上 下
270 / 310

邪悪なる神の帰還

しおりを挟む
 果てしなく広がる暗闇、輝きを失った魔法陣、立ち並ぶ無数の祭壇。何処かの地底に存在する巨大施設、ここはガレウス邪教団本拠地。
 人影は四つ、ザナロワ、アブドゥーラ、リィアン、ラドックスのものだ。最上位魔人である四人は、一際巨大な祭壇の前に膝をついている。よく見るとそれは祭壇ではなく、禍々しく装飾の施された玉座のよう。

「闇の祭壇、暗黒の玉座、何もかも懐かしいものだ」

 玉座には誰も腰かけていない、陽炎のような闇が座面中央で揺らめいているのみ。その正体は邪悪なる意志の塊、不完全ながら復活を果たした邪神ガレウスの魂だ。

「ガレウス様のご帰還、心よりお喜び申しあげます。そして……」

「どうしたザナロワ?」

「先日の無様な失態、申し訳ございませんでした」

「我々の救出にお手を煩わせましたこと、心よりお詫び申しあげます」

 ザナロワとアブドゥーラは頭を下げ、南ディナール王国での敗北を深謝。弁明をすることもなく、ただひたすらに詫び続ける。

「よい、お前達の無事こそ緊要。最上位魔人は余の力に適応した貴重な存在、余の完全復活を前に失うわけにはいかぬ」

「我が身の重要性、あらためて肝に銘じます」

 ザナロワとアブドゥーラに目立った外傷は見受けられない。特にアブドゥーラは手酷くやられていたはず、だがそのような痕跡は一切ない。最上位魔人の回復力たるや、実に恐るべきものである。

「さてラドックスよ、北方陥落の功績を褒賞せねばな。多大なる魔力の献上、真に大義であった」

「はっ、勿体なきお言葉!」

 ラドックスは身を震わせながら、繰り返し地面に額を擦りつける。外套に隠され顔は見えないが、歓喜の表情を浮かべていることは想像に難くない。

「余の完全復活は近く叶うだろう、これは予感ではなく確信である。懸念材料はウルリカの存在だ、彼奴こそ千年前に余を倒した張本人」

 闇の揺らめきは勢いを増し、小規模な炸裂を繰り返す、まるでガレウスの強烈な怒りを反映しているかのようだ。

「口惜しいことに今の余ではウルリカに勝てん、故に余の完全復活を優先する。是が非でもヨグソードを入手せよ、これは至上命令である」

 命令を下すや返事も待たず、ガレウスは気配を消してしまう。どうやら完全に意識を閉じ、復活を待つ体勢に入った模様。
 誰一人として言葉を発しないまま、ザナロワ、アブドゥーラ、ラドックスは暗闇に紛れ何処かへ。リィアンだけは顔を伏せたまま動かず、揺れる心を静かに吐き出す。

「リィは……リィには友達が……」

 邪悪なる神は帰還を果たし、息を潜め完全復活の時を待つ。人類は団結し、次なる戦いに備え力を蓄える。
 そして魔界の動向は如何に、いずれにせよ決戦の時は近い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...