豊穣の剣

藤丸セブン

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4章 最終編

59話 ロキ

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「豊穣の剣・・・俺がいつも使ってた剣が、まさかそんな凄いものだったなんて」
 今も尚淡い光を発している七尾矢の愛剣を眺め七尾矢は小さく呟いた。
「その剣にはデメテル様の神威が非常に多く込められていてね。デメテル様の自我まで宿ってる逸品さ」
「神デメテルの自我?もしかして七尾矢が指示してないのにその剣で作り出した大樹とかが勝手に動いたのって」
 <ええ。ワタクシの意思よ>
 どこからか優しげな女性の声が響きアレグリアを除く一同が驚愕する。
「その声、デメテル!?」
 <ええ。久しぶりね、ロキ。あなたがワタクシに婚約を申し込んできたのを三秒で断った時以来かしら>
 美しい女性の声が豊穣の剣から発せられている。それに驚く七尾矢だが、今はそんな事で気を緩める訳にはいかない。
「アハハハハハ!懐かしいね!君を手に入れればオレの退屈も無くなるんじゃ無いかと思ったけど。まさかあんな直ぐに断られるとは思わなかった!だから新しい退屈しのぎの為に世界征服しようと思ったんだよね!!」
「そんな理由で、この世界の人とこっちの世界の人達を殺したのか!?」
 ロキのくだらない世界征服の理由に七尾矢が声を荒げて怒りを露わにする。その怒りは当然のものでアレグリアとヨゾラも当然同じ気持ちだ。
「でもおかしいな。確かに君はオレの手で殺した筈だけど」
 <ええ。確かにあなたに殺されたわ。ワタクシの種が。でも、ワタクシ自身はこうして生きているわ。今は声だけだから生きているという実感は薄いかも知れないけれどね>
「何だそれ。オレが殺した君には確かに君の神威が感じられたんだけど。本当に君は人を騙すのが得意だね!」
 <人聞きが悪いわね。神威の制御が上手いと言って頂戴。あなたと違ってね>
 デメテルの言葉はロキを逆撫でした様でロキが今まで座っていた魔王の椅子の様な椅子から立ち上がる。
「さて、無駄話はそろそろいいよね」
 <ええ。決着をつけましょう>
 二人の神の言動に七尾矢、ヨゾラ、アレグリアが戦闘体制に入る。いよいよ、ラスボス戦が始まる。
「黒雷!!」
 先に動いたのはロキだ。ロキが軽く手を振り上げると神殿内部に巨大な黒雲が立ち込め、即座に真っ黒な雷を放出する。その威力は今まで戦ったどんな相手よりも強力な攻撃である事は一目瞭然だった。
「何だあの威力!」
 <心配する必要はないわ。あなたの力も大幅に上がっている。普段通りに技を出して>
「わ、分かりました!」
 デメテルの指示通り自然の剣改めて豊穣の剣に力を込めていつも通りに技を放つ。
「森林壁!」
 地面から木々を作り出し黒い雷を防ごうと動く。しかし七尾矢が作り出せる木々の数と強度では防ぎ切れるとは思えない。
「え?」
 しかし七尾矢の予想とは食い違って森林壁は黒い雷を見事に防いだ。その理由は簡単。出てくる木々の数が以前の倍以上あり、一本一本の木々の防御力も大幅に強くなっていたからだ。
「ま、まじか」
「ハハハハ!その程度は、想定内だよ!!」
 ロキが楽しげに口元に笑みを浮かべながら指を鳴らす。すると黒雲は更に増殖して先程よりも大きな雷を落とす。
「ならこっちも!」
 量には量。向こうが雷雲を集めて強大な雷を放とうと言うのならこちらもそれだけ防御の質を上げれば良いだけだ。
「行くよヨゾラ!」
「言われるまでも無い!」
 黒雷から守られていた二人は隙間を見つけて森林壁から抜けて駆け出す。
 <七尾矢。二人にも森林の壁を>
「分かってます!」
 今までは三人を守る為の壁だったが二人が別れた事により壁から目眩し様へ。黒雷を全て防ぐのではなく二人に当たらない様にだけすればいい。
「紅蓮!」
「雹槍展開、一斉掃射!」
 ヨゾラの放つ高濃度の炎とアレグリアが展開した無数の氷がロキへと放たれ、直撃をする。二人の攻撃力は特異課屈指の実力だ。幾ら神と言えど無傷という訳には。
「まあ、直撃してたらね」
「がぁっ!」
「くっ!」
 突如巻き起こった突風にヨゾラとアレグリアが吹き飛ばされ、後方で森林壁を展開していた七尾矢の元まで下げられる。炎と氷の蓮撃により煙で見えなくなったロキの姿が見えるとその体は黒い岩で囲まれていた。
 <なるほど。防御においてはこちらだけの特権ではない様ね>
「らしいですね。でも、あの程度なら削れる」
「ふん、随分と強気じゃないか。ボクは君があれを削り切れるとは思えないけど?」
「ここまで明かしたんだ。もう本気を隠す必要はないよ」
 アレグリアがそういうと巨大な氷の剣をその場で作り出した。
「はぁぁ!」
「うおっ!」
 氷の剣を作るまでの時間とその巨大を振り回すまでの時間があまりに短く、ロキは驚きの声を上げながら先程展開していた黒い岩で氷の剣をガードする。しかしアレグリアの剣は見事にロキの防御を打ち砕いた。
 <驚いたわ。まさかここまで強くなっているなんて>
「オレはあいつのクローンですが、一人の人間のつもりで生きてます。人間は日々成長するんでしょ?」
 <・・・ええ。そうね>
「随分と余裕そうだけど、本気でオレをどうにか出来ると思っているのかい!?」
 デメテルは嬉しそうに笑う。そんなデメテルの声に苛立ったのかロキが黒雲と黒炎を作り出し、即座に放つ。黒雷は豊穣の剣で防ぐ事ができるだろうが。
「黒炎は不味いかもっ!」
「任せてよ。炎には水だろっ!」
 森林壁にアレグリアの作り出す水をコーティングして三人を守る様に展開する。だが。
「黒石の嵐」
「不味いっ!」
 三人を覆うように作り出された森林壁は完璧ではない。それが地面だ。地面から作り出された鋭い岩が三人を貫き、凄まじい嵐が巻き起こり吹き飛ばす。
「森林壁解除!豊穣の輝き!!」
「紅蓮壁」
 逃げ場を作る為七尾矢が森林壁を解除。そして豊穣の剣から放たれる光でヨゾラとアレグリアの傷を治療する。そしてヨゾラが作り出した炎に一瞬黒石の嵐が止まる。ヨゾラの炎は直ぐに黒石の嵐に呑まれてしまうが、一瞬だけでも止められれば既に仕事は完了している。
「ハイドロドラゴン!!!」
 宙を舞うアレグリアが激流を竜の形に変形させロキへぶつける。その激流に潰されたロキがそのまま激流に呑まれていく。
「いったいな!」
 ロキが自分の周囲に嵐を巻き起こしハイドロドラゴンを破壊する。致命傷にはならなかったが、ダメージは与えられている。
「紅蓮葬!!」
「プラントナックルス!」
「黒雷撃!!」
 ヨゾラの火炎と七尾矢の木々の拳、その二つの攻撃に黒い雷がぶつかり合い相殺し合う。
 <さああなた達、あの憎たらしい自称邪神に痛い目をあわせてやって!!>
 しかしこの二つの攻撃はロキの体制を崩すためのブラフ。本命は体制の崩れたロキへ叩きつける三人の全力の一撃。
「激流の裁き!!!」
「紅蓮の裁き、蒼!!!」
「森林の剣!!!」
 アレグリアの激流とヨゾラの蒼い焔、七尾矢の大樹がロキへを襲った。
「ば、かな」
 三人の攻撃はロキの体を抉り、焼き尽くし、傷つけた。大量の血を吹き出したロキはそのまま王座から崩れ落ちた。
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