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第一話 捨てちゃえばいい
不可解な現象
しおりを挟む最初に違和感を覚えたのは、二年二組の教室の扉を開けた時だった。
具体的に何がおかしい、と言語化することができない。けれど、私が教室に入ろうとした瞬間に向けられたクラスメイトからの視線に、敵意のようなものが込められていると感じたのだ。いや、でもこれまで他人から恨まれるような目立った人生を送ってこなかった私に、そんな敵意が集まるはずがない。何かの間違いだろう——と漂う異様な空気を押し切り、窓際の一番後ろの自分の席まで歩いて行こうとした、その時だった。
「あれ……?」
おかしい。
うちのクラスは三十六人クラスで、縦六列、横六列に机が並んでいるはずだ。それなのに、窓際の席だけ縦五列しかない。
クラスのほとんどの人が机の横に何かしら物を引っ掛けているので、すぐに分かった。
なくなっているのが、自分の席だということが。
何かの間違いだろうか。それとも、例えば廊下の高いところに掲示物を貼るのに私の机を使ったとか……? でもそれならば普通、廊下側の机を使うだろう。ぱっと見、教室のどこかに私の机が移動させられたなんてこともなさそう。つまり二年二組のこの教室には現状、三十五台しか机がないということだ。
「佐野さん」
机の行方を知るべく、私は窓際の一番前の席に座っていた佐野さんに声をかける。彼女の周りには二人の女子がいて、三人で喋っているところだった。
三人が一斉に私の方を見る。ドキッと心臓が鳴った。三人の目が、検察官に似た鋭さだったから。悪いことをした人の気分を味わった。
「……あの、私の机知らない? この列の一番後ろなんだけど」
「後ろの席?」
佐野さんは、首を後ろに回して私が指差す方向を見た。どうやら、今の今まで席が一つなくなっていることにさえ気がつかなかったのだろう。それもそうだ。私だってもし自分の席が一番前だったら、わざわざ後ろの席なんて気にしないだろう。
「さあ、どうしたんだろ」
佐野さんは素っ気なく答えるだけで、三人のお喋りに戻った。
彼女はもともとさっぱりした性格なのだが、この時の彼女の反応はいささか不自然にも感じた。サバサバした人とはいえ、困っている人のことを無視するような人とは思えなかったからだ。
その後も、私は何人かに私の机の行方について尋ねた。しかし。
「えー知らない」
「先生が動かしたんじゃない?」
「あたしが来たときにはなくなってたかも」
と、誰も真相を知らないようだ。
私は、彼女たちの反応に「嘘」を感じた。ちょっとだけ目を逸らして、私の方は見ないようにしていたから。
「そっか……」
ひとまず、担任の雪村先生が来たら聞いてみよう、と教室の後ろの端っこに立っていた。気のせいかもしれないが、時折私の方をチラリと見てくるクラスメイトの視線を感じた。もともと私はクラスの中では地味な存在で、わざわざ話しかけてくる人もおらず、立ちっぱなしで教室にいるのは居心地が悪い。
永遠とも感じられる時間を過ごし、HRが始まる8時45分になりようやく先生が現れた。
「はいはい、席に座れー」
ざわついていた教室も、先生が現れると途端にシンと静まり返る。子供の心理なんて単純だ。
雪村先生、通称ゆっきーは二十九歳と若手の男性教師。社会科なのに、筋トレが好きで本当は体育科になりたかったらしい。白くて細い体つきなのに、筋肉の話をしだすと止まらないから、そのアンバランスさが生徒にはウケている(と本人は思っている)。
みんなが自分の席に戻るなか、私はそのまま端っこに突っ立っていた。
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