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109話 智司VSランファーリ その1

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「まさか、生きている内に魔神と戦うことになるとはな」


 ランファーリは元の人格からは乖離した戦闘狂の一面を覗かせていた。戦闘狂の一面で言えば、デュランやハズキといった者達もそうだが、それらとは性質が少し異なっている。

 いつの頃からか……口自体は悪いが、礼儀正しく、謙虚な少女の中に「もう一つ」の人格が宿ったのは……。


「ダークドラゴンとホワイトドラゴンの同時召喚……これは凄いな」

「あとあと、学園の方にも何体かドラゴンが行ったみたいですよ~~」


「そうか……そうなると複数体のドラゴンの同時召喚……か」


 智司の言葉を補足するようにアリスは付け足した。智司は考える……自分であれば、これだけのドラゴン族を同時召喚可能だろうか? と。召喚能力が実力に直結していないのは彼もわかってはいるが、ある程度の指標にすることも間違いではない。


 そうなると、やはり目の前のランファーリという人物は相当の手練れということになる。エルメスから聞いた補足説明では、彼女は歴代の天網評議会メンバーでも最強とのこと。それは大陸内に於いて、1,2を争う国家であるアルビオン王国の歴史の中で最強を意味するのだ。

 智司は仮面越しに警戒心が増していた。既に人間状態で勝ち目がないのは分かり切っている。彼は魔神としての力を開放しているのだ。




 両雄が相まみえる……強烈な闘気の渦に、グウェインは完全に戦意を喪失していた。アリスも彼を殺す様子を見せていない。

「相手の強さをサーチできる能力か~~。そういえば、エステラが能力をコピーできるはずだよね? それまでは生かしておこうかな~~?」


 どうやらアリスは、彼を生け捕りにする魂胆のようだ。智司もその言葉を否定しない。グウェインの能力は今後に生きて来るだろうと、考えたからだ。





 そして……この時の彼は気付いていないことがある。魔神の軍勢……全ての部下は直接的にしろ間接的にしろ、彼から召喚されているということが……。ハズキが生み出したケルベロスも、智司とハズキの命令では智司を優先するのだから。



「……まずは、魔神殿の強さを拝見といこうか。行け」

 ランファーリは自らも闘気を全開にしながら、ダークドラゴンとホワイトドラゴンに声を掛けた。2体の竜族は智司を標的に定める。どちらも、ソウルタワーで相対したブラッドハーケンを超える個体だ。智司の身体にも力みが生じる。

 その後ろに居るランファーリはさらに上位の実力者なのだから……。


「久しぶりの戦いか……ハズキが攫われている状況では不謹慎だけれど、せっかくだ、楽しまないとな」


 彼もまた、戦闘狂の一面を覗かせていた。実力のある者は多かれ少なかれ、そういう傾向は持っているのだろう。


「ギシャアアア」

「グオオオオオ」


 ダークドラゴン、ホワイトドラゴン共に、強烈なブレス攻撃を智司に向かって放出する。その破壊力は周囲の建物を一瞬にして蒸発させるほど強力であり、サラも全く防ぐことが出来ないレベルだ。現在のランファーリは、彼女を除いたアルビオン王国全ての戦力を超える程の力を有しているのだ。


 さて、そのブレス攻撃は智司に命中……とはいかなかった。彼は簡単にそれをいなしてしまったのだから。片方のブレスは建物を消滅させ、もう片方はアリスに、命中してしまった。


「魔神様~~~~! なにするんですか~~~~!」

「あ、ごめん……受け流す方向間違えた……」

「もう~~~~~!!」


 ドラゴンブレスの直撃を受けたはずのアリスだが、まったくダメージを受けている気配はない。智司に対してむくれているのがその証拠だ。彼女でさえ無傷なのだから、智司に対してその攻撃は無意味以外の何物でもなかったのだ。

「まあまあ、機嫌なおしてくれ」

「う~~。今度、デートしてくれたら許してあげます……」

「デートか……まあ、そのくらいなら」

「ホントですか!? やったーー!!」


 先ほどまでむくれていたアリスは存在しなかったように、そこには上機嫌の彼女が存在していた。智司とのデートなど、他の女性陣に差を付ける絶好のチャンスだ。彼女からすればとてつもない程の至福だったのだ。



-----------------------------------



「ダークドラゴンとホワイトドラゴンの一撃をいとも簡単に……?」


 ランファーリは目の前で起こったことの理解に若干の時間を要していた。驚いている気配はないが、少なからず信じられないことが起きたのだから。ドラゴンたちは非常に狼狽えている。


「これはほんの小手調べなんだろ?」

「……!!」


 智司がそう言った瞬間、ダークドラゴンとホワイトドラゴンの首が同時に切り落とされる……。光速の動きからの絶命の一撃……いかに竜族とはいえ、首を落とされては即死は免れなかった。2体のドラゴンは自分が死んだことにすら気付かなかったかもしれない。智司の右腕には強大な魔神の斧が現れていた。


「い、一体、何が……?」


 ランファーリは智司の動きをほぼ捉えられていなかった。秒速30万キロメールの衝撃は、この世界に於いても速過ぎる代名詞になっているのだ。彼女の顔からは無数の汗が出ている……。


「切り札があるのなら今の内に出しておけ。ないなら……残念ながら、お前の命はここまでだ」


 魔神からの圧倒的な最後通告か……天網評議会の序列1位はあり得ない程の命の危機に瀕していた……。
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