上 下
40 / 126

40話 侵入者 第二陣 その2

しおりを挟む


「おらぁあああああ!」

「グゴオッ!!」

 冒険者チームアジラダのオムニ。大剣でサイコゴーレムの首を切り飛ばした。これで、何体目の討伐であろうか。周辺に居る冒険者たちも彼の勢いに乗っている。


「ドラゴンがなんぼのもんだよ! 出て来るなら来いや~~~!!」

「この調子で行くぜ!」

 金魚のフンのような連中も多いが、この瞬間、確かに彼らは活気づいていた。それはバラクーダやサイコゴーレム達を萎縮させていたのは間違いない。

 並の冒険者では返り討ちに遭うほどに、強力な魔物として認知されているバラクーダとサイコゴーレム。アジラダのメンバーのおかげとはいえ、倒せている事実に、伝説のドラゴンに対する恐怖も薄れていたのだ。


「馬鹿な連中な気がするけど、ああいう鼓舞激励? 的に進むのは良いことかもね」

「意外だな、ミリアム。お前が他人を褒めるとは」

「はっ、あんたも気付いているでしょ? あーしとしては、死にゆく者への賛辞みたいなものよ」

 傭兵団体のミリアムとボグスミートは数十人の冒険者の後ろから、ヨルムンガントの森を進んでいた。

 彼らにしか気付いていない、森を覆う闘気の質……敵の本拠点へ近づいたからなのか、先ほどまでよりも濃くなっていた。

「シルバードラゴンの立場からすれば、これ以上の侵入者の進撃は認められないってところかしら? だとしたら、そろそろ本命が来そうね」

「ああ、そんな頃合いか」

 智司の部下による定石。それはバラクーダとサイコゴーレムを先行させるというものだ。もしも、それで対処できないレベルの者が現れればレドンドが始末する。しかし、今回は事情が異なっていた。


 素早い影が複数見えた。その影は、先行していた冒険者たちを次々と襲って行く。

「ぎゃあああ!」

「な、なんだ……!? なにが起こった!」

 オムニはなんとか影の動きだけを捉えていたが、正体まではわかっていない。その間にも周りの者たちの腕や頭は、どんどん千切れ飛んで行った。冒険者たちの悲鳴が森全体に響き渡る。


「あれってまさか……!」

「……ケルベロスか!」

 数十人の団体のすぐ後ろに居たミリアムとボグスミートだけが、その影の正体を見極めることが出来ていた。彼らとはいえ、原種のケルベロスを見るのは初めてだ。

 それが確認できるだけで3体は居る。


「あれって、ケルベロスで間違いないわよね? あーしも図鑑とかでしか見たことないけど」

「ああ、おそらく。纏っている闘気の強さ的に、ケルベロスマーダーを大きく凌いでいるからな」

 ミリアムとボグスミートは瞬時に最高レベルの戦闘態勢を敷いた。それほどの相手であると理解したのだ。前衛の連中では、正体を知った時にはあの世へ行っている。それほどまでに、ケルベロスの動きは素早かった。



--------------------------



「へえ、シルバードラゴン以外にケルベロスも居るのか。敵の戦力は相当に高いみたいだね。ニッグ達が敗れるのも、仕方ないってところかな」


 直径1メートルに満たない偵察機を飛ばしているネロは、映像に映っている影の正体を正確に捉えていた。眼鏡を指で上げながら、気取った表情をしている。

「頼むよ、ミリアム、ボグスミート……敵の戦力の全貌を確認してくれ」

 ネロの今回の目的は敵側の「底」を見ることだ。アルビオン王国の教えでは、自らの底は決して見せず、敵の底を把握して対処するというものがある。それを忠実に、彼は実行しているのだった。

「ランカークスのメンバーにも偵察機は飛ばしていたけど……破壊されたのか、見れなくなっているね。あの二人がやったのかな?」

 ネロの偵察機の内、ランカークスのメンバーの動向の確認の為に飛ばした物は、破壊されていた。ネロは彼らほどの実力者であれば、偵察機に気付いて撃ち落としたとしても不思議ではないと考えている。

「まあいいや。ミリアム達の動向を確認するだけでも、相当な情報が確保できるだろうし」

 ネロはそう言って、残っている偵察機に集中することにした。犯罪者であるラクジアットにも偵察機は飛ばそうと考えていたが、すぐに破壊されるだろうと考えた為に行ってはいない。

 彼は再び、ミリアム達の攻防に目を向けた。



----------------------------



 合計5体のケルベロスが確認された。ほとんどの者が影でしか追うことは出来ず、狩りを楽しんでいるのか、その内の2体しか動いていない。しかし、それだけでも前の冒険者たちはほぼ壊滅状態になっていた。

 アジラダのメンバーとて同じだ。

「ぬあああああ!!」

 オムニは大剣をケルベロスに向けて振り下ろした。相当な大振りである為に、ケルベロスの速度であれば、容易に避けることができるが……ケルベロスは敢えて避けることはせず、直撃したのだ。

「グルルルル」

「な、なに……無傷だと……!?」

 ケルベロスの闘気を貫通することは出来なかった。その事実を突きつけられた直後、彼の頭は無くなっていた。動いていなかった3体目のケルベロスがオムニの頭を食い破ったのだ。そのままの勢いで、後方に居るミリアムとボグスミートに突進を開始した。

「ミリアム、こっちに来るぞ!」

「見せてやるわよ、これが本当のファイアボールよ!」

 アジラダのメンバーが撃ち出したそれとは、明らかに違うミリアムのファイアボール。巨大な剛火球がとんでもない速度でケルベロスを捉えた。

 だが、狙われたケルベロスの1体は身体を捻って火球を躱す。しかしそれは、ミリアムの想定内だった。

「サンダーボルト!」

「!!」

 天空からの雷撃だ。避けた瞬間のわずかなタイムロスを見逃さず、ミリアムは次の魔法を行使したのだ。だが、その攻撃すらもケルベロスは避けた。そして、今度はミリアムが攻撃の隙を突かれた。ケルベロスの強靭な顎が、ミリアムの急所目掛けて飛んで来る。

「不味い!」

「はああああ!」

「ぎゃん!!」

 喰らえば致命傷になっていたであろう攻撃。それを逸らしたのはボグスミートだ。咄嗟に繰り出した打撃でケルベロスの身体ごと吹き飛ばしたのだ。だが、ケルベロスは特にダメージを負っていない。


「グルルルルル……」

「ちっ……! 不味いわね……あーしが劣勢になるなんて……!」

「ああ……これがケルベロスの実力か。俺達二人がかりでなんとか1体を仕留められるかどうかってところだな」


 ミリアムとボグスミートは、冷静に敵の戦力を把握していた。そんな魔物があと4体も居るのだ。彼ら以外の周囲の冒険者は戦意喪失どころの話ではない。


「あなた方はここで死亡する。その事実に変わりはありません」

 そんな時、ケルベロスの間を縫って現れた人物。黒いメイド服に身を包んだエルメスだった。

「おい、あの人物は……」

「まさか……評議会のエルメス!? なんでここに……死亡したって聞いてたけど……」

 意外な人物の登場にミリアムとボグスミートは驚きを隠せないでいた。



------------------------



「へえ、これは驚いた。エルメスは生きていたのか。いや……あれは生きているとは言えないな」

 エルメスの目や纏う闘気。映像越しとはいえ、ネロは正確に彼女の状態を判断する。

「魔神とかいう主に操られているのかな? それとも、配下として転生……生まれ変わったのか。人間ではなくなっているみたいだ」

 魔族とでも呼べばいいのか。外見上は人間の頃とあまり変わらないが、最早、人としての常識は消えてしまっている。記憶は残っているだけに余計に性質が悪いといったところか。

 ベクトルは違うが、この世界にやって来た智司と状況は似ていた。


「……さてと、もう味方でもなさそうだし、一掃してしまおうかな。ミリアムとボグスミートも思っていたほど、強くはないみたいだしね……用済みか」

 ケルベロスとの攻防を見て、そう判断したネロ。モニターを見ながら、何かのタイミングを測っているようだった。彼の残酷とも取れる言葉は、誰もいない野営地に響いていたのだ。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...