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蛇と獅子
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王都ロームルスを襲う、魔人リィアンの邪悪な企み。
広がる混乱の波は、休日を楽しむウルリカ様達の元にも近づいていた。
「むぅ……そろそろ解放してほしいのじゃ……」
「嫌よぉ、今日はずっとウルリカ様を抱っこしてるのよぉ」
「むへぇ……」
ヴァーミリアに抱っこされ続け、すっかりクタクタなウルリカ様。だらーんと垂れ下がる姿はなんとも可愛らしい。
「グッタリしています、垂れウルリカさんです」
「元気出してくださいですの、ツンツンッ」
「それでは私も、ツンツンッ」
ウルリカ様をツンツンしながら通りを進む一行は、とある異変に遭遇する。
「あら、なんだか騒がしいですわね」
「みなさん走っています、どうしてでしょうか?」
通りの反対方向から、慌てた様子の人々が走ってくるのである。
しかも異変はこれだけではない。
「見てください、お店が閉まっていきます!」
ズラリと並んでいたお店は次々と扉を閉めていき、賑やかだった露店は大慌てで撤収していく。
「なんとっ、お菓子屋さんまで閉店してしまったのじゃ!」
甘い香りを放っていたお菓子屋さんも、ウルリカ様の目の前で扉を閉めてしてしまう。大好きなお菓子屋さんの閉店に、ウルリカ様は茫然自失だ。
「食べたいお菓子があったのじゃ、でももう食べられないのじゃ……ぐすん……」
「ああん、泣かないでウルリカ様ぁ」
よほどお菓子を食べたかったのだろう、ポロポロと大粒の涙を零すウルリカ様。
そんなウルリカ様達の元へ、慌ただしい声が近づいてくる。
「そこの人達! こんな所でなにをやっているの!」
「急げ! 急いで逃げろ──ん? シャルロットか?」
「エリザベスお姉様!」
現れたのはエリザベス、スカーレット、カイウスの聖騎士三人だ。三人とも汗だくで疲労困憊な様子である。
「これは一体どういう騒ぎですの!?」
「実は魔物の群れに襲われて……痛っ」
エリザベスは折れた右腕を抑え、苦しそうに膝をつく。
「もしかしてケガをしていますの!?」
「でしたら私に任せてください、すぐに治癒魔法をかけます」
「いや必要ない、それより早く逃げるんだ!」
「でもお姉様!」
「私は平気だ、鍛え方が違うからな!」
強がって見せるエリザベス、しかし額には大粒の冷汗を浮かべている。右腕から走る激痛は相当なものなのだろう。
「とにかくシャルロット達も早く逃げろ、魔物の群れに襲われるぞ」
痛みを押して立ちあがろうとするエリザベス、そこへ背後から三匹のイビルバードが襲いかかる。
「「「クエエッ!」」」
「しまった、もう追いつかれたか」
「「エリザベス様!」」
痛みのせいでエリザベスは反応に遅れてしまう。
無防備なエリザベスへと迫るイビルバードの鋭いカギ爪、絶体絶命かと思われたその時──。
「うるさいわよぉ……」
「クエエッ!?」
──イビルバードを絡め取る丸太のように太い触手。よく見るとそれは触手ではなく、巨大な蛇の胴体であった。
「クエッ! クエッ!」
「うるさいって言ってるでしょぉ……」
「クグェ……!?」
暴れ回るイビルバードを、大蛇はペロリと丸呑みにしてしまう。あまりにも予想外の事態に、誰も動くことすら出来ない。
「この蛇はいったい……えっ、ヴァーミリア様!?」
大蛇の胴体を目で辿り、驚きのあまり声をあげるオリヴィア。なんと大蛇の胴体は、ヴァーミリアの左腕へと繋がっていたのだ。
「怖がらせちゃったわねぇ、心配しなくて大丈夫よぉ」
「「クエエーッ!」」
残り二匹のイビルバードは、ヴァーミリアの背後を狙い襲いかかる。風を切る素早い動きは、目で追うことすらやっとの速度だ。
にもかかわらずヴァーミリアは余裕な態度を崩さない、そして──。
「ガブゥ!」
──なんと右肩から巨大な獅子の頭を生やし、迫るイビルバードを食い千切ったのである。半身を抉り取られたイビルバードは呆気なく絶命する。
「まあまあの味ねぇ」
左腕を蛇へと変え、右肩から獅子を生やす、ヴァーミリアの姿は異様と表現する他ない。
「あら、お残しはダメよねぇ」
転がるイビルバードの亡骸を、大蛇は残さず平らげる。
そして“百獣”の名を冠する大公爵は、静かに微笑むのであった。
広がる混乱の波は、休日を楽しむウルリカ様達の元にも近づいていた。
「むぅ……そろそろ解放してほしいのじゃ……」
「嫌よぉ、今日はずっとウルリカ様を抱っこしてるのよぉ」
「むへぇ……」
ヴァーミリアに抱っこされ続け、すっかりクタクタなウルリカ様。だらーんと垂れ下がる姿はなんとも可愛らしい。
「グッタリしています、垂れウルリカさんです」
「元気出してくださいですの、ツンツンッ」
「それでは私も、ツンツンッ」
ウルリカ様をツンツンしながら通りを進む一行は、とある異変に遭遇する。
「あら、なんだか騒がしいですわね」
「みなさん走っています、どうしてでしょうか?」
通りの反対方向から、慌てた様子の人々が走ってくるのである。
しかも異変はこれだけではない。
「見てください、お店が閉まっていきます!」
ズラリと並んでいたお店は次々と扉を閉めていき、賑やかだった露店は大慌てで撤収していく。
「なんとっ、お菓子屋さんまで閉店してしまったのじゃ!」
甘い香りを放っていたお菓子屋さんも、ウルリカ様の目の前で扉を閉めてしてしまう。大好きなお菓子屋さんの閉店に、ウルリカ様は茫然自失だ。
「食べたいお菓子があったのじゃ、でももう食べられないのじゃ……ぐすん……」
「ああん、泣かないでウルリカ様ぁ」
よほどお菓子を食べたかったのだろう、ポロポロと大粒の涙を零すウルリカ様。
そんなウルリカ様達の元へ、慌ただしい声が近づいてくる。
「そこの人達! こんな所でなにをやっているの!」
「急げ! 急いで逃げろ──ん? シャルロットか?」
「エリザベスお姉様!」
現れたのはエリザベス、スカーレット、カイウスの聖騎士三人だ。三人とも汗だくで疲労困憊な様子である。
「これは一体どういう騒ぎですの!?」
「実は魔物の群れに襲われて……痛っ」
エリザベスは折れた右腕を抑え、苦しそうに膝をつく。
「もしかしてケガをしていますの!?」
「でしたら私に任せてください、すぐに治癒魔法をかけます」
「いや必要ない、それより早く逃げるんだ!」
「でもお姉様!」
「私は平気だ、鍛え方が違うからな!」
強がって見せるエリザベス、しかし額には大粒の冷汗を浮かべている。右腕から走る激痛は相当なものなのだろう。
「とにかくシャルロット達も早く逃げろ、魔物の群れに襲われるぞ」
痛みを押して立ちあがろうとするエリザベス、そこへ背後から三匹のイビルバードが襲いかかる。
「「「クエエッ!」」」
「しまった、もう追いつかれたか」
「「エリザベス様!」」
痛みのせいでエリザベスは反応に遅れてしまう。
無防備なエリザベスへと迫るイビルバードの鋭いカギ爪、絶体絶命かと思われたその時──。
「うるさいわよぉ……」
「クエエッ!?」
──イビルバードを絡め取る丸太のように太い触手。よく見るとそれは触手ではなく、巨大な蛇の胴体であった。
「クエッ! クエッ!」
「うるさいって言ってるでしょぉ……」
「クグェ……!?」
暴れ回るイビルバードを、大蛇はペロリと丸呑みにしてしまう。あまりにも予想外の事態に、誰も動くことすら出来ない。
「この蛇はいったい……えっ、ヴァーミリア様!?」
大蛇の胴体を目で辿り、驚きのあまり声をあげるオリヴィア。なんと大蛇の胴体は、ヴァーミリアの左腕へと繋がっていたのだ。
「怖がらせちゃったわねぇ、心配しなくて大丈夫よぉ」
「「クエエーッ!」」
残り二匹のイビルバードは、ヴァーミリアの背後を狙い襲いかかる。風を切る素早い動きは、目で追うことすらやっとの速度だ。
にもかかわらずヴァーミリアは余裕な態度を崩さない、そして──。
「ガブゥ!」
──なんと右肩から巨大な獅子の頭を生やし、迫るイビルバードを食い千切ったのである。半身を抉り取られたイビルバードは呆気なく絶命する。
「まあまあの味ねぇ」
左腕を蛇へと変え、右肩から獅子を生やす、ヴァーミリアの姿は異様と表現する他ない。
「あら、お残しはダメよねぇ」
転がるイビルバードの亡骸を、大蛇は残さず平らげる。
そして“百獣”の名を冠する大公爵は、静かに微笑むのであった。
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