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第三話 夢を追いたくて就職に悩むあなたへ
意外な知り合い
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なんとしても私と話がしたい、お願いだから聞いてくれ。という必死さが伝わってくる。
「分かりました。その前に、どうして私の名前を知っていたか、教えてくれませんか?」
そう。
この男性客は、初めて会う私のことを知っていたのだ。
名前だけ知っているのか、私という人物を知っていたのか。後者だったら驚くけれど。
「そうでした。実はあなたを知っていたのは、僕の知り合いからあなたのことを聞いたからなんです」
返って来た答えは、予想外のものだった。
まだ京都和み堂でアルバイトを始めたばかりの私は、あまり友人にここで働いていることを話していなかったから。
だから、彼の言う「知り合い」が誰なのか、心当たりがなかった。
「失礼ですが、そのお知り合いの方とはどなたでしょう」
店員であるシフトの時間は終わったものの、店員口調で訊いてしまう。
「藤野咲良さんです」
男性の口から出て来た名前に、これまたびっくりしてしまう私。
咲良といえば、数週間前に京都和み堂書店を訪れたお客さんで、歳が近いこともあり今では私の友人だ。今だってスマホを開けば彼女からのメッセージが来ているに違いない。
「え、咲良ちゃん? それはまた……」
男性客と思わぬところで繋がりがあると分かると、急に親近感が湧いて男性のことをまじまじと見つめてしまう。
「はい。僕は藤野さんと同じ大学の同じ学部なんです。受ける授業も同じものが多くて、テスト前やレポート提出前にはよく二人で勉強してました」
「ああ、そうだったんですね」
咲良と同じ学部ならば、彼も大学三回生なんだろう。授業も一緒に受けるぐらいならば、咲良とは結構仲が良いのだろうか。私はLINEで咲良と本の話ばかりしているので、お互いの交友関係までは知らなかった。
「それで、彼女から妙なことを聞いて、気になって京都和み堂書店に来てみたというわけです」
「妙なこと?」
この書店で”妙なこと“なんて数え切れないほどあるので、私は彼が何のことを言っているのか分からない。
「はい。菜花さんという店員さんが、“人生相談に乗ってくれる”という話です」
「え?」
男性の口から出て来た「人生相談」という言葉に、私の顔面はもう、絵に描いたように驚きで阿呆づらになっていたことだろう。頭の中でひょっとこのお面が浮かんで消えた。
「藤野さんがそう言ってました」
「はあ……」
確かにここ最近は、サラリーマンの岡本といい、女子大生の咲良といい、この場所で他人の悩みを聞くことが多くなった。でもそれは、二人がたまたま日常生活に悩みを抱えていて、たまたまタイミング良くこの書店を訪れたからだ。それを“人生相談”だなんて。 咲良のやつめ。大袈裟にもほどがある。
「あのですね、それは誤解です」
男性の勘違いを訂正するために、私はゆっくりと、彼の目を見て言った。
「確かに私はここで咲良ちゃんの悩みを聞いたけれど……。それは、本当に偶然のことなんです。偶然、彼女がすっごい意気消沈してこの店を訪れたから、見ていられなくなっただけで。だから、そのときだけなの。なんとなく咲良ちゃんの話を聞いただけで、別に誰でも彼でも話を聞くというわけでは……」
私は彼に、半分本当で半分嘘の話をした。
悩みを聞いたのは咲良だけじゃなくて岡本のときもそうだったこと。
なんとなく話を聞いたのではなく、本気で彼女の力になりたいと思ったこと。
しかしそれらの真実は口にしなかった。
「そうなんですか? でも、藤野さんはおすすめの小説を紹介されて元気が出たって」
「それは……」
その通りだ。
自分でも本気でおすすめした小説で咲良がここまで立ち直ってくれるとは思っていなかったが、実際彼女は唯川恵先生の『さよならをするために』を読んで気持ちがすっきりしたと言ってくれた。
岡本のときもそうだ。自分の言うことを聞いてくれないという後輩の育て方について悩んでいた彼に、ビジネスとは全く無関係な小説を渡し、結果的に彼に働き方のヒントを与えることができたのだ。
「分かりました。その前に、どうして私の名前を知っていたか、教えてくれませんか?」
そう。
この男性客は、初めて会う私のことを知っていたのだ。
名前だけ知っているのか、私という人物を知っていたのか。後者だったら驚くけれど。
「そうでした。実はあなたを知っていたのは、僕の知り合いからあなたのことを聞いたからなんです」
返って来た答えは、予想外のものだった。
まだ京都和み堂でアルバイトを始めたばかりの私は、あまり友人にここで働いていることを話していなかったから。
だから、彼の言う「知り合い」が誰なのか、心当たりがなかった。
「失礼ですが、そのお知り合いの方とはどなたでしょう」
店員であるシフトの時間は終わったものの、店員口調で訊いてしまう。
「藤野咲良さんです」
男性の口から出て来た名前に、これまたびっくりしてしまう私。
咲良といえば、数週間前に京都和み堂書店を訪れたお客さんで、歳が近いこともあり今では私の友人だ。今だってスマホを開けば彼女からのメッセージが来ているに違いない。
「え、咲良ちゃん? それはまた……」
男性客と思わぬところで繋がりがあると分かると、急に親近感が湧いて男性のことをまじまじと見つめてしまう。
「はい。僕は藤野さんと同じ大学の同じ学部なんです。受ける授業も同じものが多くて、テスト前やレポート提出前にはよく二人で勉強してました」
「ああ、そうだったんですね」
咲良と同じ学部ならば、彼も大学三回生なんだろう。授業も一緒に受けるぐらいならば、咲良とは結構仲が良いのだろうか。私はLINEで咲良と本の話ばかりしているので、お互いの交友関係までは知らなかった。
「それで、彼女から妙なことを聞いて、気になって京都和み堂書店に来てみたというわけです」
「妙なこと?」
この書店で”妙なこと“なんて数え切れないほどあるので、私は彼が何のことを言っているのか分からない。
「はい。菜花さんという店員さんが、“人生相談に乗ってくれる”という話です」
「え?」
男性の口から出て来た「人生相談」という言葉に、私の顔面はもう、絵に描いたように驚きで阿呆づらになっていたことだろう。頭の中でひょっとこのお面が浮かんで消えた。
「藤野さんがそう言ってました」
「はあ……」
確かにここ最近は、サラリーマンの岡本といい、女子大生の咲良といい、この場所で他人の悩みを聞くことが多くなった。でもそれは、二人がたまたま日常生活に悩みを抱えていて、たまたまタイミング良くこの書店を訪れたからだ。それを“人生相談”だなんて。 咲良のやつめ。大袈裟にもほどがある。
「あのですね、それは誤解です」
男性の勘違いを訂正するために、私はゆっくりと、彼の目を見て言った。
「確かに私はここで咲良ちゃんの悩みを聞いたけれど……。それは、本当に偶然のことなんです。偶然、彼女がすっごい意気消沈してこの店を訪れたから、見ていられなくなっただけで。だから、そのときだけなの。なんとなく咲良ちゃんの話を聞いただけで、別に誰でも彼でも話を聞くというわけでは……」
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しかしそれらの真実は口にしなかった。
「そうなんですか? でも、藤野さんはおすすめの小説を紹介されて元気が出たって」
「それは……」
その通りだ。
自分でも本気でおすすめした小説で咲良がここまで立ち直ってくれるとは思っていなかったが、実際彼女は唯川恵先生の『さよならをするために』を読んで気持ちがすっきりしたと言ってくれた。
岡本のときもそうだ。自分の言うことを聞いてくれないという後輩の育て方について悩んでいた彼に、ビジネスとは全く無関係な小説を渡し、結果的に彼に働き方のヒントを与えることができたのだ。
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