5 / 45
こっちはこっちで複雑なんだ(ヴィンセント視点)
しおりを挟む
「まったく……なんてしつこいんだ」
思わずため息と共にそんな言葉が口から漏れる。毎日顔を合わす度に「婚約してください」と俺を追いかけ回してくるのは本当にやめてほしいと思う。
……あんなに可愛い声で「婚約して♥️」なんてねだられたら、つい了承してしまいそうになるじゃないかぁ!
もし、本当に婚約したらどうなるのか……そんな妄想が脳内を駆け巡った。
エターナは成長すると共にどんどん綺麗になる。そう、エターナは出会った頃から変わらず可愛い。そしてそこに美しさも加わった。いつも元気で笑顔でちょっと強引で……。そんなエターナと婚約者になったらーーーー。
「殿下、手を繋いでもいいですか?」
「私たち婚約者なんだから、デートしたいです」
「ヴィンセント殿下……私、初めて殿下を見た時からお慕いしてましたーーーー」
ーーーーな、なーんて事になったりならなかったりしないか?!
そんな甘い妄想にやや興奮するが、すぐに現実を思い返し再びため息をついた。もし本当に婚約者になったとしても、きっとエターナは聖女が現れた途端に「さぁ、婚約破棄して下さい♥️」と言ってくるに違いないのだ。彼女は1度決めたらかなり頑固である。それは出会ってからのこの5年間で身に染みていた。まったく、どんな拷問なのか。
夢のような妄想よりもそっちの方が現実味を帯びていてもう一度大きなため息が口から漏れた。
「どうしたんですか、ヴィンセント殿下?そんなにため息ばかりついて……」
「どうせまた例の公爵令嬢に言い寄られたんでしょう?殿下はこんなに嫌がっているのにしつこい女ですよねー」
俺の背後から声をかけてきたのは学友でもあり俺の側近候補でもあるふたりの男子学生だった。
「……なんでもない」
周りのエターナに対する評価は厳しい。確かに王子である俺に毎日のように婚約を迫る姿は事情を知らない人間から見ればなんとも滑稽だろう。「権力が欲しくて必死」だとか「あんなに拒否されてるのにみっともない女」などと陰口を叩かれているのは知っていた。もちろんエターナも知っている。あまりに酷い中傷に俺が反論しようとしたらエターナに止められたのだ。「私の目指す未来(完璧な悪役令嬢)の為には必要なことなので邪魔しないでくださいね。私が悪女である方が婚約破棄する時の理由に箔がつきますから♥️」と小首を傾げてお願いされてしまった。
「殿下が優しいからあの女が付け上がるんですよ」
「見た目は悪くないのに残念な女ですね」
エターナを馬鹿にしたように笑うふたりに内心イラッとしたが、それを悟られないように「あんな女、興味ないから」と言葉を濁した。
このふたりは側で捕まえておかなくてはならないから……。
「殿下の婚約者になら、あの令嬢とかどうですかね」
「いやいや、どうせなら素直でもっと従順な方が」
下品に笑いながら軽口を叩くふたりにそっと視線を向けた。爵位的にはエターナよりもずっと下の癖に公爵令嬢を馬鹿にするなんて「お前たちをエターナに対する侮辱罪で捕らえてやろうか」と言いたくなるがグッと我慢した。なにせやっと見つけた重要人物なのだ、いくらムカついても目の届く所に置いておかなくてはならない。
燃えるような赤い髪と夕焼け色の瞳をした勝ち気そうな方が“リビー・ジェット”。そして、青みがかった黒髪と紺色の瞳に銀縁メガネをかけた方が“ジュラルド・エンドライン”だ。
そう、エターナの言っていた“宰相の息子”と“大商人の息子”である。俺はこのふたりを探しだし父上に頼み込んで側近候補にしてもらった。なにせこいつらはループの世界でエターナを断罪した奴等なのだから。
この世界でこのふたりがまたもやエターナを断罪しようとしないように監視しているのだ。エターナの義理の弟はエターナ自身が管理しているようだが(俺と聖女の仲を邪魔しないようにと言う理由が悲しい)、残る大罪人は隣国の王子だ。こいつは今後この国に留学してくる予定なのでまだ様子見するしかない。
本当ならこいつらにエターナの可愛いらしさを語ってやりたい。瞳が可愛いし、声が可愛いし、首を傾げた時のきょとん顔が可愛いし。そしてループ世界で何度も悲惨な目に遭遇しているのに賢者と言う重大な使命を背負い、それでも笑顔で頑張っているのだ。なによりも俺を幸せにするために自分が犠牲になろうとしているんだぞ!なんて健気なんだ!
だが、それを語る為にはエターナが“賢者”であることを言わなくてはならなくなる。ループ世界を繰り返し未来を知っているなんてわかったらエターナの身が危険にさらされてしまうだろう。
……それに、エターナの素晴らしさを知ってこいつらがエターナに惚れでもしたら……。
なんか嫌だ!
あの義理の弟は、まぁ……うん、弟だからいいとして!エターナ自身が調教したんだしな。ほら、弟だから!だが、こいつらは別だ。エターナの可愛さは俺だけが知っていればいいと思うんだよな!
とにかくこれから現れる聖女候補が誰と恋に落ちようが、もう決してエターナを断罪なんかさせない!
こうして俺はエターナの未来を守るべく暗躍することを心に決めていたのだった。
思わずため息と共にそんな言葉が口から漏れる。毎日顔を合わす度に「婚約してください」と俺を追いかけ回してくるのは本当にやめてほしいと思う。
……あんなに可愛い声で「婚約して♥️」なんてねだられたら、つい了承してしまいそうになるじゃないかぁ!
もし、本当に婚約したらどうなるのか……そんな妄想が脳内を駆け巡った。
エターナは成長すると共にどんどん綺麗になる。そう、エターナは出会った頃から変わらず可愛い。そしてそこに美しさも加わった。いつも元気で笑顔でちょっと強引で……。そんなエターナと婚約者になったらーーーー。
「殿下、手を繋いでもいいですか?」
「私たち婚約者なんだから、デートしたいです」
「ヴィンセント殿下……私、初めて殿下を見た時からお慕いしてましたーーーー」
ーーーーな、なーんて事になったりならなかったりしないか?!
そんな甘い妄想にやや興奮するが、すぐに現実を思い返し再びため息をついた。もし本当に婚約者になったとしても、きっとエターナは聖女が現れた途端に「さぁ、婚約破棄して下さい♥️」と言ってくるに違いないのだ。彼女は1度決めたらかなり頑固である。それは出会ってからのこの5年間で身に染みていた。まったく、どんな拷問なのか。
夢のような妄想よりもそっちの方が現実味を帯びていてもう一度大きなため息が口から漏れた。
「どうしたんですか、ヴィンセント殿下?そんなにため息ばかりついて……」
「どうせまた例の公爵令嬢に言い寄られたんでしょう?殿下はこんなに嫌がっているのにしつこい女ですよねー」
俺の背後から声をかけてきたのは学友でもあり俺の側近候補でもあるふたりの男子学生だった。
「……なんでもない」
周りのエターナに対する評価は厳しい。確かに王子である俺に毎日のように婚約を迫る姿は事情を知らない人間から見ればなんとも滑稽だろう。「権力が欲しくて必死」だとか「あんなに拒否されてるのにみっともない女」などと陰口を叩かれているのは知っていた。もちろんエターナも知っている。あまりに酷い中傷に俺が反論しようとしたらエターナに止められたのだ。「私の目指す未来(完璧な悪役令嬢)の為には必要なことなので邪魔しないでくださいね。私が悪女である方が婚約破棄する時の理由に箔がつきますから♥️」と小首を傾げてお願いされてしまった。
「殿下が優しいからあの女が付け上がるんですよ」
「見た目は悪くないのに残念な女ですね」
エターナを馬鹿にしたように笑うふたりに内心イラッとしたが、それを悟られないように「あんな女、興味ないから」と言葉を濁した。
このふたりは側で捕まえておかなくてはならないから……。
「殿下の婚約者になら、あの令嬢とかどうですかね」
「いやいや、どうせなら素直でもっと従順な方が」
下品に笑いながら軽口を叩くふたりにそっと視線を向けた。爵位的にはエターナよりもずっと下の癖に公爵令嬢を馬鹿にするなんて「お前たちをエターナに対する侮辱罪で捕らえてやろうか」と言いたくなるがグッと我慢した。なにせやっと見つけた重要人物なのだ、いくらムカついても目の届く所に置いておかなくてはならない。
燃えるような赤い髪と夕焼け色の瞳をした勝ち気そうな方が“リビー・ジェット”。そして、青みがかった黒髪と紺色の瞳に銀縁メガネをかけた方が“ジュラルド・エンドライン”だ。
そう、エターナの言っていた“宰相の息子”と“大商人の息子”である。俺はこのふたりを探しだし父上に頼み込んで側近候補にしてもらった。なにせこいつらはループの世界でエターナを断罪した奴等なのだから。
この世界でこのふたりがまたもやエターナを断罪しようとしないように監視しているのだ。エターナの義理の弟はエターナ自身が管理しているようだが(俺と聖女の仲を邪魔しないようにと言う理由が悲しい)、残る大罪人は隣国の王子だ。こいつは今後この国に留学してくる予定なのでまだ様子見するしかない。
本当ならこいつらにエターナの可愛いらしさを語ってやりたい。瞳が可愛いし、声が可愛いし、首を傾げた時のきょとん顔が可愛いし。そしてループ世界で何度も悲惨な目に遭遇しているのに賢者と言う重大な使命を背負い、それでも笑顔で頑張っているのだ。なによりも俺を幸せにするために自分が犠牲になろうとしているんだぞ!なんて健気なんだ!
だが、それを語る為にはエターナが“賢者”であることを言わなくてはならなくなる。ループ世界を繰り返し未来を知っているなんてわかったらエターナの身が危険にさらされてしまうだろう。
……それに、エターナの素晴らしさを知ってこいつらがエターナに惚れでもしたら……。
なんか嫌だ!
あの義理の弟は、まぁ……うん、弟だからいいとして!エターナ自身が調教したんだしな。ほら、弟だから!だが、こいつらは別だ。エターナの可愛さは俺だけが知っていればいいと思うんだよな!
とにかくこれから現れる聖女候補が誰と恋に落ちようが、もう決してエターナを断罪なんかさせない!
こうして俺はエターナの未来を守るべく暗躍することを心に決めていたのだった。
1
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。


【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる