婚約を拒否された賢者は、憧れの悪役令嬢になるためにどうしても婚約してから破棄されたい

As-me.com

文字の大きさ
上 下
9 / 45

やるならやらねば!ならばやる!

しおりを挟む
 その日、母なる海はおおいに荒れていた。そして、その荒れ狂う海にひとりの少女が立ち向かっていたのだった。

「伝説の怪魚……とったどーーーー!!」

ざっぱーーーーん!!

 私は長い戦いの末にやっと釣り上げた怪魚にトドメをさして、拳を天高く掲げたのであった。








 うーん、怪魚って美味しいのかな?やっぱり巨大魚だから大味かしら。

 さすがループ世界で過去に私を丸飲みした怪魚なだけあってその大きさはかなりのものだ。とりあえず魔法を使って怪魚を三枚おろしにし、色々な料理の材料に使ってみた。いくら怪魚とはいえ命を奪った以上はちゃんと弔うのが勝者のつとめである。

「塩焼き、煮付け……そのまま刺し身はちょっとクセがありそうだからスパイスに漬け込んで香草焼きとか……あ、スープの具にしてもいいかも!」

 味見してみると大味どころかとても美味しかったので、大量に料理を作り平民の皆さんに振る舞うことにした。この国の平民はわりと豊かだが、それでも貧困層は存在する。孤児院なんかはまさにそれだ。ヴィンセント殿下が聖女と結ばれて国王になったあかつきにはこの問題もきっと解決してくれるだろう。だって愛しの聖女が元平民だからね!



「ありがとうございます、エナ・・さん。子供たちもとても喜んでいます。まさか、冒険者の方があの怪魚を釣り上げて下さるなんて……これで安心して子供たちも魚捕りができますわ」

「ありがとう、おねぇさん!」

「ごはん、美味しかった!おねぇちゃんありがとう!」

 孤児院のシスターや子供たちが次々に私を取り囲む。子供たちは質素な服装をしているがかわいい笑顔で元気いっぱいだ。これはシスターたちがちゃんと愛情を込めて子供たちをお世話してくれている証拠だろう。

「いえいえ、旅の途中でたまたま・・・・怪魚を釣っちゃっただけなので一緒に食べてくれて私も助かりました。それに新米冒険者はなかなか宿屋にも泊めてもらえないんで困ってたから今夜の宿泊場所を提供してもらえて助かりましたし……。
 いやぁ~、まさかたまたま釣れた怪魚がこの辺のヌシとして居着いちゃったせいで魚捕りが出来なかったなんて驚きですね!」

 今までのループ世界でも平民の貧困層は気になっていたのだ。だが、何回目かのループの時にも孤児院に寄付をした事があったのだが、その時の聖女が「傲慢な貴族の点数稼ぎだ」と非難してきて一騒動起きた事は記憶に新しい(私のみだが)。確か、元平民の聖女に対する盛大な嫌がらせだとかなんとか言われたんだっけ。財力の差を見せつけて平民を見下している悪女……だったかな?そう、つまり……“公爵令嬢”として何かをすると糾弾されるのだ。まぁ、あのときの私は実にいい仕事をしたと自負しているが!

 あぁ、まったく。これが婚約してなおかつ殿下が聖女と出会ってる状態ならジャンジャン名前を使って寄付でもなんでもするんだけど、今は聖女どころか婚約すら出来ていない。“聖女に嫌がらせをする酷い悪女”のレッテルを貼り付けてもらえないのでは公爵令嬢の名前を使う意味がないのだ。まったく、殿下がとっとと婚約してくれてればなぁ!(愚痴)……とはいえ、悪女に利用された孤児院として同情を含んでいたとしても微妙な悪名を轟かせたのは本当に申し訳無かったと思ったのだ。

 だから私は“旅をしている訳あり冒険者”として孤児院を回ることにした。釣った魚(怪魚)をおすそ分けしたり、こっそり魔法を使って土を開拓したり、畑を耕してみたり、地下水を掘り当てて井戸を作ってみたり、などなど……。その代わりに宿泊場所を提供してもらったり一緒にご飯を食べさせてもらったりしている。直接寄付をしている訳ではないからこれなら平民を見下していることにはならないだろう。



 ふふふ、これぞ完璧な擬態!まさかこんな訳ありっぽい雰囲気の冒険者が公爵令嬢とはおもうまいて!




「わぁぁぁ、エナおねぇちゃんが耕してくれた畑からもう野菜ができたよ!トマトってこんなにすぐ収穫出来るんだぁ!」

「この井戸のお水を飲んだら風邪が治ったヨ!」

「エナおねぇちゃん直伝の罠を使ったら魚どころかウサギやイノシシも捕まえられたよ~!」

 うむ、これでこの孤児院の食料問題は解決だね☆私の死の要因を排除しながら気になっていた孤児院をこっそり手助けできる……。やっぱり前のループ世界の時は批判されながらの寄付は孤児院も困ってたみたいだったからこっちの方が断然やりやすい!だって一度批判されると寄付もしにくいんだよ~。この方法なら後に最悪の悪役令嬢として名を轟かせても孤児院に迷惑はかかるまい。

 こうして私は、自分の完璧な作戦に笑みをこぼしていたのだが……。






「エナおねぇちゃんと出会ってからご飯も美味しいし、みんな健康になったよね。今、すっごく幸せだよ!」

「おねぇちゃんって優しくて綺麗だし……まるで天使様みたい」

「ううん……エナおねぇちゃんはきっと聖女様なんだよ!」


 まさか、孤児院の子供たちにこんな事を言われているなんてミジンコ程に思っていなかった。
















しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

婚約破棄?結構ですわ。でも慰謝料は請求いたします

ゆる
恋愛
公爵令嬢アナスタシア・オルステッドは、第三王子アレンの婚約者だった。 しかし、アレンは没落貴族の令嬢カリーナと密かに関係を持っていたことが発覚し、彼女を愛していると宣言。アナスタシアとの婚約破棄を告げるが── 「わかりました。でも、それには及びません。すでに婚約は破棄されております」 なんとアナスタシアは、事前に国王へ婚約破棄を申し出ており、すでに了承されていたのだ。 さらに、慰謝料もしっかりと請求済み。 「どうぞご自由に、カリーナ様とご婚約なさってください。でも、慰謝料のお支払いはお忘れなく」 驚愕するアレンを後にし、悠々と去るアナスタシア。 ところが数カ月後、生活に困窮したアレンが、再び彼女のもとへ婚約のやり直しを申し出る。 「呆れたお方ですね。そんな都合のいい話、お受けするわけがないでしょう?」 かつての婚約者の末路に興味もなく、アナスタシアは公爵家の跡取りとして堂々と日々を過ごす。 しかし、王国には彼女を取り巻く新たな陰謀の影が忍び寄っていた。 暗躍する謎の勢力、消える手紙、そして不審な襲撃──。 そんな中、王国軍の若きエリート将校ガブリエルと出会い、アナスタシアは自らの運命に立ち向かう決意を固める。 「私はもう、誰かに振り回されるつもりはありません。この王国の未来も、私自身の未来も、私の手で切り拓きます」 婚約破棄を経て、さらに強く、賢くなった公爵令嬢の痛快ざまぁストーリー! 自らの誇りを貫き、王国を揺るがす陰謀を暴く彼女の華麗なる活躍をお楽しみください。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...