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5話 治外法権地帯 その1
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アレク公爵を始め、代々ディスベラード家が統治している、東のアメーバ地方。標高の高い山脈や湿原地帯、はては荒野と数々の大地が存在している。さらにその東には、巨大国家であるアジラダ帝国があるのだが……。
朝方聞いた話をアンネは思い出していた。用意された朝食を済ませ、宛がわれた客室のソファに座りながら。
「この屋敷と庭全体が治外法権領域……アジラダ帝国の領地に入っていたなんて。デジスペラード家は大胆な方のようね……」
硬やや山脈などが連なり、明確な国境線を引くのが難しい地域だからこそ、行える芸当だ。ドルトムント家がこのようなトンチのようなやり方で納得するとは思えないが、アジラダ帝国の領地である以上、簡単に手出しすることができないのも事実だ。
下手に手を出してしまっては、帝国を敵に回してしまう。同時に権力の強いディスペラード家も敵に回ることになる。ドルトムント家は強大な権力を有する王族ではあるが、その分、嫌っている貴族も居る。もしも、アジラダ帝国と戦争状態になった場合、その隙を突かれる可能性もあったのだ。
ドルトムント家としては、余程のことがない限りは放置という選択肢が最適解であった。
「アンネ様、入ってもよろしいですか?」
その時、聞き慣れない声が部屋の入口から聞こえて来た。おそらくは使用人の一人が訪ねて来たのだろう。アンネは返事をしながら扉を開ける。
「これはアンネ様、ご気分は如何でございますか?」
「はい、おかげ様で、良くなっていると思います。ええと……プリムラさん、でしたか?」
「はい、アンネ様。アレク公爵の屋敷の使用人の一人であるプリムラと申します」
アンネは丁寧にお辞儀をするプリムラに会釈をした。昨日の段階で彼女とは面識のあるアンネ。薬を直接配ったのがプリムラだったのだ。
「あなたの渡してくれた薬で、風邪もよくなりました。その節は本当に感謝しかありません」
「お気になさらないでください。私自身もドルトムント家から追放された身ですので、アンネ様のお気持ちは分かるつもりです。もっとも平民の出ではありますが」
「まあ、そうだったのですか……」
平民出身のプリムラが追放され、この屋敷で匿われたというわけだ。アンネとしては彼女に一気に親近感が湧いてしまった。同時にドルトムント王族の卑劣さも痛感した形になっている。
「プリムラさん、お願いしたいことがあるのですが……聞いていただけますか?」
「はい、如何なさいましたか?」
「私も使用人として働かせていただけないでしょうか?」
客人としてお世話になり続けるのは本意ではない。自分は貴族の称号は剥奪されているのだから。アンネは助けられた恩を使用人の仕事で返していきたいと考えていたのだった。
朝方聞いた話をアンネは思い出していた。用意された朝食を済ませ、宛がわれた客室のソファに座りながら。
「この屋敷と庭全体が治外法権領域……アジラダ帝国の領地に入っていたなんて。デジスペラード家は大胆な方のようね……」
硬やや山脈などが連なり、明確な国境線を引くのが難しい地域だからこそ、行える芸当だ。ドルトムント家がこのようなトンチのようなやり方で納得するとは思えないが、アジラダ帝国の領地である以上、簡単に手出しすることができないのも事実だ。
下手に手を出してしまっては、帝国を敵に回してしまう。同時に権力の強いディスペラード家も敵に回ることになる。ドルトムント家は強大な権力を有する王族ではあるが、その分、嫌っている貴族も居る。もしも、アジラダ帝国と戦争状態になった場合、その隙を突かれる可能性もあったのだ。
ドルトムント家としては、余程のことがない限りは放置という選択肢が最適解であった。
「アンネ様、入ってもよろしいですか?」
その時、聞き慣れない声が部屋の入口から聞こえて来た。おそらくは使用人の一人が訪ねて来たのだろう。アンネは返事をしながら扉を開ける。
「これはアンネ様、ご気分は如何でございますか?」
「はい、おかげ様で、良くなっていると思います。ええと……プリムラさん、でしたか?」
「はい、アンネ様。アレク公爵の屋敷の使用人の一人であるプリムラと申します」
アンネは丁寧にお辞儀をするプリムラに会釈をした。昨日の段階で彼女とは面識のあるアンネ。薬を直接配ったのがプリムラだったのだ。
「あなたの渡してくれた薬で、風邪もよくなりました。その節は本当に感謝しかありません」
「お気になさらないでください。私自身もドルトムント家から追放された身ですので、アンネ様のお気持ちは分かるつもりです。もっとも平民の出ではありますが」
「まあ、そうだったのですか……」
平民出身のプリムラが追放され、この屋敷で匿われたというわけだ。アンネとしては彼女に一気に親近感が湧いてしまった。同時にドルトムント王族の卑劣さも痛感した形になっている。
「プリムラさん、お願いしたいことがあるのですが……聞いていただけますか?」
「はい、如何なさいましたか?」
「私も使用人として働かせていただけないでしょうか?」
客人としてお世話になり続けるのは本意ではない。自分は貴族の称号は剥奪されているのだから。アンネは助けられた恩を使用人の仕事で返していきたいと考えていたのだった。
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