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14:悪役令嬢と真実

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「確かにセリィナが産まれた時に、赤ん坊を連れ去ろうとした不届き者はいましたわ。でもすぐ捕まったはずですわ」

    ローゼお姉様は王子に塩を投げつけるのをやめて(たぶん塩がなくなった)手についた塩の欠片を払いながらため息を吐く。

「何をどう勘違いしたら、あんなことしてお父様が自分を愛人にしてくれるなんて思ったのかしらね?あの侍女は」

    マリーお姉様も同調して頷くと、人差し指を頬にあてながら首を傾げた。

「本当に。それにしてもあの侍女……生きていたのね?あの時わたくしたちはまだ子供だったけれどお父様の怒り具合を見て絶対始末されると思っていたのに……その辺はどうなの?お父様」

    呆れたように話していた双子の姉が言葉を投げ掛けた先にいたのはアバーライン公爵とその妻であるアバーライン公爵夫人……お父様とお母様、その後ろには老執事のロナウドもいる。
    その三人の登場に会場内にいる人間がざわりと揺れた。

「……まったく、とんだ茶番だな」

「ええ、本当に。あんな知らせが来た時はなんの冗談かと思いましたけれどまさか本気だったなんて」

「ちなみに馬鹿げたことを言って公爵家に恩を売ろうとしてきた男爵家は後程きっちりと訴えさせて頂きますので、あしからずに」

    ロナウドがペコリと頭を下げるとお父様とお母様がまっすぐに私の前まで歩いてくるが、お姉様たちと同じく王子とヒロインはガン無視されていた。

「セリィナ、大丈夫かい?」

「セリィナちゃん、怖かったでしょうに……よく頑張ったわね」

    優しい眼差しがさらに増え、それまであんなに怖かったはずのお父様とお母様の手が温かいと感じられる。

    なんだか不思議だった。ヒロインの存在が発覚すれば必ず酷い目に合うと……家族から蔑まされると本当に信じていたから。まさか心配されるなんて思ってもいなかったけれど……少しだけ心が軽くなった気がした。

    しかし私がちょっぴり安心しそうになった時、ピリッと張りつめたような声が耳に届いた。

「ライ……ラインハルト殿、後でじっくりお話があります。わかってますね?」

「……はぁい」

    あれ?なんでロナウドはライルに詰め寄ってるの?それに笑顔だけどなんか怖い……。ライルも冷汗かいて目を反らしてるし……もしかしてライルがロナウドに責められてる?!

「ま、待ってロナウド!ライ……ラインハルトは何も悪くないの!私を……私なんかを守ってくれて!だから、私が悪いの!私は平民の子供らしくて、あそこにいるヒロ……フィ、フィリアさんが本当のアバーライン家の娘みたいで!だから、だから……!きっと私が全部悪いの!」

    私は思わずライルの前に飛び出して詰め寄るロナウドに抗議してしまった。こんな偽物の公爵令嬢の意見なんか鼻で笑われてしまうかもしれないが、私を守ってくれたライルが責められるのだけは我慢できなかったのだ。

「お父様、お母様も!私はどんな罰でも受けます!だからこの人を罰するのだけはやめてください……!お願いします!」

「……セリィナ」

    安心なんかしてる場合じゃなかった。もしかしたら悪役令嬢とは違う運命があるかもなんて考えたりするから余計に酷いことになるんだと後悔の念があふれでる。

    私が断罪されるのはしょうがない。結局運命からは逃げられなかったんだと諦めるしかないからだ。でも、今まで私の支えになってくれていたライルが責められたり罰せられるのだけは絶対嫌だった。

「セリィナ、よく聞きなさい」

「は、はい……」

    お父様の両手が私の肩をつかむ。さっきは優し気に見えたが今の厳しい表情を見て背筋に冷たい汗が流れた。

「確かにお前が産まれた時、赤ん坊が連れ去られる事件があった。だが……」

「ほら、やっぱり!!」

    お父様がさらに言葉を続ける前にヒロインが塩を払いのけがら私を指差す。

「あんたは薄汚い平民の子供で、わたしが本物の公爵令嬢なのよ!!さぁ、お父様!わたしを見て!わたしこそがお父様の娘よ!!」

    ヒロインが両手を広げて前に出る。しかし、お父様は自分の娘であるはずのヒロインに氷のように冷たい視線を向けこう言ったのだ。

「……その日、赤ん坊はふたりいた。ひとりはセリィナ。そしてもうひとりは同じ日に産まれたセリィナの乳母になる予定だった者の子供だ。
    しかしふたりが乳姉妹として初対面する前に乳母の子供が拐われたのだ。たまたま先にセリィナの部屋に寝かされていた乳母の子供がな」と……。







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