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崩壊の音

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 艦首は全損、船体は傾き、檣楼は炎に包まれる。いつ火の海に沈むとも知れない、それほどに陸上艦ロイヤルエリッサは損壊していた。

「その場しのぎで構わない、とにかく動力を復旧させろ! 船首の消火は後回しだ、先に──」

 艦橋は半ば吹き飛んでおり、今にも崩れ落ちそうな状態。しかしハミルカルは艦橋に残り、命の危険を顧みず指揮を執り続ける。
 兵士達もまた逃げようとはせず、船の修繕、消火活動に力を尽くす。

「想定を超える損壊だ、魔人の力を見誤ったか……」

 対してアブドゥーラは未だ健在、むしろ力を増してすらいた。より激しく、より大きく、その熾烈さは留まるところを知らない。

「だが、例え刺し違えようとも必ず……ん?」

 アブドゥーラは火の海に身を沈め、上体をたわませ、全身に猛火を纏う。構えを見るに狙いは明らか、真正面からの突撃であろう。

「マズいぞ、急ぎ旋回だ!」

「ダメです、まだ動力が復旧していません!」

「くそっ」

 次の瞬間、ロイヤルエリッサは爆炎に飲まれ──。


 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡


 一方そのころ、ロムルス王国、アルテミア正教国、南ディナール王国連合の本陣は ガレウス邪教団の強襲を受けていた。

「「「「「ウオオオオッ!!」」」」」

「赤熱魔法……グロリオッサブレイス……! 灼熱魔法……メイプルフレイム……!」

 兵士達は元よりクリスティーナまで戦線へ、総力をあげてガレウス邪教団を迎え撃つ。しかし相手は魔物、吸血鬼、悪魔の大軍勢、圧倒的な物量に押されるばかり。

「はぁ……はぁ……、もう……キリがない……」

「……ようやく隙を見せましたね」

「あっ……!?」

 戦いの最中どういうわけか、一人の兵士がクリスティーナを襲撃。杖を奪い取った上、組み伏せて身動きを封じてしまう。

「何を……するの……?」

「クフフッ、ようやく捕らえました」

「その……笑い方……、まさか……魔人……!?」

「おやおや確か、私の魔力はドブ臭いはずでは? どうして私の接近に気づけなかったのでしょう?」

「はぁ……はぁ……くうっ……」

「ははぁ、なるほど随分とお疲れのようで」

 高威力の魔法を連発したことにより、クリスティーナの体力は底をついていた。そのためラドックスの接近を察知し損ね、まんまと襲われてしまったのである。

「これは大変に好都合です、さて……」

「うっ……」

 ラドックスの魔手が迫るも、クリスティーナに抵抗する力は残っておらず──。


 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡


「クフフッ……身を挺してエリッサ王女を守るとは、いやはや勇敢な王様です」

「くそっ、油断した……」

「おのれ魔人、父上を解放しろ!」

 時を同じくしてラドックスは、ロームルス城、謁見の間でも猛威を振るっていた。悪辣なことに非力なエリッサを標的にし、庇ったゼノン王を捕らえて人質にしたのである。

「ですが自分が人質になってしまうとは、まったく間抜けな王様です」

「俺に構うな、早く魔人を始末しろ!」

「しかし父上……っ」

 人質をとられている以上、アルフレッドは下手に動けない。一方のラドックスは全方位を兵士に囲まれており、こちらも下手に動けない。
 つまりは完全に膠着状態、にもかかわらずラドックスは不相応に悠長だ。

「魔人よ、このままでは埒が明かんぞ」

「ええ、私は一向に構いません。王都ロームルスの陥落を、気長に待つといたします」

「王都の陥落? まさか貴様、王都に何かしたのか!?」

「私は何もしていませんよ、私は……」

「どういう意味だ?」

「ところでパラテノ森林に潜ませていた魔物は、王都へなだれ込んでいるしょうか? 潜伏させていた吸血鬼達は、町中で暴れ回っているでしょうか?」

「なんだと……!?」

「クフフッ、クフフフフッ……」

 勇者は倒れ、戦線は崩壊し、王都は陥落の危機に瀕す。
 この絶望を覆す望みは、もはや皆無に等しく──。


 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡


 ──パキッ──

 暗雲を超えた遥か先、月に手が届きそうな高空。
 夜空に走った奇妙な亀裂を、この時はまだ誰も気づいていなかった──。
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