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生徒会長の依頼
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階下から響く不穏な物音、そして痛々しい悲鳴。真っ先に昇降機を降りたシャルロットは、すぐに騒ぎの原因を発見する。
「あら、生徒会長ですの」
「ぐふぅ……」
どうやら悲鳴の主はハインリヒだった模様、教室塔の正面にグッテリと倒れている。両足を揃え天に向けた、稀に見る間抜けな格好だ。
《部外者を排除いたしました》
「これは……なるほどですわ、受付ゴーレムに追い出されてしまったのですわね」
教室塔の一階には、部外者を排除する女性型の受付ゴーレムが設置されている。下級クラスに属さないハインリヒは、部外者と判断され排除されてしまったのだ。
「くっ、あの暴力人形は一体なんだ……」
「あれは受付ゴーレムですわ、部外者を排除してくれますのよ」
「部外者!? 私は生徒会長なのに、部外者扱いされたのか?」
悲しい事実にハインリヒは、ションボリと落ち込んでしまう。全身ボロボロでガックリ項垂れ、なんとも哀れみを誘う姿だ。
「ところ生徒会長、ワタクシ達に何か用事ですの?」
「そうだった、他ならぬシャルロット様へのこ依頼ですよ」
「……ワタクシへの依頼ですの?」
シャルロットの視線は冷たい、下級クラスへの嫌がらせを警戒しているのだ。しかしハインリヒに悪意はないらしく、一息つくと丁寧に頭を下げる。
「来週の卒業式、シャルロット様に在校生代表の挨拶をお願いしたいのです」
「えっ、ワタクシに代表挨拶!?」
ハインリヒからの思わぬ依頼に、シャルロットは戸惑いを隠せない。クラスメイトも一様に困惑している、だがウルリカ様だけはピンときていない様子。
「はてリヴィよ、代表挨拶とはなんじゃろうな?」
「卒業式では在校生代表から、卒業生へご挨拶を送るのです。お世話になった先輩方への、お祝いとお別れのご挨拶なのですよ」
「なんとっ、それは大役じゃな!」
ウルリカ様の言った通り、卒業生代表は紛れもない大役である。そんな大役をお願いされたとあり、シャルロットの動揺は増すばかり。
「待ってくださいですの、在校生代表は上級クラスの成績優秀者から選ぶ習わしですわよね?」
「おっしゃる通り、下級クラスから在校生代表を選出した例は一度もない」
「ではどうしてワタクシですの?」
「……私は心からロームルス学園を愛している、在校生代表には私の思いを引き継いでほしい。誰よりもロームルス学園を愛してくれる人へ、在校生代表挨拶をお願いしたい!」
「それは……もちろんワタクシはロームルス学園を愛していますの、でも他の生徒だってロームルス学園を愛しているはずですわ」
「下級クラスはロームルス学園のために、命を懸けて魔物と戦ってくれた。その際に指揮を執っていたのはシャルロット様です、あのお姿こそ真にロームルス学園を愛する生徒の姿です!」
パラテノ森林から湧き出た魔物の襲撃により、かつてロームルス学園は崩壊の危機へと陥った。その際シャルロットは下級クラスを率いて戦い、大きく勝利に貢献したのである。
勝利の女神と呼ばれるきっかけになった、誰しもの記憶に残る出来事だ。
「だからこそ私はシャルロット様に、在校生代表をお願いしたいのです! あらためてお願いします!」
ハインリヒの熱い思い、熱い言葉は嘘偽りのないものだ。気づけばシャルロットの瞳から警戒の色は消え失せていた、そして──。
「来週の卒業式、在校生代表の挨拶を引き受けていただけないでしょうか?」
「分かりましたわ、心をこめて挨拶しますの!」
ハインリヒの熱い思いに、シャルロットも熱い思いで応えたのだ。二人は大きく頷きながら、互いへの敬意を込めて固く握手を交わす。
こうしてハインリヒの要件は無事に終わった、はずなのだが何やら様子がおかしい。
「あ……あの?」
なぜかハインリヒはオリヴィアへと視線を送り、一向に帰ろうとしないのである。
「私の顔に何かついていますでしょうか?」
「おっと失礼、そういうわけではない。実はオリヴィアにも依頼、というより伝えておきたいことがある」
「えっ、私にも?」
「キミは……」
「あら、生徒会長ですの」
「ぐふぅ……」
どうやら悲鳴の主はハインリヒだった模様、教室塔の正面にグッテリと倒れている。両足を揃え天に向けた、稀に見る間抜けな格好だ。
《部外者を排除いたしました》
「これは……なるほどですわ、受付ゴーレムに追い出されてしまったのですわね」
教室塔の一階には、部外者を排除する女性型の受付ゴーレムが設置されている。下級クラスに属さないハインリヒは、部外者と判断され排除されてしまったのだ。
「くっ、あの暴力人形は一体なんだ……」
「あれは受付ゴーレムですわ、部外者を排除してくれますのよ」
「部外者!? 私は生徒会長なのに、部外者扱いされたのか?」
悲しい事実にハインリヒは、ションボリと落ち込んでしまう。全身ボロボロでガックリ項垂れ、なんとも哀れみを誘う姿だ。
「ところ生徒会長、ワタクシ達に何か用事ですの?」
「そうだった、他ならぬシャルロット様へのこ依頼ですよ」
「……ワタクシへの依頼ですの?」
シャルロットの視線は冷たい、下級クラスへの嫌がらせを警戒しているのだ。しかしハインリヒに悪意はないらしく、一息つくと丁寧に頭を下げる。
「来週の卒業式、シャルロット様に在校生代表の挨拶をお願いしたいのです」
「えっ、ワタクシに代表挨拶!?」
ハインリヒからの思わぬ依頼に、シャルロットは戸惑いを隠せない。クラスメイトも一様に困惑している、だがウルリカ様だけはピンときていない様子。
「はてリヴィよ、代表挨拶とはなんじゃろうな?」
「卒業式では在校生代表から、卒業生へご挨拶を送るのです。お世話になった先輩方への、お祝いとお別れのご挨拶なのですよ」
「なんとっ、それは大役じゃな!」
ウルリカ様の言った通り、卒業生代表は紛れもない大役である。そんな大役をお願いされたとあり、シャルロットの動揺は増すばかり。
「待ってくださいですの、在校生代表は上級クラスの成績優秀者から選ぶ習わしですわよね?」
「おっしゃる通り、下級クラスから在校生代表を選出した例は一度もない」
「ではどうしてワタクシですの?」
「……私は心からロームルス学園を愛している、在校生代表には私の思いを引き継いでほしい。誰よりもロームルス学園を愛してくれる人へ、在校生代表挨拶をお願いしたい!」
「それは……もちろんワタクシはロームルス学園を愛していますの、でも他の生徒だってロームルス学園を愛しているはずですわ」
「下級クラスはロームルス学園のために、命を懸けて魔物と戦ってくれた。その際に指揮を執っていたのはシャルロット様です、あのお姿こそ真にロームルス学園を愛する生徒の姿です!」
パラテノ森林から湧き出た魔物の襲撃により、かつてロームルス学園は崩壊の危機へと陥った。その際シャルロットは下級クラスを率いて戦い、大きく勝利に貢献したのである。
勝利の女神と呼ばれるきっかけになった、誰しもの記憶に残る出来事だ。
「だからこそ私はシャルロット様に、在校生代表をお願いしたいのです! あらためてお願いします!」
ハインリヒの熱い思い、熱い言葉は嘘偽りのないものだ。気づけばシャルロットの瞳から警戒の色は消え失せていた、そして──。
「来週の卒業式、在校生代表の挨拶を引き受けていただけないでしょうか?」
「分かりましたわ、心をこめて挨拶しますの!」
ハインリヒの熱い思いに、シャルロットも熱い思いで応えたのだ。二人は大きく頷きながら、互いへの敬意を込めて固く握手を交わす。
こうしてハインリヒの要件は無事に終わった、はずなのだが何やら様子がおかしい。
「あ……あの?」
なぜかハインリヒはオリヴィアへと視線を送り、一向に帰ろうとしないのである。
「私の顔に何かついていますでしょうか?」
「おっと失礼、そういうわけではない。実はオリヴィアにも依頼、というより伝えておきたいことがある」
「えっ、私にも?」
「キミは……」
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