愛され少女は愛されない

藤丸セブン

文字の大きさ
上 下
6 / 14

6話 少女は遊びたい

しおりを挟む

「はいカーット!!オッケー!」
 冬三の元気な声が響き渡り一同の緊張が抜ける。
「これで海での撮影は終了!みんなおつかれー!」
「よっしゃー!終わったー!」
「はぁ、疲れた」
「予定よりも早く終わって良かったですね冬三先輩」
 八月二十九日の午前十時。予定よりも早く撮影を終了することが出来た。元々の予定としては明日に撮影が終わる予定だったので一日以上早く終わっている。
「これなら二泊三日じゃなくて一泊二日でもよかったな」
「何言ってんだ蓮!撮影が早く終わったって事は!」
「遊べるって事だぜ!」
 楽しそうに声を上げる蝉丸と冬三を蓮は少し冷めた目で見る。別に遊びたくないわけではない。しかし、疲労感の方が強い。
「蓮くん大丈夫?あんまり元気ないね」
「いや、大丈夫。せっかくなんだから遊ばないと損だよな」
「そうだぜ蓮!機材置いて遊ぶぞ!」
 機材を宿へと運び込み各々が用意していた水着に着替える。なんだかんだみんなが水着を用意していた所を見るに遊ぶつもりは満々だった様だ。
「ひっゃっほーう!海だーぁぁー!!」
「テンション高ぇー」
 黄色の海パンを履いた蝉丸が待ちきれないとばかりに海に飛び込む。まだ女性陣が着替えている中で海に飛び込む人は珍しいのではないだろうか。
「ちょっと落ち着けよ。そのテンションじゃ夜までもたないぞ」
「俺は元気だけが取り柄なんだっての。蓮だってちょっとウキウキしてんじゃねえか」
 当然だ。蓮は女性に興味がないだけで至って普通の男子高校生。海に来たらテンションが上がるのは必然。ただ周りのテンションがあまりにも高いのであまり目立っていないだけなのである。
「お待たせー!」
 花梨の声に蝉丸は即座に振り向く。花梨は撮影前に着ていた水着ではなく白いフリフリしたビキニを着ていた。
「おー!すげぇ似合ってる!可愛いぜ!なぁ蓮!」
「ま、まぁ」
「やった!蓮くんに褒められたー!!」
 撮影前の水着も凄く似合っていたが今着ている水着の方が何となく花梨にに合っている気がする。蓮は少しだけ花梨から視線を逸らす。
「あれ?蓮くん照れてる?」
「いや、照れてなんていない」
「えー!?照れてるじゃーん!」
 花梨にからかわれる蓮。その様子を楽しそうに見ていた蝉丸が不思議そうな顔をする。
「あれ?冬三は?」
「あー。冬三先輩は今葛藤中だよ」
 蝉丸の疑問に花梨は少しニヤニヤしながら答える。
「葛藤?何のだよ」
「それは私の口からは言えないなー。夏野先輩が気づかなきゃ!頑張れー!」
「お、おう?」
 蝉丸は花梨の押しにたじたじになる。このような蝉丸を見る事はレアな気がする。
「待たせたな諸君!」
 噂をすれば冬三が着替えて出てきた。その水着は。
「なんか、思ったのと違うな」
 冬三が着ていたのは布面積が比較的多めの黒の水着。肌が出ているのはお腹くらいのものだった。
「いやーマルミーったらエッチなやつ想像しちゃった?残念体型がカバーできる素敵な水着でしたー!」
「えー。冬三先輩ったらそれにしたのー?もっと攻めなきゃ!」
「カリリン。誰もがみんなスタイルが良いわけじゃないんだ」
 少し拗ねている花梨に冬三はキメ顔でそう言った。確かに布面積は多いがお腹が少し出ているのが少し残念だ。
「あれ?レンレンも私を見ている。もしかしてホの字ですか?」
「それはない」
 冬三の戯言をバッサリ切る。ほんの少しだけ乗ってみてもいいかと思ったが、やはりそういうものは蓮には向かない。
「とういかレンレンのそれって学校指定の水着?」
「そんな訳あるか。蝉丸に連れられて買わされた新品だよ」
 蓮の黒いシンプルな海パンを見て冬三が茶化す。いや、これは話題の変換だ。
「いかにも蓮くんらしい水着だね。無難なやつ選びましたって感じ」
「別にいいだろ。女の水着と違って男の水着なんて需要ないんだから」
 蓮はショッピング時間の短縮の為に目についたやつを選んだだけなのだ。故に他の水着など見ていない。
「いやー。女の子にとってはご褒美です」
「ご褒美とまでは言わないけど、蓮くんのなら需要ありだよ!」
「じゃあ俺の水着に需要はねえのか」
 何故か落ち込む蝉丸。逆に自分の水着に需要があるとでも思っているのだろうか。
「でもマルミー腹筋割れてんね」
「え?そりゃまあ鍛えてるし?蓮よりはあるよな!」
「うるさい」
 褒められた蝉丸はここぞとばかりに蓮の隣へと移動する。蝉丸の腹筋は見事なシックスパック。それに比べて蓮は太ってはいないものの筋肉もない。
「どうよ花梨!蓮なんかより俺にしないか!?」
「大丈夫だよ蓮くん。男は筋肉が全てじゃないよ」
 ボディビルダーの様なポーズで自信の筋肉をアピールする蝉丸には目もくれず別に落ち込んでもいない蓮を慰める花梨。
「うん、まあ分かってたけどさ」
「アッハッハッハ!マルミーにカリリンは高嶺の花過ぎるでしょ!!マルミーが付き合えるならそこら辺の女の子だって!」
「そこら辺の女って何だよ!中途半端な慰めはいらねーっての!」
 蝉丸が声を上げると同時に蓮のお腹が大きな音を立てる。その出来事に三人の目は蓮に注目した。
「とりあえず、昼飯にしないか?」
「おう!それなら最高の昼があるぜ!!」
 蝉丸が言った最高の昼ごはんとは。
「なるほど、バーベキューか」
「おう!海で食うバーベキューとか最高じゃね!?」
 少し小さめのバーベキューコンロに串に刺さった肉。そして野菜。
「海でバーベキューとか陽キャかよ!だが悪くない!マルミー焼け!!」
「任せろ!おおおおおおおー!!!」
 蝉丸が勢いよく肉を焼き始める。その速度はなかなかのものだった。
「これがスポーツ男子のバーベキュー。やはりマルミーからは陽のオーラを感じる」
「夏野先輩。ちゃんと野菜も焼いてよ?」
 海でのバーベキューを終えた一同は精一杯遊んだ。
「くらえ!アクアえーっと、ウェーブ、アターーーック!!」
「きゃっ!やったな冬三先輩!お返しだー!」
「ぐぁぁぁ!ゴボボボボボボ!」
 冬三が掬う水の量も花梨が掬う水の量も多くはないが冬三は大袈裟に反応する。
「何やってんだあいつらは」
「どうだ蓮!俺のグランドキャッスルに勝てるかな!?」
「うわでっか!?どうやって作ったんだよ!」
 水遊びをする女性陣を見ていた蓮は砂遊びに興じていた。砂の城を豪華に作れた方が勝ちというルールで蝉丸と遊んでいたのだが蝉丸の城は三メートル近くありぶっちゃけ勝負にならなかった。
「お前の城もいい出来じゃねえか。まあ俺には負けるがな!」
 個人的に良い出来だと思っていた城だがレベルが違った。なんだか少し悔しい。
「見てろ、それより凄いのを作ってやる」
「言ったな!かかってきやがれ!あ、その前に写真撮っとこ」
「SNSにはあげるなよ?」
 蝉丸の城を越えるべく砂の城づくりに励む蓮だがなかなか蝉丸を越える城は作れない。
「くそっ!マジでどうやって作ったんだよその城!」
「自分でも分かんねえ。なんか気づいたら出来てたわ」
 自慢するように城の前でドヤ顔をする蝉丸の顔にどこからかボールが飛んできた。
「ふべらっ!」
「男子諸君!ビーチバレーの時間だ!」
「くそ上等だ!やってやろーじゃねえか!」
 顔を真っ赤にした蝉丸はボールを持ったまま冬三の元へ走っていく。どうやら砂の城は中止の様だ。
「じゃあ次はバレーで勝負だな!次も俺が勝つぜ」
「言ってろ。バレーでこそは勝たせてもらう」
「男の子って勝負ごと好きだよねー」
「よっしゃ勝負だ!マルミー!チーム組もうぜ!」
 どうやら勝負が好きなのは男だけではない様だ。
「しょうがないなー。よーし蓮くん!やるからには優勝あるのみ!先輩達を負かしてやろう!」
「勿論だ!」
 一同は海を満喫した。
しおりを挟む

処理中です...