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79話 交渉 その4
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「魔神様の望み……それは、休戦条約の締結です」
「……休戦条約?」
ダンダイラムとアナスタシア。天網評議会の二人は、エルメスの言葉の意味を理解するのに時間を要してしまっていた。智司側の魔神の軍勢がそのようなことを言い出すとは考えていなかったからだ。
「休戦条約ってことは……ヨルムンガントの森への侵攻をやめろと遠回しで言っているのかい?」
「そのように受け取ってもらっても構いません。どのみち、平等な条約にはなりませんので」
エルメスは淡々と智司の言葉を伝えている。本来であれば、アナスタシア達相手であれば魔族化していようが、通常の口調になるはずだが、今の彼女は単なる伝言役に収まっていたのだ。
「バカを言うな……貴様たちのような危険な存在がヨルムンガントの森に存在している。それだけで、アルビオン王国……さらに周辺国家にとっても脅威でしかないのだ!」
既にレドンド達に殺された者達の数は相当だ。ネロの大爆発によって死亡した者達の数も多いが、そこも含めて魔神の軍勢の責任にしている。ダンダイラムは一般的な正論を掲げ、エルメスの先に存在する魔神を叱責した。
「……魔神様は刃向かう者には容赦はしないと思うわ。それでもいいの?」
「当たり前だっ! 魔神の勢力と休戦協定など結べばどうなるか……!」
「まあ、待ちなよ、ダンダイラム。結論を急いでも仕方ないさ」
街の周囲はもぬけの殻になっている。その場所でダンダイラムの言葉は強く響いていた。彼は恐怖の対象が目の前に現れたことで、本来の冷静さを失っているのだ。そんな彼を制止したのは、実力で大きく上回るアナスタシアだ。彼女がダンダイラムの発言を止め、エルメスと話し出す。
「シルバードラゴンがその気なら、既に何千人もの死亡者が出ていただろうね。見逃してくれたことには感謝するよ」
アナスタシアは冷静に周囲の状況を分析していた。レドンドとレジナの二体の姿は見えなくなっているが、すぐにでも殺戮を開始することは可能なはずだ。魔神の命令なのか、それを行う気はない。無駄な死者を作る気はない。その点に関してはアナスタシアも感謝していたのだ。
「休戦協定になると、私の一存じゃ決められないし。最低でも、あんたらの拠点へ向かわせてもらう必要があると思うよ」
「なるほど。こちらの本拠点の確認が必要と……」
「グルルルルルルル……」
ケルベロスは人間の言葉を理解できる為に、大きく唸っていた。自らの本拠点にアルビオン王国の者が来ることを警戒しているのだ。
「エルメスならわかるさね。さすがに、正体も現さない人物と交渉なんてできないことは。休戦協定の締結を行うなら、そちらの拠点で行うさね」
「……いいでしょう」
エルメスはあっさりと認めた。アナスタシアも意外だったのか、少し表情に現われている。それもそのはず……ハズキはそういった事態も想定し、彼女に指示を与えていたのだから。本拠点に行く流れになった場合は、承諾しろ、と。
「準備が出来たら、第二陣の連中がキャンプを張っていた場所に来るように。確認が出来次第、迎えに行きます」
以前、ネロが冒険者たちを鼓舞激励し、監視機械を飛ばしていた場所だ。最後にワイバーン戦が行われた場所でもある。
エルメスはアナスタシア達の回答を聞く前に、振り返り広場から立ち去って行く。ケルベロスも先ほどまで唸っていたが、すぐにエルメスの後に続く。
「……アナスタシア」
「……」
一瞬、アナスタシアはエルメスを殺してしまおうかどうか悩んだ。背後を見せている二人。アナスタシアの実力を持ってすれば、彼女たちを倒すことは容易だろう。レドンドたちが異変に気付く前に、決着を付けることも可能かもしれない。
だが、アナスタシアは攻撃の動作を行わなかった。攻撃をした場合、レドンドはおそらく街を焼き払う。その時の損失は甚大なものになり、エルメスとケルベロスの命ではとても釣りあわない被害になるだろう。何より、エルメスを殺すことに躊躇いが出ていたのだ。
「我々は重大な局面に立たされているのかもしれんな、アナスタシアよ……」
「そうさね……国の存亡を懸けたイベントだよ。ただちに、天網評議会メンバーを揃えて会議を開かないとね。選択を見誤れば……王国だけじゃない、他の国家も巻き込むことになるさね」
そう言いながら、アナスタシアは広場の端に立っている二人の人物に視線を合わせた。マリアナ公国からの使者であるギリアンとグウェインの二人だ。
「おっと気付かれてしまったようだ。挨拶に行こうかギリアン」
「ああ、そうだな」
二人は広場に入り、アナスタシア達に近付いて行った。その直後、遥か彼方の上空にシルバードラゴンと思しき姿が見て取れた。エルメス達を背中に乗せ、レドンドがヨルムンガントの森に帰還して行ったのだ。
「おい、シルバードラゴンだぞ。コンバットサーチで測れるか?」
「流石に射程外だよギリアン。それよりも、戦闘能力22000を誇る強者に挨拶が先だよ」
はるか彼方を飛んでいるシルバードラゴンよりも、グウェインにとってはアナスタシアの方が重要だった。マリアナ公国はこの日、天網評議会に接触することに成功した。
「……休戦条約?」
ダンダイラムとアナスタシア。天網評議会の二人は、エルメスの言葉の意味を理解するのに時間を要してしまっていた。智司側の魔神の軍勢がそのようなことを言い出すとは考えていなかったからだ。
「休戦条約ってことは……ヨルムンガントの森への侵攻をやめろと遠回しで言っているのかい?」
「そのように受け取ってもらっても構いません。どのみち、平等な条約にはなりませんので」
エルメスは淡々と智司の言葉を伝えている。本来であれば、アナスタシア達相手であれば魔族化していようが、通常の口調になるはずだが、今の彼女は単なる伝言役に収まっていたのだ。
「バカを言うな……貴様たちのような危険な存在がヨルムンガントの森に存在している。それだけで、アルビオン王国……さらに周辺国家にとっても脅威でしかないのだ!」
既にレドンド達に殺された者達の数は相当だ。ネロの大爆発によって死亡した者達の数も多いが、そこも含めて魔神の軍勢の責任にしている。ダンダイラムは一般的な正論を掲げ、エルメスの先に存在する魔神を叱責した。
「……魔神様は刃向かう者には容赦はしないと思うわ。それでもいいの?」
「当たり前だっ! 魔神の勢力と休戦協定など結べばどうなるか……!」
「まあ、待ちなよ、ダンダイラム。結論を急いでも仕方ないさ」
街の周囲はもぬけの殻になっている。その場所でダンダイラムの言葉は強く響いていた。彼は恐怖の対象が目の前に現れたことで、本来の冷静さを失っているのだ。そんな彼を制止したのは、実力で大きく上回るアナスタシアだ。彼女がダンダイラムの発言を止め、エルメスと話し出す。
「シルバードラゴンがその気なら、既に何千人もの死亡者が出ていただろうね。見逃してくれたことには感謝するよ」
アナスタシアは冷静に周囲の状況を分析していた。レドンドとレジナの二体の姿は見えなくなっているが、すぐにでも殺戮を開始することは可能なはずだ。魔神の命令なのか、それを行う気はない。無駄な死者を作る気はない。その点に関してはアナスタシアも感謝していたのだ。
「休戦協定になると、私の一存じゃ決められないし。最低でも、あんたらの拠点へ向かわせてもらう必要があると思うよ」
「なるほど。こちらの本拠点の確認が必要と……」
「グルルルルルルル……」
ケルベロスは人間の言葉を理解できる為に、大きく唸っていた。自らの本拠点にアルビオン王国の者が来ることを警戒しているのだ。
「エルメスならわかるさね。さすがに、正体も現さない人物と交渉なんてできないことは。休戦協定の締結を行うなら、そちらの拠点で行うさね」
「……いいでしょう」
エルメスはあっさりと認めた。アナスタシアも意外だったのか、少し表情に現われている。それもそのはず……ハズキはそういった事態も想定し、彼女に指示を与えていたのだから。本拠点に行く流れになった場合は、承諾しろ、と。
「準備が出来たら、第二陣の連中がキャンプを張っていた場所に来るように。確認が出来次第、迎えに行きます」
以前、ネロが冒険者たちを鼓舞激励し、監視機械を飛ばしていた場所だ。最後にワイバーン戦が行われた場所でもある。
エルメスはアナスタシア達の回答を聞く前に、振り返り広場から立ち去って行く。ケルベロスも先ほどまで唸っていたが、すぐにエルメスの後に続く。
「……アナスタシア」
「……」
一瞬、アナスタシアはエルメスを殺してしまおうかどうか悩んだ。背後を見せている二人。アナスタシアの実力を持ってすれば、彼女たちを倒すことは容易だろう。レドンドたちが異変に気付く前に、決着を付けることも可能かもしれない。
だが、アナスタシアは攻撃の動作を行わなかった。攻撃をした場合、レドンドはおそらく街を焼き払う。その時の損失は甚大なものになり、エルメスとケルベロスの命ではとても釣りあわない被害になるだろう。何より、エルメスを殺すことに躊躇いが出ていたのだ。
「我々は重大な局面に立たされているのかもしれんな、アナスタシアよ……」
「そうさね……国の存亡を懸けたイベントだよ。ただちに、天網評議会メンバーを揃えて会議を開かないとね。選択を見誤れば……王国だけじゃない、他の国家も巻き込むことになるさね」
そう言いながら、アナスタシアは広場の端に立っている二人の人物に視線を合わせた。マリアナ公国からの使者であるギリアンとグウェインの二人だ。
「おっと気付かれてしまったようだ。挨拶に行こうかギリアン」
「ああ、そうだな」
二人は広場に入り、アナスタシア達に近付いて行った。その直後、遥か彼方の上空にシルバードラゴンと思しき姿が見て取れた。エルメス達を背中に乗せ、レドンドがヨルムンガントの森に帰還して行ったのだ。
「おい、シルバードラゴンだぞ。コンバットサーチで測れるか?」
「流石に射程外だよギリアン。それよりも、戦闘能力22000を誇る強者に挨拶が先だよ」
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