやらの攻略を始めた……。 そう考えるとあの男子生徒と男爵令嬢のやりとりも納得できます」
「ま、まさか……」
「だって今回の誘拐がユーリを攻略するためのイベントだと言うのなら、ユーリがすでに攻略済みならイベントする必要無いんじゃないですか?」
私がそこまで言い終わるとユーリはなんとも言えない複雑な顔をした。イケメンが台無しだ。
「……僕、帰る」
まるで幽霊みたいにフラフラ歩きながら帰っていくユーリの後ろ姿に多少心配になったがどう声をかけていいかわからなかった。
だって本当にゲームの世界だと言うのなら、あの男爵令嬢が攻略の終わったキャラにいつまでも固執してるようには思えなかったからだ。
「寝込まなきゃいいけど……」
しかしこのままでは非常にまずい。ユーリが男爵令嬢と結ばれてくれなきゃいずれオフィーリアのことがバレてしまうだろう。もしそうなれば幼なじみと駆け落ちしたオフィーリアに危険が及ぶ可能性がでてくるし、そしてなによりユーリとの約束か果たせないと私も解放してもらえないじゃないか!
「……むぅ」
まだ誘拐犯の正体もわかってないし、私が誘拐された理由もわからない。本来なら男爵令嬢が誘拐されるはずだったのに公爵令嬢であるオフィーリアが誘拐された理由……。
私が頭を悩ませていると扉が慌ただしくノックされ公爵夫人が顔を出した。
「た、大変よ! オフィーリアに会いたいって言って男の子がきたわ……!」
「え? オフィーリアに?」
玄関先に行くと確かに見覚えのある男子生徒が立っていた。そう、あの男子生徒だ。
短髪で紺色の髪の目付きの悪い男子生徒……確か伯爵家の子息で、エリック・アルターとか言ったかしら?
「オフィーリア嬢!」
私に気付いたエリックが声を上げる。もしかしなくてもまた男爵令嬢のことで文句を言いにきたのだろうか?それにしたって公爵家の屋敷にまでくるなんて……
「ちょっとあな「俺と結婚してくれ――――!」はぁ?!」
私の姿を確認したとたん、すごい勢いで近づいてきて私の手を握りだした。
「俺は気付いたんだ! あの時の俺を見下す冷たく美しい瞳! 手を振り払う流れるような仕草! あれこそ俺が求める女神なのだと! そして君も俺を愛しているのだと!」
…………はぁ?
言っている意味がわからずエリックを見ると、頬を赤くしてなぜか照れだした。
「確かに俺は伯爵家で君は公爵家……身分差もあるし君は王子の婚約者。 君が俺を諦めようとしてロゼットに冷たく接していたんだとわかったら、いてもたってもいられなくなったんだ。 でも安心してくれ、ロゼットは恋人とかではなくて単なる友達で妹みたいな存在であって決して君が思ってるような関係じゃないから!」
はぁぁぁぁぁぁぁぁ?!
「ちょっと待って……とにかく手をはなして!」
「もう隠さなくていいんだ! まさに俺たちはロミオとジュリエット……でも俺たちの愛を引き裂くことはできなぶへっ?!」
「あ」
奇声をあげて白目をむいたエリックがずるずると足元に崩れ落ちると、その背後にはめちゃくちゃふてくされた顔をしたユーリが立っていた。どうやら後ろからエリックの首に手刀をくらわせたらしい。
「ユーリ、帰ったんじゃ?」
「……なんでこいつがここにいるの?」
「知りませんよ、突然やってきたんですから……」
やっとエリックの手が離れて捕まれたところを見るとうっすらと手形がついている。どれだけ力いっぱい掴んできたんだか。
「――――エリック・アルターは思い込みの激しい性格だったはずだから、なにか勘違いでもしたんじゃない?」
思い込みが激しいねぇ。あの時のやり取りにそんな思い込まれるようなことがあったかしら?
「なんにせよ、この男は僕が預かるよ。 いいよね?」
「それはいいですけど……どうするんです?」
ユーリは気絶してるエリックの襟首を掴むと今まで見たことのないような笑顔を見せた。
「そりゃあもちろん、お仕置きしないとね? なんてったってこの国の王子の婚約者に手を出そうとしたんだからさ」
「へ?」
あぁ、まぁ確かに王子の婚約者に伯爵子息が横恋慕してる形になるわけだし外聞は悪いわよね。まだユーリの新しい婚約者も決まってないからオフィーリアと婚約破棄するわけにもいかないし、変な噂が立つのも困るもの。
でもエリックがオフィーリアを好きになればユーリのライバルが減るんだし、そのぶん男爵令嬢の恋人になれる確率があがるはず……なんでお仕置きするのかしら?
そんな私の視線に気付いたのか、怖いくらいにっこりしてた笑顔がまたぶすっとふてくされた顔に戻った。
「……君にはロゼットと恋人になるために協力してくれとは言ったけど、そのために他の男の相手をさせる気はないんだよ。
いいかい? なにがなんでもロゼットを僕に振り向かせるから、新しい作戦考えといてよね」
「は、はい」
「うん、よろしく」
そう言ってエリックをずるずると引きずりながらユーリは帰っていったのだった。
このあと、伯爵家の馬鹿息子が公爵家に乗り込んで令嬢に無礼を働いたということで公爵家からも苦情を申し立ててエリックはしばらく謹慎処分となったらしい。
ちなみにユーリがあの後どんなお仕置きをしたのかは教えてもらえなかった。
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