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悲しい事実

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 黄昏時から宵の口へ、日は落ち周囲は闇に染まる。しかしロームルス学園の校庭は、大きな焚き火の光で煌々と照らされていた。
 運動会と大差なく、いやそれ以上に後夜祭は大盛りあがり。軽食や飲み物を片手に、誰しもワイワイ楽しんでいる。そんな中にあって下級クラスは、一際目立って大騒ぎしていた。

「準備はいいな、では……下級クラスの大健闘を祝って、乾杯だーっ!」

「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」

 エリザベスの豪快な乾杯で、祝杯をあげる下級クラス。もちろん飲んでいるのはお酒ではない、健康的な果汁飲料である。

「一位ですよ、どうですかシャルルさん!」

「じゃーん、リィは三位だよ!」

「飛び入りのリィアン嬢にまで負けてしまうとは……くうぅ、来年こそは……っ」

 シャルルは表彰台に立てず悔しそう、早くも来年の運動会に向け意気込みを新たにしている。

「それにしても惜しかったですわね、あと一歩で表彰台独占でしたわ」

「ハッハッハッ、構わないさシャルロット。表彰台独占こそ逃したものの、実に見事な結果じゃないか! 本当に皆よく頑張ってくれた、私は感動している……くううっ」

 エリザベスはダバダバと涙を流して、下級クラスの活躍を大喜び。生徒達の頑張りを心から喜ぶ、とてもいい先生だ。

「あむあむ、おいしいのじゃ! いっぱい動いでお腹ペコペコじゃからな、どんどん食べるのじゃ」

「落ちついてくださいウルリカ様、大量にこぼしていますよ」

 軽食からお菓子から、ウルリカ様は次々と口に放り込んでいく。両足をパタパタ、お口をパクパク、そして口の端からポロポロ。稀に見る食べ散らかしっぷりに、オリヴィアはお世話で大忙しである。

「皆さん元気すぎますね、ボクはクタクタで動けませんよ」

「まったく無尽蔵の体力だよな、あの体力はどこからくるんだか」

「とはいえ皆さんの元気な姿を見ていると、不思議とボクも元気になりますね」

「それは確かに、元気を押し売りされてる気分だぜ」

 ヘンリーとベッポは疲れてグッタリ、しかし元気いっぱいなクラスメイトにつられて笑顔だ。後夜祭まで含め、本当に素晴らしい運動会になったものである。

「あれ、もうお料理はなくなっちゃったの?」

「全部ウルリカに食べられたのですわ、ワタクシお料理を取ってきますわよ」

「だったらリィも一緒にいく、シャルロット一人だと大変でしょ?」

 シャルロットとリィアンは、仲よく手を繋いで料理の元へ。途中リィアンはふと足を止め、校舎の陰に置かれた木箱を指差す。

「ねえシャルロット、あの箱は何かな? 火薬の臭いがするけど、もしかして危険な物?」

「あれは花火を入れてある箱ですわね、後夜祭の終わりに打ちあげるのだと思いますわ」

「そっか、てっきり爆弾か何かだと思っちゃった」

 危険はないと知りホッと一安心のリィアン、一方でシャルロットは首を傾げて不思議そう。

「火薬の臭いなんて、よく分かりましたわね?」

「うっ、たまたまだよ……」

 魔人であるリィアンの嗅覚は人間より遥かに優れている、加えて火薬などの危険物には敏感なのだ。シャルロットに指摘されてオロオロしていると、そこへ──。

「あらシャルロット、こんな所で偶然ね」

「えっ、お母様!? どうしてここへ? 執務はどうしましたの?」

「執務はゼノンとアルフレッドに押しつけてきたわ。それはそうと、こちらへきてくれるかしら?」

 バッタリ出くわしたヴィクトリア女王に手招きされ、シャルロットとリィアンは校舎の裏へ。暗がりに一歩踏み込んだ瞬間、リィアンはピタリと足を止める。

「リィアン? どうしましたの?」

「……今度は本当に危険みたい、早くリィから離れて」

「危険? 何を言っていますの?」

 シャルロットの質問には答えず、リィアンは静かに校舎の陰を睨みつける。その視線は獣のように鋭く、先ほどまでの子供っぽさは微塵も感じられない。

「そこにいるんでしょ、出ておいでよ」

「ふんっ、気づいていたか」

 校舎の陰から姿を現したのは、聖騎士のガーランドである。放つ殺気は鋭利な刃物のよう、すでに大剣を抜いて臨戦態勢だ。

「シャルロット様は離れていてください、その娘は危険です」

「どういうことですの? リィアンはワタクシ達の友達ですわ、危険ではありませんわよ?」

「いいえシャルロット様、その娘は……ガレウス邪教団の魔人なのです!」

「ま、魔人……!?」

 突きつけられた悲しい事実、楽しい時間は終わりを告げる。
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