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4章 最終編
48話 告白
しおりを挟む「あなた様ー?そろそろ諦めたらどうですか?」
「うるせー!諦めたらそこで試合終了なんだよ!」
七尾矢の技であるプラントナックルを真似した水の拳から回避しながら七尾矢が叫ぶ。幾度となく襲いくる拳を何とか躱している七尾矢だが、レインがわざと攻撃を外している様に感じられる。
「舐めやがってっ!」
いつまでも責められている訳にはいかない。攻撃に転じる為に七尾矢は自然の剣に力を込める。
「それは良くないですね」
「なっ!」
大樹による攻撃をレインに放とうとした瞬間水の拳が急激に速度をあげて七尾矢を殴りつけた。
「がはっ!」
その拳は七尾矢の胸に突き刺さり七尾矢を近場の壁に叩きつけた。しかし壁に激突して動けない七尾矢への追撃はせずに消えて行った。
「はぁ、はぁ!くっ!」
「辛そうですね。どうしてそこまでして足掻くのですか?」
痛みに苦痛の声をあげる七尾矢にレインが疑問を投げかける。その質問に七尾矢は間髪入れずに答える。
「大切な人を守る為だ」
「うふふ。そうですね。今の言葉、不覚にもキュンときてしまいました。拙へ向けられた言葉ではないと言うのに」
嬉しそうに頬を染めるレインに七尾矢は剣を構えて立ち上がる。
(さて、どうする?)
正面から戦っては勝ち目はない。しかし搦手がレインに通じるとは思えない。七尾矢とレインの間には埋められない程大きな力の差があるのだ。例え七尾矢の百%の力でレインを攻撃した所でレインには少しの傷を付けることしか出来ないだろう。
「奥の手でもあるのですか?それなら早く使った方がいいですよ」
「簡単に言うね。そんな直ぐ使えないから奥の手なんだよ」
確かに奥の手ならば存在する。その奥の手を使えばレインを戦闘不能、戦闘できない状態にする事が可能かも知れない。しかし、その奥の手は七尾矢のこれからの人生を大きく変えるものだ。出来ることなら使いたくない。
「さて、第二フェーズを」
七尾矢がそう言おうとすると後方から凄まじい轟音が響いた。
「な、何だ!?」
「どうやら決着が付いた様ですね」
音の正体を確認しようと後ろを振り返るとそこには重症で倒れている茜と六継紀が見えた。
「茜さん!六継紀!!」
水の壁に分断された向こう側の茜と六継紀を助けようと水の壁に大樹をぶつける。しかし大樹の攻撃では水の壁は微動だにしない。
「くそ!」
倒れた二人に大柄な男が近づいてくる。その手には拳銃が握られており今から何をするのかは一目瞭然だった。
「止めろ!!」
「あいつ、六継紀ちゃんまで殺すつもりですね。あなた様の家族は殺さない様に命令したのですが」
六継紀を殺す。その言葉が七尾矢の頭を包み込む。死。死とはどんな人間にも平等に訪れる。しかし、絶対に今の六継紀に訪れていいものではない。茜も同じだ。二人の死を回避する為には。
「レイン」
「はい」
「出来ることなら君に勝って、俺は大丈夫なんだって証明してから伝えたかったけど」
二人を救う為には、奥の手を使うしかない。七尾矢はレインの元へと歩き出しながらとあるものを取り出し、レインの前に膝を付いた。
「俺と、結婚して下さい」
「・・・へ?」
予想外過ぎる言葉にレインが分かりやすく動揺する。七尾矢が取り出したものは、指輪だった。
「え、え!?それは拙に嫁いでくれると言うことですか!?でもあなた様は家族を、仲間を絶対に諦めない筈!?え、え!?」
レインが頭から煙が出るほどに慌てて頭を抱える。レインと結婚してくれるという嬉しさと七尾矢が仲間を見捨てるという解釈不一致が頭の中で回り続けているのだろう。
「勘違いしないで。俺は仲間を、家族を諦めるつもりはない」
「へ?」
「君が今まで言ってた事は要約すると俺に婿に入って欲しいって事だろう?でも俺の要求は違う」
レインは七尾矢を異世界に連れて行き、異世界で生活する事しか考えていなかった。しかし結婚するならば選択肢はもう一つある。
「君が俺に嫁いで来るんだ。分かりやすく言うならば、俺たちの仲間になって欲しい」
レインは敵である。それはレインに取っても同じ。幾ら七尾矢に惚れているとしても七尾矢は敵。そして七尾矢の仲間はレインにとっては当然敵だ。ならば、レインと結婚すると言う形でレインの仲間に引き入れる。茜と六継紀を殺させない為には、これしか方法がない。
「い、いいいいいえ!それは拙が欲しいのではなく拙の力が欲しいと言う事でしょう!?それは拙に魅力がないと言う事ですか!?もしこの状況で結婚しても直ぐ離婚とか、夫婦生活が険悪になったりしてしまうのではないのですか!?」
妙に鋭いレインに七尾矢は内心焦るが、表情には見せない。レインがそう言ってくる事は予想済みだ。物凄く緊張しているし、失敗するかも知れないが。そんな事を恐れていては二人は死んでしまう。
「違う!俺はレインが好きなんだ!君の笑顔が好きだ。君の家庭的な所が好きだ。結婚したら一緒に料理したいし、愛妻弁当とかも食べてみたい!俺は!君が好きだ!大好きだ!どうしようもなく、君が欲しいんだ!!!」
これは嘘ではない。レインの笑顔が可愛いと思うのは本当。一緒に料理がしたいというもの、弁当を食べてみたいというのも本当。しかし、好きという点だけはレインの想像しているものではない。ラブではなくライク。どうしようもなくレインが欲しいのは愛しているからではなく六継紀と茜を殺したくないから。この戦いが終わった後最低だと罵倒される事くらい覚悟している。殺されたって構わない。仲間を守る為ならば、七尾矢は悪魔とだって契約してみせるし、外道にだって堕ちてみせる。
「さあ!答えを聞かせてくれ!!俺と!結婚してくれないか!!!」
トドメを刺す為にレインに向かって指輪を見せつける。この指輪は本物の指輪だ。婚約指輪ではあるものの、初めてそういう店に行って出来るだけいいものを購入した。レインを堕とす為なら、その程度の金は捨てる。
「は、はいぃぃ」
完全に蕩け切った瞳でレインは七尾矢の告白に了承する。勝った!七尾矢は満面の笑みを見せながらレインの薬指に七尾矢の全財産を使い果たした婚約指輪をはめた。
「それで、早速で悪いんだけど」
「ええ、分かっています。今の拙はあなた様の妻。ならば、夫の妹は拙の妹!夫の上司は拙の上司!」
レインが腕を上空に掲げると水の壁が見事に消え去る。
「ん?壁が」
大柄の男が突然消え去った水の壁に驚きそちらに視線を移した。次の瞬間、男は水の拳に殴りつけられ吹き飛んだ。
「うわぁ」
その勢いは凄まじく確実に七尾矢に向けて放たれた拳とは段違いの威力だった。
「なっ!何をするのです!?」
「あら、生きているのですね」
男が驚きながらレインに言葉を発するが、再び現れた水の拳に殴り飛ばされる。
「レイン、殺しちゃダメだよ」
「分かっています」
トドメと言わんばかりに最後に拳を男に振り下ろした。その男はピクリとも動かなかった。
「あれ?こいつ以外にもいっぱい敵がいたよね?」
「彼らならこの二人が倒しています。あの爆発はこの二人が倒された攻撃と二人の攻撃の音でしたので」
六継紀の岩石の裁きと茜の雷鳴の裁きはこの司令塔らしき男以外の敵を殲滅させていたのだ。
「そっか、強くなったんだな。六継紀」
六継紀は前から七尾矢より強かったからこの言葉をかけるのは可笑しな話だが、どうしてもこの言葉をかけたくなったのだ。
「あ」
六継紀の顔を見て安心し切ってしまったせいか突然立ちくらみが起こって倒れそうになる。
「おっと、大丈夫ですか、あなた様?」
「う、うん」
レインが倒れそうになった七尾矢を支えて嬉しそうに笑う。そして七尾矢の傷を治療してくれる。
(いい子なんだよなぁ。いい子なんだけど)
レインは可愛いし優しく、料理も出来て傷付いたら治療することもできる。更に強いときた。しかし、愛が重いのだ。レインの愛を利用する形になってしまった事は実に心苦しいが、その愛が醒めた瞬間に死すら生温い地獄を見せられそうで実に怖い。
「六継紀ちゃんと茜さんはどうすればいいですか?」
「あ、ああ。ナウラさんに連絡して来てもらおう。治療してもらわなきゃ」
「あ、そうですね」
レインが六継紀の傷を治療していく。そういえば六継紀はレインが嫌いなのだ。そう言う点でも今後の生活を考えると。
「胃が痛い」
「え!?大変です!!すぐ様治しますね!」
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