公爵令息から婚約破棄されましたが、そのお兄様から婚約の依頼がありました

あめり

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2話 リグリッツ・エンデヴァー その1

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 私は王都の貴族街にある別宅で悲しみを癒していたんだけれど……突然訪ねて来たのは、ロイド様の兄に当たるリグリッツ・エンデヴァー様だった。正直な話、会いたいとは思わなかったけれど……。


「シャロム……! 無事か……?」

「リグリッツ様……? ええ、私は大丈夫ですが……」


 私はリグリッツ様に現状を伝えた。精神的にはともかくとして、身体は健康そのものだから。それを聞いたリグリッツ様は心の底から安心しているようだった。……正直、なんでリグリッツ様がそんな表情をするのか分からない。ロイド様とは確かに兄弟だけれど、リグリッツ様には何の罪もないんだから……。


 でも、リグリッツ様は私の前で土下座の体勢を取った。ちょ、ちょっとそれはいくらなんでも……!


「リグリッツ様、おやめください……! あなた様がそのようなことをなさる必要なんて……!」

「いや、これは、愚弟と同じエンデヴァー家の者として当然のことだ。心苦しいかもしれないが、受け取ってもらいたい……!」

「リグリッツ様……」


 自らの弟を愚弟と断罪するリグリッツ様。それに加えて土下座までしている彼の覚悟は嫌でも理解することができた。私に対しての申し訳ない気持ちというのは伝わってくる。


「リグリッツ様……お気持ちは嬉しいのですが、土下座をする人物が違う気が致します。決してリグリッツ様は悪くないということを忘れないでください」

「あ、ああ……シャロム、その言葉は非常に助かるよ……」


 涙目になっていたリグリッツ様は私の手を借りながら、なんとか立ち上がった。


「この度のことは本当に申し訳ない……ロイドには必ず謝罪にこさせるので、しばらく待ってもらいたい」

「は、はい……承知いたしました。ですが……リグリッツ様がいきなり来られたのは……」

「当たり前だろう? 君のことは昔から知っているんだから」


 確かにロイド様やリグリッツ様とは昔からの仲ではあるけれど……いわゆる幼馴染ってところかしら?

 でも、いくら弟が婚約破棄をしたからといって、いきなり土下座にくるのはやり過ぎだと思うわ。いえ、その覚悟はとても嬉しいというか、感心するレベルだけれど……。でも……それでも、理解できない部分の方が大きい。


「しかし……リグリッツ様が本当に、このようなことをされる必要なんて……」

「対外的にはそうかもしれないが、僕は君のことが好きなんだ。居てもたってもいられなくなってね……」

「えっ?」


 ……今、リグリッツ様からとんでもない言葉が聴こえたような……私は思わず聞き返していた。リグリッツ様の頬は真っ赤になっている。


「い、いや……なんでもない。と、とにかく元気そうで良かったよ……僕は一旦、帰るとしよう……!」


 リグリッツ様は慌てた様子で玄関から出て行った。外には御者が待っていたのか、その馬車はすぐに加速していく。……私は確かに聴こえた彼の言葉を知らず知らず心の中で反復していた。
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