16 / 16
第十六話 0キロメートル
しおりを挟む「この町って不思議なんだ。竜太刀岬がそばにあって、岬の岩に波がぶつかっていくのを、私はいつも想像してしまうの。実際に目にしてしまうと自然ってなんて怖いんだろうって思う。でも私も、あんなふうに全力でぶつかってみたい。自分が好きだと思う人に、まっすぐ……」
蓮がくれたのは、本当の心を隠さずに見せる強さ。
俊がくれたのは、たとえ道に迷っても絶対にそばにあると信じられる温もり。
どっちも大切な、宝物だ。
「俊がずっと『がんばれ』って言ってくれたこと、言ってくれない時も『がんばれ』って思ってくれていたこと、私はすごく嬉しかった。心のいちばん奥深くがあったかくなって。遅くなったけど、やっと気づいたの。私は俊のことが好きだって」
私が言葉を発すれば発するほど、俊の瞳に涙が溜まっていくのがわかった。雲がかっていた空から、風に乗って雲が流れ、晴れの空が広がる。日の光は俊の瞳に反射して、宝石みたいだと思った。
「俺、凛のことを、諦められなかった……。何度も、もう連絡をするのはやめようって思ったけど、できなくて。格好悪いよな。男がウジウジ一人の女を思い続けるなんて。でも凛は俺にとってたった一人の大切な人なんだ。だから、だから……今すごく、嬉しい」
俊の瞳から、大粒の宝石がこぼれ落ちるのを見て、私もつられて込み上げてくるものを抑えられなかった。二人して嗚咽を漏らすように泣き続け、そして俊が私の身体に触れた。
二人の距離は、もうゼロキロメートルだ。
「実は俺さっき……蓮に会ったんだ」
「え、蓮に? いつ? どこで?」
ひとしきり涙が出て落ち着いた頃に、俊が信じられないことを言った。
「凛の通っていた高校の前で。なんか必死な形相で校門から飛び出してきた男がいて。なんとなく、凛が話していた蓮ってやつの特徴に似ていて。だから、違うかもって思ったけど声かけたんだ。『もしかして、蓮、ですか』って」
今度は私の目がどんどん見開かれていくのを感じた。
俊と蓮が、言葉を交わしていたなんて。そんなこと、さっき蓮と話した時には何も言っていなかった。蓮は私に、あえて俊の話をしなかったのだ。
「そしたらあいつ、なんて言ったと思う? 『俺、いまから風間さんに告白してきます』ってよ。初対面なのにいきなりそんなこと言われて俺は拍子抜けしちまって。でもその後にちゃんと、『風間さんを支えてくれてありがとう』って頭を下げてきたんだ。だから俺も、『凛のそばにいてくれてありがとう』って言って、それですぐに別れた。颯爽と走っていくあいつを見て、俺は高校生の凛のそばにいたのが蓮でよかったって、思ったんだ」
きらきら光る宝石が、この場所でいくつも手に入った。
蓮との撮影の日々も、俊と想いが結び合ったことも、全部私の宝物だ。
意気地なしだった私を変えてくれたのは、この竜太刀の町と、二人の男の子たちだ。
「ありがとう、俊。私はこの場所でいろんなものから、卒業できた気がする。新しい一歩は、俊と一緒に歩いてく。だからこれからも、よろしくお願いします!」
さぶん。
遠くて聞こえないはずの波の音が、想像だけも耳の奥で鳴り響いている。
もう痛くない。岩に波がぶつかっても、私は自分の足で立っていられる。
蓮と一緒に駆け抜けた青春の思い出を胸に、俊と繋がれた奇跡を、ずっと大事に抱えて。
【終わり】
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
あの虹をもう一度 ~アカシック・ギフト・ストーリー~
花房こはる
青春
「アカシック・ギフト・ストーリー」シリーズ第8弾。
これは、実際の人の過去世(前世)を一つのストーリーとして綴った物語です。
多忙の父母の代わりに連は乳母に育てられた。その乳母も怪我がもとで田舎に帰ってしまう。
数年後、学校の長期休みを期に乳母の田舎へと向かう。
そこで出会った少年ジオと共に今まで経験したことのないたくさんのことを学ぶ。
歳月は流れ、いつしかそのジオとも連絡がつかなくなり・・・。
【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】
猫都299
青春
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。
「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」
秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。
※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記)
※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記)
※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベルに投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
恋の消失パラドックス
葉方萌生
青春
平坦な日常に、インキャな私。
GWが明け、学校に着くとなにやらおかしな雰囲気が漂っている。
私は今日から、”ハブられ女子”なのか——。
なんともない日々が一変、「消えたい」「消したい」と願うことが増えた。
そんなある日スマホの画面にインストールされた、不思議なアプリ。
どうやらこのアプリを使えば、「消したいと願ったものを消すことができる」らしいが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる