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3 暴君の嘆き
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「……実はお前が死んだ後、僕もジュリアに殺されたんだ。そして、死んで目覚めたら……お前になっていた」
アレク王子が、ハイライトの無い闇色の深くなった瞳でそう告げてきた。私の姿のはずなのに、その時そこにいたのは確かにアレク王子に見えたのだ。
────今後の自分の運命を悟って、絶望した顔の元婚約者に。でも、私は優しい言葉なんてかけたりしない。
だって、そんなことなんの意味もないから。
「……結婚しようと約束した相手に騙されて殺されるなんて……っ!僕はただ幸せになりたくて必死に頑張ってきただけなのに、なんでこんなことになってるんだ?!仲間だと思っていたマーカーやサイラスも人の話も碌に聞かずに暴力まで……僕は何もしていないのに、なんで僕があんな目に遭わないといけないんだ!?
だってもしも生まれ変わっても、すぐにわかるとまで言って忠誠を誓ってくれたのに…………全然、相手にしてくれなかった……僕達だけの合言葉も馬鹿にされて……そんなの知らないと…………」
「ふっ……」
両手を握り締めて悔しそうに声を絞り出した王子の言葉に私は思わず笑ってしまった。後半はなにやらぼそぼそと呟いているが、どうやら期待していた結果にはならなかったようである。
私は、「あぁ、やっぱりこの王子の事が大嫌いだ」と、痛感していた。どこまでも自分勝手でワガママなこの元婚約者が。
するとそれが気に入らなかったのかアレク王子は今度は顔を烈火のごとく赤くして、さらに眉を吊り上げて唾を飛ばしてきた。私の顔がさっきから百面相していると思うと不思議な気分だ。表情筋があんなに動くなんて思わなかったので、今更だが初発見である。
「な、何がおかしいんだ!?いつもいつも、いつも!僕を馬鹿にしてぇ……!」
「だって、あなたが私にそんな事をいうなんておかしいに決まってます。……元々自分が何をしたか、もう忘れたんですか?だってあなたはその様子を笑って見ていたのだから、知っているはずでしょう?」
私は込み上げる笑いを抑えきれなくて「はははっ!」と声を出した。それを見てアレク王子は今度は驚愕の表情をする。王族なのにそんなに感情豊かでいいのだろうかと思うほどにこの男はすぐに顔に出るのだ。少し羨ましくも思うが。
なぜ王子がそんなに驚いているかと言うと、それは“ルティア・シューレクト公爵令嬢”だった時には絶対にしないような笑い方だからだ。口を開けて声を出すような笑い方は未来の王子妃としてみっともないからと禁止されていた。もちろん感情をあらわにすることもだ。いつも無表情でいられるように地獄の特訓をさせられていた。
だからこそ“私”が人前で笑う事などほとんど無かったのだ、特にこの王子の前では。でもそれを知らない王子には、いつも「どんな時でも泣きも笑いもせず、能面のようなつまらない女」と罵られていたっけ。王族の仲間入りをするための特訓なのに、その王族である王子は自由なんだ……と、不満に思う事も私には許されなかったのに。と。
「……お前は、本当にルティアなのか…………?ルティアは、そんな笑い方なんか……」
「ははっ……あー、おかしい。今ルティアなのはあなたですよ、アレク王子。とにかく、しばらくはおとなしくしていて下さい。さっきも言った通り私は“私”の死刑なんて望んでいませんから、なんとか出来ないか手を尽くしますが……ただ」
やっと笑いが収まった私は、にこりと優しい笑みを作って見せた。この王子は見目がいいから笑顔ひとつで上手く行くこともありそうである。あとで練習しておこう。
そうして私は自分の首の前で、親指を立てた右手を逆手にしてスッ……と真横に動かした。
「なんとも出来なかったら、許してくださいね?これはあなたが望んだことなんですから」
「…………っ!」
私の笑みとその言葉に、アレク王子は顔をさらに真っ青にしてその場に崩れ落ちたのだった。
***
「…………」
私は部屋に戻り、息を吐きながらソファに体を沈めた。
私の姿をしていたとはいえ、王子の反応に少しだけスッキリしたのは確かだ。あんな姿を見ても許せないし、許したいとも思えなかったのだから。なによりもこんな状況でも自分は悪くないと嘆き訴え、私に謝ろうともしなかった。ゲームではキラキラしていた王子も、現実では醜悪だ。……見た目が私なのが複雑だけど。
でも、全ては自業自得だと言いたい。私だって未来のために頑張っていたのに「結婚の約束をしていた相手」に裏切られて殺されてしまったのだから、同じ苦しみを味わえばいいとも思う。
私にした、これまでの事を全てを思い起こして反省して……そして後悔すればいい。もちろん“私”の首が転がるのを見るつもりは本当にないので助けるのは決定事項だが、さっきはつい意地悪な事を言ってしまった。だが、あれくらいなら可愛いイタズラだろう。────ルティアだった時は笑うことすら禁じらていたのだから。
ただひとつだけ引っかかる事があった。ヒロインはなぜ逆ハーレムルートの最後のひとりである攻略対象者を殺したのか?王子と結婚式を終えて王妃になったヒロインの背後にマーカーとサイラスを侍らせて3人揃ってこそ、逆ハーレムルートは完成するのである。王子を殺してしまったらハッピーエンドにはならないはずなのに……。
そんな事を考えていたら、なんの前振りもなく勢い良く部屋の扉が開いた。勢いが良すぎて蝶番が外れそうになっているのを見て、筋肉馬鹿め……と恨めしい気持ちが湧き上がる。
「アレク王子!戻っていたんですね?!あの悪役令嬢はどんな反応をしていたんですか?!早く教えてくださいよ!」
「それは、俺も是非お聞きしたいですね。まぁ、聞かずともジュリアを悲しませた事を後悔しているでしょうが……」
呼んでもいないのに乗り込んで来たのはやっぱり筋肉バカ……マーカーだ。しかも今度はノックすら無しである。そしてその後ろにはサイラス……宰相の息子だ。筋肉バカなマーカーとは真逆の知性派タイプのはずであるサイラスが銀縁メガネを指でくいっと押し上げると、部屋の中で無風のはずなのに紫がかった長い髪がさらりと靡いた。
あぁ、そういえば各攻略対象者の登場シーンはだいたいアップになってどこからとも無く風が吹いていたっけ。ついでにゲームでは薔薇の花びらも舞っていたはずだ。さすがに現実では花びらは舞わないが……王子の部屋なのに隙間風だらけなのだろうか?
「うるさいわ……ぞ。マーカー、サイラス。せめてノックくらいしてくれ」
私がため息混じりにふたりを諌めると、ふたりしてきょとんとした顔をした。そんなに驚くことだろうか?だいたい今はひとりでいたい気分だったのに見たくない顔トップ3の内、ふたつが目の前に並んでいるのだ。ため息だってつきたくなる。ちなみにトップ1はもちろんヒロインだが。
「なんか機嫌悪いですね、王子!欲求不満なんですか?(笑)あ!結婚式が終わるまではジュリアはみんなのものなんだから手を出さない約束ですよ!?」
ヒロインの事を想像したのか興奮気味に鼻息を荒くして目を泳がせるマーカー。しかし今が逆ハーレムルートのハッピーエンド間近ならば、ヒロインはすでにお前やサイラスとまぁまぁな関係を持っているはずだ。たぶん自分だけが特別だと思っているのだろうがそれで誤魔化しているつもりなのか。いくら美形でもその顔はキモい。……王子は悪役令嬢の断罪後に結ばれる最後のひとりのはずだからこの体はまだ清いはずだと信じたい。
「そんなにイライラしているなんて、もしかして婚約破棄や死刑宣告でもルティア・シューレクトにダメージを与えられなかったんですか?少しいたぶってやった時はわけのわからない事を叫んで気でも狂ったのかと思っていたのですが……やっぱり頭がおかしい女は反応もおかしいんですね!これだからジュリア以外の女は……」
そう言って肩を竦めるサイラスだが、こいつは逆ハーレムルートでのみちょっと変わった性癖をヒロインに暴露されてしまう。そしてヒロインにドハマリしてしまったアブノーマルだ。そのギャップが良いと一部のマニアから大絶賛だったのだが、その内容は現実となればひたすらドン引きするしかない。ちなみに二次創作では大活躍した影のスターでもある。ナニをとは言わないが、へし折ってやろうか。
「あ!自分が公爵令嬢だから殺されるわけがないと高を括っていたんじゃないか?!あの傲慢な女なら有り得る!犯罪者のくせに馬鹿な女だ!」
馬鹿はお前だ。あぁ、イライラする。
「さぁ、アレク王子!我々はあなたに忠誠を誓った下僕、あなたの命令ならば犯罪者となった元公爵令嬢を痛めつけるくらい簡単な仕事ですよ。なんでも言ってください!」
これは悪役令嬢をいたぶる時に「全ては王子の意思だ。愛されなかったお前が悪い」と言っていた伏線か。
そういえばこのふたりのそれぞれのルートのとあるエンドではお互いが捕まっているシーンがあった。王子と結託してヒロインに横恋慕しようとしてやり過ぎて捕まるエンドがあるのだが(ちなみにこのエンドでは悪役令嬢は絶対に国外追放される。今では納得いかないが)、王子だけが王族だからと捕縛から逃げてしまう。その時に王子に命令されたから逆らえなかったと証言するのだ。ここまではどちらも展開が全く同じだったからファンの間では手抜きエンドと囁かれていた。
とにかく、そうすれば王子の色々やっていた悪行がなぜかバレてしまいヒロインがマーカー又はサイラスに同情し聖女の恩恵も有って命までは取られないし周りからも同情される仕様だったはずだ。まぁ、ゲームではそれくらいこの王子が暴君だったわけだが……。このふたりの態度を見るからに、このままでは私も暴君扱いまっしぐらのようである。
「あの女を死刑にしたら、俺は未来の騎士団長でサイラスは未来の宰相かぁ!!楽しみだなぁ!」
大口を開けて楽しそうに笑っているふたりに、私はにっこりと笑みを見せた。まだ練習中だがふたりの反応を見るからに上出来のようである。
「なんでも……?本当にか?」
「「もちろん!」」
次の瞬間。何を命令されると思っていたのか、とても楽しそうだったふたりの顔が面白い事になっていた。
「じゃあ……ふたりとも、今すぐ3回周ってワンと鳴いてくれる?」
「「へ?」」
あぁ、本当に愚かな王子。あなたが信じていた仲間とやらは救いようがないとしか言いようがない。ゲームの裏事情なんて知るもんじゃないなと、つくづく思ってしまった。
それはさておき。さっきから黙って聞いていたら好き勝手言ってくれて……売られた喧嘩は買うしかないでしょうがぁ!!
アレク王子が、ハイライトの無い闇色の深くなった瞳でそう告げてきた。私の姿のはずなのに、その時そこにいたのは確かにアレク王子に見えたのだ。
────今後の自分の運命を悟って、絶望した顔の元婚約者に。でも、私は優しい言葉なんてかけたりしない。
だって、そんなことなんの意味もないから。
「……結婚しようと約束した相手に騙されて殺されるなんて……っ!僕はただ幸せになりたくて必死に頑張ってきただけなのに、なんでこんなことになってるんだ?!仲間だと思っていたマーカーやサイラスも人の話も碌に聞かずに暴力まで……僕は何もしていないのに、なんで僕があんな目に遭わないといけないんだ!?
だってもしも生まれ変わっても、すぐにわかるとまで言って忠誠を誓ってくれたのに…………全然、相手にしてくれなかった……僕達だけの合言葉も馬鹿にされて……そんなの知らないと…………」
「ふっ……」
両手を握り締めて悔しそうに声を絞り出した王子の言葉に私は思わず笑ってしまった。後半はなにやらぼそぼそと呟いているが、どうやら期待していた結果にはならなかったようである。
私は、「あぁ、やっぱりこの王子の事が大嫌いだ」と、痛感していた。どこまでも自分勝手でワガママなこの元婚約者が。
するとそれが気に入らなかったのかアレク王子は今度は顔を烈火のごとく赤くして、さらに眉を吊り上げて唾を飛ばしてきた。私の顔がさっきから百面相していると思うと不思議な気分だ。表情筋があんなに動くなんて思わなかったので、今更だが初発見である。
「な、何がおかしいんだ!?いつもいつも、いつも!僕を馬鹿にしてぇ……!」
「だって、あなたが私にそんな事をいうなんておかしいに決まってます。……元々自分が何をしたか、もう忘れたんですか?だってあなたはその様子を笑って見ていたのだから、知っているはずでしょう?」
私は込み上げる笑いを抑えきれなくて「はははっ!」と声を出した。それを見てアレク王子は今度は驚愕の表情をする。王族なのにそんなに感情豊かでいいのだろうかと思うほどにこの男はすぐに顔に出るのだ。少し羨ましくも思うが。
なぜ王子がそんなに驚いているかと言うと、それは“ルティア・シューレクト公爵令嬢”だった時には絶対にしないような笑い方だからだ。口を開けて声を出すような笑い方は未来の王子妃としてみっともないからと禁止されていた。もちろん感情をあらわにすることもだ。いつも無表情でいられるように地獄の特訓をさせられていた。
だからこそ“私”が人前で笑う事などほとんど無かったのだ、特にこの王子の前では。でもそれを知らない王子には、いつも「どんな時でも泣きも笑いもせず、能面のようなつまらない女」と罵られていたっけ。王族の仲間入りをするための特訓なのに、その王族である王子は自由なんだ……と、不満に思う事も私には許されなかったのに。と。
「……お前は、本当にルティアなのか…………?ルティアは、そんな笑い方なんか……」
「ははっ……あー、おかしい。今ルティアなのはあなたですよ、アレク王子。とにかく、しばらくはおとなしくしていて下さい。さっきも言った通り私は“私”の死刑なんて望んでいませんから、なんとか出来ないか手を尽くしますが……ただ」
やっと笑いが収まった私は、にこりと優しい笑みを作って見せた。この王子は見目がいいから笑顔ひとつで上手く行くこともありそうである。あとで練習しておこう。
そうして私は自分の首の前で、親指を立てた右手を逆手にしてスッ……と真横に動かした。
「なんとも出来なかったら、許してくださいね?これはあなたが望んだことなんですから」
「…………っ!」
私の笑みとその言葉に、アレク王子は顔をさらに真っ青にしてその場に崩れ落ちたのだった。
***
「…………」
私は部屋に戻り、息を吐きながらソファに体を沈めた。
私の姿をしていたとはいえ、王子の反応に少しだけスッキリしたのは確かだ。あんな姿を見ても許せないし、許したいとも思えなかったのだから。なによりもこんな状況でも自分は悪くないと嘆き訴え、私に謝ろうともしなかった。ゲームではキラキラしていた王子も、現実では醜悪だ。……見た目が私なのが複雑だけど。
でも、全ては自業自得だと言いたい。私だって未来のために頑張っていたのに「結婚の約束をしていた相手」に裏切られて殺されてしまったのだから、同じ苦しみを味わえばいいとも思う。
私にした、これまでの事を全てを思い起こして反省して……そして後悔すればいい。もちろん“私”の首が転がるのを見るつもりは本当にないので助けるのは決定事項だが、さっきはつい意地悪な事を言ってしまった。だが、あれくらいなら可愛いイタズラだろう。────ルティアだった時は笑うことすら禁じらていたのだから。
ただひとつだけ引っかかる事があった。ヒロインはなぜ逆ハーレムルートの最後のひとりである攻略対象者を殺したのか?王子と結婚式を終えて王妃になったヒロインの背後にマーカーとサイラスを侍らせて3人揃ってこそ、逆ハーレムルートは完成するのである。王子を殺してしまったらハッピーエンドにはならないはずなのに……。
そんな事を考えていたら、なんの前振りもなく勢い良く部屋の扉が開いた。勢いが良すぎて蝶番が外れそうになっているのを見て、筋肉馬鹿め……と恨めしい気持ちが湧き上がる。
「アレク王子!戻っていたんですね?!あの悪役令嬢はどんな反応をしていたんですか?!早く教えてくださいよ!」
「それは、俺も是非お聞きしたいですね。まぁ、聞かずともジュリアを悲しませた事を後悔しているでしょうが……」
呼んでもいないのに乗り込んで来たのはやっぱり筋肉バカ……マーカーだ。しかも今度はノックすら無しである。そしてその後ろにはサイラス……宰相の息子だ。筋肉バカなマーカーとは真逆の知性派タイプのはずであるサイラスが銀縁メガネを指でくいっと押し上げると、部屋の中で無風のはずなのに紫がかった長い髪がさらりと靡いた。
あぁ、そういえば各攻略対象者の登場シーンはだいたいアップになってどこからとも無く風が吹いていたっけ。ついでにゲームでは薔薇の花びらも舞っていたはずだ。さすがに現実では花びらは舞わないが……王子の部屋なのに隙間風だらけなのだろうか?
「うるさいわ……ぞ。マーカー、サイラス。せめてノックくらいしてくれ」
私がため息混じりにふたりを諌めると、ふたりしてきょとんとした顔をした。そんなに驚くことだろうか?だいたい今はひとりでいたい気分だったのに見たくない顔トップ3の内、ふたつが目の前に並んでいるのだ。ため息だってつきたくなる。ちなみにトップ1はもちろんヒロインだが。
「なんか機嫌悪いですね、王子!欲求不満なんですか?(笑)あ!結婚式が終わるまではジュリアはみんなのものなんだから手を出さない約束ですよ!?」
ヒロインの事を想像したのか興奮気味に鼻息を荒くして目を泳がせるマーカー。しかし今が逆ハーレムルートのハッピーエンド間近ならば、ヒロインはすでにお前やサイラスとまぁまぁな関係を持っているはずだ。たぶん自分だけが特別だと思っているのだろうがそれで誤魔化しているつもりなのか。いくら美形でもその顔はキモい。……王子は悪役令嬢の断罪後に結ばれる最後のひとりのはずだからこの体はまだ清いはずだと信じたい。
「そんなにイライラしているなんて、もしかして婚約破棄や死刑宣告でもルティア・シューレクトにダメージを与えられなかったんですか?少しいたぶってやった時はわけのわからない事を叫んで気でも狂ったのかと思っていたのですが……やっぱり頭がおかしい女は反応もおかしいんですね!これだからジュリア以外の女は……」
そう言って肩を竦めるサイラスだが、こいつは逆ハーレムルートでのみちょっと変わった性癖をヒロインに暴露されてしまう。そしてヒロインにドハマリしてしまったアブノーマルだ。そのギャップが良いと一部のマニアから大絶賛だったのだが、その内容は現実となればひたすらドン引きするしかない。ちなみに二次創作では大活躍した影のスターでもある。ナニをとは言わないが、へし折ってやろうか。
「あ!自分が公爵令嬢だから殺されるわけがないと高を括っていたんじゃないか?!あの傲慢な女なら有り得る!犯罪者のくせに馬鹿な女だ!」
馬鹿はお前だ。あぁ、イライラする。
「さぁ、アレク王子!我々はあなたに忠誠を誓った下僕、あなたの命令ならば犯罪者となった元公爵令嬢を痛めつけるくらい簡単な仕事ですよ。なんでも言ってください!」
これは悪役令嬢をいたぶる時に「全ては王子の意思だ。愛されなかったお前が悪い」と言っていた伏線か。
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とにかく、そうすれば王子の色々やっていた悪行がなぜかバレてしまいヒロインがマーカー又はサイラスに同情し聖女の恩恵も有って命までは取られないし周りからも同情される仕様だったはずだ。まぁ、ゲームではそれくらいこの王子が暴君だったわけだが……。このふたりの態度を見るからに、このままでは私も暴君扱いまっしぐらのようである。
「あの女を死刑にしたら、俺は未来の騎士団長でサイラスは未来の宰相かぁ!!楽しみだなぁ!」
大口を開けて楽しそうに笑っているふたりに、私はにっこりと笑みを見せた。まだ練習中だがふたりの反応を見るからに上出来のようである。
「なんでも……?本当にか?」
「「もちろん!」」
次の瞬間。何を命令されると思っていたのか、とても楽しそうだったふたりの顔が面白い事になっていた。
「じゃあ……ふたりとも、今すぐ3回周ってワンと鳴いてくれる?」
「「へ?」」
あぁ、本当に愚かな王子。あなたが信じていた仲間とやらは救いようがないとしか言いようがない。ゲームの裏事情なんて知るもんじゃないなと、つくづく思ってしまった。
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