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44話 ネロとの戦い その3
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「レイッ!!」
「ギシャアア!」
エルメスとワイバーンは、ほぼ同時に攻撃を展開させた。光速の一撃であるレイの方が先にワイバーンに到達する。しかし、効果は薄く、その直後に撃ち落とされる雷撃がエルメスの身体を焼き払った。
「が……はっ!!」
既にこの工程を何度繰り返しているだろうか。エルメスの身体は人間であれば、致命傷になりかねない程、深く傷ついていた。
「はああああ!!」
エルメスが闘気により作り出した刃。それを全力で空中に居るワイバーンに投げ出す。しかし、その攻撃も上空を制覇しているワイバーンは容易く避けたのだった。
地力の違い以外に生まれる、地の利の面。その両方で不利なエルメスにとっては、ワイバーンとの戦闘での勝ち目はかなり低かった。
「そろそろ限界かな? じゃあ、最後くらいは僕がとどめを刺してやるよ」
高みの見物をしていたネロは笑いながらいってのける。最早、彼に返せるほどの余力も残されていないエルメスは、何も言うことができなかった。
「言葉で返すことも困難になっているか。なら、本当にとどめを……んっ?」
「ガルルルルルツ!」
そんな時、エルメスの傍らを影が走った。その影は有無を言わさぬ速度でネロに攻撃を仕掛けたのだ。最後の1体のケルベロスの姿がそこにはあった。
猛スピードでネロの首元に狙いを絞ったのだ。しかし、彼の魔法障壁にガードされてしまう。
「ガギギギ……!!」
ケルベロスの強靭な顎をもってしても、ネロの防御を突破することはできない。他の侵入者とは明らかにレベルの違う実力者であった。
「はははははっ! 獣如きが僕を倒せると思ったのか? 全く、これだから身の程を知らない奴は好きになれないんだよ」
ネロはケルベロスに強力な蹴りをお見舞いする。ケルベロスの身体は大きく後方へと飛ばされてしまった。
「ギャン!!」
苦しそうな声を上げながら、地面に叩きつけられるケルベロス。何とか立ち上がるが、明らかにダメージは大きい。ボグスミートの攻撃とは格の違う一撃……さすがは評議会序列2位であった。
「グルルルル……グル……!」
「はははっ、恨みがましい表情だね。そうだよ、弱者はそういう表情をしなきゃさ。絶対に勝てない相手を目の前にするのはどんな気持ちだい? 君たちも、ミリアム達を相手にしていた時は同じような感情を抱いていただろう?」
「…………」
エルメスやケルベロスはなにも言い返さない。この男と一緒にだけはされたくないからである。しかし、状況は違うが、実力で劣る者を攻撃していたのは事実であることは理解していた。
「さて、そろそろいいかな。僕も忙しい身なんでね……お前たち二人を始末して、完全に魔神の住処を鎮圧できる部隊の編成もしなきゃならないし」
「……今回は、やはり様子見だったのね?」
「勿論さ。おかげでかなり良いデータが取れたよ。これでお前たちの命運は……」
その時だった。彼らの後方よりとてつもない気配が現れたのは。真っ先に気付いたのはネロだ。
とてつもない邪念の塊……圧倒的なブレス攻撃が上空のワイバーンに射出された。
「グギャアアアアアア……!!!」
「ワイバーン……!」
邪念の塊の直撃を受けたワイバーンは身体をバラバラにさせながら、地面へと落下していった。一撃の下にワイバーンはあの世へと誘われたのだ。
「バカな……僕のワイバーンが一撃でやられるなんて……」
ネロはこの時、初めて一滴の汗を流していた。彼の凝視する視線の先から現れるのは……傷を完治させたシルバードラゴンのレドンドであった。
「レドンド様……!」
「グルルルル……」
レドンドの姿を見たエルメスとケルベロスは、明らかに安心した表情になっていた。そして、その安心の為か、エルメスは座り込んでしまう。
「貴様らが射線上に居た為に、あの男にブレス攻撃はしなかったが……ふむ、あれが評議会序列2位か」
「君がシルバードラゴンだね……はは、伝説の生き物に会えるというのは不思議な気分だ」
両雄はお互いの視線を合わせながら、初めて対峙したのだ。少しの間、沈黙が流れる。
「まさか、僕の眷属のワイバーンを倒されるとは思ってなかったよ。いくら不意打ちとしてもね」
「貴様の爆弾攻撃もなかなか見事であったぞ。しかし、ワイバーン程度が貴様の眷属か。他に強力な眷属が居ないと言うのであれば、本体の貴様もたかが知れているな」
レドンドは皮肉を交えながら、ネロに話した。他の眷属が居ないのは分かり切っているが、敢えて濁した発言をしたのだ。
「……君は眷属だと言いたいのか? 魔神とやらの」
「察しが良いな。そういうことだ」
眷属だけを見ても測れる、主としての器の差。レドンドはブレス攻撃で殺したワイバーンに、同情の念すら抱いていた。
ネロは頭の中で、サラの言葉を思い出している。そして、おもむろに首を横に振っていた。
「いや、そんなわけはない。こんな怪物の主など居るわけが……君ほどの竜を側近にしている者が居るというのか? とても信じられないが」
「私は残念ながら側近ですらないがな」
「……なんだって?」
「いや、なんでもない」
自らの上をいくハズキという側近。そしてもう一人……。レドンドは余計な情報を与えるのは得策ではないと判断し、それ以上語ることはしなかった。
「さて、では自然の摂理として殺し合いといくか。ニッグ達は勇敢に私に挑んだ。貴様もかかって来るがいい」
話は終わりだ。レドンドは本気の臨戦態勢に入った。今まで見せたことがない全力の状態だ。
「ぐっ……! これほどの力を持っていらっしゃるとは……!」
「クウウウウ……!」
近くに居たエルメスとケルベロスは、あまりに強大な波動を前に意識を保つだけで精一杯だった。前方に立っているネロも明らかに表情が強張っている。
「……残念だが、僕には任務がある。君の相手は骨が折れそうだし、またいずれ来るさ。じゃあね」
ネロはそれだけ言うと、すぐにバックステップで十分な距離を取った。そして、幾つも並んでいる迷彩柄のテントに紛れるように姿を消して行った。傍から見れば、明らかにレドンドに驚き逃げたような印象だ。
「去ったか……」
レドンドは索敵により、近くに彼が居ないことを確認する。奇襲で攻めてくることもなさそうだ。
追うことも可能ではあったが、どのような罠が仕掛けられているかもわからない。あの男の、有無を言わさぬ爆弾攻撃を思い出し、それ以上の深追いは避けた。
その確認を終えると、レドンドはエルメスらに視線を合わせる。
「大怪我だな、エルメス」
「はい……申し訳ありませんでした……不甲斐ない姿をお見せしてしまって……」
エルメスの服は所々千切れており、内臓まで見えそうな傷もあった。
「人間ならば、致命傷になりかねない傷だ。ケルベロス、ハズキのところまで運んでやってくれるか?」
「ワウッ!」
ケルベロスは力強く頷くと、エルメスの前でかがんでみせた。
「ごめん、ケルベロス……。レドンド様はどうするのですか?」
「私は、しばらくはこの辺りを警戒しておこう。万が一ということもあるからな」
「畏まりました。それではレドンド様、失礼いたします」
「ああ」
エルメスは静かにレドンドに頭を下げる。それを見計らい、ケルベロスは高速で森に溶け込んで行った。
「さて……他にも侵入者は居たはずだが……ハズキ達に見つかった以上、悲惨な末路しか思い浮かばんな」
レドンドは違う意味で、ミリアムたちを幸せな部類に感じていた。他の二人に相対する侵入者は……どのような事態になるのか予想がつかなかったからだ。
「ギシャアア!」
エルメスとワイバーンは、ほぼ同時に攻撃を展開させた。光速の一撃であるレイの方が先にワイバーンに到達する。しかし、効果は薄く、その直後に撃ち落とされる雷撃がエルメスの身体を焼き払った。
「が……はっ!!」
既にこの工程を何度繰り返しているだろうか。エルメスの身体は人間であれば、致命傷になりかねない程、深く傷ついていた。
「はああああ!!」
エルメスが闘気により作り出した刃。それを全力で空中に居るワイバーンに投げ出す。しかし、その攻撃も上空を制覇しているワイバーンは容易く避けたのだった。
地力の違い以外に生まれる、地の利の面。その両方で不利なエルメスにとっては、ワイバーンとの戦闘での勝ち目はかなり低かった。
「そろそろ限界かな? じゃあ、最後くらいは僕がとどめを刺してやるよ」
高みの見物をしていたネロは笑いながらいってのける。最早、彼に返せるほどの余力も残されていないエルメスは、何も言うことができなかった。
「言葉で返すことも困難になっているか。なら、本当にとどめを……んっ?」
「ガルルルルルツ!」
そんな時、エルメスの傍らを影が走った。その影は有無を言わさぬ速度でネロに攻撃を仕掛けたのだ。最後の1体のケルベロスの姿がそこにはあった。
猛スピードでネロの首元に狙いを絞ったのだ。しかし、彼の魔法障壁にガードされてしまう。
「ガギギギ……!!」
ケルベロスの強靭な顎をもってしても、ネロの防御を突破することはできない。他の侵入者とは明らかにレベルの違う実力者であった。
「はははははっ! 獣如きが僕を倒せると思ったのか? 全く、これだから身の程を知らない奴は好きになれないんだよ」
ネロはケルベロスに強力な蹴りをお見舞いする。ケルベロスの身体は大きく後方へと飛ばされてしまった。
「ギャン!!」
苦しそうな声を上げながら、地面に叩きつけられるケルベロス。何とか立ち上がるが、明らかにダメージは大きい。ボグスミートの攻撃とは格の違う一撃……さすがは評議会序列2位であった。
「グルルルル……グル……!」
「はははっ、恨みがましい表情だね。そうだよ、弱者はそういう表情をしなきゃさ。絶対に勝てない相手を目の前にするのはどんな気持ちだい? 君たちも、ミリアム達を相手にしていた時は同じような感情を抱いていただろう?」
「…………」
エルメスやケルベロスはなにも言い返さない。この男と一緒にだけはされたくないからである。しかし、状況は違うが、実力で劣る者を攻撃していたのは事実であることは理解していた。
「さて、そろそろいいかな。僕も忙しい身なんでね……お前たち二人を始末して、完全に魔神の住処を鎮圧できる部隊の編成もしなきゃならないし」
「……今回は、やはり様子見だったのね?」
「勿論さ。おかげでかなり良いデータが取れたよ。これでお前たちの命運は……」
その時だった。彼らの後方よりとてつもない気配が現れたのは。真っ先に気付いたのはネロだ。
とてつもない邪念の塊……圧倒的なブレス攻撃が上空のワイバーンに射出された。
「グギャアアアアアア……!!!」
「ワイバーン……!」
邪念の塊の直撃を受けたワイバーンは身体をバラバラにさせながら、地面へと落下していった。一撃の下にワイバーンはあの世へと誘われたのだ。
「バカな……僕のワイバーンが一撃でやられるなんて……」
ネロはこの時、初めて一滴の汗を流していた。彼の凝視する視線の先から現れるのは……傷を完治させたシルバードラゴンのレドンドであった。
「レドンド様……!」
「グルルルル……」
レドンドの姿を見たエルメスとケルベロスは、明らかに安心した表情になっていた。そして、その安心の為か、エルメスは座り込んでしまう。
「貴様らが射線上に居た為に、あの男にブレス攻撃はしなかったが……ふむ、あれが評議会序列2位か」
「君がシルバードラゴンだね……はは、伝説の生き物に会えるというのは不思議な気分だ」
両雄はお互いの視線を合わせながら、初めて対峙したのだ。少しの間、沈黙が流れる。
「まさか、僕の眷属のワイバーンを倒されるとは思ってなかったよ。いくら不意打ちとしてもね」
「貴様の爆弾攻撃もなかなか見事であったぞ。しかし、ワイバーン程度が貴様の眷属か。他に強力な眷属が居ないと言うのであれば、本体の貴様もたかが知れているな」
レドンドは皮肉を交えながら、ネロに話した。他の眷属が居ないのは分かり切っているが、敢えて濁した発言をしたのだ。
「……君は眷属だと言いたいのか? 魔神とやらの」
「察しが良いな。そういうことだ」
眷属だけを見ても測れる、主としての器の差。レドンドはブレス攻撃で殺したワイバーンに、同情の念すら抱いていた。
ネロは頭の中で、サラの言葉を思い出している。そして、おもむろに首を横に振っていた。
「いや、そんなわけはない。こんな怪物の主など居るわけが……君ほどの竜を側近にしている者が居るというのか? とても信じられないが」
「私は残念ながら側近ですらないがな」
「……なんだって?」
「いや、なんでもない」
自らの上をいくハズキという側近。そしてもう一人……。レドンドは余計な情報を与えるのは得策ではないと判断し、それ以上語ることはしなかった。
「さて、では自然の摂理として殺し合いといくか。ニッグ達は勇敢に私に挑んだ。貴様もかかって来るがいい」
話は終わりだ。レドンドは本気の臨戦態勢に入った。今まで見せたことがない全力の状態だ。
「ぐっ……! これほどの力を持っていらっしゃるとは……!」
「クウウウウ……!」
近くに居たエルメスとケルベロスは、あまりに強大な波動を前に意識を保つだけで精一杯だった。前方に立っているネロも明らかに表情が強張っている。
「……残念だが、僕には任務がある。君の相手は骨が折れそうだし、またいずれ来るさ。じゃあね」
ネロはそれだけ言うと、すぐにバックステップで十分な距離を取った。そして、幾つも並んでいる迷彩柄のテントに紛れるように姿を消して行った。傍から見れば、明らかにレドンドに驚き逃げたような印象だ。
「去ったか……」
レドンドは索敵により、近くに彼が居ないことを確認する。奇襲で攻めてくることもなさそうだ。
追うことも可能ではあったが、どのような罠が仕掛けられているかもわからない。あの男の、有無を言わさぬ爆弾攻撃を思い出し、それ以上の深追いは避けた。
その確認を終えると、レドンドはエルメスらに視線を合わせる。
「大怪我だな、エルメス」
「はい……申し訳ありませんでした……不甲斐ない姿をお見せしてしまって……」
エルメスの服は所々千切れており、内臓まで見えそうな傷もあった。
「人間ならば、致命傷になりかねない傷だ。ケルベロス、ハズキのところまで運んでやってくれるか?」
「ワウッ!」
ケルベロスは力強く頷くと、エルメスの前でかがんでみせた。
「ごめん、ケルベロス……。レドンド様はどうするのですか?」
「私は、しばらくはこの辺りを警戒しておこう。万が一ということもあるからな」
「畏まりました。それではレドンド様、失礼いたします」
「ああ」
エルメスは静かにレドンドに頭を下げる。それを見計らい、ケルベロスは高速で森に溶け込んで行った。
「さて……他にも侵入者は居たはずだが……ハズキ達に見つかった以上、悲惨な末路しか思い浮かばんな」
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