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21:おねぇ執事の秘密④(ライル視点)

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「……それが、手紙に書いてあった全てじゃよ」

    言葉を切るドクターにロナウドさんが「お話して頂きありがとうございます」と椅子へと促す。

    ドクターは何も言わずにその椅子に座り、深い息を吐いた。今までずっと黙っていた秘密を打ち明けたことにより肩の荷が降りたようだった。

「……じゃあ、そのゆきずりの旅人がこの手紙の国王でアタシの父親だって言うの?
アタシはーーーー母親の不貞の子供で、祖母も罪悪感からアタシを助けただけだったのね……」

    父親はもちろん、母親にも嫌悪の目しか向けられたことはなかったけれど、やっとその理由がわかった気がする。

「……それで、その国王とやらはライルをどうする気じゃね?」

    両親の事よりも祖母の事の方にショックを受けているアタシに代わってドクターがそう聞くと、旦那様は言いにくそうにアタシを見る。

「うむ……。それが、もし指輪を持っていたら我が子として……王子として国に迎い入れると。その髪色と瞳さえあればそれが証拠となるからと……」

「そうですか……。やはりロアナさんの考えていたとおり、あの指輪がライルの運命を握っておったのじゃな」

    またもや深い息を吐くドクターは複雑そうな顔をした。それはアタシも同じで、決して手放しで喜べるわけもない。

「ーーーー断ったら、どうなりますか?」

    アタシがそう言えば、旦那様は驚くこともなく「そうか」と言った。

「国王は、王族の血筋を他国へ放り出すことは大罪だとおっしゃった。自分の過ちを正すためにもぜひ引き取りたいと言っていたが……。もし断るなら元から無かったことにするしかない。とも言われた」

    その国では濃い血筋を残すために血縁者同士で婚姻を繰り返し、この赤い髪と紫の瞳を受け継いでいったらしい。他国で子供を作り血を薄めるなど大罪に当たるのだとか。まさか気まぐれな過ちで自分がその大罪を背負うことになるとは思いもしなかったのだろう。
    だから今からでも引き取り、側室との間に出来た子供だが遺伝子の変異で色が薄く体が弱かったのでいままで隠して療養していたことにしようとしているらしい。
    秘密を守り王子となるなら、贅沢な暮らしに婚約者も用意してやる。しかし断るならどこかで子を成す前に始末する。そう言われたのだそうだ。

「随分と勝手な言い分なのね」

    ついきつく拳を握りしめる。爪が食い込んで血が滲んだ。

「ワシもそう思う。濃い血の婚姻を繰り返しすぎると血が狂うと聞いたことがあるが、まさにそんな感じだ。だがそれでも他国の王族からの言葉を無視するわけにもいかん。さて、どうやってライルのことを諦めてもらうかだが……。なぁ、ロナウド?」

「そうですねぇ。我が公爵家の有能な執事を簡単に渡すわけにはいきませんからね」

「えっ……。旦那様、ロナウドさん、それって」

    ふたりの言葉に驚くと、旦那様はきょとんとした顔をした。厳つい顔の旦那様だがその表情はちょっとだけセリィナ様に似てなくもないな。なんて思ってしまう。

「何を驚いているんだ?お前がいなくなったらセリィナが悲しむだろうが」

「セリィナお嬢様を悲しませるなんて許しませんよ」

    このふたりの水準はあくまでもセリィナがどう思うかである。だが、ライルがセリィナにとって大切な人間であると理解している以上、ライルを渡すなんて選択肢など存在しないのであった。

「ふぉっふぉっ。なかなか良い職場じゃな、ライル」

    白髭を撫でながらやっとドクターが笑みを浮かべると、ライルは拳をほどき、にっこりと微笑んだのだった。

「ええ、最高の場所よ」と。
    
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