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やればいいんだろ
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***
「なあ、ストライキってどういうことだと思う?」
食堂でクラスの友人である櫂、帆夏、未来と一緒にカレーオムライスを口に運んでいた祐樹は、純粋な気持ちで尋ねた。
「ストライキ? それって、仕事サボるやつじゃね?」
同じサッカー部に所属している櫂はあっけらかんとした口調で答える。最近坊主にした彼は、サッカー部というより野球部にしか見えない。クラスでもガキ大将っぽい振る舞いをするので、たまにみんなからジャイアンと呼ばれる。体格はすらっとしてるので、細いジャイアン。ちんちくりんなあだ名だ。
ストライキ=サボリだという方程式は、なんとなく思い浮かんでいたことだ。でも、祐樹の中で何かが腑に落ちない。俺の母親は、そう簡単に仕事をサボるだなんて言い出す人だろうか、と。実際、祐樹が生まれてからずっと、母の美智子は専業主婦という自分の職務を真っ当し続けた。祐樹は、美智子の手のひらや指先に赤い湿疹ができているのを知っている。何年も水場の仕事をして荒れてしまった証拠だ。きっと、洗剤に触れると痛いだろう。それにもかかわらず、今も我慢してお風呂掃除や皿洗いなんかを淡々とこなしているのだ。そう、昨日までは——。
「サボるのとは違うって、うちのお父さんが言ってたよ」
帆夏の一声に、祐樹は「そうなの?」と身を乗り出す。
櫂は「えー、違うのか」とあまり興味なさそうな口調で返す。未来は「私もそう思う」と神妙に頷いた。
「なんか、三年前くらいにお父さんの会社でストライキが起こったんだって。その時、うちのお父さんも会社に行かなかったもん。でも、サボるというよりは、何かを訴えようとしてたみたい。私は中学生だったし、あんまりお父さんのこと気にしてなかったから、結局なんだったのかよく分からないけど」
帆夏の話は全体的にふんわりとしていて、いまいちピンと来なかった。櫂が「結局サボりじゃん」とツッコミを入れる。帆夏は「えっと、だからそうじゃなくて」と口籠る。帆夏は正直あまり勉強ができない。だからとは言い切れないが、自分の考えを的確に伝えるのが苦手なようだ。
「帆夏のお父さんはきっと、労働条件の改善を訴えてたんじゃないかな? 働く人がみんなで一致団結して休むことで、上の人に自分たちの意見を聞いてもらう——そういう手法だって、塾の先生が言ってたよ」
「へえ、なるほど」
未来の話はまとまっていて、ようやくストライキの本当の意味が理解できた。櫂は「そうなの!?」と目から鱗状態だ。言いたいことを代弁してもらった帆夏は、両手を合わせてぺこぺこと未来に頭を下げている。
「それで、なんで祐樹は突然ストライキの話なんて聞いてきたの?」
未来が至極真っ当な疑問を口にした。祐樹は、家庭の事情をみんなに話すかどうか迷った。でも、ストライキの話を自分から聞いておいて、そこで黙るのもみんなに失礼だと思い返す。
「それがさあ。うちでも起こったんだよ。ストライキ。母親が今朝、『今日から一ヶ月間、家事をストライキします』って言うんだ。おかげで今日、こうして俺も食堂の飯を食べているというわけ」
祐樹はいつもこの四人でお昼ご飯を食べているが、普段は祐樹だけがお弁当で、他の三人は食堂ご飯だ。これから先、一ヶ月間お弁当なしで学校に行くことになれば、自分のお小遣いはすべて食費に消えてしまう……。ああ、なんて切ない話なんだと祐樹は唸った。
「そういうことだったの。お母さん、相当疲れてるんじゃない? それか、家族に訴えたいことがあるとか」
未来の冷静な分析に、自分のお弁当のことしか考えていなかった祐樹は絶句する。
「訴えたいこと……? それって、たとえばどんな?」
「そりゃ、もっと家事を手伝ってほしいとか、休暇がほしいとか。ずっと一人で家事してるなら、それぐらい思うんじゃない?」
もはや一度専業主婦になった経験でもあるのか、美智子の気持ちをすんなりと推測してみせる未来は心理学者のようだ。
「確かにー。私も主婦だったら休みたいって思うかも」
もう一人の女性陣である帆夏が、躊躇いなくそう口にした。祐樹は助け舟を求めるようにして櫂の顔をじっと見つめた。
「まあそりゃそうだよなー。俺んとこは、親父が休日にせっせと家事を代わって、なんとか母さんのご機嫌を取ってるよ。それぐらいしないと、母さんすぐ拗ねるからさあ」
なんと、櫂までも母親の肩を持つではないか!
これにはさすがに鈍感な祐樹も、みんなの主張が世論であることを認めざるを得ない。
「まじか……。じゃあ、母さんは家事に疲れて、俺たちに怒ってるかもしれないということか……」
項垂れてそう口にすると、未来が「そうかも」とすんなり頷いた。
「でもさ、花村のお母さん、だいぶ親切じゃない? だって、一ヶ月でストライキやめるって宣言してくれてるじゃん。無期限の方が辛いよ」
続けて未来の口から出て来た事実に、祐樹ははっとさせられる。
そうか……確かに、母さんのストライキには期間の定めがある。となれば、一ヶ月間我慢して、お小遣いで食堂ご飯を食べれば終わるのか……! と希望が見えてきたところで、帆夏が口を開く。
「一ヶ月なら、その一ヶ月くらい花村も家事、頑張ってみたらいいじゃん?」
ガツン、と頭に衝撃をくらった時のように、祐樹はその場で固まった。
「家事を、俺が……?」
「そう。だってそれが、お母さんからのメッセージってことでしょ」
「……」
帆夏の言うことは間違っていない。祐樹は家族の中で一番家のことに責任感がなかった。たとえ母親の手伝いをするにしても、真っ先に手を挙げるのは姉の愛梨だろう、と。
だが、そんな祐樹の甘い考えを、帆夏のはいとも簡単に崩してみせた。
「だなー。だって、もしお前が家事を覚えなかったら、ストライキ期間延長とか言われるかもしれないぞ」
なぜか女子勢に回っている櫂が神妙にそう言った。ここまでみんなに諭されてしまった以上、祐樹は家事をやらずにはいられないだろう。
「うう……分かったよ。やればいいんだろ、家事」
本当は友人たちに諭される前から、美智子の手伝いをやらなければならないことは、頭では分かっていた。でも結局は「高校生の自分は勉強と部活で忙しい」と理由をつけて、愛梨に役割を押し付けようとしていたことは否めない。
美智子はたぶん、そういう自分の怠惰な気持ちに気づいて、喝を入れたいのだろう。
一ヶ月間、家事をストライキすると宣言した美智子の真意はきっと、末っ子の俺が自立することだと思った。
「なあ、ストライキってどういうことだと思う?」
食堂でクラスの友人である櫂、帆夏、未来と一緒にカレーオムライスを口に運んでいた祐樹は、純粋な気持ちで尋ねた。
「ストライキ? それって、仕事サボるやつじゃね?」
同じサッカー部に所属している櫂はあっけらかんとした口調で答える。最近坊主にした彼は、サッカー部というより野球部にしか見えない。クラスでもガキ大将っぽい振る舞いをするので、たまにみんなからジャイアンと呼ばれる。体格はすらっとしてるので、細いジャイアン。ちんちくりんなあだ名だ。
ストライキ=サボリだという方程式は、なんとなく思い浮かんでいたことだ。でも、祐樹の中で何かが腑に落ちない。俺の母親は、そう簡単に仕事をサボるだなんて言い出す人だろうか、と。実際、祐樹が生まれてからずっと、母の美智子は専業主婦という自分の職務を真っ当し続けた。祐樹は、美智子の手のひらや指先に赤い湿疹ができているのを知っている。何年も水場の仕事をして荒れてしまった証拠だ。きっと、洗剤に触れると痛いだろう。それにもかかわらず、今も我慢してお風呂掃除や皿洗いなんかを淡々とこなしているのだ。そう、昨日までは——。
「サボるのとは違うって、うちのお父さんが言ってたよ」
帆夏の一声に、祐樹は「そうなの?」と身を乗り出す。
櫂は「えー、違うのか」とあまり興味なさそうな口調で返す。未来は「私もそう思う」と神妙に頷いた。
「なんか、三年前くらいにお父さんの会社でストライキが起こったんだって。その時、うちのお父さんも会社に行かなかったもん。でも、サボるというよりは、何かを訴えようとしてたみたい。私は中学生だったし、あんまりお父さんのこと気にしてなかったから、結局なんだったのかよく分からないけど」
帆夏の話は全体的にふんわりとしていて、いまいちピンと来なかった。櫂が「結局サボりじゃん」とツッコミを入れる。帆夏は「えっと、だからそうじゃなくて」と口籠る。帆夏は正直あまり勉強ができない。だからとは言い切れないが、自分の考えを的確に伝えるのが苦手なようだ。
「帆夏のお父さんはきっと、労働条件の改善を訴えてたんじゃないかな? 働く人がみんなで一致団結して休むことで、上の人に自分たちの意見を聞いてもらう——そういう手法だって、塾の先生が言ってたよ」
「へえ、なるほど」
未来の話はまとまっていて、ようやくストライキの本当の意味が理解できた。櫂は「そうなの!?」と目から鱗状態だ。言いたいことを代弁してもらった帆夏は、両手を合わせてぺこぺこと未来に頭を下げている。
「それで、なんで祐樹は突然ストライキの話なんて聞いてきたの?」
未来が至極真っ当な疑問を口にした。祐樹は、家庭の事情をみんなに話すかどうか迷った。でも、ストライキの話を自分から聞いておいて、そこで黙るのもみんなに失礼だと思い返す。
「それがさあ。うちでも起こったんだよ。ストライキ。母親が今朝、『今日から一ヶ月間、家事をストライキします』って言うんだ。おかげで今日、こうして俺も食堂の飯を食べているというわけ」
祐樹はいつもこの四人でお昼ご飯を食べているが、普段は祐樹だけがお弁当で、他の三人は食堂ご飯だ。これから先、一ヶ月間お弁当なしで学校に行くことになれば、自分のお小遣いはすべて食費に消えてしまう……。ああ、なんて切ない話なんだと祐樹は唸った。
「そういうことだったの。お母さん、相当疲れてるんじゃない? それか、家族に訴えたいことがあるとか」
未来の冷静な分析に、自分のお弁当のことしか考えていなかった祐樹は絶句する。
「訴えたいこと……? それって、たとえばどんな?」
「そりゃ、もっと家事を手伝ってほしいとか、休暇がほしいとか。ずっと一人で家事してるなら、それぐらい思うんじゃない?」
もはや一度専業主婦になった経験でもあるのか、美智子の気持ちをすんなりと推測してみせる未来は心理学者のようだ。
「確かにー。私も主婦だったら休みたいって思うかも」
もう一人の女性陣である帆夏が、躊躇いなくそう口にした。祐樹は助け舟を求めるようにして櫂の顔をじっと見つめた。
「まあそりゃそうだよなー。俺んとこは、親父が休日にせっせと家事を代わって、なんとか母さんのご機嫌を取ってるよ。それぐらいしないと、母さんすぐ拗ねるからさあ」
なんと、櫂までも母親の肩を持つではないか!
これにはさすがに鈍感な祐樹も、みんなの主張が世論であることを認めざるを得ない。
「まじか……。じゃあ、母さんは家事に疲れて、俺たちに怒ってるかもしれないということか……」
項垂れてそう口にすると、未来が「そうかも」とすんなり頷いた。
「でもさ、花村のお母さん、だいぶ親切じゃない? だって、一ヶ月でストライキやめるって宣言してくれてるじゃん。無期限の方が辛いよ」
続けて未来の口から出て来た事実に、祐樹ははっとさせられる。
そうか……確かに、母さんのストライキには期間の定めがある。となれば、一ヶ月間我慢して、お小遣いで食堂ご飯を食べれば終わるのか……! と希望が見えてきたところで、帆夏が口を開く。
「一ヶ月なら、その一ヶ月くらい花村も家事、頑張ってみたらいいじゃん?」
ガツン、と頭に衝撃をくらった時のように、祐樹はその場で固まった。
「家事を、俺が……?」
「そう。だってそれが、お母さんからのメッセージってことでしょ」
「……」
帆夏の言うことは間違っていない。祐樹は家族の中で一番家のことに責任感がなかった。たとえ母親の手伝いをするにしても、真っ先に手を挙げるのは姉の愛梨だろう、と。
だが、そんな祐樹の甘い考えを、帆夏のはいとも簡単に崩してみせた。
「だなー。だって、もしお前が家事を覚えなかったら、ストライキ期間延長とか言われるかもしれないぞ」
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本当は友人たちに諭される前から、美智子の手伝いをやらなければならないことは、頭では分かっていた。でも結局は「高校生の自分は勉強と部活で忙しい」と理由をつけて、愛梨に役割を押し付けようとしていたことは否めない。
美智子はたぶん、そういう自分の怠惰な気持ちに気づいて、喝を入れたいのだろう。
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