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落ちこぼれ魔女と男爵令嬢
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オフィーリア公爵令嬢の替え玉になる決意をしてから1週間。私はまだ学園には行かず屋敷に籠っている。
理由としては、オフィーリアの替え玉は用意出来たが、一緒に駆け落ちした騎士は用意出来なかったからだ。つまり、オフィーリアの幼なじみの騎士(見習い)がひとりで失踪した。と言うことになっている。
なんでもその幼なじみはあまり裕福な家庭ではない庶民の出身だったが、オフィーリアの父親にその才能を見初められオフィーリアの護衛騎士として育てるために引き取ったのだとか。だからその騎士の親は失踪したことに苦情さえ言わなければ何も言ってこないらしい。……そんな説明をされたが多少言葉を濁していたので、たぶん金で買った子供だったのだろうと察した。
あの王子が戸惑いなく人身売買してたところ(私を金で買ったこと)を見るに、この国では暗黙の了解的な感じで貧困層から金で子供を買うことが日常的にあるのだろう。
人としてどうなのか。という感情はもちろんあるが、その子供が虐げられていたこともなくちゃんと騎士になるために教育されて育てられていたことがせめてもの救いである。オフィーリアとその騎士はとても仲が良かったので、突然失踪した幼なじみの身を案じて臥せっている。ということにしてあるらしい。
もちろん、その間にオフィーリアになりきるために勉強しているのだが……。
最低限の教養。最低限のテーブルマナー。最低限のダンスレッスン。……エトセトラ。
世の中の貴族の令嬢って、みんなこんなことやってるの?!こんなコルセットでぎゅうぎゅうに締め付けられてよくまともに動けるわね……。
毎日朝から晩まで休む暇もないくらい特訓されてもうヘトヘトだ。しかしこんなことで弱音を吐くことは出来ない。やると言った以上、意地でもやってやろうじゃないか!
これでも魔女のはしくれ……なにかに没頭したらとことん追究するのが魔女の本質ってやつなのよ!
そんなわけで、私はとうとう公爵令嬢として学園へ乗り込むことになったのだが……。
「女の尻を追いかけ回す色ボケアホ王子様。 じゃなかった、ユリウス殿下」
「もうちょっとオブラートに包むとか、遠回しにディスれよぉぉぉ?! 直球ストレートに悪口を本人に言うなよぉぉぉぉ!」
おや、一応精神的ダメージを受けてるらしい。てっきり開き直ると思ってたから意外だ。
「悪口じゃなくって真実だったからつい……。 そんなことより、ちゃんと言った通りにお願いしますよ」
「わかってるよ、わかってるけど……ぼくって繊細なのに」
「浮気する男を繊細とは認めません」
「だから、浮気じゃなくてそれがゲームのストーリーなの! 僕は真実の愛によってロゼットと結ばれる運命なんだってば!」
「黙れ、尻軽ノータリン王子」
「さらに酷くなった?! なんなのその顔!! なんでそんなゴミ屑見るような目で僕を見てるの?!」
ちなみにここでの悪ぐ……ゲフンゲフン。言い合いは無礼講だ。
だって私はこのアホ王子の唯一の協力者。まぁ、転生だのゲームだのはひとまずおいとくことにする。金持ち王族の道楽だろうし、突っ込むだけ時間のムダだ。
「そんなことより「そんなこと?! 僕をゴミ屑みたいに見るのが?! 僕、王子なのに!?」どちらかというと生ゴミです。 それより、そろそろ行きますよ?」
「生ゴミ……酷い。 というか僕のことはユーリって呼んでよ、オフィーリアもそう呼んでたから」
「わかりました。 ではユーリ殿下、参りましょう」
私はにっこりと公爵令嬢らしい笑顔をアホ王子ことユーリに向ける。もう、こんな奴なんか呼び捨てでじゅうぶんだ。
こうして私は、オフィーリア公爵令嬢として学園での生活がはじまったのだった……。
***
私は今、ユーリと一緒に学園を歩き回っている。教室の場所なんかを教えてもらうためでもあるが、ユーリとオフィーリアが仲睦まじい姿を周りにアピールするのが真の目的だ。
「こんなにぐるぐる学園内を歩き回ってたら不自然じゃないのか?」
にこやかに微笑みを浮かべながらユーリが小声で聞いてくる。
「いいんですよ、わざと見せびらかしているんですから。 これでユーリ殿下のお好きな男爵令嬢にもライバル復活の情報が耳なり目なりに入るでしょ」
「なるほどね~。 それにしてもほんとに仕草とかもオフィーリアにそっくりだ。 たった1週間でよくここまで仕上がったものだな」
「まぁ、それは私の努力の結果ということで」
努力したともよ!血反吐きそうだったよ!しかしそんなことを顔には出さない。それが令嬢のマナーだと公爵夫人にも教えられた。夫人にもこの短期間ですごいって誉められたんだから!
さすがに高度なテクニックとやらになるとまだ出来ないが、学園での生活くらいなら大丈夫レベルにはなった。
オフィーリアはそんなに積極的に行動する方では無かったらしいし、せいぜい男爵令嬢に小言を言うくらいだったそうだからなんとかなるだろう。
「あ、ロゼットだ!」
ユーリの声が1オクターブ高くなる。そんなに嬉しいのか。その声に反応して遠巻きに私たちを見ていた生徒たちがざわめいた。そしてユーリの視線の先にいたのはひとりの少女。
「ユリウス殿下……と、オフィーリア様。 どうなさったんですか?」
こちらを見てにっこりと笑うその少女の姿に私は我が目を疑った。
「ロゼット! やっとオフィーリアが学園に出てきたからね、ちょっとエスコートをしているんだ」
「まぁ、ユリウス殿下はお優しいですね! 2週間以上ズル休みなさってたオフィーリア様をわざわざエスコートしてあげるなんて!」
「そうなんだ、僕って優しいんだよ!」
デレデレ顔のユーリは気づいてないのか男爵令嬢に誉められたと喜んでいるが、めっちゃくちゃ私に嫌味言ってますけど?!ちょっとはフォローしろよ!このアホ王子!
そして、この男爵令嬢……
髪の毛がピンク!こんな髪色の人間初めてみた。そしてそのピンクをツインテールに結んで、さらにクルクルドリルヘアにしてピンクのリボンでかざりつけられているのだ。
確かに顔は可愛いと思う。なんていうの?庇護欲を誘うって感じ?
しかし、たれ目の大きな瞳もピンクだし、ぽってり分厚い唇もピンクだし、爪のネイルもピンクだし……とにかくピンク!目がチカチカする!なんか派手だな!
しかもユーリの話ではオフィーリアが学園に来なくなってから(幼なじみの失踪にショックを受けて臥せったことにして休み届けをだしてから)急にユーリに冷たい態度をとるようになったって言ってたのに、今はどうだろう。ユーリの腕に抱きついてどう見ても胸を押し付けてるし、上目遣いで甘い声を出しユーリの名を呼んでいる。
これ、両想いなんじゃない?私が色々しなくてもすぐくっつくかも。なーんだ、これなら私もすぐにお役御免に……
「ねぇ、オフィーリア様?」
「え、は? な、なにかしら?」
びっくりした。ちょっと考え事をしてただけなのに、いつの間にか男爵令嬢の顔が真ん前にまで迫ってきていた。このどピンクの瞳、心臓に悪いわ。
「ちょっとだけふたりでお話しましょう? ユリウス殿下、オフィーリア様をお借りしてもいいですか?」
「いいよ~」
おい!鼻の下を伸ばしながら私を簡単に貸すな!
「ちょっと待ってちょうだい、私は……」
「――――彼はどうしたの?」
耳元でボソッと男爵令嬢が呟く。
彼?もちろんユーリの事じゃないだろうと勘が働き、私はおとなしく男爵令嬢に従うことにした。
中庭に移動し、人気が無いのを確認する。ほとんどの生徒はユーリの所へ群がっているようだ。
「……それで、お話とは何かしら?」
私は出来るだけ声のトーンを抑えて男爵令嬢と向き合った。いくら最低限の令嬢マナーを習得してるとはいえ、おしとやかにするのを意識していないとボロがでてしまうかもしれない。
すると男爵令嬢は腰に手をあて、ふんと鼻息を荒くした。
「何じゃないわよ。 それはこっちのセリフ! 彼はどうしたのよ? 彼だけ失踪したってどういうこと?
彼は……あんたの幼なじみの騎士様をどこにやったのよ?!」
「……」
ピンクツインテールを揺らしてオフィーリアと駆け落ちした騎士の行方を聞かれるが、私は混乱中だ。
は?どういうこと?なんでこの男爵令嬢が騎士の事を?この子はユーリが好きなんでしょ?
「わかってるのよ! あんたが隠したんでしょ?! あたしが狙ってるのを知ってて、ほんとに意地の悪い女ね! これだから悪役令嬢は……!」
「!」
その言葉に私が反応したのに気づいたのか、男爵令嬢は慌てて手で口を塞ぐ。
「ねぇ、今なんて……」
「と、とにかく! 公爵令嬢だからって偉そうにしないでよね!
学園ではみんな平等だってユリウスも言ってたわ! つまりあんたとあたしは平等! あんたがあたしの逆ハーレム計画を邪魔する権利なんかないんだからね!」
そう言い捨てると男爵令嬢は私の返事も聞かずに足早に去っていった。
逆ハーレムって、女の人が男の人たちを侍らせることよね?昔読んだことのある物語にもそんな話がちょっとあったが、だいたいがスタイル抜群の妖艶な女性がハーレムを築いて最後は純真無垢な主人公に負けていた。読者的にはたくさんの愛を撒き散らす女より自分だけを見てくれる女の方が男性には受けが良さそうだがと思うのだが。
そしてユーリも知らないところでオフィーリアと男爵令嬢の別バトルがあったようにも感じる。これってもしかしたら、ただオフィーリアが嫉妬して男爵令嬢をいじめてたってわけでもなさそうね。
それに男爵令嬢が言った「悪役令嬢」と言う言葉。ユーリも言っていたが、悪役令嬢とはオフィーリアの事を示す言葉であり、ゲームとやらの重要人物らしい。
「うーん……」
ユーリの戯言だと信用していなかったが、輪廻転生や前世の記憶をもって生まれる存在を全否定しているわけではない。ただ、ゲームの世界だとか浮気したことを正当化しようとするからムカついていただけだし。
もしユーリの言う≪ゲームの世界≫と、ここがとても似てる世界でユーリが前世の記憶を持って生まれた存在なのだとしたら……。
どうらやユーリの要望通りに男爵令嬢とユーリを恋人同士にするのは、まだ時間がかかりそうである。
理由としては、オフィーリアの替え玉は用意出来たが、一緒に駆け落ちした騎士は用意出来なかったからだ。つまり、オフィーリアの幼なじみの騎士(見習い)がひとりで失踪した。と言うことになっている。
なんでもその幼なじみはあまり裕福な家庭ではない庶民の出身だったが、オフィーリアの父親にその才能を見初められオフィーリアの護衛騎士として育てるために引き取ったのだとか。だからその騎士の親は失踪したことに苦情さえ言わなければ何も言ってこないらしい。……そんな説明をされたが多少言葉を濁していたので、たぶん金で買った子供だったのだろうと察した。
あの王子が戸惑いなく人身売買してたところ(私を金で買ったこと)を見るに、この国では暗黙の了解的な感じで貧困層から金で子供を買うことが日常的にあるのだろう。
人としてどうなのか。という感情はもちろんあるが、その子供が虐げられていたこともなくちゃんと騎士になるために教育されて育てられていたことがせめてもの救いである。オフィーリアとその騎士はとても仲が良かったので、突然失踪した幼なじみの身を案じて臥せっている。ということにしてあるらしい。
もちろん、その間にオフィーリアになりきるために勉強しているのだが……。
最低限の教養。最低限のテーブルマナー。最低限のダンスレッスン。……エトセトラ。
世の中の貴族の令嬢って、みんなこんなことやってるの?!こんなコルセットでぎゅうぎゅうに締め付けられてよくまともに動けるわね……。
毎日朝から晩まで休む暇もないくらい特訓されてもうヘトヘトだ。しかしこんなことで弱音を吐くことは出来ない。やると言った以上、意地でもやってやろうじゃないか!
これでも魔女のはしくれ……なにかに没頭したらとことん追究するのが魔女の本質ってやつなのよ!
そんなわけで、私はとうとう公爵令嬢として学園へ乗り込むことになったのだが……。
「女の尻を追いかけ回す色ボケアホ王子様。 じゃなかった、ユリウス殿下」
「もうちょっとオブラートに包むとか、遠回しにディスれよぉぉぉ?! 直球ストレートに悪口を本人に言うなよぉぉぉぉ!」
おや、一応精神的ダメージを受けてるらしい。てっきり開き直ると思ってたから意外だ。
「悪口じゃなくって真実だったからつい……。 そんなことより、ちゃんと言った通りにお願いしますよ」
「わかってるよ、わかってるけど……ぼくって繊細なのに」
「浮気する男を繊細とは認めません」
「だから、浮気じゃなくてそれがゲームのストーリーなの! 僕は真実の愛によってロゼットと結ばれる運命なんだってば!」
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だって私はこのアホ王子の唯一の協力者。まぁ、転生だのゲームだのはひとまずおいとくことにする。金持ち王族の道楽だろうし、突っ込むだけ時間のムダだ。
「そんなことより「そんなこと?! 僕をゴミ屑みたいに見るのが?! 僕、王子なのに!?」どちらかというと生ゴミです。 それより、そろそろ行きますよ?」
「生ゴミ……酷い。 というか僕のことはユーリって呼んでよ、オフィーリアもそう呼んでたから」
「わかりました。 ではユーリ殿下、参りましょう」
私はにっこりと公爵令嬢らしい笑顔をアホ王子ことユーリに向ける。もう、こんな奴なんか呼び捨てでじゅうぶんだ。
こうして私は、オフィーリア公爵令嬢として学園での生活がはじまったのだった……。
***
私は今、ユーリと一緒に学園を歩き回っている。教室の場所なんかを教えてもらうためでもあるが、ユーリとオフィーリアが仲睦まじい姿を周りにアピールするのが真の目的だ。
「こんなにぐるぐる学園内を歩き回ってたら不自然じゃないのか?」
にこやかに微笑みを浮かべながらユーリが小声で聞いてくる。
「いいんですよ、わざと見せびらかしているんですから。 これでユーリ殿下のお好きな男爵令嬢にもライバル復活の情報が耳なり目なりに入るでしょ」
「なるほどね~。 それにしてもほんとに仕草とかもオフィーリアにそっくりだ。 たった1週間でよくここまで仕上がったものだな」
「まぁ、それは私の努力の結果ということで」
努力したともよ!血反吐きそうだったよ!しかしそんなことを顔には出さない。それが令嬢のマナーだと公爵夫人にも教えられた。夫人にもこの短期間ですごいって誉められたんだから!
さすがに高度なテクニックとやらになるとまだ出来ないが、学園での生活くらいなら大丈夫レベルにはなった。
オフィーリアはそんなに積極的に行動する方では無かったらしいし、せいぜい男爵令嬢に小言を言うくらいだったそうだからなんとかなるだろう。
「あ、ロゼットだ!」
ユーリの声が1オクターブ高くなる。そんなに嬉しいのか。その声に反応して遠巻きに私たちを見ていた生徒たちがざわめいた。そしてユーリの視線の先にいたのはひとりの少女。
「ユリウス殿下……と、オフィーリア様。 どうなさったんですか?」
こちらを見てにっこりと笑うその少女の姿に私は我が目を疑った。
「ロゼット! やっとオフィーリアが学園に出てきたからね、ちょっとエスコートをしているんだ」
「まぁ、ユリウス殿下はお優しいですね! 2週間以上ズル休みなさってたオフィーリア様をわざわざエスコートしてあげるなんて!」
「そうなんだ、僕って優しいんだよ!」
デレデレ顔のユーリは気づいてないのか男爵令嬢に誉められたと喜んでいるが、めっちゃくちゃ私に嫌味言ってますけど?!ちょっとはフォローしろよ!このアホ王子!
そして、この男爵令嬢……
髪の毛がピンク!こんな髪色の人間初めてみた。そしてそのピンクをツインテールに結んで、さらにクルクルドリルヘアにしてピンクのリボンでかざりつけられているのだ。
確かに顔は可愛いと思う。なんていうの?庇護欲を誘うって感じ?
しかし、たれ目の大きな瞳もピンクだし、ぽってり分厚い唇もピンクだし、爪のネイルもピンクだし……とにかくピンク!目がチカチカする!なんか派手だな!
しかもユーリの話ではオフィーリアが学園に来なくなってから(幼なじみの失踪にショックを受けて臥せったことにして休み届けをだしてから)急にユーリに冷たい態度をとるようになったって言ってたのに、今はどうだろう。ユーリの腕に抱きついてどう見ても胸を押し付けてるし、上目遣いで甘い声を出しユーリの名を呼んでいる。
これ、両想いなんじゃない?私が色々しなくてもすぐくっつくかも。なーんだ、これなら私もすぐにお役御免に……
「ねぇ、オフィーリア様?」
「え、は? な、なにかしら?」
びっくりした。ちょっと考え事をしてただけなのに、いつの間にか男爵令嬢の顔が真ん前にまで迫ってきていた。このどピンクの瞳、心臓に悪いわ。
「ちょっとだけふたりでお話しましょう? ユリウス殿下、オフィーリア様をお借りしてもいいですか?」
「いいよ~」
おい!鼻の下を伸ばしながら私を簡単に貸すな!
「ちょっと待ってちょうだい、私は……」
「――――彼はどうしたの?」
耳元でボソッと男爵令嬢が呟く。
彼?もちろんユーリの事じゃないだろうと勘が働き、私はおとなしく男爵令嬢に従うことにした。
中庭に移動し、人気が無いのを確認する。ほとんどの生徒はユーリの所へ群がっているようだ。
「……それで、お話とは何かしら?」
私は出来るだけ声のトーンを抑えて男爵令嬢と向き合った。いくら最低限の令嬢マナーを習得してるとはいえ、おしとやかにするのを意識していないとボロがでてしまうかもしれない。
すると男爵令嬢は腰に手をあて、ふんと鼻息を荒くした。
「何じゃないわよ。 それはこっちのセリフ! 彼はどうしたのよ? 彼だけ失踪したってどういうこと?
彼は……あんたの幼なじみの騎士様をどこにやったのよ?!」
「……」
ピンクツインテールを揺らしてオフィーリアと駆け落ちした騎士の行方を聞かれるが、私は混乱中だ。
は?どういうこと?なんでこの男爵令嬢が騎士の事を?この子はユーリが好きなんでしょ?
「わかってるのよ! あんたが隠したんでしょ?! あたしが狙ってるのを知ってて、ほんとに意地の悪い女ね! これだから悪役令嬢は……!」
「!」
その言葉に私が反応したのに気づいたのか、男爵令嬢は慌てて手で口を塞ぐ。
「ねぇ、今なんて……」
「と、とにかく! 公爵令嬢だからって偉そうにしないでよね!
学園ではみんな平等だってユリウスも言ってたわ! つまりあんたとあたしは平等! あんたがあたしの逆ハーレム計画を邪魔する権利なんかないんだからね!」
そう言い捨てると男爵令嬢は私の返事も聞かずに足早に去っていった。
逆ハーレムって、女の人が男の人たちを侍らせることよね?昔読んだことのある物語にもそんな話がちょっとあったが、だいたいがスタイル抜群の妖艶な女性がハーレムを築いて最後は純真無垢な主人公に負けていた。読者的にはたくさんの愛を撒き散らす女より自分だけを見てくれる女の方が男性には受けが良さそうだがと思うのだが。
そしてユーリも知らないところでオフィーリアと男爵令嬢の別バトルがあったようにも感じる。これってもしかしたら、ただオフィーリアが嫉妬して男爵令嬢をいじめてたってわけでもなさそうね。
それに男爵令嬢が言った「悪役令嬢」と言う言葉。ユーリも言っていたが、悪役令嬢とはオフィーリアの事を示す言葉であり、ゲームとやらの重要人物らしい。
「うーん……」
ユーリの戯言だと信用していなかったが、輪廻転生や前世の記憶をもって生まれる存在を全否定しているわけではない。ただ、ゲームの世界だとか浮気したことを正当化しようとするからムカついていただけだし。
もしユーリの言う≪ゲームの世界≫と、ここがとても似てる世界でユーリが前世の記憶を持って生まれた存在なのだとしたら……。
どうらやユーリの要望通りに男爵令嬢とユーリを恋人同士にするのは、まだ時間がかかりそうである。
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