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24:美しく恐ろしい王(ユイバール国にて)
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ここはユイバール国。
「本当でございますか、ルネス国王!我が国の王太子が存在しておられるのですか?!」
濃いワインレッドの長い髪を靡かせ、紫色の瞳をした美しい男……ユイバール国のルネス国王がにやりと口元を歪めた。それなりの年齢のはずだがそれを感じさせない見た目は“冷酷な美しい王”として国民に崇められている。
「あぁ、黙っていて申し訳なかったな。実はずっと他国のとある貴族の家で匿ってもらっていたのだ」
「しかしなぜそのような……」
年老いた男が困惑の瞳をルネス国王に向ける。なぜならこのルネス国王はずっと子供が出来ずにいたので跡取り問題が勃発し、王宮内では王妃がずっとピリピリしていたからだ。
ルネス国王には正室と側室がいるがどちらも子供が出来ずにいたため、王族への不満を吐く輩も存在していた。もちろん国王にではなく正室と側室にのみの不満だ。この国には王を咎める者などいない。ーーーー唯一の重罪になる罪さえ犯していなければ、だが。
「それが、その子は側室との間の子なのだ。さらにいえば医者によると色素の突然変異で色が薄く体も弱かった。このままこの国で暮らすのは命の危機だと言われてな。側室の家系に過去に薄い人間が出ていたらしいからそちらに似たのかもしれん。……わかるだろう?」
少々無理矢理だとも思える釈明に不信に思うもそれを口にすることはできない。宰相はなんとか自分が納得出来る理由を探して頭を巡らせた。
「は、はい。確かに。色が薄い子供となれば不貞を疑われ下手をすれば重罪。側室様が産んだお子となれば一族もただではすみますまい。さらにお体が弱いとは……正室様が手を下す可能性も!ということですな?」
宰相は満足気に頷く国王の姿に内心ホッとしていた。
「そうだ。あれは嫉妬深い。俺がほんの少し色の薄い髪をした側室を迎い入れた時も凄かったからな。それなのに側室が先に子を産み、さらには色が薄いとなればどんな冤罪で側室と子供を殺そうとするかわからなかった。だから、子供を守るために宰相のお前にも秘密にしていたのだ」
「しかし、内密でご懐妊くらいお知らせして下さってもよかったものを。じぃはそんなに信用成りませぬか」
「許せ。側室が懐妊した途端に不安を口にしたのでな。妻を守るのも夫の役目よ」
「しかし」
「……なんだ。そんなに俺が信用できぬか?」
ギラリ。と、ルネス国王の目が鋭く細められる。しまった。と思った。
その視線にいぬかれた途端に宰相は背筋に悪寒を感じた。この国の王族は濃い血筋同士で婚姻を繰り返すため、時折血が狂ったかと思わせるような王がでてくるのだが、このルネス国王はまさにそんな感じの国王であった。
「ひっ!いえ、そのようなことは……!全ては国王のおっしゃるとおりでございます!」
「そうか、それならよかった。じぃにまで我が子の事を疑われたら俺は悲しい。悲しみのあまり……じぃを殺すところだったじゃないか」
にっこりと視線を緩められ宰相はその場に崩れ落ちそうになるのを必死に耐えた。今、この王の機嫌を損なえば自分は確実に首をはねられるだろう。この国王にはそれが許されている。
そんなことが許されている時点で、この王国自体が狂っているのかも知れないがそれを疑問に思う人間はここには存在しなかった。
「も、申し訳ありません。で、ではさっそくその御子様をお迎えに行く準備をいたしましょう。あの、その方のお名前は?」
「うむ、我が息子の名は“ラインハルト”だ。あちらの国では“ラインハルト・ディアルド”と名乗っている。多少色は薄いが俺によく似た美しい青年だ。我が国に来たら正式に王太子としてこちらの名前を命名するが、それまではそう呼んでおけ」
「畏まりました。……おや、そういえば側室様はどうなさったのですか?元々お部屋に引きこもりがちな方でしたが最近は全然お見かけしませんな」
「さぁて、俺も知らぬ」
その頃、ユイバール国において最も大切な王太子を産んだはずの国王の側室は……自身の部屋で血にまみれ息絶えていた。
「本当でございますか、ルネス国王!我が国の王太子が存在しておられるのですか?!」
濃いワインレッドの長い髪を靡かせ、紫色の瞳をした美しい男……ユイバール国のルネス国王がにやりと口元を歪めた。それなりの年齢のはずだがそれを感じさせない見た目は“冷酷な美しい王”として国民に崇められている。
「あぁ、黙っていて申し訳なかったな。実はずっと他国のとある貴族の家で匿ってもらっていたのだ」
「しかしなぜそのような……」
年老いた男が困惑の瞳をルネス国王に向ける。なぜならこのルネス国王はずっと子供が出来ずにいたので跡取り問題が勃発し、王宮内では王妃がずっとピリピリしていたからだ。
ルネス国王には正室と側室がいるがどちらも子供が出来ずにいたため、王族への不満を吐く輩も存在していた。もちろん国王にではなく正室と側室にのみの不満だ。この国には王を咎める者などいない。ーーーー唯一の重罪になる罪さえ犯していなければ、だが。
「それが、その子は側室との間の子なのだ。さらにいえば医者によると色素の突然変異で色が薄く体も弱かった。このままこの国で暮らすのは命の危機だと言われてな。側室の家系に過去に薄い人間が出ていたらしいからそちらに似たのかもしれん。……わかるだろう?」
少々無理矢理だとも思える釈明に不信に思うもそれを口にすることはできない。宰相はなんとか自分が納得出来る理由を探して頭を巡らせた。
「は、はい。確かに。色が薄い子供となれば不貞を疑われ下手をすれば重罪。側室様が産んだお子となれば一族もただではすみますまい。さらにお体が弱いとは……正室様が手を下す可能性も!ということですな?」
宰相は満足気に頷く国王の姿に内心ホッとしていた。
「そうだ。あれは嫉妬深い。俺がほんの少し色の薄い髪をした側室を迎い入れた時も凄かったからな。それなのに側室が先に子を産み、さらには色が薄いとなればどんな冤罪で側室と子供を殺そうとするかわからなかった。だから、子供を守るために宰相のお前にも秘密にしていたのだ」
「しかし、内密でご懐妊くらいお知らせして下さってもよかったものを。じぃはそんなに信用成りませぬか」
「許せ。側室が懐妊した途端に不安を口にしたのでな。妻を守るのも夫の役目よ」
「しかし」
「……なんだ。そんなに俺が信用できぬか?」
ギラリ。と、ルネス国王の目が鋭く細められる。しまった。と思った。
その視線にいぬかれた途端に宰相は背筋に悪寒を感じた。この国の王族は濃い血筋同士で婚姻を繰り返すため、時折血が狂ったかと思わせるような王がでてくるのだが、このルネス国王はまさにそんな感じの国王であった。
「ひっ!いえ、そのようなことは……!全ては国王のおっしゃるとおりでございます!」
「そうか、それならよかった。じぃにまで我が子の事を疑われたら俺は悲しい。悲しみのあまり……じぃを殺すところだったじゃないか」
にっこりと視線を緩められ宰相はその場に崩れ落ちそうになるのを必死に耐えた。今、この王の機嫌を損なえば自分は確実に首をはねられるだろう。この国王にはそれが許されている。
そんなことが許されている時点で、この王国自体が狂っているのかも知れないがそれを疑問に思う人間はここには存在しなかった。
「も、申し訳ありません。で、ではさっそくその御子様をお迎えに行く準備をいたしましょう。あの、その方のお名前は?」
「うむ、我が息子の名は“ラインハルト”だ。あちらの国では“ラインハルト・ディアルド”と名乗っている。多少色は薄いが俺によく似た美しい青年だ。我が国に来たら正式に王太子としてこちらの名前を命名するが、それまではそう呼んでおけ」
「畏まりました。……おや、そういえば側室様はどうなさったのですか?元々お部屋に引きこもりがちな方でしたが最近は全然お見かけしませんな」
「さぁて、俺も知らぬ」
その頃、ユイバール国において最も大切な王太子を産んだはずの国王の側室は……自身の部屋で血にまみれ息絶えていた。
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