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光が消えた時

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「ァァァァァァァァ!」
 闇に完全に支配された白が咆哮する。その咆哮が終わると空には光線を放つ為の白い光の輪が出現していた。
「し、ね」
「氷結の壁!」
 白が放った光線はいつもの技ではなく放たれたのは黒く澱んだ魔力の塊だった。
「ぐっ!きゃぁぁぁ!」
「ママ!この!ツクヨミ式黒魔術 三型 静止の魔眼!」
 黒い光線は桜の防御を破壊して桜へと突き刺さる。それでも光線はまだ止まない。むしろ更に増えている程である。故にそれを止める為にメイは走り始めた。
「アッ!」
「ツクヨミ式黒魔術 六型!肉体改造!」
 静止の魔眼により動きが止まった白をメイが強化された腕で殴り飛ばす。しかし白は即座に静止の魔眼を振り解き地面に華麗に着地した。
「解かれたか。やっぱりそんな長い時間は効かないよね」
「ええ。なんとか闇から解放してあげないといけないのに」
 桜とメイが再び戦闘態勢になると白も再び光線を放つ。しかしこの光線は先程の物とは違う。
「あの光線細い!そんで多いよ!」
「威力を少なくする代わりに広範囲に攻撃を!?でもそれなら!」
 二人の方へ飛んでくる光線以外は無視して桜は氷の障壁を作り出す。その障壁はかなり削られてもう少しで桜の元へ辿り着いてしまう程だったがギリギリで光線は消えた。
「おお!これならいけるよママ」
「いえ、まだよ!」
 メイが白へと視界を移動させると既に白は第二陣の光線を放っていた。桜を心配して見ていたメイは少し避けるのが遅くなり腕に光線が掠る。
「危ない危ないあやうく、?」
 メイを通り過ぎて行った光線は緩やかなカーブを描いてメイの体へと戻って行った。
「ごふっ!」
「メイ!お願い、メイを守って!」
 桜がメイの周囲に氷の壁を作り出すがメイの方へ注意が飛んだ桜にも光線の猛攻は始まる。
「きゃぁぁぁ!」
「うわぁぁ!」
「こわれて、わたしの、未来のために」
 光線の雨がメイと桜に降り注ぐ。このままではメイと桜が死ぬのは時間の問題だ。
「だが!そんな事はさせんさ!」
 戦場に男の声が響くと白の結界が破壊され、その穴から大地が姿を表した。
「あなたは!?」
「パパの友達!」
「助けに来たぜ桜さん!メイちゃん!ゆけ、大地の竜!」
 大地が腕を振り下ろすとあちこちに大地の岩がへばりついた竜が白の上空から現れる。
「ア?」
 そして思考が消えかかっている白を押し潰した。
「ハッハー!どうだ大地の竜は!」
 大地が白を押しつぶした事で白の作り出した結界が完全に崩壊する。今まで戦っていた白の世界は数秒で崩れ去り王都の風景が目の前に広がった。
「酷い」
「初めて見た王都とは全くの別物だねこりゃ」
 だが王都での激しい激戦により建物はほとんどが壊れて酷い有様となっていた。
「お二人共!酷い怪我です。直ぐに、治します」
「緑!無事だったんだね!」
「治療しながら今の戦況も教えて貰える?私達結界に捕らえられていたから」
 緑は荒い呼吸を落ち着かせた後慈愛の風を発動させる。
「お姉ちゃんは私が成仏させました。竜は、イザヨイさんと大地さんの活躍で、全滅です」
「おお!」
「凄いじゃない!」
 二人は歓喜の声をあげるが緑の表情は晴れない。恭平の事も報告しなくてはならなかったからだ。
「ただ、恭平さんが、あの、」
「ミストルティンに飛び込んで死んだ。安心せい、槍の野郎も死んでおる」
「ツ、ツクヨミさん!?」
 緑が言いにくそうにしていた事を後ろから来たツクヨミがバッサリ言い放った。
「ヨミ、恭平の死体は確認してるの?」
「へ?」
 ツクヨミから出た衝撃の事実を耳にしてもメイは驚く事もなくツクヨミへ言葉をかけた。
「まだじゃな。今イザヨイが探しに行っておる」
 というとメイは笑う。
「なら大丈夫。生きてるよ」
「ええ。恭平さんがそんな簡単に死ぬ筈ないものね」
 二人は恭平を信じているのだ。緑はその絆を見ると少し美樹を思い出した。
「ァァァァァァァァ!!」
「ぐぅぇぇで!」
 竜が突き落とされた方向から声が聞こえる。どうやら白が目を覚ました様だ。
「初めからあの程度で死ぬとは思っていません」
「ここからだね!もう許してやらない!殺してやるぅ!」
 妙にテンションが高くなったメイと決意が決まったかの様に真っ直ぐな目をした桜が白の元へと走る。
「じゃが待て、作はあるのか?」
「ない!」
「ありません!」
「アホなのか?」
 ツクヨミは頭を手で押さえて頭痛を鎮める。ツクヨミから見ると大地が来ただけではまだ不安そうな目を二人ともしていた。しかし。緑が、ツクヨミが来た時から二人の目が変わった。とても作戦なしで飛びかかっていく無謀さなどなかっただろうに。何故か。
「それで、聞いてくるって事は作戦あるんだよね?」
 メイの信頼しきった目を見てツクヨミは少しだけだが何故二人が元気になったのか分かった気がした。
「仲間、家族か」
 二人だけでは勝てないと思わされる相手と対決している時に仲間が来てくれたというのは何とも心強いものなのだろう。
「そうだよ。みんなとならなんでも出来る様な錯覚に陥る。まあ錯覚なんだけどね」
 メイのその言葉にツクヨミは笑い、作戦を伝えた。
「誰かー!助けてくれよー!」
 白の光線から逃げ続ける大地が民家の瓦礫に躓いて転ぶ。
「ぐえっ!クソォォォォ!」
 飛んでくる光線を即座に作り出した即席の岩の盾で防ぐ。しかし直ぐに壊れた。
「ぬぉぉぉ!死ぬゥゥ!」
「ツクヨミ式黒魔術 四型 心臓移動」
「あり?」
 大地が素っ頓狂な声をあげるがそれも当然。今メイと大地の心臓の場所が入れ替わったのだ。そしてメイは桜の作った氷の盾で光線を防ぎ切った。
「ぼーとするな人間!作戦を伝えるからその通りにせんか!」
「ぬぇ?は、はい!」
 ツクヨミに言われた通りに大地は全力で岩を操る。
「岩石竜!岩石虎!岩石鳥!岩石猫?岩石犬!あとー、岩石ライオン、蛇、グリフォーン!」
 大地が作った様々な動物達は白に向かって一直線に駆け出していく。白はそれらを一眼見ると杖を振り即座に破壊した。
「ダメじゃん!」
「いや、これで良い」
「ツクヨミ式黒魔術 終型 精神介入!」
 大地の奇襲により生じた少しの隙の間にメイが白に乗り移る。
(うっ!黒すぎ!こりゃ長くは乗り移れないや)
「ママー!」
 白の声で桜を呼び走る。そこには魔力を集中させていた桜の姿があった。
「フローズンプリズン!!」
 桜の全力を振り絞った氷は素早く白の体を氷漬けにしていく。
「もうダメ!」
 しかし桜が白を氷漬けにする前にメイに限界が来て精神を戻してしまった。
「メドゥーサァァァァ!!」
「くっ!ううう!」
 白が体を闇で包み氷を少しずつだが溶かしていく。桜も負けじと氷を放ち続ける。
「安らぎの風!」
 そこに安らかな風が駆け抜ける。その風は白の闇を浄化して威力を弱めていく。
「ァァァァ!」
「はぁぁぁ!!」
 そして、白を氷漬けにした。白の体の節々までが完全に凍りつき、見事な白の氷像が完成した。
「あとは、お願い」
 桜が倒れると、その後ろから神威を解放した遥香が飛んだ。
「神速拳」
 そして神の力を引き継いだ遥香の一撃は白の氷像を見事に粉砕した。
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