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11話 醜い嫉妬 

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「……エルザ」

「ミュヘル王子……?」


 ミュヘル王子の中に生まれた、意味のわからない嫉妬心。隣の貴族の女性が思わず離れてしまう程に彼の顔は変化していた。単純な怒りの表情とも違う、なんとも形容しがたい容貌だ。





「エルザ、そろそろ食べるのいいんじゃない?」

「ん~? どしたの、パトリック?」

 口に何かの肉を入れながら話すエルザは、まるでリスのように頬を膨らませている。可愛らしい状態だが、およそ貴族令嬢には見えない。


「いや、ほら。一応、舞踏会なんだしさ……その」

「えっ?」

 舞踏会の本来の目的は、貴族令嬢が殿方と踊り絆を深めることにある。パトリックもその習わしに従おうとしているのだ。彼女にダンスの誘いをしようとした、次の瞬間……


「エルザ」

「……ミュヘル王子?」


 再び現れた王子に戸惑ってしまうエルザ。パトリックも話の腰を折られた状態だ。


「なにか用ですか?」

「パトリック、お前に用があるわけではない。エルザ、よければ踊りを一緒にどうだい?」

「ええっ!? 私とですか……!?」


 ミュヘル王子は周囲にも聞こえるように、大胆な誘いを行ったのだ。


「婚約破棄をしたのは私だが、あくまでも妻には相応しくないと思っただけのこと……。お前の魅力は高いと評価しているからな」

「そうおっしゃっていただけるのは光栄ですが……」


 なにか前提からおかしいミュヘルの発言だが、エルザは慌てているのか、上手く言葉を出せないでいた。

 ミュヘルの感情としては、婚約破棄をされたエルザはその後も、自分への想いを捨てきれない状態でなくてはならないのだ。ミュヘル自身を引き立たせる意味合いでも、すぐに新しい恋に向かうことなど許されるはずはない。


「王子殿下、その誘いはさすがに身勝手ではありませんか?」

 ミュヘルのダンスの誘いに異を唱えたのはパトリックだ。彼の言葉にも様々な感情が含まれている。


「……身勝手だと?」

「いくら王子殿下とはいえ、許されることとそうでないことがあるでしょう。いえ、国民を束ねる王子であるならば、余計にしてはいけないことが多くなる」

「なにが言いたいんだ?」

「……エルザは俺と踊ります」


 パトリックはまだ誘っていたわけではなかったが、ハッタリをかましたのだ。これで彼女から断られたら全てがパアになるが、断ることはないと判断していた。


「本当か? エルザ」

「え……? は、はい……先約でですので、申し訳ありません」

「そうか」

 咄嗟にエルザもパトリックの話に合わせた。彼女がどちらを望んでいるのか、無意識に表した感じだ。


「……剣で雌雄を決するか。冒険者なのだから、腕には自信があるんだろ?」

「……!」

 諦めの悪いミュヘルは、パトリックに信じられない提案をした。模擬刀を使うにしても相当なことだ。王子殿下と打ち合うなど早々あることではない。

「面白いですね、そうしましょうか」

 しかし、パトリックはすぐに了承した。今の彼はエルザの為に、普段の性格を押し殺していたのだ。必ず勝ってみせるという強い信念を感じさせていた……。
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