岩にくだけて散らないで

葉方萌生

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第一話 新しい場所

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 初めて目にする竜太刀りゅうたちの岬は、吹き荒ぶ風がゴツゴツとした岩肌に荒れた波をぶつけ、自然の脅威を見せつけてきた。なんて荒々しくて恐ろしいんだろう。風の強いこんな日に引っ越してきたのが間違いだったのかもしれない。もっと、澄んだ空の下で麗かな春の日差しが降り注ぐ日にやって来れば良かった。お父さんにそう文句を言いたいけれど、お父さんもたぶん、こんな日に縁もゆかりもない町に転勤することになるなんて、思ってもみなかったんだろう。

「すごいわねえ。あんなところに行ったら、すぐに海に飲み込まれちゃうわ」

 お母さんは岬の波打ち際を眺めて、呑気な声であくびまでしていた。ここまで来るのにかなり長旅だったか、眠いのは私も同じだ。でも、あんなに恐ろしく荒れた海を見てあくびを出せるほど、私の心は凪いではいない。
 高知県の南西部に位置するこの竜太刀という町は、人口三千人ほどの小さな町だ。太平洋を見渡すことのできる竜太刀岬はちょっとした観光地としても有名で、近くにお遍路参りのお寺も存在している。ここに来る前、母から「有名な町だから大丈夫よ~」と、これまたのほんとした口調で言われたが、何が大丈夫なのか、いまだに私には分からない。
 東京からいきなりこんな田舎の町に引っ越してきて、来月から高校生になる私が、大丈夫なはずがない。

「入学の準備とかあるから、りんも学校を見に行ってきなさい」

 引越しの翌日、お父さんが朝早くに仕事先の人に挨拶に出掛けに行ってから、母が私の背中を押した。まだ家の中には段ボールが、整理のつかない私の心の中みたいに散らかっていた。

「はいはい」

 気のない二つ返事をした私は、中学校の制服を着て新しい家から飛び出した。どうして制服なのかと聞かれたら、卒業したばかりの中学での思い出が、頭に染み付いて離れないせいだろう。それに紺色のセーラー服は、まだ肌寒い三月のこの季節にぴったりだ。
 中学校にそれほどの思い入れがあったわけではない。ただ、思い入れのある人は私のそばにいた。通っていたのは普通の公立中学校だ。小学校の友達のほとんどが同じ学校に進学した。その中に、しゅんもいた。
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