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第四話 二人の関係
誘い
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◆◇
高校二年生の夏休みが始まった。周りのクラスメイトたちはみな一様に通っている塾の夏季講習やら家族旅行やらに出かけるらしい。塾に行っておらず、親の仕事が忙しい私はほとんどの時間、家の中でクーラーをガンガンにつけて過ごしていた。
やることがない。
まったりと読書したり宿題をしたりするのは嫌いじゃない。でも、せっかくの夏休みなのに何にも予定がないなんて! このままじゃ部屋の中で干からびそうだ……と日々唸っていたのだが、そこに恵みのような電話がかかってきた。
『あ、日和?』
スマホの向こうから聞こえてきたのは、だらだらと部屋で無為な時間を送っている私とは反対に元気な穂花の声だった。
「うん。どうしたの?」
『明日の夜なんだけど、ほら、水瀬川で花火大会があるじゃん。あれ行こうよ』
「明日、だったっけ」
『そうだよ。大丈夫? 寝ぼけてない? 去年も行ったでしょ』
水瀬川というのは、ここらで一番大きな流域を誇る河川で、毎年八月頭には花火大会が行われている。多くの観覧客でごった返す花火大会は、間違いなく夏の風物詩だ。露店もひしめくようにして出るので、お祭りとしてはかなり大規模で夏休み気分を味わえる。
すっかり忘れていた花火大会の存在に、一気に心が浮き立った。
「そうだった。この時期だったね。分かった、明日一緒に行こう」
『よっし。永遠も誘ったけどいいよね?』
「え、そうなの?」
神林の名前が出てきてドクンと心臓が跳ねた。
『そうそう。テスト勉強の時は何も言わずに呼んじゃったから、今度は事前に言っとく! じゃあ18時に駅前ね』
お祭りを前にしてテンションが上がっているのか、穂花はグイグイと話したいことだけ話し、電話を切った。いつも通りの穂花の勢いに圧倒されたままプツと切れてしまったスマホを握ったまま、私は考える。
明日のお祭りに、神林が来る。
終業式の日、久しぶりに彼と言葉を交わしたのを思い出す。言いたいことなら山ほどあったのに、不意に話しかけられた私は、屋上の思い出を共有できないことにやるせなさが込み上げた。
心臓の鼓動が、しばらくの間止まなかった。穂花と二人だったら純粋に楽しみだった夏祭りが、一気に別の色を帯びてくる。
「神林とお祭りか……」
二人きりというわけでもないのに、男の子と夏祭りに行くという経験がない私にとってはあまりに新鮮すぎる。
夏休み脳でぼうっとしていた頭が一気に冴え渡り、私はクローゼットを開け、明日着ていく服を探し始めるのであった。
高校二年生の夏休みが始まった。周りのクラスメイトたちはみな一様に通っている塾の夏季講習やら家族旅行やらに出かけるらしい。塾に行っておらず、親の仕事が忙しい私はほとんどの時間、家の中でクーラーをガンガンにつけて過ごしていた。
やることがない。
まったりと読書したり宿題をしたりするのは嫌いじゃない。でも、せっかくの夏休みなのに何にも予定がないなんて! このままじゃ部屋の中で干からびそうだ……と日々唸っていたのだが、そこに恵みのような電話がかかってきた。
『あ、日和?』
スマホの向こうから聞こえてきたのは、だらだらと部屋で無為な時間を送っている私とは反対に元気な穂花の声だった。
「うん。どうしたの?」
『明日の夜なんだけど、ほら、水瀬川で花火大会があるじゃん。あれ行こうよ』
「明日、だったっけ」
『そうだよ。大丈夫? 寝ぼけてない? 去年も行ったでしょ』
水瀬川というのは、ここらで一番大きな流域を誇る河川で、毎年八月頭には花火大会が行われている。多くの観覧客でごった返す花火大会は、間違いなく夏の風物詩だ。露店もひしめくようにして出るので、お祭りとしてはかなり大規模で夏休み気分を味わえる。
すっかり忘れていた花火大会の存在に、一気に心が浮き立った。
「そうだった。この時期だったね。分かった、明日一緒に行こう」
『よっし。永遠も誘ったけどいいよね?』
「え、そうなの?」
神林の名前が出てきてドクンと心臓が跳ねた。
『そうそう。テスト勉強の時は何も言わずに呼んじゃったから、今度は事前に言っとく! じゃあ18時に駅前ね』
お祭りを前にしてテンションが上がっているのか、穂花はグイグイと話したいことだけ話し、電話を切った。いつも通りの穂花の勢いに圧倒されたままプツと切れてしまったスマホを握ったまま、私は考える。
明日のお祭りに、神林が来る。
終業式の日、久しぶりに彼と言葉を交わしたのを思い出す。言いたいことなら山ほどあったのに、不意に話しかけられた私は、屋上の思い出を共有できないことにやるせなさが込み上げた。
心臓の鼓動が、しばらくの間止まなかった。穂花と二人だったら純粋に楽しみだった夏祭りが、一気に別の色を帯びてくる。
「神林とお祭りか……」
二人きりというわけでもないのに、男の子と夏祭りに行くという経験がない私にとってはあまりに新鮮すぎる。
夏休み脳でぼうっとしていた頭が一気に冴え渡り、私はクローゼットを開け、明日着ていく服を探し始めるのであった。
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