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3章 七尾矢奪還編
33話 氷結と雷鳴
しおりを挟む「もう知らないわ!アレグリア!周囲の警戒を怠ったらダメよ!」
「分かってるよ。ひとまず襲撃はこれで終わりみたいだけど」
百人に近い組織の下っ端を片付けた二人は目的地へ向けて歩き始める。目的地は賢五と六継紀と同じレインの家と思われる場所。ただ向かう道のりが違うだけだ。
「それにしても敵が多いわね。流石敵陣って感じかしら」
「そう?こんなもんじゃない?寧ろオレの想定より少ないけど?」
既に三百以上の敵の襲撃を受けて尚少ないとは。アレグリアの考えは全く分からない。
「不安はあるけど、もうすぐ目的地だ。気を引き締めていこう」
「え、ええ」
不安というのは敵が少ないと言う事だろうか。その心配なら考えすぎだと思うが、口にはしない。前を歩くアレグリアに追いつく為に少し速度を上げて歩き始める茜。その茜にアレグリアは振り返り。
「ちょっとごめんよ!」
と言って茜をお姫様抱っこし、来た道の方向へ飛んだ。
「は?」
茜の脳が追いつかない。が、次の瞬間に何があったのかを理解する。先程までアレグリアと茜がいた所を氷の刃が叩き潰していた。
「今のに対応しますか。つまり、あなたは中々の手練れだということですね」
「あんな殺意も気配もしない攻撃をする君もね」
地面に着地し、茜を少し乱暴に降ろすアレグリア。その視線は目の前に立つ少女に向けられていた。その少女さ綺麗な黒い髪を短く纏めており、華奢な体に似合わない巨大な斧を持っていた。
「茜」
「分かってる」
少女は只者ではない。恐らく組織の幹部。もしくは幹部と同等の力を持っている。
「私の名はスノウ。お姉様の幸せを拒むものは、誰であろうと排除します」
「ご丁寧にどうも。オレは高菜アレグリア。君のお姉さんの幸せを拒むつもりはないんだけど、話し合いとか出来ない?」
アレグリアの提案はスノウに無言で却下される。「だよねー」と乾いた笑いを浮かべながらアレグリアは槍を構える。
「なら、力づくで通らせてもらう!」
「潰させて貰います」
アレグリアが地面を蹴りスノウとの距離を一気に縮めて槍を振り下ろす。しかしスノウは自身の身長よりも大きい斧を自在に動かしてアレグリアの素早い攻撃を受け止める。
「早いね、ならっ!」
少しだけ距離を取り、高速の突きをスノウに放つ。が、これも全て斧にて受け流される。
「こちらの番です」
スノウの斧でアレグリアを槍を大きく弾き、大ぶりの一撃をアレグリアに叩きつけ
「私の事を忘れてもらったら、困るっての!!」
スノウの斧がアレグリアに当たる少し前に茜の放った電撃を纏った弓矢がスノウの腕に刺さる。
「くっ!」
「はぁあっ!」
身体中に電撃が走ったスノウをアレグリアの槍が吹き飛ばす。
「ちっ!二体一は厄介ですね」
「いや、オレ、槍の鋭さには自信あったんだけどな」
アレグリアの槍による切れ味はスノウにほんの少しの傷しか与えられていない。が、その理由を直ぐに理解する。
「体の表面に氷を纏っている。それが君の硬さの所以か」
「女性に向かって硬いなんて、失礼な人ですね!」
スノウは空中に氷塊を作り出してアレグリアと茜に向かって投げ飛ばす。その氷塊は縦横共に三メートル以上の大きさだ。
「冗談じゃないわよっー!?」
「氷結壁!」
スノウの氷塊をアレグリアが作り出した氷の壁で防ぐ。が、投げ飛ばされる氷塊の数が多く、途中で崩壊しアレグリアと茜に氷塊が襲う。
「きゃぁぁぁ!」
「ぐっ!」
次から次に飛んでくる氷塊。大きさが大きさの為速度はそれ程早くないものの回避するのが難しい。更に。
「こんなの常に撃たれてたら反撃に転じられないじゃない!」
アレグリアは氷塊を真っ二つに斬ったりしながら反撃を機会を窺っているが、茜は避けるだけで精一杯だ。寧ろ一度だけしか当たっていない事を褒めて欲しい。
「茜!一発でかいの撃てるかい!?」
「はぁ!?避けるだけで精一杯だっての!」
そんな事を思っていたらアレグリアが無茶振りを言い出す。茜の最強の一撃には少々チャージ時間がかかる。しかし他の技ではきっとスノウの氷を破壊するには足りないだろう。
「安心してよ。絶対に守るから」
「信用出来ないわ」
アレグリアが爽やかな笑顔でウインクをしながら言う。が、その笑顔は実に太々しくて胡散臭い。少なくとも茜は信用したくない。世の中にはこいつがイケメンだとか言い出す女がいるのが信じられない。
「出来ないなら七尾矢に二度と会えないけど、それでいいのかい?」
あまりの怒りで血管が切れた。七尾矢に会えない事ではない。そんな分かりやすい挑発でその気にさせようとしてくるアレグリアにだ。
「はぁぁぁぁぁぁ」
しかし。しかしだ。アレグリアの提案に乗らなければ勝ちは掴めそうにない。 茜は深いため息の後に覚悟を決めた。
「絶対守りなさいよ!!」
「当然」
飛んでくる氷塊を回避する事を止め、茜は立ち止まる。そして目を閉じて一撃に持てる力の全てを籠める。
「何か仕掛けてくるつもりですね。ですが、仕掛けてくるとわかっていて何もしない筈はありませんよねっ!」
スノウが氷塊に追加して細いツララを作り出し、茜に放出する。巨大な氷塊と細いツララ。二種類の氷を回避するのは至難の業と言えよう。が。
「氷結槍、分離。氷結双槍!」
アレグリアの氷結の槍が二つに分離し、双剣の様な形状に変化する。その二つの槍を振り回してスノウの氷から茜を守る。右手に持った槍で氷塊を切り裂き、左手の槍でツララを砕く。
「威力分散。なるほど、合理的判断ですね」
「気づくの早いなぁっ!」
アレグリアの二つの槍は今パワー特化とスピード特化に分かれている。氷塊を斬る右手の槍がパワー型。ツララを砕く方がスピード型だ。
「接近は、してこないか?」
迫り来る無数の氷達の対処をしながらスノウの動きを見る。流石にこれだけの攻撃を放ちながら自信が動く事は出来ないのか。それとも、あえて動いていないのか。
「っ!」
スノウの動向に注意を向けすぎたせいでアレグリアの腕や足にツララが刺さる。ツララの大きさはそれ程大きくないので痛みはあるものの防御が出来なくなる程ではない。が、何度も食らっていては出血多量で危険となる。
「これはっ!長くは持たない!茜!」
「大丈夫。行けるわ!!!」
茜が目を見開き弓を三本構える。その弓矢には茜の込めた凄まじい電撃が蓄積されていてその電圧に耐えられずに放電している。
「雷光よ!迸れ!!雷光の裁き!!!」
限界まで電撃を纏わせた三本の矢を放つ。雷光の裁きは本来弓矢に貯めた電撃を、放った弓矢から放電する技だか、今回は違う。純粋に茜の全ての気力を込めた最強の電撃を纏った弓でスノウを焼き尽くす。その為の一撃。
「回避は、不可能ですかね」
茜の放った弓矢は三本。その三本全てに相当の電撃が込められており、回避に徹しようとすると放電してスノウを傷つけるだろう。これ以上の負傷は致命的だ。スノウにとっては絶対に避けたい。それならば。
「真っ向から迎え撃ってあげましょう!!」
スノウが攻撃を止めて斧に力を込める。すると斧が巨大化してスノウの体を大きく上回る大きさとなる。
「氷結塊」
巨大な氷塊と茜の三本の矢がぶつかり合う。雷光の裁きが放電し氷塊を削ると、スノウにより気力が送られて削られた箇所が直ぐに再生していく。
「っくぅぅ!」
分かっていたことではあるが、茜とスノウの力の差が大きすぎる。茜が持てる全ての力を込めても、スノウの表情には余裕が窺える。だが。
「こっちにも、意地があんのよ!!!」
「威力が増した?成程、ただの雑魚では無いようですね」
「うおおおおおおおおおお!!」
雷光の裁きの威力があがり一気に氷塊を削り取っていく。その出力は茜史上最大の火力と言っても過言では無い程だ。
「はぁぁぁぁぁ!!!」
スノウが気力を送り氷塊が復活するより前に、雷光が氷塊を全て削りきった。だが。雷光の裁きはスノウの防御を削りきる事に全てを尽くして、力を失ってしまった。
「残念でしたね」
「は、ははは。どう、よ?」
不適な笑みを浮かべるスノウに茜も笑ってみせた後地面に大の字に倒れ込む。否。茜が笑って見せたのはスノウにではない。
「隙を見せたね」
茜の雷光の裁きは本命ではない。本命を隠す為の隠れ蓑。本命は、アレグリアだ。大業を防いだあとはどの様な強者であろうと隙が生じる。
「氷結の裁き!!!」
「キャャァァァァァァァァ!」
鋭い槍の一閃が見事にスノウの体を切り裂き、その体を氷に閉じ込めた。
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