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3話 金鉱山 その1

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 アルガス伯爵の元に来てから、数日が経過していた。アイリーンはメイド服に着替え、家事手伝いという仕事を精力的にこなしていた。

「アイリーンさん、こちらもお願いできますか?」

「は~い、わかりました!」

 他のメイド達の数も多く、正直に言ってしまえば楽な部類の仕事量だ。彼女は早乙女千里だった時のことを思い出しながら考えていた。


「しかも、こっちだと褒められるのよね。家だったら、絶対褒めてくれなかったけど」

 彼女はそんなことを考えながら、駆け足で呼ばれた方向へ向かっていった。仕事も覚えるのが早く、一生懸命なアイリーンはすぐに皆から歓迎された。



「アイリーン様。メイドとしてのお仕事をここまで完璧にこなされるなんて……ミランダは感銘を受けております!」

 影から常に護衛として見張っていたミランダがいつの間にか隣に立っていた。大粒の涙を流しながら、アイリーンの仕事ぶりに感激しているのだ。

「やめてよ、ミランダ。別に大したことはしていないわ。住まわせてもらってるんだから当然だしね」

「そのお考えは素晴らしいことです」

「それに、アルガス伯爵がしてくれていることを考えれば、この程度じゃ恩返しにならないわ」


 侯爵令嬢の肩書きは消えているとはいえ、自らを匿ってくれた伯爵。今後どういった危険が及ぶかわからない状況だが、彼の慈悲深さがそれを可能にしたのだ。


「伯爵は聡明な方よ。必ず私の状況の裏を取っているはず。まだ数日だから結果は出ていないかもしれないけど、それで真実がわかれば、私も完全に信用していただけるでしょう」

「はい、そうですね」


 侯爵令嬢として追放されたのは事実なので問題ない。今頃、王国ではアイリーンを信奉していた者達も気づき始めているかもしれない。彼女は美貌とそこそこの知略から、貴族の中では相当な人気を誇っていた。その為に、コアなファンも多い。

 そんな者たちがアイリーンが消えたことを知ったらどんな行動に出るか……アイリーン自身にも予想は難しかった。




「ところで、私は金鉱山を伯爵に譲ろうと思っているんだけど」


 アイリーンの父親により、管理権を残されている場所。王国の辺境地にあり、今は金の採掘量は大したことはない。だが、彼女は知っている。あの場所は化けるポイントであることを。

「異論はありません。恩返しという意味から考えましても、良いかと思われます」

「彼ならきっと上手く使ってくれるわ」


 アルガス伯爵ならば、必ず金鉱山を上手く管理してくれるに違いない。いくら管理権を持っているアイリーンでも、屈強な男たちの巣を管理するのは怖いと考えていたのだ。


「早速、善は急げね。伯爵に打診してみましょう」

「はい、お供いたします」


 アイリーンとミランダの二人は、金鉱山の権利をアルガスに譲る話を持ち掛ける為、彼の部屋へと向かって行った。
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