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5: 動き始めた歯車はどこへ向かうのか

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 翌日。おずおずと教室に足を踏み入れたリリアナに、クラスメイトたちが群がった。

「リリアナさん、おはようございます」

「もうお加減は大丈夫ですの?」

「あの、今までの非礼を詫びたくて……」

 次々に言葉をかけにくるクラスメイトたち。リリアナは恐る恐ると……しかし、笑顔を見せて返事をした。もちろん“申し訳無さそうに”だ。それは、誰の目にも疲労し衰弱しているが、健気に頑張っている。そんな令嬢の姿に見えた。(そう見えるようにした)

「ご心配して下さりありがとうございます。昨日はお恥ずかしい所を見られてしまったみたいで……その、皆様こそご不快になられていたら本当に申し訳ありません。私ったら、本当にダメな子ですぐに婚約者様を怒らせてしまうんです……。うっ……あ、ごめんなさい!泣くつもりはなかっ……うぅっ、ご、ごめんな、さい……っ」

 涙を浮かべながら、ぺこり。と頭を下げたリリアナの姿に、男女全てのクラスメイトが「きゅんっ」としたとかしなかったとか……いや、した。つかみはバッチリである。

 言うまでもなく“中身”はリリアナ本人ではない。その本人の意識は体の内側で自分だったら絶対やらないようなあざとすぎる演技に恥ずかしいやらなんやらで悶えていたが、演技をしているリリアナは気にする様子もなくポロポロと涙を零していた。その姿はまさに儚げで今にも散りそうな花の妖精のように見えたはずだ。これまで積み上げたイメージも重なり、その想いは爆発的になりーーーークラスメイトたちは心をひとつにした。

「そんな……!不快だというならば、リリアナさんではなくあの子爵令息の方ですわ!」

「そうだ!大勢の目がある前であんな事をするなんて令息として……いや、男として失格だ!」

「リリアナさん……今まであんな婚約者に苦しめられながらも頑張っていらしたのね。なんて健気な方……ワタクシ尊敬します!」

「あんなクズより、俺の方が君を幸せそうにできるとおもうよ!」

「み、みなさん……!私……っ」

 リリアナの手をとり励ますように声をかけてくれた令嬢は、ついこの間までリリアナを「男爵令嬢のくせに」とイジメてきたひとりだった。その隣でジェットを罵る発言をしているどこかの令息もだ。“リリアナ”の記憶では、休み時間に勉強していた“リリアナ”に暴言を吐き花瓶の中身を浴びせてきたこともあった。やはり、「男爵のくせに」と。流れに便乗して“リリアナ”に告白まがいの発言をした男も同じようなものだ。このクラスの奴ら、全員。

 ーーーー本当に、その時の都合によって都合よく動く奴らだなぁ。まぁ、それが長生きする秘訣なのかもしれない。話し合い・・・・ではよくあることだ。と鼻で笑いそうになる。

 内心ではそんな事を思いつつ、リリアナは儚げな笑みを浮かべる。

 以前のリリアナなら、ここまでの同情や関心は得られなかっただろう。だが、この数日で全てはひっくり返ったのだ。

 “この世界の人間は、「美しく、健気で儚い者」に惹かれる。”

 これはあの女・・・が、昏睡状態で指一本動かせないでいるオレの顔を覗き込みながら言った言葉だった。

 あぁ、本当にその通りだ。だから、オレ・・お前・・の真似をするんだよ。




 オレに毒を飲ませて、殺そうとした婚約者の真似をーーーー。












 そう。オレの婚約者ーーーーミレーユ・ルーベン公爵令嬢の真似をした。それだけだった。





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