落ちこぼれ魔女ですが、悪役令嬢の替え玉やってます

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落ちこぼれ魔女と公爵夫人

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「婚約者の替わりと言っても、別に君に僕と結婚しろとか言わないから安心してよ。君は僕の隣でにっこり笑ってるか、こっそりヒロイン……男爵令嬢をいじめてくれるだけでいいから!」

 あのあと下山し、麓に待たしておいたという馬車に乗り街へと向かっているのだが、この王子はふんぞりがえりながらよくわからないことを言い出した。

「なんで私が、知らない人をいじめなきゃいけないんですか」

「君はオフィーリアの替わりだって言ってるだろ?! 悪役令嬢がこつこつヒロインをいじめてこそ、ヒロインと王子の愛が深まるんだ! あ、でもケガとかはさせないでね?僕の愛しいロゼットの顔に傷がついたら大変だし!
 それに、僕とロゼットがちゃんと結ばれたらもちろん君は解放してあげるよ!」

 よし、まずはお前の顔を殴らせろ。

 このアホ王子が言うには、その逃げ出した婚約者……オフィーリア・カサンドラ公爵令嬢はこのまま男爵令嬢をいじめていたら将来的に王子と男爵令嬢が結ばれて自分が断罪される未来を知って幼なじみの騎士と駆け落ちしたのだとか。

 なにそれ、未来予知?まぁ確かに、このアホ王子を慕って近づく女を牽制してたら最終的に裏切られて捨てられるなんて未来が見えたのなら、自分のことを大切に想ってくれる幼なじみの騎士と身分を捨てて駆け落ちした方が幸せになりそうである。

「……それに――――、このままオフィーリアが戻らなければ怒った宰相あたりが追手を差し向けそうなんだ。 何も言わずにとんずらしたのは許せないけど、元婚約者が殺されるのは見たくない」

「……王子様」

 なんだ、ちょっとみなおし

「どうせなら、僕とロゼットが身も心も結ばれてからとんずらすればいいのに! タイミングが早すぎなんだよぉぉぉ! まだロゼットとキスもしてないのにちくしょぉ!」

 ……やっぱり色ボケ王子だわ。

「と、言うわけだから! いまから君には公爵令嬢になってもらいまーす! では公爵家にレッツゴー!」

「だから! 私みたいなのが公爵令嬢の身代わりなんてムリですってばぁ~! 公爵家に行ったって追い出されるに決まってますからね!」

 ダメだ、この王子は話が通じない。いくら公爵令嬢が駆け落ちしたからって魔女とはいえ(しかも落ちこぼれ)貴族でもなんでもない私がいきなり行って公爵令嬢の替え玉です。なんて言ったら追い出されるどころか牢屋に入れられちゃうんじゃなかろうか?!
 一応王子もいるんだしさすがに殺されたりはしないと思うけど、絶対酷い目に合う!












「あらあらあら、まぁまぁまぁ! 素晴らしいわ!」

「へ?!」

「うむ、見事にうり二つだ! これならいける!」

「うぇぇぇ?!」

 公爵家に到着し、カサンドラ公爵夫妻に囲まれてやたら感激される私。

「髪と瞳の色が違うし華やかさも無いから最初は気付かなかったんだが、よく似てるだろう?」

「はい、ユリウス殿下! オフィーリアは化粧で誤魔化していましたが素っぴんはとても地味顔だとコンプレックスを抱いていまして……まさかこんなにそっくりな娘さんが存在するとは!」

 地味顔で悪かったわね?!まさか私の顔が公爵令嬢の顔にそっくりだったなんて……!

「さぁ、メイド長! 今すぐにお風呂と香油にマッサージの準備を!それからコルセットにドレスとメイク道具にそれからそれから……」

「畏まりましたっ!」

 少しふっくらした優しげな顔つきの公爵夫人は目をギラギラと輝かせて私の肩を掴む。

「さぁ、磨きあげるわよ――――!!」

「ひぃぃぃぃ?!」

 そして私は公爵夫人とメイドたちに連れられていくのだった……。










***







3時間後。

「いかがかしら?」

 達成感に満ちた顔の公爵夫人が得意気に私を王子に披露する。あれからお風呂で全身洗われ、香油ぶっかけられて全身もみくちゃにマッサージされて、やれ下着だコルセットだ、ドレスだレースだ宝石だと好き勝手にされた。
 見た目はピカピカだが、精神はゴッソリ削られた気がする。

「ほぉ、これは化けたものだな」

 髪を濃い蜂蜜色に染められ、バッチリメイクをし、ドレスと宝石で飾った私の姿は目の色以外は肖像画に描かれているオフィーリア公爵令嬢と確かにそっくりだったのだ。

「目の色はいかがいたしましょう? オフィーリアの瞳は濃いとはいえダークブルーでしたし、さすがに黒目でははっきりと違いが出てしまいます」

 公爵夫妻がどうしたものかと王子に聞くと、王子はどや顔で懐から小箱を取り出した。

「てってれー! それなら心配ない!」

 なんだその効果音。

「実は魔女の村の長老にいいものをもらってきたんだ! その名も≪目の色が変えられる不思議な目薬≫――――!!」

 あぁ……、そういえばそんなもの誰かが作ってたな。ばっちゃんが街に遊びに行くときの変装グッズじゃん。
 銀髪に緑目だと魔女だってバレバレだから違う色に変えるんだっていってたっけ。髪の毛は染め粉で色を変えられるが、目の色は変えられないから開発したけど、希少な材料を使うから非売品にするって言ってたのに……そんなものあげちゃうなんて、ばっちゃんよっぽど懐が潤ったんだね!

「これを1滴させば1週間は目の色を変えられるそうだ。 薄く青みがかるそうだから、黒目ならちょうどダークブルーになるだはずだ。 多少は違うかも知れないが本人と並べて比べでもしない限りわからないだろう」

「さすがです、殿下!」

「そうだろう! 僕ってさすがだろう!」

 こうして目薬で目の色も変えられた私は見事に公爵令嬢そっくりになり、無事(?)替え玉におさまるのだった。















 私はそのまま公爵令嬢として公爵家に住むことになり、オフィーリアとして学園に通うよう王子に言われた。

「私、教養とか勉強とか全然出来ないんですけど……」

 楽しげに私の世話をしてくれる公爵夫人にそう言うと、優しく手を握られた。

「ルルーシェラさん、わたくしたちの娘のせいで巻き込んでしまって本当に申し訳ないと思っているわ。 詳しい事情はわからないけれど、オフィーリアは責任感のある子だったのに婚約者の殿下を裏切ってまさか幼なじみの騎士と駆け落ちするなんて……。 でもね、それほどあの子が思い悩んでいたのに気づいてあげられなかった……宰相様に追手を差し向けられたらあの子はきっと戻らないと言って殺されてしまうわ。
 だから、あの子がちゃんと逃げ切れるまで時間を稼ぎたいの。 殿下があなたを身代わりにするとおっしゃった時は驚いたけれど、どうかお願いできないかしら。
 殿下が周りが納得するような他の婚約者をできるだけ早く見つけるから、それまでルルーシェラさんに目眩ましを頼みたいと言われて、きっと苦労をかけるからルルーシェラさんのことをどうか頼むとわたくしたちに頭を下げられたの。 わたくしたちが絶対にあなたを守るわ。
 だから、どうか……お願いします」

 涙ぐんで頭を下げる公爵夫人。

「あ、頭をあげて下さい! わかりましたから……少しの間だけなら、やりますから。それにあの王子にはす」

 そこまで言いかけて言葉を飲み込む。だって、もしかしたら公爵夫妻は王子が浮気してること知らないんじゃない?!と思ったからだ。
 自分の娘が婚約者を裏切ったんじゃなく、先に王子がオフィーリアさんを裏切ったから騎士と駆け落ちしたと知らないのだ。
 でも今それを暴露して怒り狂った公爵夫妻がもしも王子に抗議したら、あのアホ王子の権力でこの人たちが酷い目にあうかもしれない。

「す?」

「す、すてきな方ですから、すぐに良い女性が現れますよ! そうすれば誰もオフィーリアさんを連れ戻そうとしないと思います!」

「……そうね。 きっとオフィーリアは遠い土地で好きな方と幸せに暮らせるわね。
 あの子さえ幸せなら、たとえ地位を失っても後悔はしません。ありがとう、ルルーシェラさん」

 涙を拭い、にこっと笑う公爵夫人。

「ふふっ、なんだか本当にオフィーリアがいるみたいにそっくりだわ。 ここにいる間はわたくしのことを母親だと思って下さいな」

「ありがとうございます」

 まだ出会って半日ほどだけど、公爵夫人はとても良い人だ。出来ればこの人を酷い目には合わせたくないと思った。ばっちゃんは育ての親だけれど、やっぱり長老だからとあまり甘えたり出来なかったし、実の親のぬくもりを知らない私にはこの公爵夫人の手がなんだかとてもあたたかいものに感じたのだ。

 あの色ボケアホ王子、自分が1番悪いくせにオフィーリアさんに罪を擦り付けておいて自分は心の広い男だってか?!さらにはこんなに娘想いの優しい夫人を悲しませるなんて……女を馬鹿にしやがって、許さん!


 いいわよ、やってやろうじゃない。あのアホ王子と男爵令嬢とやらを最速でくっつけて、オフィーリアさんの安全を確保し公爵夫人を絶対に安心させるわ。

 そんで、最後にあのアホ王子をぶん殴る!!

「私、オフィーリアさんの替え玉がんばります!」

 新たな決意に闘志を燃やした。



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