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深夜の宮殿

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 雲一つない金色の月夜。昼間の喧騒は息を潜め、デナリウス宮殿は夜の静けさに包まれていた。
 耳を澄ませば微かに聞こえる、噴水を踊る水の音、そして応接間から響く声。

「いやー、昼間は楽しかったっすね!」

 アンナマリアは上機嫌に、放り出した足を交互にパタパタ。教主様とは思えない、なんともお子様な態度である。
 すっかり素のアンナマリアを前に、アルフレッドは慣れたものだがフラム王は困惑を隠せない。

「本当に、本物のアルテミア様なのでしょうか……?」

「もちろん本物っすよ!」

「いやしかし、教主様にしては子供っぽすぎるような……」

「むむっ、フラム君は失礼なことを言うっすね」

「いや、これは失礼しました」

 どうやらフラム王はアンナマリアとの接し方に難儀している模様、まあ無理もないことだろう。

「ところでフラム王、昼間の続きをよろしいですか?」

「そうだったね、何かお願いをしたいとか?」

 昼間の続きとはもちろん、ガレウス邪教団に対抗するための話である。この時間ウルリカ様はグッスリだ、昼間のように乱入される恐れはない。

「南ディナール王国とロムルス王国で、合同軍事演習を行いたいのです」

「ほう?」

「我が国はこれまで幾度か、ガレウス邪教団との戦闘を経験しました。規模の大きい戦闘もあり、かなりの被害も出ております。その上で敵の戦力は未知数、より大規模な戦闘も起こりうるでしょう」

「ふむ……」

「南ディナール王国とロムルス王国、両国を巻き込んだ大規模戦闘が起こる恐れもあります。そういった事態を想定し、国家間の連携を強めておきたく、軍事演習を提案する次第です」

「確かにアルフレッド王子の言う通りかもしれないね」

 同盟を結んでいるとはいえ、ロムルス王国と南ディナール王国は別個の国。いざという時、速やかに連携を取れるとは限らない。想定される大規模戦闘に備え、準備をしておくことは必要だろう。

「よし分かった、明日にでも詳しい打ち合わせをさせてほしい」

「おおっ、ご協力に感謝します」

 協力の意志を確認し、アルフレッドとフラム王は固い握手を交わす。とそこへ、成り行きを見守っていたアンナマリアから一言。

「今は人類の力をあわせて、ガレウス邪教団に対抗するべき時っすよね。というわけでその軍事演習、アルテミア正教国も参加させてくださいっす」

「本当ですか!? アルテミア正教国にもご協力いただけるとは、非常にありがたい申し出です!」

 アルフレッドとフラム王の握手に、アンナマリアはポンと小さな手を乗せる。三国間の協力を示す、少し変わった握手の完成である。

「ご協力いただけてホッとしました……ところでアンナマリア様、一つお聞きしてよろしいですか?」

「どうぞっす」

「昼間ウルウルは水着を持っていましたよね、あれは一体どういうことでしょう?」

「実は課外授業の一環で、明日は朝から海水浴にいくっすよ!」

「かっ、海水浴だって!?」

 アルフレッドは悲鳴のような声をあげ、石化したようにピシッと硬直。鼻からは赤い筋がダラダラ、突然の異変にフラム王は困惑せずにいられない。

「どうしたアルフレッド王子、どこか調子でも悪いのかい?」

「……申し訳ございませんフラム王、軍事演習の打ち合わせは明後日以降とさせてください」

「急にどうしたというのだ、ガレウス邪教団への対抗策は急がねば──」

「愛しきウルウルの水着姿です、見逃すわけにはいきません!」

 ダラダラと鼻血を撒き散らし、血走った目を四方へギョロギョロ。アルフレッドの豹変っぷりに、どうしたものかとフラム王は困り果ててしまう。
 そんなフラム王へアンナマリアから誘惑の一言。

「そういえば明日の海水浴では、エリッサちゃんも水着を着てくれるっす」

「なっ、なんだって!?」

 聞くや否やフラム王は勢いよく立ち上がる、アルフレッドに負けない豹変っぷりだ。

「よし、軍事訓練の打ち合わせは明後日に変更だ! 可愛いエリッサの水着姿だ、明日は私達も海水浴に参加するぞ!」

「もちろんですフラム王、愛しきウルウルの水着姿をこの目に焼きつけるのです!」

 熱をあげるアルフレッドとフラム王を横目に、アンナマリアは「はぁ」と乾いた溜息を漏らすのだった。
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