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魔王と少女達の日常 その二
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朝の日差しに照らされる、ロームルスの城下町。
シャルロット、オリヴィア、ナターシャの三人は、町の大通りを歩いていた。
吸血鬼討伐を終えて、この日は一日休暇をもらっているのである。
楽しいはずの休日。
しかしオリヴィアは、申し訳なさそうな表情だ。
「お二人ともスミマセン……せっかくお買い物に誘っていただいたのに、結局ウルリカ様は来られませんでした……」
「いいのよオリヴィア、あれは仕方ないわ」
「そうですね、仕方ないです」
シャルロットとナターシャは、二人そろってクスクスと笑いだす。
「だって、ワタクシとナターシャとオリヴィア。三人がかりで起こしたのに、まったく起きないんですもの」
「ウルリカさん、本当にぐっすり眠っていましたものね!」
そう、ウルリカ様不在の理由は、寝坊なのである。
「はぁ……今日から夜は、早めに寝かしつけますね」
「そうね、明日から学校ですもの、遅刻しないようにしなくちゃね」
「そうだ! ウルリカさんにお土産を買って帰りましょう!」
「あら、それはいい考えね!」
「はい、きっとウルリカ様も喜びます」
ウルリカ様へのお土産を探して、三人は町を見て回る。
すると──。
「見て! 太陽の天使様だ!」
「本当だ、吸血鬼を倒してくれた英雄様だぞ!」
「ロムルス国民の誇りだわ!」
シャルロットの存在に気づき、次々と集まってくる人々。
大通りは、あっという間に人で埋めつくされてしまう。
さらに──。
「見てみろ、“白銀の乙女”も一緒だ!」
「「「白銀の乙女?」」」
三人は揃って首をかしげる。
その間にも、ナターシャの周りにはどんどん人が押し寄せてくる。
「あの子が白銀の乙女、ナターシャ様か!」
「白銀色の美しい剣を持っているらしいわ、きっと聖剣なのよ」
「見事な剣術で吸血鬼を滅ぼしたという噂だ、凄いよな!」
「あぅあぅ……どうしましょう!?」
いつの間にやら市民から、“白銀の乙女”と呼ばれているナターシャ。
揉みくちゃにされて大慌てだ。
更にさらに──。
「おいっ、“癒しの聖女”も一緒にいるじゃないか!」
「「「癒しの聖女?」」」
シャルロット、ナターシャときて、最後はオリヴィアの番である。
「間違いない、癒しの聖女様だ!」
「強力な癒しの魔法で、天使様の傷を癒したそうよ」
「それだけじゃない。神聖な魔法で、吸血鬼を寄せつけなかったそうだ」
“癒しの聖女”の呼び名をつけられてしまったオリヴィア。
吸血鬼の討伐を経て、三人はすっかり町の英雄となっているのだ。
「シャルロット様、サーシャ。どうしましょう!?」
「どう、と言われましても……困りましたわね……」
「ひゃぁ~、身動きとれません~」
次々と集まってくる市民に、三人は押し潰されそうだ。
そんな中、どこからともなく可愛らしい声が聞こえてくる。
「てんしさま~」
声の主は、三歳くらいの幼い女の子だ。
人々の足の間をぬって、シャルロットの方へと走ってくる。
「てんしさま~、これあげる~! あぅっ」
シャルロットの元まであと少し。という所で、ステンと転んでしまう女の子。
一早く気づいたシャルロットとナターシャは、素早く女の子を起こしてあげる。
「大丈夫ですの? さ、ゆっくり起きて」
「うぅ……いたいよぉ……」
「大変っ、ケガをしています! リヴィ!」
「任せてください、すぐに治療します」
オリヴィアも駆けつけてきて、治癒魔法を発動する。
周囲は柔らかな治癒魔法の光に包まれ、人々の騒ぎは徐々に収まっていく。
「あぅ……あれ……いたくない?」
「さ、もう大丈夫ですよ」
すっかりケガは消え去り、女の子は元気に立ちあがる。
キョロキョロと辺りを見回すと、目の前のシャルロットに気づく。
「あっ、てんしさま!」
「よかった、すっかり元気になったわね」
「あのね、クッキーを……」
女の子は小さな手で、包みに入ったクッキーを差し出す。
しかし、転んだ衝撃でバラバラに割れてしまったようだ。
「あ……クッキーが……」
女の子の目に、うるうると涙がたまっていく。
シャルロットはしゃがみ込んで、女の子の目元を手でぬぐう。
「ワタクシにクッキーをくれるの?」
「うん……でもわれちゃった……」
「ううん、大丈夫よ!」
そう言って、クッキーの欠片をポイッと口に放り込む。
「ポリポリ……うん! とっても美味しいわ!」
ニッコリと微笑むシャルロット。
女の子の頭を、優しく両手で撫でてあげる。
「あの……私も食べていいですか?」
「ズルいですよサーシャ、私も食べたいです」
「フフッ、二人にもクッキーを分けてあげていいかしら?」
「うん」
女の子の了承をもらって、ナターシャとオリヴィアもクッキーを口に放り込む。
「ポリポリ……本当に美味しいクッキーですね!」
「ポリポリ……ウルリカ様にも食べさせたいくらいです」
「クッキーをありがとう、とっても美味しかったわ」
「うん!」
三人の優しさに包まれて、女の子もすっかり笑顔だ。
太陽の光に照らされて、キラキラと輝く少女達。
その様子を見ていた市民は、たまらず「はぁ……」と声を漏らす。
「なんて美しい光景なんだ……」
「お優しい王女様……まさしく天使様だわ……」
「ああ……きっとあの少女達は、神様の使いなんだ……」
市民の間から、歓声と拍手が沸き起こる。
人々の称賛に包まれて、三人は顔を真っ赤にしてしまうのだった。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
ポカポカ陽気のお昼過ぎ。
ここはロームルス学園の学生寮。
寝ぼけまなこのウルリカ様は、フラフラと廊下を歩いていた。
「ふあぁ~……もうお昼かの……リヴィはどこなのじゃ……」
どうやらウルリカ様、お昼過ぎになってようやく起きてきたようだ。
眠そうに目をこすりながら、寮の出口前までやってくる。
すると、出口前のソファに三人の男子が座っていた。
三人ともウルリカ様と同じ、紺色の学生服を着ている。
「おや? 妾と同じ制服じゃ!」
気づいたウルリカ様は、パタパタッと三人の元へ駆け寄っていく。
「お主達、もしや妾と同じクラスかのう?」
突然現れたウルリカ様に、ビックリしてしまう三人の男子。
その内の一人が、「あっ」と声をあげる。
「あの時の田舎者!?」
声をあげたのは、かつてシャルロットの取り巻きをしていた少年だ。
入学試験の最後、レッサードラゴンの手配を行ったベッポである。
「ほう? お主は見覚えあるのじゃ、一緒のクラスだったのじゃな!」
嬉しそうに笑うウルリカ様。
しかしベッポは、不機嫌そうな表情を浮かべている。
「なんだよ? どうせ俺のことをバカにしてるんだろ? 必死でシャルロット様に取り入ろうとして、お前のこともいじめようとして、それなのに結局下級クラスで……」
「ん? バカになどしておらんぞ?」
「嘘だね、俺のことなんて嫌いなくせに……」
「そんなことないのじゃ、同じクラスで嬉しいのじゃ!」
「嬉しい?」
「うむ! クラスメイトというやつじゃな、これからよろしくなのじゃ!」
ウルリカ様から眩しすぎる笑顔を向けられて、ベッポ思わず顔をそむけてしまう。
ニコニコ笑顔のウルリカ様へ、今度は野太い声がかけられる。
「おお! なんと美しい笑顔だ!」
ドンッ! と足を鳴らして立ちあがる少年。
筋肉質で背の高い、がっしりとした少年だ。
「うむ? お主も同じクラスじゃな?」
「自分の名はシャルル! 父は教会で神父を務めている! 本年よりロームルス学園の下級クラスに入学した! 小さな少女よ、どうぞよろしく!」
大声量で自己紹介をするシャルル。
大きな体に大きな声で、もの凄い迫力だ。
「ふぅ、それではボクも自己紹介しておきましょうか」
三人目の少年もソファから立ちあがる。
やせ型で背の低い、メガネをかけた少年だ。
「ボクの名はヘンリーです。一応貴族の血を引いています、しかし地方の弱小貴族でして……それにボクは六男なので、まあ一般庶民と大差ない身分ですね。これからよろしくお願いしますね」
ペコリとお辞儀をするヘンリー。
シャルルとは対照的に、小さな声で暗い雰囲気だ。
「シャルルとヘンリーじゃな! 妾はウルリカなのじゃ! これから同じクラスじゃな、一緒に楽しく──」
その時、くぅ~という音が鳴り響く。
「むうぅ……お腹が空いてしまったのじゃ……」
音の正体はウルリカ様のお腹の音である。
スリスリとお腹をさするウルリカ様。
お腹を空かせたウルリカ様に、シャルルは小さな包みを差し出す。
「よければこれを! 教会で作っているクッキーだ!」
シャルルの持っているのは、包みに入った小さなクッキーだ。
それを見たウルリカ様は、飛びついて口に放り込む。
「あむ! ポリポリ……ポリポリ……美味しいのじゃ!」
あっという間にクッキーを食べてしまうウルリカ様。
そして再び、くぅ~と鳴るお腹。
どうやらクッキーだけでは足りなかったようだ。
眉を八の字にして、物欲しそうに三人を見ている。
ベッポとシャルル、ヘンリーは、ゴソゴソと手荷物をあさる。
「えぇと、俺はドーナツをいくつか持っているけど……」
「自分はクッキーをあと数枚……」
「キャンディでよければ持っていますよ……」
「……妾にくれるのか?」
コクリと首をかしげるウルリカ様。
断ることなど出来はしない、凶悪な愛くるしさである。
「「「……どうぞ」」」
「やったーなのじゃ! ありがとうなのじゃ!!」
ドーナツ、クッキー、キャンディを受け取り、ウルリカ様は大喜びだ。
ベッポ、シャルル、ヘンリーの手を、順番に握っていく。
「三人とも大好きなのじゃ! 妾達はもうお友達じゃ!!」
「「「えぇ~……」」」
ウルリカ様の勢いに、たじたじな三人。
こうして、思わぬところで三人もお友達を作ったウルリカ様なのであった。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
夕暮れ時。
シャルロットは一人、ロームルス城の中庭テラスで本を読んでいた。
そこへ、疲れた顔のゼノン王がやってくる。
「シャルロット、こんな所で読書か?」
「ええ、お父様は……お仕事終わりですわね……」
ゼノン王の様子から、すぐに仕事終わりだと見抜くシャルロット。
流石は娘、父親のことをよく分かっている。
ゼノン王は「ふぅ」と深いため息をついて、ティーテーブルに腰かける。
「最近は仕事に追われていてな……ん? 変わった本を読んでいるな?」
「ええ、ウルリカからの贈り物ですわ」
ゼノン王は、吸血鬼退治の特訓を思い出す。
「そういえば、訓練が終わったら贈り物をすると言っていたな」
「ナターシャはヨグソードという剣を、オリヴィアは星杖ウラノスという杖を、そしてワタクシはこれを貰いましたの」
そう言ってシャルロットは、本の表紙をゼノン王に向ける。
「“デモニカ国政帳”ですわ!」
「デモニカ国政帳? なんだそれは?」
「その名の通り、ウルリカが魔界で行ってきた、国政の記録帳ですわ。千年間のあらゆる出来事を記してあるそうですの」
「千年間!? それはまた随分と長い……どんな内容なのだ?」
「ええと……政治体制の組み立て方、魔法資源の活用方法、経済政策の記録、魔法教育の方法、医療の発展の歴史、災害対策、貧困の解消、差別問題、戦争のことも書いていますわね、あとは……」
「ちょっと待ってくれ!」
頭をおさえながら、片手をあげて話をさえぎるゼノン王。
「思ったより……うむ……想像をはるかに超えていた。ロムルス王国と比べて、魔界はずいぶんと進んだ政策を行っているようだ。これもウルリカの力なのか……」
「ウルリカの思いも記されていますわよ、ほら!」
シャルロットは、バッと本を開いて見せる。
開かれたページには、見開きで大きな文字が書かれていた。
“全ては愛する民達の、豊かな生活の為に”
「ハッハッハッ! やはり俺では、まだまだ足元にも及ばないな」
文字を見たゼノン王は、お腹を抱えて大笑いする。
そして、パンッと頬を叩いて立ちあがる。
「休んでいる場合ではない! ウルリカに負けないよう、俺も頑張らなければな!」
ゼノン王の表情は、やる気に満ち満ちている。
先ほどまでの疲れた雰囲気は、どこかに吹き飛んでしまったようだ。
「そうだシャルロット、一つ頼みがあるのだが」
「なんですの?」
「その本、読み終わったら俺にも貸してくれないか?」
「ええ、もちろんですわ!」
そう言うと、両手をグッと握って見せるシャルロット。
「お父様! お仕事頑張ってくださいね!」
「ああ!」
天使の笑顔に送り出される、ゼノン王なのであった。
シャルロット、オリヴィア、ナターシャの三人は、町の大通りを歩いていた。
吸血鬼討伐を終えて、この日は一日休暇をもらっているのである。
楽しいはずの休日。
しかしオリヴィアは、申し訳なさそうな表情だ。
「お二人ともスミマセン……せっかくお買い物に誘っていただいたのに、結局ウルリカ様は来られませんでした……」
「いいのよオリヴィア、あれは仕方ないわ」
「そうですね、仕方ないです」
シャルロットとナターシャは、二人そろってクスクスと笑いだす。
「だって、ワタクシとナターシャとオリヴィア。三人がかりで起こしたのに、まったく起きないんですもの」
「ウルリカさん、本当にぐっすり眠っていましたものね!」
そう、ウルリカ様不在の理由は、寝坊なのである。
「はぁ……今日から夜は、早めに寝かしつけますね」
「そうね、明日から学校ですもの、遅刻しないようにしなくちゃね」
「そうだ! ウルリカさんにお土産を買って帰りましょう!」
「あら、それはいい考えね!」
「はい、きっとウルリカ様も喜びます」
ウルリカ様へのお土産を探して、三人は町を見て回る。
すると──。
「見て! 太陽の天使様だ!」
「本当だ、吸血鬼を倒してくれた英雄様だぞ!」
「ロムルス国民の誇りだわ!」
シャルロットの存在に気づき、次々と集まってくる人々。
大通りは、あっという間に人で埋めつくされてしまう。
さらに──。
「見てみろ、“白銀の乙女”も一緒だ!」
「「「白銀の乙女?」」」
三人は揃って首をかしげる。
その間にも、ナターシャの周りにはどんどん人が押し寄せてくる。
「あの子が白銀の乙女、ナターシャ様か!」
「白銀色の美しい剣を持っているらしいわ、きっと聖剣なのよ」
「見事な剣術で吸血鬼を滅ぼしたという噂だ、凄いよな!」
「あぅあぅ……どうしましょう!?」
いつの間にやら市民から、“白銀の乙女”と呼ばれているナターシャ。
揉みくちゃにされて大慌てだ。
更にさらに──。
「おいっ、“癒しの聖女”も一緒にいるじゃないか!」
「「「癒しの聖女?」」」
シャルロット、ナターシャときて、最後はオリヴィアの番である。
「間違いない、癒しの聖女様だ!」
「強力な癒しの魔法で、天使様の傷を癒したそうよ」
「それだけじゃない。神聖な魔法で、吸血鬼を寄せつけなかったそうだ」
“癒しの聖女”の呼び名をつけられてしまったオリヴィア。
吸血鬼の討伐を経て、三人はすっかり町の英雄となっているのだ。
「シャルロット様、サーシャ。どうしましょう!?」
「どう、と言われましても……困りましたわね……」
「ひゃぁ~、身動きとれません~」
次々と集まってくる市民に、三人は押し潰されそうだ。
そんな中、どこからともなく可愛らしい声が聞こえてくる。
「てんしさま~」
声の主は、三歳くらいの幼い女の子だ。
人々の足の間をぬって、シャルロットの方へと走ってくる。
「てんしさま~、これあげる~! あぅっ」
シャルロットの元まであと少し。という所で、ステンと転んでしまう女の子。
一早く気づいたシャルロットとナターシャは、素早く女の子を起こしてあげる。
「大丈夫ですの? さ、ゆっくり起きて」
「うぅ……いたいよぉ……」
「大変っ、ケガをしています! リヴィ!」
「任せてください、すぐに治療します」
オリヴィアも駆けつけてきて、治癒魔法を発動する。
周囲は柔らかな治癒魔法の光に包まれ、人々の騒ぎは徐々に収まっていく。
「あぅ……あれ……いたくない?」
「さ、もう大丈夫ですよ」
すっかりケガは消え去り、女の子は元気に立ちあがる。
キョロキョロと辺りを見回すと、目の前のシャルロットに気づく。
「あっ、てんしさま!」
「よかった、すっかり元気になったわね」
「あのね、クッキーを……」
女の子は小さな手で、包みに入ったクッキーを差し出す。
しかし、転んだ衝撃でバラバラに割れてしまったようだ。
「あ……クッキーが……」
女の子の目に、うるうると涙がたまっていく。
シャルロットはしゃがみ込んで、女の子の目元を手でぬぐう。
「ワタクシにクッキーをくれるの?」
「うん……でもわれちゃった……」
「ううん、大丈夫よ!」
そう言って、クッキーの欠片をポイッと口に放り込む。
「ポリポリ……うん! とっても美味しいわ!」
ニッコリと微笑むシャルロット。
女の子の頭を、優しく両手で撫でてあげる。
「あの……私も食べていいですか?」
「ズルいですよサーシャ、私も食べたいです」
「フフッ、二人にもクッキーを分けてあげていいかしら?」
「うん」
女の子の了承をもらって、ナターシャとオリヴィアもクッキーを口に放り込む。
「ポリポリ……本当に美味しいクッキーですね!」
「ポリポリ……ウルリカ様にも食べさせたいくらいです」
「クッキーをありがとう、とっても美味しかったわ」
「うん!」
三人の優しさに包まれて、女の子もすっかり笑顔だ。
太陽の光に照らされて、キラキラと輝く少女達。
その様子を見ていた市民は、たまらず「はぁ……」と声を漏らす。
「なんて美しい光景なんだ……」
「お優しい王女様……まさしく天使様だわ……」
「ああ……きっとあの少女達は、神様の使いなんだ……」
市民の間から、歓声と拍手が沸き起こる。
人々の称賛に包まれて、三人は顔を真っ赤にしてしまうのだった。
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ポカポカ陽気のお昼過ぎ。
ここはロームルス学園の学生寮。
寝ぼけまなこのウルリカ様は、フラフラと廊下を歩いていた。
「ふあぁ~……もうお昼かの……リヴィはどこなのじゃ……」
どうやらウルリカ様、お昼過ぎになってようやく起きてきたようだ。
眠そうに目をこすりながら、寮の出口前までやってくる。
すると、出口前のソファに三人の男子が座っていた。
三人ともウルリカ様と同じ、紺色の学生服を着ている。
「おや? 妾と同じ制服じゃ!」
気づいたウルリカ様は、パタパタッと三人の元へ駆け寄っていく。
「お主達、もしや妾と同じクラスかのう?」
突然現れたウルリカ様に、ビックリしてしまう三人の男子。
その内の一人が、「あっ」と声をあげる。
「あの時の田舎者!?」
声をあげたのは、かつてシャルロットの取り巻きをしていた少年だ。
入学試験の最後、レッサードラゴンの手配を行ったベッポである。
「ほう? お主は見覚えあるのじゃ、一緒のクラスだったのじゃな!」
嬉しそうに笑うウルリカ様。
しかしベッポは、不機嫌そうな表情を浮かべている。
「なんだよ? どうせ俺のことをバカにしてるんだろ? 必死でシャルロット様に取り入ろうとして、お前のこともいじめようとして、それなのに結局下級クラスで……」
「ん? バカになどしておらんぞ?」
「嘘だね、俺のことなんて嫌いなくせに……」
「そんなことないのじゃ、同じクラスで嬉しいのじゃ!」
「嬉しい?」
「うむ! クラスメイトというやつじゃな、これからよろしくなのじゃ!」
ウルリカ様から眩しすぎる笑顔を向けられて、ベッポ思わず顔をそむけてしまう。
ニコニコ笑顔のウルリカ様へ、今度は野太い声がかけられる。
「おお! なんと美しい笑顔だ!」
ドンッ! と足を鳴らして立ちあがる少年。
筋肉質で背の高い、がっしりとした少年だ。
「うむ? お主も同じクラスじゃな?」
「自分の名はシャルル! 父は教会で神父を務めている! 本年よりロームルス学園の下級クラスに入学した! 小さな少女よ、どうぞよろしく!」
大声量で自己紹介をするシャルル。
大きな体に大きな声で、もの凄い迫力だ。
「ふぅ、それではボクも自己紹介しておきましょうか」
三人目の少年もソファから立ちあがる。
やせ型で背の低い、メガネをかけた少年だ。
「ボクの名はヘンリーです。一応貴族の血を引いています、しかし地方の弱小貴族でして……それにボクは六男なので、まあ一般庶民と大差ない身分ですね。これからよろしくお願いしますね」
ペコリとお辞儀をするヘンリー。
シャルルとは対照的に、小さな声で暗い雰囲気だ。
「シャルルとヘンリーじゃな! 妾はウルリカなのじゃ! これから同じクラスじゃな、一緒に楽しく──」
その時、くぅ~という音が鳴り響く。
「むうぅ……お腹が空いてしまったのじゃ……」
音の正体はウルリカ様のお腹の音である。
スリスリとお腹をさするウルリカ様。
お腹を空かせたウルリカ様に、シャルルは小さな包みを差し出す。
「よければこれを! 教会で作っているクッキーだ!」
シャルルの持っているのは、包みに入った小さなクッキーだ。
それを見たウルリカ様は、飛びついて口に放り込む。
「あむ! ポリポリ……ポリポリ……美味しいのじゃ!」
あっという間にクッキーを食べてしまうウルリカ様。
そして再び、くぅ~と鳴るお腹。
どうやらクッキーだけでは足りなかったようだ。
眉を八の字にして、物欲しそうに三人を見ている。
ベッポとシャルル、ヘンリーは、ゴソゴソと手荷物をあさる。
「えぇと、俺はドーナツをいくつか持っているけど……」
「自分はクッキーをあと数枚……」
「キャンディでよければ持っていますよ……」
「……妾にくれるのか?」
コクリと首をかしげるウルリカ様。
断ることなど出来はしない、凶悪な愛くるしさである。
「「「……どうぞ」」」
「やったーなのじゃ! ありがとうなのじゃ!!」
ドーナツ、クッキー、キャンディを受け取り、ウルリカ様は大喜びだ。
ベッポ、シャルル、ヘンリーの手を、順番に握っていく。
「三人とも大好きなのじゃ! 妾達はもうお友達じゃ!!」
「「「えぇ~……」」」
ウルリカ様の勢いに、たじたじな三人。
こうして、思わぬところで三人もお友達を作ったウルリカ様なのであった。
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夕暮れ時。
シャルロットは一人、ロームルス城の中庭テラスで本を読んでいた。
そこへ、疲れた顔のゼノン王がやってくる。
「シャルロット、こんな所で読書か?」
「ええ、お父様は……お仕事終わりですわね……」
ゼノン王の様子から、すぐに仕事終わりだと見抜くシャルロット。
流石は娘、父親のことをよく分かっている。
ゼノン王は「ふぅ」と深いため息をついて、ティーテーブルに腰かける。
「最近は仕事に追われていてな……ん? 変わった本を読んでいるな?」
「ええ、ウルリカからの贈り物ですわ」
ゼノン王は、吸血鬼退治の特訓を思い出す。
「そういえば、訓練が終わったら贈り物をすると言っていたな」
「ナターシャはヨグソードという剣を、オリヴィアは星杖ウラノスという杖を、そしてワタクシはこれを貰いましたの」
そう言ってシャルロットは、本の表紙をゼノン王に向ける。
「“デモニカ国政帳”ですわ!」
「デモニカ国政帳? なんだそれは?」
「その名の通り、ウルリカが魔界で行ってきた、国政の記録帳ですわ。千年間のあらゆる出来事を記してあるそうですの」
「千年間!? それはまた随分と長い……どんな内容なのだ?」
「ええと……政治体制の組み立て方、魔法資源の活用方法、経済政策の記録、魔法教育の方法、医療の発展の歴史、災害対策、貧困の解消、差別問題、戦争のことも書いていますわね、あとは……」
「ちょっと待ってくれ!」
頭をおさえながら、片手をあげて話をさえぎるゼノン王。
「思ったより……うむ……想像をはるかに超えていた。ロムルス王国と比べて、魔界はずいぶんと進んだ政策を行っているようだ。これもウルリカの力なのか……」
「ウルリカの思いも記されていますわよ、ほら!」
シャルロットは、バッと本を開いて見せる。
開かれたページには、見開きで大きな文字が書かれていた。
“全ては愛する民達の、豊かな生活の為に”
「ハッハッハッ! やはり俺では、まだまだ足元にも及ばないな」
文字を見たゼノン王は、お腹を抱えて大笑いする。
そして、パンッと頬を叩いて立ちあがる。
「休んでいる場合ではない! ウルリカに負けないよう、俺も頑張らなければな!」
ゼノン王の表情は、やる気に満ち満ちている。
先ほどまでの疲れた雰囲気は、どこかに吹き飛んでしまったようだ。
「そうだシャルロット、一つ頼みがあるのだが」
「なんですの?」
「その本、読み終わったら俺にも貸してくれないか?」
「ええ、もちろんですわ!」
そう言うと、両手をグッと握って見せるシャルロット。
「お父様! お仕事頑張ってくださいね!」
「ああ!」
天使の笑顔に送り出される、ゼノン王なのであった。
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