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笑顔と涙の卒業式
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どこまでも澄んだ門出の空、穏やかにそよぐ別れの風。
今日は卒業式当日、式場はロームルス学園の講堂だ。正面の演台から順に卒業生、次いで在校生、最後に来賓と規則正しく整列し、ノイマン学長の式辞に耳を傾けている。
「──を心から念じ、卒業式の式辞といたしますな。ロームルス学園、第百五代学園長、ノイマン・マックスウェル」
式辞の締め括りと同時に、式場全体から大きな拍手が沸き起こる。
拍手は一向に静まることなく、むしろ勢いは増すばかり。いつまで続くのやらと思われたところで、どこからともなくラヴレス副学長の案内が響き渡る。どうやらラヴレス副学長は、舞台裏から拡声魔法で式場全体に声を響かせているらしい。
《では続いて、在校生代表の送辞です。在校生代表、シャルロット・アン・ロムルスさん》
「はいっ」
ノイマン学長と入れ替わりで、シャルロットは演台に立つ。やや緊張しているようだが、大勢を前に堂々としたものだ。
「卒業生の皆様へ──」
──卒業生の皆様へ。
眩いお日様の呼びかけで、旅立ちの風が舞い踊る季節となりましたわ。
この素晴らしい日にご卒業を迎えられた皆様へ、在校生を代表して心からお祝いいたしますの。
思い返してみれば、いつも皆様はワタクシ達下級生を見守ってくださり、困っている時は助けてくださいましたわ。
ワタクシ達の中には、慣れない学園生活に負担を感じる生徒や、親元を離れ不安を抱える生徒もいましたわ。そんな時に優しく寄り添ってくださった皆様は、とても頼もしい存在でしたの。
また日々の生活や学園行事において、規律を重んじ凛然と過ごされるお姿から、ロームルス学園生徒としての尊厳を学ばせていただきましたわ。
皆様とロームルス学園に通えたことを、ワタクシ達は心から誇りに思いますの。積みあげてこられた歴史や伝統を大切にし、これからはワタクシ達の手で歴史と伝統を後進へと引き継ぎますわ。
あらためて感謝の意を申しあげ、加えて皆様のご健康とご活躍を祈念して、在校生代表の送辞とさせていただきますの。
在校生代表──。
「──在校生代表、シャルロット・アン・ロムルス」
沸き起こった拍手の大きさに、シャルロットはビクリと驚いたような仕草を見せる。しかしすぐに冷静さを取り戻し、深く礼をし演台を後にする。
式場は粛々とした感動に包まれる、ところが一か所だけ妙に騒がしい。何事かと思いきや、騒ぎの中心はウルリカ様だった。
「素晴らしかったのじゃ! 感動的だったのじゃ!」
ウルリカ様はバチバチと手を叩きながら、大粒の涙を流していた。加えて大声でシャルロットを絶賛、天真爛漫に卒業式を楽しんでいるのだ。
そんなウルリカ様の影響で、周囲はほっこり和やかな雰囲気へ。ほどよい緊張と僅かな緩やかさの中、再びラヴレス副学長の案内が響き渡る。
《では続いて、卒業生代表の答辞です。卒業生代表、ハインリヒ・マックスウェルさん》
「はいっ」
シャルロットと入れ替わりで、今度はハインリヒが演台に立つ。込みあげる感情をグッと堪え、ゆっくりと口を開く。
「本日は──」
──本日は私達のために、このような素晴らしい卒業式をあげていただき誠にありがとうございます。
また先ほどは学園長をはじめ、ご来賓の皆様、在校生の皆さんから温かいお言葉をいただきましたこと、心より感謝を申しあげます。
本日こうして卒業を迎えられたことに、私達の心は感謝と喜びで満たされております。と同時に、愛するロームルス学園を旅立つことへの寂しさも感じております。
さて、本日の卒業式を迎えるにあたり、ロームルス学園での思い出を回想してみました。先生方や後輩達との日常、学園祭や運動会といった催し、学園を守るため命を懸けて戦ったこと。忘れられない大切な思い出で、あっという間に私の心は溢れ返りました。
一つ一つの思い出が、語りきれないほどの経験が、私達を大いに成長させてくれました。ロームルス学園で過ごした二年間は、私達にとって掛け替えのないものでした。
本日をもって私達はロームルス学園を卒業しますが、ロームルス学園への愛は決して変わりません。ロームルス学園卒業生の名に恥じぬよう、真摯な心構えで未来へと歩んでいきたいと思います。
在校生の皆さん、私達は皆さんにロームルス学園を託して旅立ちます。どうかロームルス学園を大切に──。
「──っ」
答辞の途中であるにもかかわらず、ハインリヒは口を噤んでしまう。沸々と込みあげる感情に、思わず言葉を詰まらせたのだ。とはいえ僅かな間のみ、すぐにハインリヒは答辞を再開する。
「……どうかロームルス学園を大切に、愛し続けてくれることを祈ります。最後になりましたが、ロームルス学園の一層の発展を祈り答辞とさせていただきます。卒業生代表、ハインリヒ・マックスウェル」
ハインリヒの全霊を注いだ答辞は、いつまでも聞く者の心に響いていた。卒業生はもちろんのこと、在校生や来賓まで涙を流して感動に打ち震えている。
「とても素晴らしかったのじゃ! この上なく感動的だったのじゃ!」
当然ながらウルリカ様も涙を流して猛烈に感動、先ほどよりも大声でハインリヒを大絶賛である。周囲を苦笑させるほどの、飛び抜けた天真爛漫さだ。
ともあれ卒業式は次の段取りへ、一同立ちあがり校歌斉唱である。
「叡智の集うー、新緑の学び舎ー!」
他をかき消すほどの元気な歌声、もちろん声の主はウルリカ様だ。やや音程を外しながらも、自信満々に大熱唱である。あまりにも奔放で元気な歌声に、あちらこちらで笑いが巻き起こる始末。
こうして笑いと感動に包まれながら、ロームルス学園の卒業式は幕を閉じたのであった。
今日は卒業式当日、式場はロームルス学園の講堂だ。正面の演台から順に卒業生、次いで在校生、最後に来賓と規則正しく整列し、ノイマン学長の式辞に耳を傾けている。
「──を心から念じ、卒業式の式辞といたしますな。ロームルス学園、第百五代学園長、ノイマン・マックスウェル」
式辞の締め括りと同時に、式場全体から大きな拍手が沸き起こる。
拍手は一向に静まることなく、むしろ勢いは増すばかり。いつまで続くのやらと思われたところで、どこからともなくラヴレス副学長の案内が響き渡る。どうやらラヴレス副学長は、舞台裏から拡声魔法で式場全体に声を響かせているらしい。
《では続いて、在校生代表の送辞です。在校生代表、シャルロット・アン・ロムルスさん》
「はいっ」
ノイマン学長と入れ替わりで、シャルロットは演台に立つ。やや緊張しているようだが、大勢を前に堂々としたものだ。
「卒業生の皆様へ──」
──卒業生の皆様へ。
眩いお日様の呼びかけで、旅立ちの風が舞い踊る季節となりましたわ。
この素晴らしい日にご卒業を迎えられた皆様へ、在校生を代表して心からお祝いいたしますの。
思い返してみれば、いつも皆様はワタクシ達下級生を見守ってくださり、困っている時は助けてくださいましたわ。
ワタクシ達の中には、慣れない学園生活に負担を感じる生徒や、親元を離れ不安を抱える生徒もいましたわ。そんな時に優しく寄り添ってくださった皆様は、とても頼もしい存在でしたの。
また日々の生活や学園行事において、規律を重んじ凛然と過ごされるお姿から、ロームルス学園生徒としての尊厳を学ばせていただきましたわ。
皆様とロームルス学園に通えたことを、ワタクシ達は心から誇りに思いますの。積みあげてこられた歴史や伝統を大切にし、これからはワタクシ達の手で歴史と伝統を後進へと引き継ぎますわ。
あらためて感謝の意を申しあげ、加えて皆様のご健康とご活躍を祈念して、在校生代表の送辞とさせていただきますの。
在校生代表──。
「──在校生代表、シャルロット・アン・ロムルス」
沸き起こった拍手の大きさに、シャルロットはビクリと驚いたような仕草を見せる。しかしすぐに冷静さを取り戻し、深く礼をし演台を後にする。
式場は粛々とした感動に包まれる、ところが一か所だけ妙に騒がしい。何事かと思いきや、騒ぎの中心はウルリカ様だった。
「素晴らしかったのじゃ! 感動的だったのじゃ!」
ウルリカ様はバチバチと手を叩きながら、大粒の涙を流していた。加えて大声でシャルロットを絶賛、天真爛漫に卒業式を楽しんでいるのだ。
そんなウルリカ様の影響で、周囲はほっこり和やかな雰囲気へ。ほどよい緊張と僅かな緩やかさの中、再びラヴレス副学長の案内が響き渡る。
《では続いて、卒業生代表の答辞です。卒業生代表、ハインリヒ・マックスウェルさん》
「はいっ」
シャルロットと入れ替わりで、今度はハインリヒが演台に立つ。込みあげる感情をグッと堪え、ゆっくりと口を開く。
「本日は──」
──本日は私達のために、このような素晴らしい卒業式をあげていただき誠にありがとうございます。
また先ほどは学園長をはじめ、ご来賓の皆様、在校生の皆さんから温かいお言葉をいただきましたこと、心より感謝を申しあげます。
本日こうして卒業を迎えられたことに、私達の心は感謝と喜びで満たされております。と同時に、愛するロームルス学園を旅立つことへの寂しさも感じております。
さて、本日の卒業式を迎えるにあたり、ロームルス学園での思い出を回想してみました。先生方や後輩達との日常、学園祭や運動会といった催し、学園を守るため命を懸けて戦ったこと。忘れられない大切な思い出で、あっという間に私の心は溢れ返りました。
一つ一つの思い出が、語りきれないほどの経験が、私達を大いに成長させてくれました。ロームルス学園で過ごした二年間は、私達にとって掛け替えのないものでした。
本日をもって私達はロームルス学園を卒業しますが、ロームルス学園への愛は決して変わりません。ロームルス学園卒業生の名に恥じぬよう、真摯な心構えで未来へと歩んでいきたいと思います。
在校生の皆さん、私達は皆さんにロームルス学園を託して旅立ちます。どうかロームルス学園を大切に──。
「──っ」
答辞の途中であるにもかかわらず、ハインリヒは口を噤んでしまう。沸々と込みあげる感情に、思わず言葉を詰まらせたのだ。とはいえ僅かな間のみ、すぐにハインリヒは答辞を再開する。
「……どうかロームルス学園を大切に、愛し続けてくれることを祈ります。最後になりましたが、ロームルス学園の一層の発展を祈り答辞とさせていただきます。卒業生代表、ハインリヒ・マックスウェル」
ハインリヒの全霊を注いだ答辞は、いつまでも聞く者の心に響いていた。卒業生はもちろんのこと、在校生や来賓まで涙を流して感動に打ち震えている。
「とても素晴らしかったのじゃ! この上なく感動的だったのじゃ!」
当然ながらウルリカ様も涙を流して猛烈に感動、先ほどよりも大声でハインリヒを大絶賛である。周囲を苦笑させるほどの、飛び抜けた天真爛漫さだ。
ともあれ卒業式は次の段取りへ、一同立ちあがり校歌斉唱である。
「叡智の集うー、新緑の学び舎ー!」
他をかき消すほどの元気な歌声、もちろん声の主はウルリカ様だ。やや音程を外しながらも、自信満々に大熱唱である。あまりにも奔放で元気な歌声に、あちらこちらで笑いが巻き起こる始末。
こうして笑いと感動に包まれながら、ロームルス学園の卒業式は幕を閉じたのであった。
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