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8話 一触即発 その1

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「ほ、本当に申し訳ありません……アレン様……」

「い、いや……私も冗談で言ってしまったからな。こちらこそ済まない」

 顔をさらに真っ赤にして俯いているリオナ。彼女の肩を優しく抱いているのはアレンだ。彼女は婚約をした暁にアレンから身体を求められていると勘違いしてしまっていた。

 彼女なりの覚悟を決め、自らの部屋へと迎え入れる予定ではあったのだが……アレンの言葉が冗談だったと知り、勝手に先走ってしまったことを恥じることになった。

「あ、穴があったら入りたいです……」

「リオナ、そんなに気にすることでもないんじゃないかな?」

「そうでしょうか?」

「ああ。一応、私達は婚約関係にあるわけだし。父上への正式な報告はまだなので、国家レベルでの決定というわけではないかもしれないが……」

 アレンは17歳のリオナの感情を配慮して露骨な言葉は使わなかった。それでも彼女は顔を赤くしていたが、幾分かマシなようだ。とても純粋で可愛らしいリオナ。アレンは昔からこういう雰囲気の彼女を好いていた。

 弟であるグレンと婚約関係になったと数か月前に聞かされた時は、そういう意味で落ち込んだものだが。しかし、弟のグレンも彼からすれば大切な肉親だ。

 色々と問題があるという噂はあっても、彼としては信じたいという思いが勝っていた。アレンは心を殺してグレンとリオナを祝福していたのだ。


 だが、少し前にグレンからの婚約破棄の事実を聞いた。アレンはその理由についても聞いていた為に、最早グレンには任せられないと感じたのだ。自らの想いをリオナに告げ現在に至る。

「リオナの部屋に関しては、また今度見させてもらおうか」

「は、はい。お気遣いありがとうございます」

「なに、気にしないでくれ。婚約者として当然のことだ」

 リオナに無理強いなどさせるつもりは毛頭ないアレン。焦る必要などどこにもないのだ。ラウコーン王国の風習では、結婚をしてから初夜を迎えるのが望ましいという教えまであるのだから。

 リオナとアレン……二人の関係は、まだまだ始まったばかりであった。


---------------------


 その頃……王都より北に位置するポルンガ地方を目指す、荘厳な装いの馬車が一台。その周囲には護衛と思われる私設軍の者たちが馬で続いていた。

 ラウコーン王国王位継承者第二位、グレン・ハンフリー。そして、まだ正式に婚約はしていないが、もっとも近しい存在の有力貴族令嬢、ユリア・サンマイト。二人を乗せた馬車がポルンガ地方、ギュスターブ邸に向けて高速で移動していたのだ。

 馬車に乗るグレンとユリアの表情は険しく、明らかに道徳的ではないことを考えているようだった……。波乱の原因因子……それらは、アレンとリオナの元に確実に接近していた。
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