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第一章 ~第三ウェーブ~

64話 スプリィム

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 広い球体の空間。
 真っ黒な壁に輝く、色鮮やかなネオンの光。

 ヴェーゼ本部、中央指令室。
 無重力の室内に、一人の美しい女が漂っていた。

「フフフッ……ネズミが逃げ回ってるわねぇ……」

 虹色の髪と、長い銀色のドレスが宙を舞う。
 女の名はスプリィム。
 惑星フローンを、そして第三ウェーブを支配するユニオンマスターである。

 大きく両手を広げるスプリィム。
 ダークマターの暗い輝きが、キラキラと空間に舞う。

「今度はどう洗脳してあげようかしらね? フフフッ……」

「スプリィム様、失礼いたします」

 壁の一部がドアのように開き、一人の男が指令室へと入ってくる。
 銀色のスーツに身を包んだ、やせ型の男だ。
 青白い顔に冷や汗を流しながら、ゆっくりとスプリィムの元へ滑り寄る。

「何か用かしらぁ?」

「申し訳ございません、エルリンを取り逃がしました……」

「……取り逃がした?」

「はい、まことに申し訳ございません! ただいま捜索隊を再編せぃ……うぐっ!?」

 報告の途中で、胸を押さえて苦しみだす男。

「ス……スプリィム……様……」

「無能に用はないわ……消えなさい……」

「お……お助け……を……うぅっ……」

 スプリィムの操るダークマターが、男の心臓を締めあげたのだ。
 男の体が、力なく無重力を漂う。

「ゴミが出たわ、処分してちょうだい」

《かしこまりました》

 指令室の壁から電子音声が流れる。
 壁にポッカリと穴が開き、漂っていた男の体を吸い込んでしまう。

「まったく、使えない連中だわぁ……」

 不機嫌そうにダークマターを操るスプリィム。
 静かな指令室に、再び電子音声が流れる。

《ヴェーゼ統括本部から連絡です。繰り返します、ヴェーゼ統括本部から──》

「分かったわよ、接続してちょうだい」

《接続いたします──スプリィムか?》

 電子音声から、威厳のある男の声に切り替わる
 先程とは一転して、かしこまった態度で応対するスプリィム。

「グランドマスター、ご無沙汰しております」

《明日は例の計画を実行する日だ、準備に抜かりはないか?》

「問題ございません、計画は予定通りに進んでおります」

 スプリィムの視線の先、宙に浮かぶ巨大な円筒形の水槽。
 中に入れられているのは、全裸の地球人の少女だ。
 ソーラの本体、明峰空の体である。

《順調ならば問題ない、結果を楽しみにしている。くれぐれも期待を裏切らないでくれよ?》

「はい、重々承知しております」

《ではまた後日連絡する──接続、終了しました》

 指令室に静寂が戻る。
 ふぅっと息を吐き、無重力を滑るように移動するスプリィム。
 水槽に手を当てて、ニヤリと微笑む。

「フフフッ……必ず計画は成功させて見せるわ……楽しみねぇ……」

 静かな指令室に、スプリィムの怪しい笑い声が響くのだった。
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